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お題に挑戦(3)その2【手首・星・白波】

初出:2019/07/29 Twitter

指定ワードを使って書くお題もの②

こちらのキーワードは「手首」「星」「白波」です!



 ざん、と砕ける飛沫を足首に受けながら、波打ち際を歩く。濡れた砂は星明かりに照らされてなお黒く、遠い海鳴りは誰かを呼ぶかのように響いている。

 旅行なんて断ればよかった。こんなとこまで来て、元カノと再会するなんて。


「あーあ。何が悲しくて、ヨリを戻す瞬間を見なきゃなんないの」


 言い訳なんか聞きたくない。

 振りほどいて逃げ出したのは自分なのに、握られた手首の温度がまだ冷めない。海風に乱される髪を抑えて、沖合に目を凝らす。向こうはきっと白波が立っているだろう。まるで私の心みたいだ。

 振り返れば、先ほどまでいた店の陽気な照明が遠くに見える。


「……追いかけてくるわけないか」


 実際に本人を見たのは初めてだったけど、綺麗な人だった。幸せそうに笑って、親しげに肩を叩いて。あいつも気が抜けたような顔をして――普段は口数も少なくて、表情だってあんまり変わらないのに。

 あんな無防備にきょとんとした顔なんか、めったに見ない。

 溢れそうになる涙を潮風で止めて左側を見上げる。高い位置にある白色のガードレールがまばらな街灯に照らされていた。

 このまま帰ってしまおうか。あの街道に戻り、しばらく行けばバス停があったはず。


「――!!」

 誰もいなかったはずの歩道から名前を叫ばれる。

 驚いて見上げれば、肩で息をする大柄なシルエット……まさか。

 海岸に下りる階段を転がるように駆けてくるから、こっちも走り出す。ああもう、砂に足を取られてちっとも進まない。

 日頃の運動不足を呪っているうちに距離なんかあっという間に詰められて、ぐいと腕を捕まえられる。


「おまっ、……んで、こっちなんか、」

 さすがに向こうも疲れたみたいで、がっくりと膝に手を当てて必死で息を整えている。一人でフラフラするなって、そうさせたのは誰のせい。

 そりゃ、浜に降りたから道路を探していたら見つけられなかったのはそうかもしれないけれど。


 追いかけてきてくれた。彼女じゃなく私を。

 嬉しいのに、波だった胸はまだ痛くて憎まれ口が先に出る。


「彼女が待ってるんでしょ、戻れば?」

「だから違うって! 結婚したって報告!」

「え? 」

「俺は、惚気られてただけ! 向こうも彼氏連れだっただろ?」

「……見てない」


 大きな観葉植物が沢山ある南国風の店内は、雰囲気もいいけれど死角も多かった。だからこそ、トイレから戻った私がまるで覗き見のように再会現場を目にしたんだけど。


「気を利かせて、お前がいない時に挨拶にって……誤解させたのは悪かった」

 そっちもお幸せにね、とパートナーを見せびらかしに来たのだと言う。すぐに追いかけようとしたが、会計もせずに店からは出られずに手間取ったらしい。

「だから、浮気とかじゃないから!」


 ――私の勘違いとか。すっごいカッコ悪い。

 それなのに抱き込まれて、焦ったとか見つからなくて心臓に悪かったとか、まだ乱れた息のまま頭の上で呟かれたら


「……ごめん」

「ほんとだよ」

 風にはためく髪をさらにぐしゃぐしゃにされても、文句は言えないんだな。

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