エピソード083 王都で自由行動です──シャロ編4
喫茶店を後にした後、ドレスが仕立て上がるまで私達は別行動を取ることにした。
シャロにはシャロの、私には私の準備がある。目下の課題はシャロの義理姉、ペトゥラの風属性魔法対策だ。
「結局の所、私は対魔法の手段がほとんど無いんだよね」
シャロには『任せておけ』と見栄を張ったが、今は不安でいっぱいだ。皆は私の戦闘能力を過大評価している傾向があると思う。
たしかに転生した今世では人族の範疇では強い部類に入るのかも知れない。これはひとえに異常な防御力(DEF)に起因している。
つまり、剣や弓などの物理的な攻撃手段では傷をつけることが出来ない、故にしぶとく生き残る事が出来ている、というわけだ。前世ならスーパーマン……スーパーウーマン?だろう。
だが、残念ながらこの異世界には魔法が存在している。そして、魔法が起こす事象から身を守るためには、ほとんどがDEFではなく魔法防御力(MND)が必要となる。
とりあえず、自分のステータスを流し読みしてみた。
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ルシア [竜克の戦闘農民]
lv: 30
HP: 360/360 MP: 700/700 AP: 3/3
STR: 164(-90) DEF: 044(+420)
MAT: 040(-39) MND: 075(-74)
SPD: 044(-43) LUK: 015(-14)
…
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火竜のデンデンとの戦闘からレベルが上ったり、称号が変わってたりしているが、目的のMNDは補正値込で『1』だ。無いにも等しい。
ただし、アーシアの加護が強化されたことによる恩恵、【ディヴァイン・リミットブレイク】という補正値の限定解除効果を使用すれば、戦闘中はMNDを基礎値である『75』に引き上げる事が可能だ。
私が魔法適性があると考えても人族としては割と高い方だと思う。ならばそこまで心配する必要はない、と思うかもしれない。残念ながらそんなことはない。
「属性の相性が悪いんだよね……なんでよりによって『風』なのかなぁ」
私は昔ソフィアから受けた授業を思い返していた。
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「魔法の属性には相性があるのじゃ」
ソフィアは黒板代わりに立てた黒く塗られた木の板の前で、腕を組んでそう言った。
「相性……『火』が『水』に弱い、とかそんな感じでしょうか?」
「弱いというか、相性が悪い、といった方が正しいのじゃ」
何ともゲーム的な法則だ。私もゲームは好きだったし、ポ○モンなどは小さい頃よくプレイしていたから教わる前から何となく理解できた。
「図にするとこんな感じじゃな」
ソフィアは黒板に『水->火->木->風->地->』、『闇<->光』と書いた。
「最も、これは基本7属性の話であって、亜種の属性魔法がこの関係に当てはまるとは限らんのじゃ」
「なんだか関係性がよく分からないですね……」
ポケ○ンの知識では、水属性や木属性──というかあのゲームでは草タイプだけど──は地属性に効果抜群だったような気がする。……まぁ、仮にそうだとしたら地属性の私涙目なんだけど。
「各属性の特徴を鑑みれば割と理解できると思うんじゃがの……では、お主の主属性である『地』で例を示すのじゃ」
黒板が書き直され、『風->地』となった。
「まず地属性の特徴じゃ。これは流石に答えられるの?」
「当たり前ですよ! 地属性は主に大地に関連づいた操作や防御に優れています。代表的な魔法にDEFを強化するプロテクト系や大地を操作して防御壁を生成するウォール系などがあります」
他にも石や鉱物を使った各種攻撃魔法、成分を変化させて他の鉱物に創り変えるアルケミア系、大地の重力を操作するグラビティ系などを挙げた。
「うむ。地属性はルシアが言ったようにその多くが大地に関連づいておる。補助面は優秀、攻撃面に関しては他の属性より種類と発生速度が劣るが、術者や魔法の対象が地上にいる場合効果が強力という特徴も有しており、癖はあるが有用なのじゃ」
むむ、これだけ聞くと案外地属性も悪くない。
