3.出会い(2)
「よーーーっし、今日も元気に切るわよ~!」
一週間後。男爵邸から神殿までは馬車で2日。ひとつきに1度のお勤めではあるが、なかなか面倒だと思う。おかげで、王城からは「男爵家がひとつ別荘を王城付近に持つのはどうか」と言われていることを彼女は知っている。当然、その別荘には聖女を住まわせよう……そういう魂胆だとも。
だが、そうしたらさらに王城付近の貴族たちから誘いの手紙が増えるに違いない、とティアナはわかっているため、今のところは……と、時間をかけて馬車で通っている。
本当は別荘をいただけるならいただきたい。もし、別荘に住めれば、父が王城にやって来た時だって使ってもらうことが出来る。ティアナも父である男爵も、何かしら用事があって王城に来た時は城下町の高級宿に寝泊まりすることになっている。それの代わりになるならば万々歳と言えるのだ。まあ、それはまた後程の話となるだろうが。
そんなわけで、2日馬車に乗った疲れもどこへやら、彼女は元気に祈りの間に入って気合いを入れた。大体前聖女は、祈りの間に入ってから神託を得てそこから出るまで20分程度かかっていたという話。となると、神託そのものはほんの数分で済むのだから、像まで10分弱のろのろとかかっていたということだ。
ティアナはその20分弱で、ひたすらに白いものを切っていく。さくさくと切っていく。白いものは何も言わない。ただふわふわと浮いている。一体それが何なのかはよくわかっていないが、なんとなく「人間の魂が空に昇らずに残ったもの」のような気はしている。
ならば、それを空へと還してやるのは悪くないのではないか……うん、聖女らしい。とはいえ、聖女の力は神託を得る以外に何の役にも立たないため「浄化」というものは出来ない。彼女が出来ることと言えば、宝剣を振り回して、無抵抗な白いものを切って切って切って切りまくるぐらいのこと。
「無抵抗とはいえ、疲れないわけじゃないのよね」
とはいえ、彼女は剣の訓練を受けているのと同時に、筋力も持久力も備わっている。それは、男爵家の方針だ。男爵家に生まれたからは、令嬢とあろう者は令嬢らしいふるまいはもちろんのこと、領地民に何かがあれば戦わなければいけない。そう教わってきた。それが、ほかの貴族の家門では相当「ええ? 戦う?」と眉を寄せられることであろうとも。
だが、それには事情がある。男爵家の領地は、国境に近い辺境伯の領地と隣接していて、一部は国境に面しているからだ。それゆえ、過去に男爵家の領地が戦火に焼かれたこともあった。それ以降、男爵家に生まれた令息も令嬢も共に、馬に乗り、剣をふるい、いざとなれば民を守るために立ち上がるようにと育てられた……とはいえ、戦火に焼かれたのはその一回きりのことではある。
「ま、それが役立ってるわけだけど」
「白銀の聖女!」
「出来るだけ無駄なく、多くのものを切るには」
「白銀の聖女!」
「やっぱり腕全体の使い方よね、とはいえ、立ち止まった方がいいのか、まずは進みながら切っていって神託を受けてから、ゆっくり切った方が良いのか……」
「白銀の! 聖女! 聞こえないのか!」
「ええ? はい? どなた?」
祈りの間で白いものを切りながらぶつぶつ言っていたティアナは、ようやくその声に気づいて手を止めた。誰もこの間には入れないはずだ。いや、実際は扉を開けることは出来るけれども。
後ろを振り返っても、誰もいない。扉も開いていない。
「えっ? まさか白いものが……?」
「こっちだってば!」
「ん?」
見れば、奥の像の近くに一人の男性が立っている。おいおい、自分がこの部屋に入った時は、誰もいなかった……と思ったが、白く浮いている浮遊物がみっちり詰まっていたから、自信がない。「今行きますよ~」と呑気なことを言って、ずばずばと切っていく。
「ねぇ、君、なんで霊体をそんなに祓ってるの? 無害でしょ」
像の隣に立っていた男性は、金髪に緑の瞳、前髪は真ん中で分けており、肩下ぐらいの長さの髪はうなじでまとめられている。年の頃20才半ばほど。身なりは良い。顔もいい。ティアナより頭一つと半分すらりと背が高い。彼は、整った顔に苦笑いを浮かべ、そう尋ねた。




