これってダンジョンだよね……?
翌朝、俺は孤児院を出て、その裏手にある森の中にいた。
昨晩、院長とリーシアの2人に今回のレイドの報酬を渡し、ある程度の事情を説明。
2人とも命懸けだったことに対して、黙っていた事に怒ってくれた……こうやって怒ってくれる人がいるって幸せだな……と思う。
リーシアは村にいた時から一緒だから……として、院長はもう孤児院を出てからちょっと経つのにいつまでも俺の心配をしてくれる。
院長は50代後半……以前はシスターとして教会に勤めていたらしいが、今はそれも辞め、俺たちのような親なしを精一杯育ててくれる。
俺やリーシアにとってはもう本当の親のようなものだ。第二の母と言っても過言ではない。
院長にこの金を見せた時、心底驚いた顔をしていたな。そりゃあそうさ。中に入っていたのは金貨なんだから。普段はそう拝めるものではない。盗んだのではないか、と問い詰められもした。
俺が稼いだと聞いた時、院長はこの金を受け取るのを拒んでいたので、最後は押し付けるように渡してきた。
別に今、俺は金が必要というわけではない。
勿論、武具や防具は欲しいけど……とりあえず『黒金の小太刀』があるし、なんとかなるだろう。
院長にもリーシアにも…今回の金があるから当面冒険者の仕事はしない、と言ったら安心された。
嘘は言ってない。
当面『冒険者としての仕事』はするつもりがないのだから。
そして俺は、翌朝いつもの軽装に身を包むと裏の森に行ったのだった。
◆
現状を確認しよう。
とりあえず分かっているのは『神眼』と『アイテムボックス』の二つだ。あとは……よくわからない。
暗黒剣やモンスターテイム、なんてのはおそらく敵と戦わないと分からないものだろう。
ネクロマンシーはちょっと怖いからしばらく保留。
と、なると。
とりあえず出来そうなのはこの『ダンジョンキー』というものかもしれない。これをやってみよう。
「でもどうやってやればいいんだよ……」
アイテムボックスやステータスオープンの時は呟けば効果がでたっけ??じゃあこれも同じなのかな…。??
「ダンジョンキー!」
俺は少し大きめの声でそれを言ってみる。うーん、ちょっと恥ずかしい……
俺の声が森の中にひびきわ響き渡る……
すると
ゴゴゴゴ
俺の目の前に黒く重厚な扉が音を立てて現れ、そしてそれが静か開いたのだ。
中を見ると……明らかにダンジョンの様相だ。
「これってダンジョンだよね……?」
思わず俺はそう呟く。勿論それに答えるものはいない。
答えがないなら突き進むのみ!
俺は意を決して、その扉の中に入るのであった。
◆
思えば、何も準備せず、なんで俺はこのダンジョンの中に入ったのだろう。後から後悔しても命を落とせばどうしようもないのに。
自分の頭の悪さにうんざりしたのはこのダンジョンに入ってしばらく経ってからだった。なぜなら、このダンジョンは……
「えっ!?」
俺は入って後ろを振り向き驚愕する。
先程入った入口が。あの重厚な扉が跡形もなく、なくなったのだ。
「どういう事……?」
その時、『神眼』を使ってないのに俺の目の前にはステータスオープンの時と同じような画面が現れた。
◇◇
ダンジョンキーLV1
ミッション ワーウルフ×5を殲滅せよ
※ミッションをコンプリートするか、命を落とすまでこのミッションは終わりません。
◇◇
「はっ!?」
まてまてまて。ワーウルフって言ったらC級モンスターだ。
見た目は、人型の狼……とでも呼べば良いだろうか?コボルトの上位種でもあると聞く。
知能はそれほど高くなく、その牙と爪で攻撃をすると聞いているけど……
いやいや、俺が敵う相手じゃないって。
Fランクのスライムで精一杯。
Eランクのゴブリンで命からがら
その辺を相手にしてやっとこさ倒せる程度の俺がワーウルフ?しかも5匹??
おかしいって。
しかもこのミッション。クリアしないと出られないって。失敗したら死ぬって……無茶苦茶すぎないか!?
頭の中が混乱する。あー、どうしたらいいんだよ。思わず頭を抱えた
その瞬間だった。
ゾクリ。
背中に悪寒が走る。嫌な予感がする。その瞬間俺は後ろに飛び退った。
ジャキン!!
何かが引き裂かれた音が響く。
それと同時に俺のいたところの壁に傷が走る。
え?これって……
振り向けばそこにはワーウルフが涎を垂らしながらこちらを見ていた。
「ちょっ…待って……」
そう言っても待ってくれるワーウルフじゃない。そんな事はわかっている。
(くそっ!こうなればヤケクソだ!!)
俺は手に『黒金の小太刀』を握りしめる。そして相手の様子を伺った。
◇◇
ワーウルフ
Cランク魔獣
体力550
魔力0
攻撃力200
防御力200
俊敏性300
スキル 爪撃
牙撃
◇◇
へー、『神眼』って、モンスターの事も分かるんだ……いやいやそんなのはどうでもよくて!!感心している場合じゃないって。
俺はがむしゃらにワーウルフの方に向かって走り出した。
ワーウルフもそれを真正面から受けてたつ。
その瞬間だった。以前からこの剣を握っている感覚。
身体が勝手に動く。
そしてワーウルフの動きがゆっくりと見える。
(なんだこれ??)
俺は心の中でそう呟くと、ワーウルフの爪を避け、ガラ空きになった奴の胸元に小太刀を,叩きつける。
ワーウルフの喉元を黒金の小太刀が差し貫く。
「ギャアアアアアア!!」
悲鳴がダンジョン内をこだました。
ワーウルフはひと叫びするとあっさりと崩れ落ち、そして絶命した。奴の目からその光が消えていく。
「はぁはぁはぁはぁ……」
対する俺は息も絶え絶えだ。でも。
「俺……勝ったのか……??」
そう呟くと俺はどっかりとその場にへたり込むのであった。
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