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解任社長、怪異を解体す。――あー、あの男来ちゃったの?それじゃもうダメだね。あの怪異、たぶん死ぬ  作者:
File No.1-01 無職 帆置知彦――帰国から入居まで

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第7話 自前の異界を持つ男 VS ロックしちゃうお姉さん

 帆置知彦と白河ミユキは駅から離れた小さなカフェへ足を運んだ。

 この時にはビル火災も収まり、負傷者の救護にあたっていた『耐火ファイアプルーフ』も現場を引き上げていた。

〈霊コム〉経由で送られて来た『耐火ファイアプルーフ』の報告によると最初の爆発での被害は負傷者二十人で死者はなし。

 二度目の爆発では負傷者、死者ともにゼロとのことだった。

 二度目の爆発で負傷者が出なかったのは、白河ミユキの異能のためらしい。


「私の異能は〈オートロック〉といって、封印が必要だと認識したものに自動的にロックをかけるものなんです」


 テーブルを挟んで帆置知彦と向かいあった白河ミユキは一本のシャープペンシルを取り出した。


「このシャーペン、書き心地はいいんですが、落とすとすぐにパイプが曲がってしまうのが弱点なんです」


 そう言った白河ミユキはシャープペンシルから手を離し、床に向かって落とす。

 次の瞬間、虚空から細い異能の鎖が十数本飛び出してシャープペンシルを空中に固定した。


「落下をロックした?」

「はい、落ちたらまずい、と認識したところで発動します」


 白河ミユキは新しいカギの絵を描いてシャープペンシルに近づける。

 鎖が解けて消えていく。

 鎖の視認には霊感が必要らしい。見咎められて騒ぎになるようなことはなかった。

 近くの席の人間が手品でも見たような顔をしてはいたが。


「帆置さんの場合は手錠の形でロックして捕まえてしまったんですが、爆発の方にもロックをかけたんです。人に危害を加えられないように」

「爆発の殺傷力をロックした?」

「そういうことになります」


 ミユキは少し困ったように微笑んだ。


「凄まじいねそれは、封印系の異能者としても常識外の能力だ」


 爆発そのものを押さえ込むならともかく、爆発の対人殺傷力だけを選択的に押さえ込む、というのは初めて聞いた。


「爆発そのものを封じ込めることはできなかったのかい」

「認識ベースで発動する異能なので、認識が追いつかないとだめなんです。うわ、なにか来た、あぶないっ! っておもったところで〈オートロック〉が発動しました。爆発だってわかったのも助けてもらったあとで。目の前に時限爆弾があったりしたら普通に起爆をロックできると思いますけれど」

「なるほど」


 本人がパニック気味だったせいで、わけのわからない発動の仕方をしたらしい。


「そうすると、僕が手を出す必要もなかったということかな」

「わけがわかっていませんでしたから、帆置さんに助けてもらわないと認識できないまま爆発に巻き込まれてた可能性が高いですね。陰キャ……は関係ないか。インドア系なので」


 白河ミユキはやや自虐的な口調で言った。


「ところでその恰好は、どういう異能なんしょうか?」


 人目を避けるために再び黒い帽子を被り怪盗、または怪紳士風ファッションになった帆置知彦の帽子を見上げる白河ミユキ。


「怪異の力を借りる異能といったところかな。今は怪盗にまつわる怪異を憑依させて変身しているんだ」

「さっきはヴォカロの怪異のようなものを呼び出していましたよね?」

「僕の異能は〈霊街れいがい〉と言って、精神領域内に個人異界を構築し、そこに怪異を住まわせることができるものなんだ。この帽子の怪異も、さっきのヴォカロの怪異も〈霊街〉の住人になる」

「どこかで聞いたことがあるような気がします」

「個人異界という概念自体は学会でも発表されているはずだ」


 世界で一件しか報告されていないレア異能の上、保持者が帆置知彦という厄介な男なのでさっぱり研究が進んでいないが。


「学会、ですか」


 そう呟いた白河ミユキは、帆置知彦の斜め後方に目をやった。


「すみません、ちょっと失礼します」


 テーブルを立った白河ミユキは「帆置知彦氏帰国」「その後の行方は不明」の見出しが載った新聞を手に戻ってきた。


「この新聞記事、なんですが」

「ああ、僕だよ」


 ――ようやく気づいたか。


 と内心で安堵しつつうなずく帆置知彦。


「ネットやテレビでは大騒ぎになっていたはずなんだが、全く知らない様子だったから驚いた」

「失礼しました。テレビとか新聞とかほぼほぼ見ないもので……SNSとかも政治とか経済の関係は見なくて」

「そいつは健康的だね」

「健康的というか、基本サブカルチャーの人間でして、アニメとか漫画とかラノベとかゲームとかVTuberとかばかり貪って暮らしております」


 帆置知彦ではアプローチしづらい界隈の住人だったらしい。


「すみません、本当に大変なときにお引き留めしてしまったようで」

「いや、気にしないでくれたまえ。当局や前職の関係者やマスコミをまいて遊んでいただけだからね」

「遊びなんでしょうか、それは」

「さほど面白くはないが、バカ正直に取材やヒアリングで時間を使うよりはましかな。そろそろ当面の住所を見つけないといけないというのはあるが」

「住所、ですか」

「日本を出る前までは、会社の寮に住民票を置いていたんだが、海外で起こした騒動がもとで解任されてしまってね。今は住所不定無職ということになる」

「そうですか……」


 ミユキは少し考え込むようなそぶりを見せたあと「それだったら」とつぶやいた。


「実は私、兼業でアパートの大家をやっているんですが、いくつか空き室があって〈オートロック〉を完備しています」

「異能の〈オートロック〉の話かい?」

「はい、たちの悪いマスコミとか怪異とか異能者の類はシャットアウトできます。ただ、今住んでるのは呪物と聖遺物、それと怪異だけで、普通の人はいません」

「異能者や怪異向けのアパート、ということだろうか?」

「はい、それと呪遺物の預かり業務もやっています。交通の便がいいとは言えませんし、大きな会社の社長さんには手狭だとは思うんですが」

「間取りはあまり気にしないが、君のほうは大丈夫かな。私が行くと騒々しくなるかもしれない」

「帆置さんご本人が騒々しくなさらない限りは大丈夫です」

「なるほど、なかなか面白そうだ。とりあえず内見をさせてもらってもいいだろうか」

「はい、もちろんです」


 白河ミユキはふわりと微笑んでそういった。

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