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異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
142/149

番35:一難去って

「遅かったな……って、サクラ!?」

 首筋に襲撃者の剣を当てられながら王子達の前に姿を現すと、最初に王子が気付き、すぐに他の騎士達も武器をとって立ち上がりました。

 というか、女性のトイレに遅かったとか、やはりデリカシーがありませんよね。後でお説教をしないと……。

「おっと、このお嬢さんがどうなってもいいのか? 大人しく武器を捨ててもらおうか」

 わざとらしく武器をちらつかせて、襲撃者(どうやらわたしに武器を突き付けている男がリーダーのようです)が脅しをかけています。騎士達はどうしたものかと王子の判断を待っているようです。

 わたしはアイコンタクトで王子にメッセージを送ります。

(わたしが魔術でこの男を倒しますから、王子は騎士達に襲撃者の殲滅を指示してください)

 それが伝わったのかどうかはわかりませんが、王子は武器から手を離し、騎士達に武器を下ろすように指示します。

 それを見た襲撃者のリーダーが油断した瞬間、身体に電撃を纏わせてリーダーを感電させました。

「うわっ、なんだ!? うぁばばばばばば」

 襲撃者のリーダーが感電して倒れ、襲撃者の間に動揺が走ります。その隙をついて王子は剣を抜いて手近な襲撃者に斬りかかりつつ、騎士達に指示を出しました。

「一人も逃がすな! 賊を捕えろ!」

 その指示で驚いていた騎士達も一気に動き出し、いきなりリーダーが倒されて浮足立つ襲撃者に襲いかかります。それを確認し、わたしは姿を現していなかった、少し離れた場所にいるはずの襲撃者の仲間の気配を探ります。その瞬間、何本かの矢がこちら、正しくは王子と馬車を狙って飛んできました。

「フレイム・アロー!」

 火矢の魔術でそれを迎撃、矢を撃ち落として矢が飛んできた方へと走ります。狙撃手は慌てたのか、わたしに向かって矢を放ってきましたが再び火矢を使い、速度を落とさずに全て打ち落としました。

 二度目の矢のおかげで狙撃手の姿を捕え、逃げ出そうとしている所に電撃を浴びせて気絶させます。そして拘束の魔術を使って動けなくして、あとは騎士達に任せることにしました。拘束の魔術は便利ではあるのですが、かけるときに相手が抵抗していると(元気だと)かけることが出来ないのが不便です。

 襲撃者の狙撃手を無力化し、広場へと戻ると襲撃者達は全員、騎士達の手によって無力化されて縛りあげられていました。元々襲撃者の数は10数名、対する騎士達は40名で多勢に無勢、人質がなければこんなものでしょう。

「全く、遅いと思って心配しているところに戻ってきたと思ったら人質になっているとは……大丈夫だとは思っていても、少し肝が冷えたぞ?」

 戻ってきたわたしに、王子が溜息をつきながら近付いてきました。

「驚かせたようですみません。ですが、襲撃者を一気に殲滅するチャンスだと思ったのでわざと捕まったんです」

「サクラが抵抗なしに捕まっていたことである程度は想像できたが……婚約者が人質になるというのは、やはり気持ちのいい物では無いな。出来ればこれっきりにしてほしい」

「出来れば、わたしもそう願いたいですね」

 というか、頭に手を置くのは止めてもらえませんかね?無意識なのかもしれませんが、子供扱いされているようで嫌なのですが。そしてそのまま頭を撫でるのも止めてくれませんかね?ま、まあ、無意識みたいなので今回は許してあげますけどね。

 落ち着いたところで、下半身から震えが上がってきました。そう言えば、用を足すために行ったところで襲撃者に捕まったのでした。戦闘中は意識が逸れていたためか尿意は感じていませんでしたが、落ち着いたところで一旦意識をすると、急激な尿意が襲ってきました。

