表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解任社長、怪異を解体す。――あー、あの男来ちゃったの?それじゃもうダメだね。あの怪異、たぶん死ぬ  作者:
File No.1-04 解説 帆置知彦――捕獲から判決まで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

第21話 非実在怪異

 まずいものを見られた自覚はあるようだ。撒き散らしていた呪詛と脅し文句を飲み込んだ〈メナ子さん〉はそのまま急激に色と実体を失い、灰のような粒子となって姿を消した。

 拘束相手がいなくなった〈エムサ・バル・ネコ〉の包帯が浮き上がり、主人のもとへ戻っていった。


「怪異ではないのだよ」


 白河ミユキに抱かれたままの『着信音リングトーン』が面白くなさそうに言った。


「〈二重身ドッペルゲンガー〉系の異能者だな。体の外に出した分身を人形風に偽装していた。隠しカメラがバレたところで観念し、分身を放棄して逃げた」

「小難しい話はわからねぇのだよ。ともかく、メリー様と花子のパクリみてぇな名前で盗撮とはふてぇ野郎なのだよ」


着信音リングトーン』は憤懣やる方ない様子である。

 

「名誉毀損なのだよ。風評被害やミーム汚染が発生したらどうしてくれるのだよ。見つけ出してギッタンギッタンにしてやるのだよ」

「落ち着きたまえ」


 帆置知彦は荒ぶる『着信音リングトーン』をなだめ、警察に連絡を取った。


◇◇◇


 帆置知彦からの通報を受けてやってきたのはサングラスに白杖の刑事、刑部刑部とその部下の流石要、盲導タヌキのキャン玉郎だった。


「道中にパトカーの中でデータベースを当たってみたんですが、〈メナ子さん〉は非実在怪異に登録されとりました。ペケッターで描かれたイラストが発祥だそうです」


 証拠品となる隠しカメラを受け取りつつ、刑部刑部はそう告げた。


「そのようだね」


 名前の通り実在しない怪異。映画や書籍、テレビ番組やゲームなどの創作物に登場する架空の怪異のことである。怪異のデータというよりデマ対策、「そんなものはいない」ということを確認するため登録されている。


「ご存知でしたか」

「白河くんに教えてもらってね。白河くんの専門分野らしい」

「ほう、専門分野ですか、どのようなお話で?」

「専門分野というよりオタク界隈の話になってしまうんですが。三年くらい前に絵師界隈で一瞬だけ流行ったネタだったと記憶しています。“〈花子さん〉と〈メリーさん〉を足して二で割ってみた”っていうイラストがペケッターで瞬間風速的に流行って。デザイン的には今回の〈メナ子さん〉とほとんど同じものです」


 白河ミユキはイラペディアというオタク系ウィキペディアから〈メナ子さん〉という項目を開いた。

 現代的な絵柄の黒髪、ジャンパースカート姿の美少女球体関節人形のイラストが表示されていた。


「〈二重身ドッペルゲンガー〉の異能保持者が非実在怪異の〈メナ子さん〉を名乗り、隠しカメラを持って夜間徘徊していたっちゅうことですか」


 刑部刑部は首を傾げた。


「いまひとつ、趣旨が掴めへんですが」

「〈メナ子さん〉ではなく〈花子さん〉のふりをしたと見るべきだろう」


 帆置知彦が口を開く。


「〈花子さん〉は学校の怪異としての知名度が高い。〈花子さん〉の姿で行動すれば、見咎められたとしても盗撮を企んでいるとは思われにくい。逆に言うと〈メナ子さん〉は学校内の盗撮を試み、その途中で〈エムサ・バル・ネコ〉に捕獲された可能性がある」


 帆置知彦は気取ったしぐさで人差し指を立てた。


「なるほど」


 刑部刑部は面白がるように言った。


「しかしそれやったら直接〈花子さん〉を名乗ったらあかんかったんでしょうか」

「それをやると〈花子さん〉や彼女に連なる学校の怪異たちがどういう反応をするかわからないからね。〈メナ子さん〉という非実在怪異を利用することで、周囲が勝手に勘違いしただけという体裁を作ろうとしたんだろう」

「最悪〈花子さん〉と〈メリーさん〉両方を敵に回すことになるんと違いますやろか」

「そこはバレなければいいと思ったんだろう。まぁ早速バレたわけだが」


 帆置知彦は『着信音リングトーン』に目をやる。

 白河ミユキの腕に収まったままの『着信音リングトーン』が「ギッタンギッタンなのだよ」と嘯いた。


◇◇◇


 一通りの事情聴取を終えた刑部刑部らは、最後に改めて〈メナ子さん〉が転がっていたベンチをチェックした。


「ほな〈過去視レトロサイト〉を使ってみよか」


 刑部刑部は、トレードマークのひとつであるサングラスを外し、瞼を開く。

 古い写真を思わせる、セピア色の瞳孔が光を受けた。

 白杖や盲導タヌキの補助を受けていることを感じさせない所作で視線を動かした刑部刑部は、静かな口調で「おったな」と呟く。


「なんのお話でしょうか」


 白河ミユキが怪訝な声を出す。


「刑部くんの異能だね。〈過去視レトロサイト〉と言って過去の風景を、二十四時間前まで遡って見ることができる。僕たちが見たのと同じ〈メナ子さん〉を見ているんだろう。僕たちが見る前の〈メナ子さん〉の姿を遡って追いかけることもできる」

「……チート異能?」


 白河ミユキは目を丸くした。


「過去が見える代わりに、今現在のものは全く見えへんから、キャン玉郎の介助が必要なんですがね。視覚とそれ以外の感覚が全く噛み合わへんから普段はずっと目を閉じて暮らしとる始末で」


 そう付け加えた刑部刑部は、キャン玉郎のハーネスと白杖を握り直した。


「ほな、昨日の〈メナ子さん〉の動きを遡ってみます。今日のところはここで失礼させていただきますが、またなにかありましたら自分か流石刑事あてにご連絡を」


 そう挨拶をした刑部刑部たちはパトカーに乗り込み〈過去視レトロサイト〉で〈メナ子さん〉と〈エムサ・バル・ネコ〉の移動ルート、もしくは連行ルートを遡っていく。

 やがて刑部刑部の一行は、町田市郊外にある参内高校という私立高校へ行きついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ギッタンギッタンなのだよかわいい。 刑部刑部、人名と認識した瞬間におさかべぎょうぶと普通に読めるの日本語って凄い、早く出世して刑部刑部刑事部長になるべき。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