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解任社長、怪異を解体す。――あー、あの男来ちゃったの?それじゃもうダメだね。あの怪異、たぶん死ぬ  作者:
File No.1-03 日雇い 帆置知彦――移転から炎上まで

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第18話 施工開始、鎮圧完了

 ――アクセス『痛快連隊駐屯地』

   一斉召喚『工兵団ファニーズ


 体内異界〈霊街〉へと接続した帆置知彦は、西部総合庁舎の前に怪異性工作機械群『工兵団ファニーズ』を召喚する。


・ダンプカー 『広背ブロードラット

・ブーム付きコンクリートミキサー 『巧手ダブハンド

・クレーン車 『長腕ロングアーム

・ブルドーザー 『剛腕ストロングアーム

・ショベルカー 『右腕ライトアーム

・ショベルカー 『左腕レフトアーム


 合計六両の怪異性建設機械群。

 ボディカラーはすべてオレンジ。

 社名ロゴは新しい塗料で塗りつぶされていた。


「施工開始だ」


 どこからかヘルメットを出し、刑部刑部と流石要にも手渡した帆置知彦が宣言する。

 ショベルカーの『右腕ライトアーム』『左腕レフトアーム』がロッカールームの外壁にアームを向ける。


 ガンガンガンガン! バリバリバリバリ!


 コンクリート破砕用の油圧ブレーカ、クラッシャー(大鋏)を装備した怪異性重機がコンクリートを粉砕、内部の鉄筋を切断してロッカールームの壁を掘り崩していく。

 異音と衝撃が庁舎を震わせる。

 

”至急至急! 西部総合庁舎前に不審な建設車両が!”


 110番怪異が悲鳴のような声をあげる中、壁面に大穴が開き、鋼の怪異の二本のアームが姿を現した。

 110番怪異の叫びを受けて出現した火の巨人たちが銃撃を浴びせて阻止を図るが、現状あまり仕事のない四台がクレーンやブーム、バケット、荷台などを使ってバリケードを組んで受け止め、跳ね返していく。


「よし、搬出開始だ」


左腕レフトアーム』のクラッシャーが燃えるロッカーをとらえ、五、六台まとめて薙ぎ払うように建物の外へ落としていく。

 下で待っていたブルドーザー『剛腕ストロングアーム』がそれを受け止めてダンプの『広背ブロードラット』のもとへ移動。リフティングマグネットをつけたクレーン『長腕ロングアーム』と協力して荷台に積み込んでいく。

 この間も110番怪異が生み出した巨人たちの攻撃は続いているが、『工兵団ファニーズ』は意に介さない。

 アタッチメントを油圧ブレーカからクラッシャーに変化させた『右腕ライトアーム』がロッカーを挟み潰し、中にあるスマホを一つずつ、処刑か拷問のように破砕していく。


”緊急! 緊急! 緊急! 緊急! 緊急! 緊急! 緊急! 緊急!”


 110番怪異の声が響く。


「もうちょっとひとおもいに片付けることは?」

「爆破がNGならこれが一番早い。それに、この工程もそろそろ終わりだ。『耐火ファイアプルーフ』仕上げの準備を」

「あいよー」


 引きずり落とされていく最後のロッカーを追いかけて『耐火ファイアプルーフ』も建物から飛び出していく。

 K110というソフトウェアから生まれた110番怪異は、依代ハードウェアであるスマホを破壊されるごとに力を失っていく。

 追い詰められた110番怪異は、正常に機能する依代ハードウェア、本来の居場所であった西部総合庁舎のサーバールームへの移動をはかる。

 存在維持だけを考えるなら外部にある個人所有のスマホやコンピュータなどに離脱するほうが上策だが、110番怪異は職務放棄・・・・という選択肢を選べなかった。


 善良な市民からの通報を受け付け――。


”タクシー呼ぶ金がねぇんだよパトカーで送ってくれよ! 凍えて死ねっていうのかよ!”


 迅速に警察官を送り込み――。


”いいからすぐ逮捕しなさいよ傷ついたのよ私は!”


 地域の安全を守り――。


”この渋滞いつになったら終わるんだよ”


 安心、安全な社会を実現する――。


”釈放されちまったじゃねぇか、ぶっ殺せばよかったじゃねぇかあんなカス。いつも甘いんだよおまえらは”


 はい、では、そのようにいたしましょう――。


 110番怪異は、市民の声に応えるために生まれた怪異だった。

 その使命のために狂った怪異だった。


「事件ですか……事──件……事故……ですか……通報ありが──通報ありが通報ありが……すぐに警察官を向かわせ、ま……す……ま……す……焼きま……焼きま……焼きます……」


 呪文めいた言葉と共に、110番怪異はロッカーから抜け出していく。

 歪んだ無数の人の顔、指令センターの警官たちの顔や通報者たちの顔がびっしりと浮かび上がった直径数メートルの人魂状の大火球。

 地下一階にある指令センターより更に下、地下二階のサーバールームに向けて110番怪異は動き出す。

 その前方に『耐火ファイアプルーフ』は着地した。


 ――アクセス『熱圧区』

   使用承認『CSFPU』


 帆置知彦の利用許可を受け『耐火ファイアプルーフ』の背中に酸素ボンベ、あるいは火炎放射器を思わせるバックパックが現れた。


 Compressed Spiritual-Air Foam Purification Unit


 漢字で書くと加圧霊気泡浄化装置。

 水に泡消火薬剤フォームコンセントレートと粉末状の呪遺物を混ぜて圧縮空気を注入して消火・退魔兼用の泡を作り、発射する怪異性火災用消火装置である。


 パシュゥゥゥゥゥ……。


 コンプレッサーが駆動音を立てる。


泡消火薬剤フォームコンセントレート、月光純銀粉、混合完了。加圧開始」


耐火ファイアプルーフ』はCSFPUの噴射口をあげる。


「噴射準備ヨシ、安全装置解除」


 脅威に気づいた110番怪異は加速し、西部総合庁舎への再突入をはかる。


「鎮圧」


耐火ファイアプルーフ』はトリガーを引き絞る。

 サーチライトに似た軌跡を描き、吹き出した白い粒子群が標的を捉える。

 CSFPUは泡消火薬剤フォームコンセントレートと混ぜた呪遺物の粉末を高速、高圧で叩きつけることで怪異のもつ熱量を奪い、削り、抉り抜く。



「事件、ですか、事故ですか……事件ですか、事件、事件、事件……です、か……」


 白い粒子の直撃を受けた110番怪異の中心部に巨大な風穴が穿たれる。


「最大圧力」


 トリガーを引き切る『耐火ファイアプルーフ』。

 CSFPUのコンプレッサーが咆哮し、白い粒子を加圧し、加速。

 眼前の怪異を一息に消し去った。

 CSFPUの噴射口を下ろし、『耐火ファイアプルーフ』は宣言する。

 

「残火反応なし。鎮圧完了」


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