「すみません、少し外します」

 慌ててそう言い残し、再び人のいない方へと足を進めます。急ぎたいのですが、走ると堪えている物が溢れてしまいそうで、慎重な足取りになってしまいます。

「ん? ああ、そうか。手洗いの前に賊に捕まったのか」

 だから、そういう事を言葉に……いえ、今はこんなことを言っている場合ではありません。王子の事は後でお話するとして、今はこの事態を解決するのが先です。

 急ぎながらも慎重に足を進め、先程襲撃者に捕まった場所とは違う、別の茂みへ到着しました。これでようやく人心地がつきます。そう思ったのですが。

「っきゃぁぁぁぁ!?」

 ズボンを下ろそうとしたところで、急に左足が引っ張られました。いえ、正しくは「引っ張られて上に吊りあげられ」ました。それはまさしく一瞬の出来事で、わたしにも何が起きたのか分かりませんでした。気がつけば、左足を上に引っ張られた状態で逆さまになっていたのですから。

 どうやら罠に掛かったようだと気付き、周囲の状況を確認します。まず、周囲の気配を探りましたがすぐ近くにはそれらしい人の気配はありません。次に罠の状態です。どうやら足元にロープの端をわっかにして設置、その輪の中を踏むとトラップが作動して対象を吊りあげると言う、スネアと呼ばれる罠の一種のようです。わたしはそこに罠があるのに気付かずに踏み込んでしまったようです。ロープを目で追いかけると、少し離れた木に結わえてあるのが見えました。そちらを解除するのは無理なので、わたしの足を捕えているロープを切ればいいのですが……ナイフなど、ロープを切るための道具がありません。魔術を使えばいいのですが、それをするには少し心配なことがありますし……。

 悩んでいたところで、こちらに近付いてくる気配がありました。その気配を探る前に、声が聞こえてきます。

「サクラ、大丈夫か? 何か悲鳴が聞こえたのだが……って、何をしているんだ?」

 何をって、見てわかりませんか?

「罠に引っ掛かったようです……」

 ええ、襲撃者を一掃したので油断していましたよ。それに加えて尿意が襲ってきていたので、注意が散漫になっていたのも事実です。だって、まさかこんな街道の傍に罠が仕掛けてあるなんて思いもしないじゃないですか。

「うむ……、見事に引っ掛かっているな」

 王子は目でロープの先を辿った後、しみじみと呟きました。うるさいです、そんな事は掛かった本人が一番分かっているのですよ。

「それよりも早く降ろしてください。あ、そっと、そーっとですよ?」

 心配な事、それは落下の衝撃で漏らしてしまうことでした。落ちた衝撃はもちろんのこと、落ちる際に姿勢を直すためにお腹に力を入れたりした時も危険なのです。すでに二度も解放するチャンスを逃した尿意は、決壊の時を今か今かと待っています。そんな時に下半身を踏ん張るような事態にでもなれば、ここ幸いと溢れだす可能性は否めません。そして一度溢れた関は、もう本人の意思を持ってしても……ガクガク。

 そんなところに現れたのが、王子です。王子、わたしを無事に降ろすことが出来れば先程のデリカシーのない発言は忘れようではありませんか。だから、そっと降ろしてくださいよ?

 そんな願いと祈りを込めて王子の動向を窺っていると、王子はロープの反対側が結わえてある木に近づくと、「よし」と呟き剣を抜いたではありませんか。まさか……。

 シュッ、と音がしたかと思うと、ロープを一閃、ぷつりと切れたロープは当然、重力には逆らえません。

 落ちる!と思った時にはすでに落下中、わたしは受け身も忘れて襲い来るであろう衝撃と、別の事態に備えてお尻に力を入れました。

 そして……襲って来たのは落下した物では無い、ガクンとした左足から伝わる衝撃。恐る恐る目を開くと、王子が切れたロープを掴んでいました。下、つまり地面に目を向けると、身体一つ分ほどの高さで止まっています。幸い、お尻に力を入れていたおかげで決壊するような事態にはなりませんでしたが……。それを認識した途端、ほっとした気持ちと同時に怒りがわき上がってきます。なんという助け方をするのですか!

「このっ……!」

 怒鳴ろうとしたところで、尿意が危険域なのを思い出します。怒鳴る、すなわちお腹に力を入れるのです。下手をすれば……。とりあえず、今は王子に怒るよりも最優先にすべき事項があります。今はぐっと我慢だと言い聞かせ、近付く地面に備えます。

 それほど時間をかけずに、頭に地面の感触が伝わってきました。そのまま落下に合わせて身体を丸めると、やがてころん、と地面に転がります。そしてここで問題が。本当にもう、限界なのです。

「もう、大丈夫ですから、向こうへ行って、ください」

 すでに喋るのも一杯一杯です。はしたないですが、下腹部に手を当てていないと溢れてしまいそうなのです。自分ではわかりませんが、我慢のせいで顔も赤くなっているでしょう。汗で額に髪が張り付いているのがわかります。そんな状態ですので、王子に構っている余裕はないのです。それなのに王子ときたら!

