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異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
127/149

番22:目覚めと騒動と

 ピチチ……チュンチュン。

「あ、れ…?朝…?」

 顔を上げると、薄暗い部屋が視界に入りました。あちこちが汚れている、汚い部屋です。

 しばらく部屋を眺めていると、ここが湖の傍の小屋だったと事を思い出しました。

 昨夜部屋を照らしていた明かりの魔術は消え、暖炉の火も消えて今は微かに煙を上げるのみとなっていました。

 壁の隙間やがたついた窓の隙間から差し込む光が、夜が明けたことを教えてくれます。

「あ、そう言えば王子は……やんっ」

 王子の看病の為にここに来たことを思いだし、王子の様子を確認します。

 ……王子はまだ意識が戻っていないようでした。

 ちなみに今の状況は王子の上にわたしがのっかっている形になっていました。寝るときは隣に寄り添っていたはずなのに、いつの間にこんな状況になったのでしょうか…?

 などと思った時に、お尻に変な感触がありました。

 慌てて見ると、ボロボロの毛布の下でごそごそと何かが動いています。そう、王子の手でした。王子の手がわたしのお尻を触っていたのです。

 王子の方に視線を向けると、相変わらず気を失ったままなのか、それともただ寝ているだけなのかはわかりませんが、意識が無いのは確かなようでした。つまり、今わたしのお尻を揉んでいる手は、無意識に動かしていると言うことになります。

 ……王子のスケベ!

 毛布の下で手を伸ばして、王子の手を思いっきり抓ってやります。痛みに驚いたのか、その手は離れて行きました。

「う…、なんだ…?」

 手を抓られたのが効いたのか、どうやら王子が目を覚ましたようです。

「王子?大丈夫ですか?どこかおかしいところはありませんか?」

「ん…?え?サ、サクラ!?どうして私の部屋にサクラがいるんだ!?」

 わたしの存在が意外だったのか、王子は慌てています。

 とりあえず後遺症は見られないようで、その様子にほっとします。

 ですが…。

「それよりも、背中に回している手を外してもらえませんか?動けないのですが…」

 そう、わたしがずっと王子の上に乗っているのは、王子の左手がわたしの背に回されているからでした。

「え?あ、済まない…?」

 まだ状況がわかっていない風ですが、言われた通りに王子の手が背中から外されました。その時に少しですが、手の動きにつられてか毛布がずれました。おかげで肩が外気に晒されて、少しだけですが冷っとした空気を感じました。

「は?え?ど、どうして何も着ていないんだ!?」

 剥き出しの肩を見て、王子はかなり慌てた様子です。無意識での行動か、もしくは状況把握の為かはわかりませんが、王子が身体を起こそうとしました。そうなると当然、その上に乗っていたわたしにも影響はあるわけで。

「きゃっ!」

 重力に従って下にずれました。

「うっ!?す、すまん!」

 慌てて王子が謝罪しますが、少し様子がおかしいです。いえ、それよりも…。

「あの、王子?お尻に何か固いものが当たっているんですが、これってもしかして…?」

「うわぁっ!?」

 慌てた王子がわたしを突き飛ばすようにして身体を離しました。

「きゃぁっ」

 突き飛ばされたわたしは尻もちをついてしまいます。

「いたた…、王子、ひど……い…?」

 まず最初に、わたし達は裸で毛布をかぶっていたわけで。次に王子の上に乗っていたわたしの肩に毛布が掛っていたわけで。そしてその状態で突き飛ばされれば当然、毛布はわたしと一緒に離れるわけで。最後にそうなると王子は…。

「……いやぁぁぁぁぁ!!芋虫が成長しています!昨夜は芋虫だったのに…!王子のスケベ!変態!なんてもの見せるんですかぁ!」

 うわっ、うわっ!しかもさっきわたしのお尻に当たっていたじゃないですか!

「なっ!?し、仕方がないだろう!お前が毛布を持っていくから…!」

「酷いっ!王子はわたしの裸が見たいっていうんですか!?スケベ!信じられません!」

「それは当り前だろう!」

「え?」

「え?」

 あれ?今…。

「とにかくだ!?そもそも…!」

「そもそも、なんですか!?それに、どうして芋虫が成長しているんですか!?」

「さっきから芋虫って、お前…。これは生理現象だ!男として当然の反応だ!」

 そんなこと知っていますよ!知っていますけど…!

 というか、その……ホットドッグのフランクフルトくらいのサイズがあるんじゃないですか?いえ、それよりも大きい気が…。ああ、もうホットドッグが食べられません!

