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解任社長、怪異を解体す。――あー、あの男来ちゃったの?それじゃもうダメだね。あの怪異、たぶん死ぬ  作者:
File No.1-04 解説 帆置知彦――捕獲から判決まで

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第23話 “触れたら終わり”

 警視庁怪能課の刑事、刑部刑部が〈メナ子さん〉事件の先行きを懸念していた頃。


〈メナ子さん〉事件の被疑者である神奈川県知事秘書、張子虎夫は古くからの付き合いとなる週刊誌記者に連絡を取っていた。


「ああ、どうも鷺沼さん。お世話になっております。例のアパートについて、なにかわかったことがあったかなと思いまして。どうでしょうその後」


 電話相手の名前は鷺沼誠一。

 怪異・異能絡みの“黒い噂話”ばかりを追う記者である。

 張子虎夫とは有名人や権力者の弱みを共有し合い、更には互いの弱みも握りあう、いわゆるズブズブの関係にあった。


 例のアパートというのは謎の包帯猫に引きずり込まれ、張子虎夫を警察の捜査対象にするきっかけを作った謎のアパートのことである。

 パニックになっていた上、強引に〈メナ子さん〉との接続を破棄したせいで正確な所在はわからなかった。

 そこで鷺沼誠一に調査を依頼していたのだが、そこから一向に連絡がなかった。


「アパートの件ですか……それがですね、一応、ある程度のことまではわかったんですが……」


 鷺沼誠一は歯切れの悪い声で応じた。


「なにか、まずいことでもありましたか?」

「それがですね、アパートの名前は静影荘というんですが……一級封印施設指定を受けています」

「一級封印施設?」

「はい、日本で四箇所しかない最上位施設で、官公庁からの直接依頼まで請け負っているそうです」


 強張った声で告げる鷺沼誠一。


「……住人の情報については?」

「経営者は白河ミユキ。兼業でイラストレーターをしていて、オタク界隈ではかなりの知名度があります」


 ――イラストレーター。


 一級封印施設に直接手を出すのはさすがにまずいが、出版社界隈には顔が利く、「干す」くらいの制裁は可能だろうか。

 そんなことを考えた張子虎夫に、鷺沼誠一はぎくしゃくと続ける。


「そのほかにも二級相当の人型怪異が複数出入りしています。それと最近、あの、櫻衛建設の元社長、帆置知彦が入居したという話で……」

「……帆置知彦!?」


 そこまでの思考が、一瞬で吹き飛んだ。


「あっ……あのっ! あの帆置知彦か……っ!?」


 直接の接点があったわけではない。

 だが、過去に数多の怪異や異能者、権力者が挑み、あるいは支配下に置こうとしては返り討ちに遭い、破滅に追い込まれ、あるいは傘下に収められてきた実績を鑑みて、極力接点を持たないようにしてきた名前だ。

 接点を持てば、関わり合いになれば、そこで全てが終わる。

 そんな認識があった。

 自失する張子虎夫に、鷺沼誠一は遠慮がちに続ける。


「ええ、その帆置知彦です。張子さん、僕から真面目な忠告なんて滅多にしませんけど、帆置知彦にだけは絶対に近づかないほうがいい。こっちの業界でも“触れたら終わり”の象徴みたいな存在です。それと、特任怪能検察官が動いたって噂もあります。僕も、しばらくは関わりを絶ちたいんで……連絡も控えてもらえると助かります」


 特任怪能検察官。

 怪異や異能に関する事件を担当する為に、怪異や異能者から特例的に任用された特別検察官のことである。

 通称特任検事。

 これもまた充分に衝撃的な情報だが、帆置知彦という名前が出てきた時点で、張子虎夫は新しい情報を受け付けられる状態ではなくなっていた。


「聞いてらっしゃいますか? 張子さん?」

「……あ、ああ、はい、わかりました。アパートについての調査はもう結構です。ありがとうございました。追ってまたご連絡をします」


 自失状態のまま張子虎夫は電話を終えた。連絡を控えたい、という申し出を無視した格好になったことにも気づいていない。

 その手の中で、スマートフォンの画面が光った。


 ジリリリリン。


 ジリリリリン。


 昭和の黒電話を思わせるベルの音。

 

 ――なんだ?


 スマホの着信音は初期設定から変更していない上、マナーモードに設定していたはずだ。

 出るはずのない音だった。

 画面に目をやると、ありえない番号が表示されている。


 ###-####-####


 全て#。

 名前の欄には、メリー様と表示されていた。


 ーーなんだ、これは。


 実際は、ある程度の察しはついていた。メリーと名乗る電話の怪異といえば、当てはまるものはひとつしかない。

 その逆鱗に触れかねない行為をしている自覚もあった。

 どうすることもできず、ただ凍りつく中、声が響いた。

 着信ボタンを押してもいないのに、いつの間にか通話に切り替わっていた。


「もしもし、私メリー様、いま、おまえのうしろにいるのだよ」


◇◇◇


【神奈川県知事の私設秘書を盗撮容疑で逮捕 異能悪用、全国最大規模に】

(東都日報デジタル)


 神奈川県警は神奈川県知事の私設秘書で長男の張子虎夫(43)を迷惑防止条例違反および異能犯罪取締法違反の疑いで逮捕した。

 張子虎夫容疑者は自身の〈二重身ドッペルゲンガー〉の異能を悪用し、県内外の学校の女子トイレや公共施設に小型カメラを設置し、盗撮・盗聴行為を行っていたと見られる。

 また、官公庁や政財界、マスコミ関係者の身辺でも盗撮・盗聴を行い、多数の映像・音声を収集していたとみられ、被害件数は数百件に上る可能性がある。

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一番恥ずかしくかっこ悪い罪を前面に押し出してて草
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