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第104話 選べません。

 晴れて鈴見総次郎すずみ・そうじろうとの賭けに勝利して、突発的に襲われそうになってもからがら逃れて守ったこの身なのだけれど。


 ほっと一息ついたのもつかの間で、また運命の瞬間が訪れてしまう。


 特段価値があると主張するつもりはないにしいても、乙女の純潔がまた危機にさらされるのだ。


 ――せめて、もう少しあとにしたかった。


 たこ焼きとか温かい内に食べたいし、この後いろいろ決まった後だと、私もどんな気持ちでパンケーキ焼いていいかわからない。――あぁ、私この人と一晩過ごすのかあってパンケーキつくれないよ。いや、パンケーキくらい大丈夫かな? 混ぜて焼くだけだし。


「えっと、一応最後にもう一回確認するけど」


 なんとか先送りにしようとしているわけじゃなく、後々揉めないためにも話を整理しておく必要があるはずだ。


「アズキが作った貢献度測定アプリの結果で勝敗を決める。勝った人と私は……その、一晩を過ごすってことでいいんだよね?」

「正確に言うと、一晩過ごすではなく一晩ユズを好きにできる権利をもらえる」

「えっ、う、うん。……それってそんな違う?」

「念のため訂正した」


 アズキは、深い意味はないと言いたげだったけれど、私としてはだいぶその二つの心持ちが違う。


 過ごすだけなら、まだなんとかなる可能性もある。でも好きにされるだと、場合によってはもう私の身は無事では済まないということだ。――いやいや、三人が私に何をするかって話もあるので、別に無事なままの可能性もあるんだよ?


 特に、ノノに関して言えば、一晩過ごすがどういう意味かわかってなさそうだった。そのまま純粋な彼女のままでいてほしいような、十九歳でそれって大丈夫なの? と心配にはなるような。


 アズキはどうだろうな。割と無理矢理って感じのことはしてこないし、私の話を比較的聞いてくれるんだよね。だから今回の一晩好きにできるってなったからと言って、一線までは越えてこないかもしれない。


 ただルルは危険だ。何もなくても私の体をどうこうしようとしてくるくらいだ。好きにしていいなんて言えば、まさに飢えた獣に肉を放り投げるようなことになるのではないだろうか。


 ――ルルが勝ったら、私もいろいろあきらめるしかない。


 だけど、三人だけでなく私が勝つ可能性もある。


「あのさ、貢献度ポイントだけど、アプリで公平に測ってそれで私が一番だったら……勝者なしだからね? なしっていうか、私が勝者?」


 勝敗を決める貢献度測定アプリなのだけれど、これはヴァンダルシア・ヴァファエリスのイベント中にパーティーメンバー全員がそれぞれどれくらいプラス判定となる行動をしていたかをポイント化して測定するものだ。


 だから当然、パーティーメンバーの一人である私が勝つこともある。


 自分の身を自分で守るために、唯一残した手段だったわけだ。


 という確認だったんだけど、ノノが首をかしげる。


「アプリ? 貢献度ポイントってユズがこうアタシ達の頑張りを採点してくれてるんじゃなかったの?」

「えっ? アズキがつくってくれたアプリがあって、それで……えええぇ!? あれ、私……言ってなかったっけ……?」


 そういえば、貢献度で勝敗を決めることまではみんなで話していたけど――アズキの自作アプリってことで一度私が検証するって持ち帰ったあと、それからアプリの話はノノとアズキにはしていなかった!?


 どうしよう。痛恨のミスだ。


 ここだけの話、あの測定アプリをいくつかのジョブで試した限りでかなり公平なパーティー内での活躍が数値化されると思った一方で、そうは言ってもやはり役割によってポイントの稼ぎやすさに若干の差があることを感じていた。


 後衛のサポート――特に万能職は手数が多いので、他よりもポイントが稼ぎやすい。


 打鍵音(だけんおん)シンフォニアムのサポートは、万能職の私とルルである。加えてルルはかなりプレイングが上達しているとは言っても、まだ私には追いついていない。


 だからアズキ作成の貢献度測定アプリを使えば、私が勝つ可能性がとても高いと踏んでいたのだけれども。


「えっと、……ごめん、ちゃんと確認してなかったけど勝敗の結果はアプリでもいいかな?」

「アプリですか。……わたしもてっきり、ユズさんが直接選ぶのかと思っていました」

「んー前も言ったけど、やっぱりアプリで誰が勝ったって言われてもいまいち納得できないよー。ユズが決めてよー」

「えっあっ、その……でもそれだと私が勝てなくなるからダメって……アズキはっ!? アズキは、ほらアプリの話したし、アプリで決めるのが公平でいいって思うよね!?」


 マズい気配を感じて、唯一話をしていたはずのアズキに振った。助けてほしい。もし自分で誰か一番を決めるとなると「一番は私っ!! どやっ!!」とかやるわけにもいかない。


「……確かに、事前に確認が取れていないなら貢献度測定アプリで勝敗を決めるのは公平性に欠けると思う」

「えええぇ!? ちょっとアズキさん!?」


 そうだよ、アズキはこういうところ真面目なんだ。――社会常識に欠けるくせして、どうして。二対二だったらゴリ押しできたかもしれないのに。


「……三人は私が決めるんだったら納得するってこと? 本当に? ……それって私の主観になっちゃうよね!?」

「ユズが選ぶのわかりやすいよー。アタシがユズにとっての一番ってはっきりするし」

「わたしもユズさんに選ばれるのが一番嬉しいですから」

「僕は、どんな方法でも自信がある」


 三人は表面上同意するが。


 ――待って、この人達ようするにみんな自分が選ばれるって思ってない!?