「どうした? もしかして、さっきのでどこか打ったのか? 凄く調子が悪そうだぞ?」

 今はその気遣いが憎く思えてしまいます。いいから早く戻ってください!

「だ、大丈夫、ですから、向こうへ……」

「だが、ひどく苦しそうだし……そうだ、歩くのが無理そうなら背負っていこうか? 馬車に戻れば横になれるだろう」

 どうしてこういう時に限って、そんな気遣いをするのですか?いつもはもっと鈍いくせに、わざとですか?わざとなんですか?

「いいから、早く行ってください……!」

 怒りをこらえて声を絞り出しますが、本当にやばいのです。

「しかしだな、このまま放って行くわけには」

「もう、漏れそうなんです! 王子が行ってくれれば解決するんです!」

 どうしてこう、変なところで察するくせに肝心なところでは察しが悪いのでしょう?

「え? あ、ああ、なるほど。それならそうと言ってくれれば良かったのに」

 そのくらい、察してくださいよ!そもそも、こんなところに何をしに来たと思っているのですか?男性とは違うのですよ?

 王子はようやく状況を把握し、もごもごと言葉にならない言葉を呟きながら、広場の方へと歩いて行きます。その背中を1秒を1分にも10分にも感じながら、見送ります。王子の姿が見えなくなってから、我慢を重ねて30秒を数え、そしてやっとズボンに手をかけます。お腹に力を入れると危険なので、ズボンを脱ぐのも一苦労です。

 やっとの思いでズボンとパンツを膝まで下ろし、腰を上げると同時に溜まっていた物がついに決壊しました。まさか、毎日何気なく行っている行為にこれほど苦労させられるとは思いもしませんでしたよ。我慢をしていた分、いつもよりも長い時間がかかりましたが無事に終え、後始末をして立ち上がります。

「さて、こんな思いをさせてくれた元凶にお礼をしなくてはいけませんね……」

 元はと言えば、最初に邪魔をしてくれた襲撃者が悪いのです。彼らが現れなければこんな辛い思いも恥ずかしい思いもしなくて済んだのですから。それに罠を仕掛けた人も……これは見つかるかどうかわかりませんが、忘れはしませんよ?ふふ、待っていてくださいね?

 すっきりとして身体を軽く感じながら、広場へと戻ります。


 結論から言えば、元凶は全て襲撃者達でした。簡単な尋問の末、罠を仕掛けたのも襲撃者の一人だそうです。なんでも人質が確保できなかった場合は罠の場所へと誘導し、そこで捕まえるつもりだったらしいです。わたしが引っかかった物以外にも数か所、同じような罠が仕掛けてあるそうです。残念ながら罠を仕掛けた人物はすでに死んでいましたが、代わりに指示をしたということでリーダーに責任を取ってもらうことにしました。え?八つ当たりですって?いいじゃないですか、八つ当たり。乙女に羞恥を与えたのですから、このくらい温いものですよ。

 逃げられないように縛られた襲撃者のリーダーは、その両の頬に真っ赤な紅葉をつけて連行される事になったのでした。


女性の旅って道中のトイレとか気を使いますよね。ファンタジー世界だと隣町へ行くにも数日だったりするので大変だと思うのです。特に男性が同行していたりすると……。


話は若干変わりますが、トイレ事情と言えば日本のトイレ事情は世界でも有数らしいですね。外出先で催しても、公衆トイレやコンビニ、お店なんかで借りることも出来ますし、高速道路のサービスエリアなんかでは女子トイレにかなり力を入れて集客をしている所もあります。

これが海外へ行くと、公衆トイレなんてほとんどないそうです。あったとしても有料がほとんどで、女性でも物影で用を足す人も多いそうです。外国から日本に旅行に来て驚くのは、トイレ事情だとも聞きますからね。

そんな日本で育った女性がろくにトイレもないファンタジー世界へトリップしたら大変だと思うのです。お風呂やトイレと言った衛生面に関しては慣れるのが難しいでしょうし、それまでが大変でしょうね。

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