第24話 神奈川懺悔大会
【大規模盗撮・盗聴事件の記者会見にて心霊事案が発生か】
(東都日報デジタル)
神奈川県知事秘書、張子虎夫容疑者の逮捕を受けた神奈川県警での記者会見にて大規模心霊事案が発生した。
定刻通りに始まった会見には本庄信三郎本部長ほか複数の県警幹部が出席、多数の記者が詰めかけた。
冒頭、新町刑事部長が「張子容疑者を迷惑防止条例違反および異能犯罪取締法違反の容疑で逮捕した」と発表するまでは、通常の会見の空気が流れていた。
異変が起きたのはその直後である。
本庄本部長がマイクに身を乗り出し、「私は女子中学生との不適切な関係を張子秘書に握られ、本件を握りつぶそうとしていた」と告白。
続いて新町文治刑事部長が「私は暴力団関係者との会食を理由に脅迫され、張子知事支持者の暴行事件の捜査を打ち切った!」と叫び、中村勝男怪異・異能課長までもが「張子秘書の指示で危険な事故物件の指定解除を行った」と告白した。
混乱は止まらなかった。
質疑に立った新聞記者が「張子虎夫の指示で記事を捏造した」と告白。別の週刊誌記者も「情報提供者の個人情報を張子に売り渡した!」と続けるなど、会場は一時騒然となった。
複数の記者によると、会見開始直前に出席者のスマートフォンが一斉に振動。「画面に“メリー様”と表示されていた」という証言が相次いでいる。
神奈川県警はこの事案に対する見解を明らかにしていない。
◇◇◇
【歌ってみた】TORAOハウス
私! 本庄信(ピー!)郎は!
県警本部長の要職にありながら!
いわゆる『パパ活』を行い!
一五歳の学生をNININI妊娠!
中絶! 中絶!
させた事実を張子虎夫に握られ!
張子知事支持者の起こした犯罪の
隠蔽に協力しておりました!
TO・RA・O!
TORAO IN THE HOUSE
TORAO IN YOUR HOUSE
TORAO IS WATCHING YOU!
私、朝(ピー!)輝美も!
社会の公器たるテレビ局の記者でありながら!
部下へのハラスメントを張子虎夫に握られて!
張子虎夫! 張子虎夫! 張子虎夫に!
張子知事の政策を批判する与党代議士の個人情報を!
張子虎夫にRIRIRI流出させました!
TO・RA・O!
TORAO IN THE HOUSE
TORAO IN YOUR TOILET!
TORAO KNOWS EVERYTHING!
TO・RA・O!
TO・RA・O!
訴訟でKO!
盗聴の帝王!
弱みをにぎって政界NO1
TO・RA・O!
TO・RA・O!
TORAO IN THE HOUSE
TORAO IN YOUR TOILET!
TORAO CAUGHT IN A TRAP!
「なんなんや、いったい」
張子虎夫の逮捕から数日後。
パトカーの後部座席でスマホを手にしていた刑部刑部はここ数日ネットでバズっている張子虎夫、もしくは『神奈川懺悔大会』を素材にした動画群の再生を止め、イヤホンを片づけた。
――ピー音がカスほども役に立ってへんかったな。
想定できた展開ではあるが、はやくも『ネットのおもちゃ』『フリー素材』とされてしまっているようだ。
静影荘の前でパトカーを降りると、謎の小型怪異群〈しろみ〉〈きみ〉たちが出迎えた。
きゅい
キュイ
主に〈しろみ〉たちの先導で離れの前に移動する。
きゅいきゅいきゅいきゅい。
ガラガラガラガラ。
〈しろみ〉たちが引き戸に取り付いて自動ドアのようにスライドさせた。
「こんにちは、刑部ですー」
「流石でございます」
キャンキャン!
三和土の上で足を止めて呼びかけると、離れの奥から帆置知彦が顔を出した。
「やあ良く来たね。あがってくれたまえ」
「お邪魔します」
手土産のチョコレートを渡し、キャン玉郎の足を拭いて居間へあがると、妙な光景が目に入った。
テレビにゲーム機を繋ぎ、カートゲームに興じるピンクの髪の人形と、ヘビ柄の上着を羽織った黒髪の女怪の背中。
霊街の住民『着信音』と、静影荘の住民である、八重森八束の組み合わせである。
「モリカー、ですか」
〈過去視〉の観測時間を一〇分前に設定して確認すると、MaryKart64、Orochi∞というプレイヤー名が確認できた。
オンライン対戦をしているようだ。
MaryKart64
Orochi∞
KrampusNight
Toyol_ID
PopobawaTZ
RakeHunter
FrauPerchta
Mothman_1966
Adze_GH
Jin_Ifrit
El_Sombreron
SlenderMantis
Pontianak_MY
Prosecutor_Hanako
BlackAnnis_UK
Leshy_RUS
ManananggalPH
LaLlorona_cry
DuendeRun
Goatman_TX
SpringHeeledJack
BunnymanVA
Chupacabra88
El_Silbón07
Tokoloshe_ZA
Penanggalan
JerseyDevilNJ
BloodyMary666
表示されているプレイヤー名が全体的におかしい。
全部怪異の名前かもしれない。
「白河くんに貸してもらってね」
そう答えた帆置知彦は、手土産のチョコレートトリュフを小皿に分け『着信音』と八重森八束の近くに置きながら言った。
「警察の皆さんのお土産だ。感謝していただきたまえ」
「ありがとうですよ!」
「しゃっ」
『着信音』と八重森八束は画面から目を離さずに言った。
「今日は白河さんはどちらに?」
「今日が締切の仕事があってね、昨日から部屋にこもっているよ」
「イラストレーターでしたっけ」
「担当したVTuberの周年記念グッズの書き下ろしだそうだ」
「なるほど、ちなみに先週金曜日の一九時頃、メリー様はなにを?」
「それは取り調べということかね」
『着信音』は“モリオカートワールド”の画面に視線を向けたまま問い返す。
「いえ、今日は個人としてお邪魔しとります。張子虎夫の件が、どないな流れでああいうオチになったんか、把握しときたい思いまして」
刑部刑部は座布団に腰を下ろした。
「警察の方でも、張子虎夫が〈メリーさん〉をモチーフにした〈メナ子さん〉の姿で盗撮をはたらいたり、学校の怪異を傷つけたりしたことで〈メリーさん〉が動き出して、県警上層部やマスコミ関係者に霊的な圧力をかけたというところまでは理解しとります。ですが、ただでも足りとらん怪能系のリソースをこないな事案に割いておれんってことで深入りはせん方針です」
『着信音』は一級怪異だ。本気でどうにかしようとすれば専用の対策本部を立ち上げて屍山血河を作る覚悟で戦わなければならない上、抱き合せで帆置知彦や〈霊街〉の怪異群までついてくる。
大規模霊災でも引き起こしたらならともかく〈神奈川懺悔大会〉をきっかけに手を出すのは割が悪すぎる。
「なるほど、では『市長』から聞くといいのだよ。メリー様はいま忙しいのだよ」
「おっと丸投げか」
帆置知彦は苦笑気味の声をあげたが、いつものことなのだろう。そう気にした風もなく「仕方がない」と呟いた。
「なにから聞きたい?」