 私は自信満々なノノの顔を見た。家に来てからはサングラスも外して、すっかり自慢の顔を披露してくれている。


「ノノさん、選ばれなくても泣かない?」

「んえっ!? ……な、泣かないし!! だって選ばれるもんっ!!」

「……でも三人いて、一人しか選ばれないんだよ?」

「ユズは、アタシのこと選んでくれないの!?」


 ノノはそんなことを言って、大きな瞳をうるうるさせて私を見つめてくる。――この人、自分が可愛いって……人気アイドルだってわかってやってるよね? ……そんな顔されても、私は贔屓とかしないし。


 私は少しだけ不安げなルルの顔を見た。どこか儚さを感じさせる美少女は、私を伏し目がちに見ている。


「ルルさんは? ……選ばれなくても、結果に納得するの?」

「……選ばれるのは、三人の中の一人ですもんね」

「うん。……そうなるけど」

「もし三人が一人だけになったら、わたしが選ばれるってことですよね?」


 ルルがすっと笑う。あどけない表情が、どこか妖艶に見えた。――え? あの、三人が一人ってどういうこと? 他の二人が選ばれたら、その人になにかするってこと? ……あの、それ全然納得しないって言ってるよね?


 私は無表情なままでいるアズキの顔を見た。感情の見えない表情はどこかミステリアスで、綺麗な顔も合わせてお姉さん的魅力を出している。


「アズキさんは、選ばれなくても文句言わない?」

「僕は、ユズの選択を受け入れると思う」

「あ、アズキさん……っ! ありがとう、そう言ってくれるのはアズキさんだけで――」


「どの観点から見ても、僕が勝つのは数値的に明確。あとはユズが選び方を決めるだけ。結果はどれも変わらない」


 アズキの表情は変化していないけれど、だからこそさも当然のように、当たり前のように言っているのがわかった。――えっと、どこからその揺るぎない自信がわいてくるの? ……そりゃ、アズキはヴァヴァも一番上手いし、今回も一番助けてもらったと思うよ。だから、まあ……その自信もあながちうぬぼれとは言わないけどさ。


 ――いや、これ誰選んでも角が立つよね?


 我が身大事に選ぶならノノは安全性高いけど、かと言ってこの子重いんだよね。記念ワインまた増えちゃう。でも選ばなかったとき心に来る落ち込み方されそうなんだよね。ピュアだから、その分辛い。


 選んでも選ばなくても危険なのがルルだけど、でも彼女がいなかったら鈴見総次郎相手に襲われてたはずだ。ルルに守ってもらった体なんだから、差し出してもおかしくないみたいな理論が存在するんだろうか。でもMVPみたいものを選ぶならそうなるのかな。


 ゲーム内外でいっぱい助けてもらったのはアズキ多分だけど、選ばなかったときには比較的に面倒にならない予感もする。正直選んだあとも割と未知数で、鈴見総次郎じゃないにしても記念だからって隠れて撮影していてもおかしくないくらいの相手だとは思う。アズキは、表立ってないところに罠とかあるんだよ。


 ダメだ。こういう打算的な考えで選ぼうとしている時点で、ダメな気がする。


 純粋に私が三人の誰かを選ぶしか――って、これ私が勝つパターンが自然と消えている!?


 なにかの罠にはまっている気がした。勝手に穴へ落ちただけかもしれないけれど、まだ私には最後の逃げ道があるのだ。


 でもこれを自分から選ぶのは、やっぱり後ろめたいというか。


 ――そもそも、今回のことは本当に、みんなに感謝しているんだ。


 だから誰か一人に助けてもらったとか、誰か一人が一番とかそんなのやっぱり選べないくらいに感謝している。


 最初からなにかしらして、全員にはしっかりとお礼を返すつもりだったけれど。


「……ぜ、全員、一番かな。みんな頑張ったし。みんなの勝ちってことじゃダメかな?」


 ――もしかしなくても、一番情けない逃げ方をしたかもしれない。……でも許して、私はこれしか選べなかったんです。


 よし、一晩は合宿のときみたいにみんなで仲良く楽しく過ごそう! と勢いでごまかすしたのが半分。もちろんみんながいる中でなら、私もできる限りみんなのお願いとか聞くつもりだった。


 でも他に二人いればルルも暴走しすぎないだろうし、アズキはなんだかんだストッパーになってくれそうだし、ノノもまあもう少しそういうこと勉強してもいいんじゃないだろうか。


 一線は越えない範囲で、みんなへの感謝のため一肌脱ぐつもりだったんだけど。


 ――ちなみに一肌脱ぐってのは、力仕事とかのとき邪魔にならないよう着物から上半身を出すことだけど、私は洋服を着ているので袖まくりくらいかな。……うん、できたら服を脱ぐようなことは避けたい。ごめん。


「ユズさん……それって、全員と寝るってことですか?」

「そ、そうかな? 寝るってのは、えっとベッドの上で横になるってあれで……」

「順番とかはどうなるんです? わたし、できれば最初の夜がいいんですけど」

「え? ……え?」


 ――えっと、そうなるの? 全員で一晩じゃなくて、三人とそれぞれ一晩ってこと? ちなみに最初の夜ってなに? なんの最初? いや、言わなくていいけど。

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