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解任社長、怪異を解体す。――あー、あの男来ちゃったの?それじゃもうダメだね。あの怪異、たぶん死ぬ  作者:
File No.1-03 日雇い 帆置知彦――移転から炎上まで

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第12話 蛇系共同経営者

 現在日本では、怪異や異能者を普通、準用、二級、一級の四種に分類している。

 普通は怪異、異能者であるというだけで大きな注意は必要ないレベル。〈しろみ〉〈きみ〉などはこの等級になる。

 準用は要注意。悪意を持って動き出せば大きな霊災、犯罪を引き起こす危険があるレベル。〈四号車のスリ〉あたりがこの等級になる。

 準用までは都道府県による登録、管理、指導の対象となり、二級以上は国による登録、管理、指導の対象となる。

 二級は地方区分レベルの心霊災害を引き起こす可能性を持つ怪異、異能者。久堂柚巴はこの等級で怪異登録をしている。

 一級は国難レベルの危機を引き起こすレベル。櫻衛建設時代に爆破解体した〈一三祠〉と帆置知彦本人、そして白河ミユキはこの等級となる。

 世界レベルの危機を引き起こすレベルの怪異、異能者を絶級と呼称することもあるが、スラングのようなもので正式な等級ではない。

 ともかく強力な怪異が接近している、ということになる。

 天香のドアに警戒の目を向けた帆置知彦に、久堂柚巴は「問題ないわ」と告げた。


「うちの共同経営者」

 

 久堂柚巴の説明から数秒後。

「しゃー」という妙な声と共に扉が開いた。

 入ってきたのは長い黒髪に帽子、派手な金色のラインの入ったTシャツにデニム、ヘビ柄のジャケットを羽織った長身の女性だった。

 瞳も金色に光っている。

 久堂柚巴同様、人外レベルの美貌。淡い霊気を纏っていた。

 帆置知彦と久堂柚巴の存在には気づいていたらしい。陽気な表情で片手をあげると、短く「しゃ!」と挨拶をした。


「野生に返り過ぎよ、人語が成立していないわ」


 久堂柚巴が指摘すると、女性は「ありゃ」と呟いた。


「リフレッシュしすぎた。ええと……ごめん、誰だっけ……?」


 帆置知彦に目を留めた女性は「しゃ?」と唸って考え込んだ。

 細く、枝分かれした舌をちろちろと出している。

 蛇の怪異のようだ。


「初対面だから思い出そうとしなくていいわ。八重森八束やえもりやつか、うちの共同経営者で接客と力仕事の担当。八束、こちらは静影荘の新しい住人の帆置知彦さん。移転作業の相談をしていたところ」

「OK、鮮やかに理解した。よろしく」

「ああ、よろしく」

「一応私のルームメイトよ。ほとんど野生動物だから、滅多に戻ってこないけれど」


 表札に名前はなかったが、一応静影荘の住人のひとりらしい。

 ともかく旧店舗の下見を終え、新店舗へ向かう。

 新店舗はJR町田駅南口、大手家電量販店ヨドバスカメラ向かいの雑居ビルの二階にある。

 下見だけのつもりでいたが、八重森八束はどこかからリヤカーを調達していた。

 熊やゴリラを思わせる腕力でテーブルや椅子などをひょいひょいと持ちあげて一階まで降ろし、リヤカーの上に山積みにすると、往来の人々を困惑させ、あるいは驚愕させながら引っ張っていった。

 到着した雑居ビルは、よく見るとミユキを連れて飛び降りたビルだった。

 危険な怪異の気配はなし。


「問題ないだろう。今日中に見積もりを出すから、文句がなければ博通堂あてに依頼を出してくれ」


 さらに数日後。

 博通堂のアルバイトとしてカレー店天香のエアコンと冷蔵庫の移設作業を請け負った帆置知彦は相模大野にある博通堂の店舗から借り出したトラックで天香の旧店舗に乗り込んだ。


「おはよう」

「おはよう」

「おはよー」


 きゅい。

 きゅいきゅい。


 先に作業を始めていた久堂柚巴、八重森八束、アルバイトと称して静影荘から徴用された百匹の〈しろみ〉と合流する。

 最初の仕事はエアコンの撤去作業。


「この手の仕事は久しぶりだね」


 フロンガスの漏出を防ぐポンプダウンの作業をしてから室外機を取り外し、トラックに積み込む。

 次は室内機だが、こちらは高さと重さがあるので頭数が必要だ。霊街の住人の力を借りようと思ったが。


 きゅい。

 きゅきゅい。


 まかせろ、と言うように〈しろみ〉たちが集まってきて室内機を支えていく。


「やる気なのかい?」


 きゅ。


「意外に力はあるから大丈夫よ」


 きゅい!


 力自慢をするように、〈しろみ〉の一匹が脚立をひょいと持ち上げた。そのままベンチプレスのように上下する。


「なるほど、やるもんだね」


 一匹でこの力なら手を借りても良さそうである。

 脚立を登り、室内機の留め具を外す。四十キロの室内機をふわりと受け止めた〈しろみ〉たちの力を借りてトラックに積み込んだ。

 次は業務用冷蔵庫。

 こちらは約百四十キロ、力仕事担当の八重森八束の手も借りてトラックに積み込み、新店舗へ移動する。

 エアコンと冷蔵庫の移設、動作確認まで無事に終わらせた。

 テーブルなどは八重森八束が移動済みなので大きな作業はこれで完了である。

 久堂柚巴にサインと工賃を貰い、まかない兼〈しろみ〉たちのアルバイト代となるひよこ豆のキーマカレーとターメリックライス、フライパンで焼いたチャパティを食べた。

 なんとなくメニューを確認してみると、看板メニューはカツカレー。バリエーションでチキンカツカレー、エビフライカレーなどとなっている。


「メニューは洋食系だな」


 眼の前のひよこ豆のカレーやチャパティなどはメニューにない。


「この店は五十年くらい前に私と天沼恵っていう人間の女の子で作った店なの。洋食系のカレーライスのお店としてね。私は最初の五年くらいで手を引いて、それからは天沼家の家族経営でやっていたのだけれど、二〇〇〇年くらいに息子の天沼篤志という男の子が引き継いだ」


 久堂柚巴は店に飾られた古い写真を示す。開業直後の写真らしい。今と同じ姿の久堂柚巴と若い女性、五歳くらいの子供の姿が映っていた。


「センスが良くて、テレビや雑誌にも取り上げられるくらいだったのだけれど、調子に乗って女子高生に手を出してスクープされた。それで奥さんとも離婚した」


 久堂柚巴は紙コップにラッシーを注ぎ、〈しろみ〉たちに配っていった。


「その奥さんっていうのが、取引先の銀行の頭取の親族だった。それで融資を打ち切られて倒産。そのまま夜逃げをしていった。でも、この店を存続させたいと天沼恵から頼まれて、私が経営を引き継ぐことにした。だからメニューは、この店で天沼恵や天沼篤志が作ったものをそのまま引き継いでいるの」

「なるほど」


 自分でやりたい店と言うより、友人が作った店を引き継いで維持している。

 普段自分で作って周りに食べさせているものと、店で出しているものの間にギャップがあるのはそのためらしい。

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