第27話 まやろく先生の夜
その夜、白河ミユキは自身がデザインを手掛けたVTuber沙津真ちぇすとのゲーム配信の声を聞きながら、締切が迫るソーシャルゲームの描き下ろしイラストの彩色作業を進めていた。
映像を見ると作業が止まってしまうので、タブレットを死角に向けて立ててラジオ代わりにしているが、何匹かの〈しろみ〉と〈きみ〉が画面の方に回り込んでいる。
画面に映っているのは赤のメッシュが入った黒髪、和装の美少女アバター。
髪は右がロングで左がセミロングのアシンメトリーになっている。
「おうおう、わからんと? ほんにわからんとね? どげんしたらよかか〜って迷子になっちょらん? 悔しかった? 悔しかった?」
今日のゲームは、対戦格闘ゲームの原点と言われる有名シリーズの現行タイトル。
「さつま・ちぇすと」という名前の通り薩摩系、九州弁での煽り芸と煽られ芸、そして歌唱力の高さを売りにするVtuberである。
登録者数は九〇万人。事務所トップとはいかないが、Vtuber業界全体では上位に入る。
「お、おいっ、そげなことしたらいかんじゃろ! そ、その小パンはマジでやめっくれっち言うちょろが〜! わざとやろ? ば、ばかすくらーーーッ!」
さっきまでは煽り散らかしていたが、現在はピンチ、またはわからせられ状態らしい。
方言混じりの萌え声悲鳴を聞きながら伸びをした白河ミユキはスティックタイプのカフェラテを作った。
タブレットの向きを変えて画面を見ると、チャット欄に気になるメッセージが流れていくのが見えた。
チャット欄:
・祈ちゃん
・草草草草草
・声デケェ
・また防音室が貫通しちゃう
・今日もすと虐がはかどるぜ
・見つけた
・クソガキざまぁ
・泣きの一戦はよ
・声と顔がいいから許されてるだけのクソガキ笑う
・帰っておいで
ーー祈ちゃん?
人の名前のようだ。
滝のように流れていくチャット欄の中であっという間に消えてゆき、沙津真ちぇすと本人の目にも止まらなかったようだが、妙に印象に残った。
ーー本名、じゃない……よね?
沙津真ちぇすとのリアルでの知り合いが不用意に、あるいは嫌がらせ目的で実名を書き込んだのかと思ったが、白河ミユキは担当VTuberと個人的交流を持つタイプではない。沙津真ちぇすとの本名も知らなかった。
そのまま何をするでもなく作業に戻ったのだが、ちょうどその沙津真ちぇすとの所属事務所であるフォースウォールプロダクションからメールが入っていた。
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件名:沙津真ちぇすとキャラクターくじ景品イラスト制作のご依頼
まやろく様
平素より大変お世話になっております。
フォースウォールプロダクション
タレントマネジメント部 第二マネジメント課
マネージャーの鷲寺ツバサでございます。
現在、ダバイン社様との共同企画として、沙津真ちぇすとのキャラクターくじ企画を進めております。
つきましては、景品用イラストのデザインをご依頼申し上げたく存じます。
また、ダバイン社ご担当者様との顔合わせも兼ねて、一度ご来社いただければ幸いです。
ご多忙のところ恐れ入りますが、ご検討のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
フォースウォールプロダクション
タレントマネジメント部 第二マネジメント課
マネージャー 鷲寺ツバサ
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まやろく、というのは白河ミユキのペンネームである。
白河をひっくりかえして黒山、そこから更に逆に読んでまやろくとなる。




