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留学生とお世話係  作者: 緑谷めい


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5/5

5 おかえりユリアナ

 


 半年後。

 学園の卒業式直近になり、留学生ジュリアナは隣国に帰ることとなった。

「元気でね。ジュリアナ」

「ええ。トルスティ様もお元気で」

 教室で熱い抱擁を交わし別れを惜しんでいる二人に、白けた視線を送るクラスメイト達。何と言う茶番。


 そして、その2日後。ユリアナが学園に戻って来た。ピンクゴールドに染められていた髪は、本来の蜂蜜色に戻っている。トルスティはホッとしたが、少しだけ寂しさも感じた。

「トルスティ様、お久しゅうございます」

「あ、ああ。おかえり、ユリアナ」

「私の留守中、交換留学生の平民女性とずいぶん仲良くなさっていらしたそうですね?」

「え? まぁ、学生時代はお互い自由にするという約束だったからね。でも、彼女と過ごした日々は良い思い出として胸にしまっておくよ。俺が未来を共に歩むのは、ユリアナ。貴女だけだ」

「ま、まぁ。トルスティ様ったら……素敵♡」

 またまた何を見せられているのだろうか? クラスメイト達はもうウンザリだった。



 翌週。トルスティはユリアナと共に学園の卒業式に臨んだ。

 式は滞りなく終了したのだが、式後の卒業パーティで思わぬ出来事が起きた。第2王子マクシミリアンと公爵家令息アードルフが、それぞれの婚約者から婚約の解消を申し入れられたのだ。散々浮気してきたイケメン二人は、ついに婚約者に愛想を尽かされたらしい。

 トルスティは慌てた。エスコートしていたユリアナを放っぽり出し、婚約者に土下座しているマクシミリアンとアードルフの横に急いで並び、一緒に土下座をする。

「な、何故、トルスティ様まで土下座なさってるの?」

 マクシミリアンの婚約者である公爵家令嬢が驚いた顔で尋ねる。その隣には、アードルフの婚約者の侯爵家令嬢も戸惑った様子で佇んでいた。


「マクシミリアン殿下もアードルフも俺の大事な友人なんです! どうか、どうかご慈悲を!(激重友情)」

 必死の形相で叫ぶトルスティ。その時、トルスティの隣に突然何かが滑り込んで来た。ズザザザッと音を立てて。へ? 何? 驚いたトルスティが横を向くと、ドレス姿で滑り込んで来たユリアナがそのまま流れるように美しい土下座をしていた。

「はㇸ!?」

 思わず変な声が出てしまうトルスティ。

⦅コレって隣国発祥のスライディング土下座ってヤツだよな? 初めて見た!⦆


「どうか、どうか、お考え直しくださいませ。傲慢なイケメン浮気野郎にハラワタが煮えくり返るお気持ちは理解出来ます。けれど、私の大事なトルスティ様のご友人なのです。きっと良い所もあるはずです。ほんの少しは。確かにゴミのような浮気野郎どもです。いっそモゲてしまえ、と思われるのも無理はございません。そうですわ! 次にヤッたらナニを切り落とすという念書を書かせるのは如何でしょう?」

 もの凄い早口で捲し立てるユリアナ。おっとりとして口数の少なかった以前の彼女は何処に。懸命に取りなすユリアナの姿に、トルスティは心を打たれた。トルスティの友人達の為に、ここまで親身になってくれるとは。

⦅俺の婚約者、最高じゃん! ぴぴゃ♡⦆


「ふはっ。ふはははっ」

 堪え切れないといった様子で公爵家令嬢が笑い出す。

「何て面白いの、ユリアナさん。わかりました。貴女とトルスティ様に免じて、マクシミリアン殿下に執行猶予を与えます。もちろん、念書を書いて頂いた上でね。よろしいですわね? 殿下」

 公爵家令嬢はそう言って、マクシミリアンに眼差しを向けた。竦みあがるマクシミリアン。

「はい……」

 消え入りそうな声である。王族の威厳など微塵もない。いや、土下座した時点で既に無いのだが。


「私もアードルフ様に執行猶予を与えますわ。もちろん、次にヤッたらナニを切り落とすという念書を書いて頂いて。よろしいですわね? アードルフ様」

 侯爵家令嬢は笑みを浮かべ、アードルフの肩をポンと叩いた。扇で。

「ひゃ、ひゃい」

 ひっくり返るアードルフの声。


「ありがとうございます!」

「本当にありがとうございます!」

 トルスティとユリアナは、公爵家令嬢と侯爵家令嬢に礼を述べると、お互いの手を取り合って喜んだ。固唾を呑んで成り行きを見守っていた生徒達から拍手が湧き起こる。盛り上がる会場で、マクシミリアンとアードルフだけが真っ白な灰と化していた。





 卒業式から3ヶ月後、トルスティとユリアナは盛大な結婚式を挙げた。花嫁衣裳を纏ったユリアナは信じられないくらい美しく輝いている。トルスティは天にも昇る心地だった。

 もちろん、大切な友人であるマクシミリアンもアードルフも、各々の婚約者と共に式に参列してくれた。二人とも少し顔色が悪いように見えたが、きっと気のせいだろう。

 花嫁ユリアナを抱き上げたトルスティは、そのままクルクルと回る。大量のフラワーシャワーを浴びながら――幸せ過ぎて眩暈がした。


 







 終わり






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