「それに対して風属性は大気に関連づいておる。攻撃魔法は火力低めの速度特化、補助面も回避特化とこれまた癖は強いの。しかし、風属性魔法は大気に作用するものが多くて視認がしずらく、かつ速い。さらにMNDを低減あるいは無視する切断や貫通効果を持つ魔法が多いのも特徴じゃ」
つまり、最速必中・防御貫通と。かなり対人戦に有利な属性ってわけか。
「発生速度が遅く、足を止める戦いをする傾向の強い地属性に有利なのは自明ですね」
「うむ。止めに得意とするフィールドの相性も悪い。地属性魔法が地面から離れれば離れるほど効果が弱まるのに対し、風属性魔法は大気に近づけば、つまり地面から離れれば離れるほど効果が高まるのじゃ」
【飛行】の魔法も風属性の特権じゃしの、とソフィアは付け足した。
ソフィアの説明を聞けば、なるほど地属性が風属性に不利なのはよく分かった。私が最初に考えていた効果抜群がなんとかって話じゃ全然なかった。
「地上戦でも厳しいですか?」
「空中戦よりはマシじゃが、不利なことには変わらんの。もし風属性魔法と対等に勝負しようとするならば──」
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「『──魔法防御の高い鉱物を操作して盾にするか、他属性魔法と組み合わせろ』、か。どっちも私には難しいんだよね……」
まず後者は、私の所有する魔法や武具では組み合わせても有効打に成り得ない点だ。
今私が使える複合魔法は幾つかあるが、そのすべてが火属性魔法特化防御魔法と対魔物広範囲攻撃魔法だ。
強いて言うなら【メテオ・ストライク】が対人にも効果があるが、あれは発動が遅いので何の解決にもなってないし、決して対個人に使うような魔法じゃない、というかソフィアから使用禁止されているから却下だ。
となると新しく複合魔法を習得しないといけない。
攻撃として私の覚えている地と水属性の攻撃魔法を複合する案は非現実的。なぜなら私にはまだ多重詠唱が使えないから。
それ以前にそれぞれ攻撃魔法がバレット系。仮に組み合わせられたとしても効果に疑問が残る。
では武具の特殊スキルとの複合はどうか。
どれだけ頭を絞っても、発動速度の早い風属性魔法に対抗出来そうな特殊スキルがない。強いて言えば【農耕祭具殿・小円匙】の【掘削】だろうか。
小回りも効くし発動速度も早い。特殊スキルも対人に使えることは先日実証済みだけど、対象に触れないと発動しないのが難点だ。
可能性を1つずつ探していくも、突破口のようなものが思い当たらない。
頭がショートしそうだったので、露店で甘い果実ジュースを買って一度スッキリさせる。
次に前者の選択肢を考えてみる。
魔法防御の高い鉱物で、かつ私がすぐに手に入れられるものなら心当たりがある。というか既に持ってる。
私は腰に吊るした小袋から一枚の金貨を取り出した。
「金だよね……」
この世界における金は、前世では知る由もなかった特性を持っている。それが魔法耐性だ。
金には魔法を弾く特性があり、価値の高い硬貨として金が使用されているのはその希少的価値の他にも魔法に拠る複製などを防止する意味もあるらしい。
金属としての硬度は大したことが無いので、主に魔法耐性を向上する目的で中級程度の防具には大なり小なり金が使用されている。
質の高い金を撃ち出せば、風属性魔法を相殺するのに使えるかもしれない。
ファンタジーでお馴染みのオリハルコンやアダマンタイトなどのより耐性の高い鉱物もあるらしいけど、高価とか以前にそもそも市場にほとんど出回らないので入手すら困難だ。もちろん私は実物を見たことはない。
「問題は、精錬された金属を操作する魔法を私が覚えてないのがね……」
精錬前の鉱石ならば、例えば小さく砕いて【ストーン・バレット改】の弾として指で弾いて……とかが可能だけど、精錬されて加工されたものは【ストーン・バレット改】の効果対象にならない。
これは、既にこっそりと銭投げが実現できないか遊んでいた時に確認済みだ。
「金貨を魔法のアシストなしに投げまくるかな……勝負付く前に破産しそうだけど」
今までの冒険者としての稼ぎで得た金貨を使えばなんとかなるかも知れない。
……なんて、馬鹿な事を考えてる暇があったら、物を探しに行こう。
魔法の媒体となる純度の高そうな金鉱石が都合よく売ってないかを調べるため、私は目当てのお店に向かった。




