2 女の子の口説き方
そんな不安も一晩寝ると忘れてしまったトルスティ。
翌日、此処は学園の生徒会室だ。トルスティは生徒会の書記をしている。
「そんなの一言、気に入った女の子に『俺のオンナになれ』って言えばいいんだよ」
トルスティの一番の仲良し公爵家令息アードルフは事も無げにそう言った。彼は生徒会の副会長であり、トルスティのクラスメイトだ。ちなみに生徒会長は、トルスティの2番目の仲良し第2王子マクシミリアンである。こちらもクラスメイト。
ユリアナに【自由宣言】をしたトルスティが「具体的にどうやって、婚約者以外の女の子を口説いたの?」と、アードルフに質問したら返って来たのが、その台詞「俺のオンナになれ」だった。アードルフには婚約者とは別に恋人が2人いる。羨ましい。
「え……? 傲慢じゃない?」
思わず本音が零れるトルスティ。
「あはは。トルスティはお人好しだな。そういうとこが好きだけど。でもな、女に遜る必要なんてないんだよ。勿論、それで断られたら深追いは禁物だが」
「な、なるほど?」
「あ、あと、わかってるとは思うけど、上位貴族の令嬢に手を出すのは絶対ダメだぞ。彼女らには婚約者がいるし、家の関係もあるからな」
「それは流石にわかってるって」
そう言いながら、トルスティは思った。結局、上位貴族の男は同じ上位貴族の令嬢以外の学園の女子生徒には、これっぽっちの敬意も持ち合わせていないのだと。それってやっぱり傲慢じゃない?
ただ、そんな傲慢な部分はあるものの、アードルフはとてもいいヤツだ。冴えないトルスティをいつもさりげなく手助けしてくれたり、庇ってくれたりする。今回のアドバイスにしても、アードルフは全く悪気なく正直に女の子の口説き方を教えてくれたのだとわかっている。けれど、流石に「俺のオンナになれ」はトルスティには無理だ。ハードルが高い。高過ぎる。いろいろな意味で。
「そりゃ、アードルフは格好良いからさー。そういう台詞も平気で言えるだろうけど、俺みたいな男がそんなこと言ったら、相手の女の子は『キッショ! 何、この勘違い野郎! 反吐が出る!』って思うんじゃないかな? 口には出さないと思うけど」
「……トルスティ。お前、自虐思考が凄いな」
「イヤ、自虐じゃなくて客観的に考えて、そう思うんだよ」
「だったら、そもそも浮気なんてせずにユリアナ嬢一筋でいればいいんじゃね? 清楚で綺麗で文句の付け所の無い婚約者なんだからさ」
「俺だって、他の女の子と遊びたい」
「お前って、難しいヤツだな~」
呆れた口調のアードルフ。
「遅れてごめーん。まことにゴメン」
と、生徒会室に入って来たのは生徒会長のマクシミリアンだった。この国の第2王子でありながら気さくな人柄のマクシミリアンは、学園の女子生徒に大変な人気がある。現在、彼には婚約者が一人に恋人が3人、親しいガールフレンドが10人いる。凄い。ユリアナ以外の女子とほぼ喋ることのないトルスティにはマクシミリアンは眩し過ぎた。
「何、何? 二人で何を話してたんだ? 私を仲間外れにするなよぉ~」
そう言いながら、アードルフとトルスティに抱き着いてくるマクシミリアン。
「殿下。トルスティが女の口説き方を教えてくれって言うから、この麗しの公爵家令息アードルフが指南していたんですよ」
お道化るアードルフ。
「へ~。トルスティ。じゃあ、私の口説き方も教えてやるから参考にしろよ」
「殿下は王族だから、どうせ身分にモノを言わせるんでしょ?」
「トルスティ。王族を舐めるな。私の決め台詞は『貴女の下僕にしてください』だ!」
ドン引きである。
「トルスティ。引くなよぉ~」
泣きマネをしながらマクシミリアンがトルスティに縋り付く。アードルフはヤレヤレと首を横に振っている。
トルスティは思った。マクシミリアンの口説き方も、自分にはとても出来そうにない、と。国宝級イケメンのマクシミリアンが口にするからこそ、そこにユーモアが感じられるのであって、パッとしないトルスティが「貴女の下僕にしてください」なんて言ったらリアル過ぎる。キマリ過ぎるではないか。ああ、そういう性癖の変態野郎なんだな、と相手の女の子に納得され交際を断られた上で、きっと学園中に噂を流されるだろう。「ねぇねぇ知ってる? トルスティ様って下僕願望持ちの【変態ドM】なのよ~」と。イソマキ侯爵家の跡取りが変態ドMという醜聞が広まっては困る。家の名誉に関わる。
「我がイソマキ侯爵家を危機に陥らせるわけにはいきません!」
力強く、マクシミリアンに告げるトルスティ。
「は? お前、何の話してるの?」
マクシミリアンが不思議そうな顔をする。そんな表情もイケメンだな。惚れる。




