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解任社長、怪異を解体す。――あー、あの男来ちゃったの?それじゃもうダメだね。あの怪異、たぶん死ぬ  作者:
File No.1-03 日雇い 帆置知彦――移転から炎上まで

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第14話 カレー店再襲撃、及び音声発話記録

 三日待つと告げた久堂柚巴だが、再襲撃の可能性が指摘された以上は全く無策というわけにも行かない。

 その日のうちに放火対策を依頼された帆置知彦は再び天香の店舗に出向き、心霊撮影用のカメラとマイクを仕掛け、スプリンクラーや消火栓、センサー類を心霊災害対応型のものに交換した。

 火災については水の怪異である久堂柚巴がビルの周囲に薄い霞を漂わせることで自前の防火用結界を展開しているので、やり過ぎ感のある設備となる。

 そこから三日、大人しく警察の捜査の進展を待ったが、具体的な動きがあったのは結局火の怪異だけだった。

 天香とは無関係のビルと小学校で一件ずつ怪異性火災が発生。

 そして三日目の夜二二時。

 天香新店舗の前に直径一メートルほどの火球型怪異が飛来した。

 着地と同時に例の警官風巨人の姿を取り、銃口を持ち上げる。

 前回との大きな違いは対怪異用のカメラやセンサーが設置されていたこと、久堂柚巴の霞状の防火結界が展開されていたこと、用心のために八重森八束が休業中の店舗に詰めていたことである。

 流石要刑事の言葉通り、ターゲットは天香だった。

 巨人は拳銃を抜き、天香のドアに狙いを定めようとするが、今回は久堂柚巴の霞の結界が機能している。巨人の体と銃は酸に腐食されたように溶け崩れていく。


「しゃっ」


 さらに八重森八束が店から飛び出し、一撃を入れようとするが、帆置知彦がスピーカー越しに制止した。


「待ってくれ。音声を拾いたい」

「しゃ?」


 ストップをかけられた八重森八束は勢いを持て余し、前後左右にしゃっしゃとステップを踏む。

 その視界の中でうずくまった巨人は、小さな声で何事かを繰り返していた。


 ……ダカラネ、さぎなんですヨ……テン、テンコ、アツ、アツシサンガツクッタ、マモッテキタ……おミセノ……ナマエデ……それを、カッテニ……ショ、ショーばいしてるって……そーゆー、あのひと、あれ……のっと……ガイコ……んじん、かなぁ……?

……キタ、ってキイテ……チュウシャキ……ぜっ、ぜったい、なにか……ある……


「……しゃ?」


 八重森八束が先の割れた舌をちろちろと出しながら首を傾げる中、巨人は静かに崩壊を続け、その姿を消していった。


◇◇◇


 静影荘の離れに設置した臨時モニタールーム。

 帆置知彦は〈霊街〉で分析、推測させた巨人の発言内容をモニターに出し、せんべいをかじりつつ状況を見ていた久堂柚巴、イラストレーターの仕事の息抜きがてら様子を見に来た白河ミユキ、ただの野次馬として浮かんでいる〈しろみ〉〈きみ〉たちに示した。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 音声発話記録・復元結果:

 ダカラネ、詐欺ナンデスヨ。天香トイウノハ天沼篤志サンガ作ッテ守ッテキタ大切ナ店ノ名前ナンデス。ソレヲ勝手ニ使ッテ営業シテルンデスヨ。天沼サンガイナイノニ。誰カ知ラナイ女ノ人ガ勝手ニ……。アレハ、乗ッ取リ屋カナ、外国人ノ……。店ノ名前ダケ使ッテ……絶対ニ詐欺デスヨアレハ……。近クデ覚醒剤ノ注射器ガ見ツカッタトカ……裏デ怪シイ事ヤッテルッテ聞キマシタ。絶対ナニカアルンデスヨ、アソコ……火事モ絶対ワザトデショ? モウ一回調ベ直シテ下サイヨ。逮捕シテクダサイ、通報シテマス今、聞イテルンデスカ? ネエ……。

――――――――――――――――――――――――――――――――


「なんでしょう、これ」


 きゅい?


 キュイ?


 白河ミユキと〈しろみ〉〈きみ〉たちが首をかしげた。


「警察への通報?」


 久堂柚巴が言った。


「そのようだね。今回の怪異は警察への通報に呼応して動いている可能性が高い。覚醒剤の注射器という言葉だが、これは旧店舗の一階にあったコンビニのことだろう。〈霊街〉がSNSを調査したところ、コンビニ前に怪しげな注射器が落ちていて怖い、という投稿があった」


 帆置知彦は複数用意したモニターのひとつにSNSの投稿画面を拡大して見せた。


「旧店舗の火災で実際に燃えたのは一階のコンビニだけだった。久堂くんと八重森くんが水の怪異だったのもあるが、元々この注射器関係の通報がトリガーになっていて、天香はターゲットではなかったんだろう。だがこの火災によって、潜在的な天香アンチの攻撃衝動が刺激された」

「天香アンチ?」


 久堂柚巴は不思議そうな顔をする。


「ネットを調べたところ、君たちが始めた新しい天香を面白く思っていない連中が目についた。基本的には先代、天沼篤志の天香のファンだな。自分たちが好きだった天香という店が天沼篤志が起こした不祥事で閉店になり、久堂くんと八重森くんの手でリブートした。天沼篤志の母親の天沼恵からの要請ではあるが、天沼篤志の時代から入ったファンには関係のない話だ。お前らは誰だ、自分たちが支持したのは天沼篤志の天香だ、と反発する連中が出て、乗っ取りだ、ニセ天香だといった愚痴を言い始めた」

「初めて聞いたわ」

「ネット上での愚痴だからね。ネットを見ない限り接点がないだろう。人数は多くないようだが、ネット上でつながりあって、乗っ取りだのニセ天香だのと話し続けているうちに、それが真実だ。正しいものの見方だって思い込むようになっていたようだ。これを見てくれ」


 帆置知彦は大手SNS、ペケッターから「ニセ天香」「天沼篤志さん復帰祈願」「天香奪還」などのキーワードでピックアップした投稿を画面に表示した。

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