 それと、もしかしてこれが標準サイズなんですか?比較対象が1人しかないのでわかりませんが…。あ、その1人は前世ですが。

「って、見るな!」

「な…!み、見てませんよ!さっさと隠してください!」

「か、隠せって言っても…」

「椅子に服が掛けてありますから、さっさと着て下さい!」

「椅子…?あ、ああ、これか?」

 王子が立ち上がって服に手を伸ばすのが気配でわかりました。

「ん?こっちはサクラのか?」

 が、ついでに余計な物にまで手を伸ばしたようでした。

「っっっ!」

 慌てて自分の着替えを奪い取ります。

「王子のどスケベ!何人のを見ているんですか!」

「どスケベって、私はただ…」

「いいからさっさと着て下さい!わたしはこっちで着替えますから、絶対に振り向かないでくださいよ!?」

「わかった、わかったから怒鳴るな…」

 背後から衣擦れの音が聞こえてきました。ちらりと様子を窺うと、王子は黙って服を着ているようでした。

 全く、どうしてわたしはこんなデリカシーのない人を…。

「いいですか?わたしがいいって言うまで絶対にこっちを見ないでくださいよ?」

 もう一度念を押しておきます。

「わかったって言っているだろう」

 その言葉が不安なんですよ…。

 溜息をついて、わたしは下着を身につけ…。

「サクラちゃん、ここにいますの!?」

 ……え?

「エルちゃんがここだって、あんな……い…?」

 ア、アリア、様…?

「あら、あらあらあら?」

 ここで現状を整理してみましょう。

 まず、この旅行の目的は王子のプロポーズに対してわたしが返事をすることです。

 そして到着したその日に、他の人が寝静まった後に(結果的に)わたしと王子だけが誰にも言わずに抜け出しています。

 さらにまず誰も来ないであろう、離れた小屋で、誰にも言わずに夜を明かしています。

 ついでに言えば、今の王子はパンツは穿いていますが、それ以外はまだ身につけていません。

 わたしの方は今下着を穿こうとしたばかりです。

 そこに飛び込んできたアリア様。

 ……これはどう考えても嫌な展開しか想像できません!

「2人とも、不潔ですわ!いくら想いが通じ合ったからと言って、その日のうちに契りを交わすなんて…!」

 あああ!やっぱりぃぃ!!

 少し想像とは違いましたが、やっぱりそっち方向に勘違いしています!

「ああ、ですがその気持ちもわからないでもありませんわ…。お兄様はずっとサクラちゃんを想ってきていましたし、サクラちゃんもようやく自らの想いに気がついて、それを伝え合った2人はついに…!ああ、ですが…!」

 ストップ、ストップです!!

「ちょ、アリア様!王子にはまだ何も伝えていませんから!!」

 ですからこれ以上言わないでください!

「……まだ?」

 固まっていた王子が突然、ぽつりと呟きました。

「まだってことは、今アリアが言ったのは…?」

 って、こっち見ないでください!

「王子の馬鹿!スケベ!変態!」

 慌てて身体を隠しながら叫びます。

「うわっ、すまん!」

「はぁはぁ、アリア様、サクラ様はここに…?」

「あらシフォン、遅かったですわね。ご覧のとおりですわ」

 あああ、シフォンさんまで!

「まあ!それではついにサクラ様も大人に…?」

「そうですのよ。それにしても、2人してわざわざこんなところで契らなくてもいいと思いません?まあ、想いが通じて盛り上がって、というのはわからなくもありませんが…」

「そうですね、お陰で私達が朝から慌ただしくなりましたが…。とりあえず、おめでとうございます。式はいつでしょうか?」

 これ以上話を変な方向に持っていかないでください!

 とにかく、今は誤解を解くことが先決です。この調子で王妃様にまで話されたら、どうなることか…。いつのまにか結婚式、なんてことになりかねません。

 ……それはそれで問題ないのかもしれませんが…。

 いえ、まだ返事もしていないのに勝手に周りに進められるのは不本意です!

 急いで服を身につけ、もたついている王子を尻目にアリア様とシフォンさんに向きあいます。

 エルが足元に纏わりついてきますが、今は後回しです。後でかまってあげますからね?

「アリア様、シフォンさん、お話があります」

 ここから長い戦いが始まるのでした。

 具体的には1刻ほど…。

 だって、説明の途中で何度も2人の妄想が入って、全然進まないんです…。おかげで説明に4半刻、そして理解(納得)してもらうのに同じくらいの時間がかかりました。

 まだ朝なのに、酷く疲れました…。


 ちなみに王子はその間、所在なさげに小屋の隅で立っていたようです。


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