第25話 捜査状況はどうなっているの?
「ほな、まずは張子虎夫をどうやって見つけたのか教えてもらえます?」
〈メナ子さん〉の件で相談を受けてから現在まで、捜査情報の類は渡していない。
「八重森くんに頼んで、刑部君の足取りを追ったのさ。正確にいうとキャン玉郎くんの匂いをね」
キャン? クンクン。
匂いを追われた、と言われたキャン玉郎は不安げな様子で自分の毛皮の匂いを嗅いだ。
「別に臭いわけじゃないから心配しなくていい。人里で追跡をするには人間以外の匂いのほうがわかりやすかったらしい」
「しゃっ、大丈夫、おいしそうな匂い」
背中で話を聞いていた八重森八束が余計なことを言う。
キャン!?
悲鳴をあげたキャン玉郎は刑部刑部の影へと避難する。
「刑部くんの動きを追って、張子虎夫のマンションと車を突き止めた八重森くんはそのまま車を監視して、張子虎夫の写真を撮った。それをネット上の情報と照会した結果、張子虎夫の素性と評判がわかった。それで用心のために『着信音』が、警察に電話をかけた」
そう説明をしながら、帆置知彦は何処からか抹茶碗を出して、慣れた様子で抹茶を入れた。
「今あなたの後ろにいるの、と?」
「今回は“捜査状況はどうなっているの?”だったがね」
帆置知彦はモリオカートに興じる『着信音』に目をやる。
「『着信音』には電話を通じてターゲットを催眠状態に陥れる力がある。それを利用して各方面から情報を引き出した」
「そうすると、有名な”あなたのうしろにおるの”って」
「催眠だね。実際は電話をしているだけさ。だから近くに電話がある限りはどこにいても逃げられないし、後ろが壁や断崖でも普通に出てくる。正確に言うと、後ろにいると認識させられる」
帆置知彦は抹茶碗に電気ポットの湯を注ぎ、茶筅で手早くかき回す。
「そうすると、電話から距離を取るのが最適解?」
「一応そうなるね。今どきは電話から完全に距離をとって過ごすのは難しいがね。ともかくその結果『着信音』は、張子虎夫に弱みを握られた県警本部長の圧力で〈メナ子さん〉事件が握りつぶされかけていることを知った」
「それどころか県警本部長から張子虎夫に情報流していやがったのだよ」
ゲーム画面を睨みながら『着信音』が告げた。
「立腹した『着信音』は報復性反応、つまり祟りを開始した。だが、怒りに任せて張子虎夫を変死なんてさせたら、今度は『着信音』のほうが悪者になりかねない。他の〈霊街〉の連中とも相談し、張子虎夫に弱みを握られていた神奈川警察上層部の人間や、マスコミ関係者に霊的な圧力をかけ、張子虎夫の逮捕を実現させる作戦で行くことにした」
帆置知彦は点てた薄茶を刑部刑部に差し出した。
「こういう場でお抹茶が出てきたんは初めてですわ」
「いい葉を見つけてね。作法は気にしないでいい。僕も気にしていない。なんならラテでも点てようか」
「ああ、いえ、こちらで結構です。県警上層部はまぁわかるんですが、弱みを握られとったマスコミ関係者というのはどうやって把握を?」
「張子虎夫本人に電話してだれを脅していたのか聞き出したのだよ」
『着信音』は事もなげに言った。
「記者会見のあの騒動はどういう意味が?」
「警告なのだよ。張子虎夫の逮捕を邪魔しようとする人間がどこにどれだけいるかわからなかったから、隠蔽を企てたりしたら次はキサマらもこうなるというメッセージなのだよっと」
最後の「よっと」はゲーム操作のかけ声である。
「なるほど、だいたいわかりました」
「それと、僕もひとつ気になっていることがあるんだが」
帆置知彦は新しい抹茶碗を用意しつつ言った。
「なんでしょう?」
「〈メナ子さん〉のもうひとりのモデルの〈花子さん〉の動きだよ。実害や風評被害で言うと『着信音』より〈花子さん〉のほうが大きかったと思うんだけれど、今のところ動いてる気配が見えない」
「ああ」
ここまでは『着信音』と帆置知彦に情報を全部握られているような状況だったが、このあたりは刑部刑部にアドバンテージがあるようだ。
「〈花子さん〉やったらこっちで把握しとります。ちゃんと動いてはりますけれど、法律の範囲内ですわ。張子虎夫を呪い殺したりする恐れはないかと」




