エピソード間話 みんなでおふろなの!
パンドラム王こくれき290年、はつあき。
きょうはひさしぶりにおうとでママに会ったの! いつもはやさしいママだけど、きょうはベルのすがたをみて、とってもおこってたの。
ベルは、つのがおれちゃったりゆうをママに言いたくなくて、ついルシアを見たら、ママがかんちがいして里にみんなをつれて行くことになったの。
いどう中、里のみんなにバカにされるのがこわかったけど、それよりもベルががんばってルシアとシャロとローラをしからないで、ってママにたのまないと!と思ったらあまりこわくなくなったの。
でも、里につくと、おこられたりバカにされるころか、ルシアをベルの番にするって!
みんなおめでと!ってないてくれたの。ビックリしたけど、それよりもルシアと番になれるって思ったらポカポカしてうれしかったの!
ベルはルシアにギュってして、ルシアもベルのことをギュってしてくれた! ルシアはちょっとこまってたけど、いきなりだったからビックリしたんだと思うの。だってベルもビックリしたよ!
ママがベルにはまだ早いからはんぶんはジョーダンだよって言ってちょっとかなしかったけど、ベルはあきらめないもん。ぜったい、大スキなルシアと交尾して、りっぱなママになるの!
……ふぅ。きょうはたくさんかくことがあって手がつかれるの。
ママにおうとまでおくってもらったあとは、ケーニッヒにつれられて、みんなでやどに行ったの。やどのしょくじと、あと、おフロがサイコーだったの──
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「はぁ、疲れた」
「つかれたー!」
「ローラ! ベルもローラの真似しちゃダメ!」
「「ふぇ~い」」
「話聞きなさいよ!」
ローラが気持ち良さそうな立派なベッドに飛び込んだのが羨ましくて真似をしてみたら、今はシャロのガミガミ説教が始まっちゃった。
なんでも、服が皺になるとか、ベッドを汚したらどうするの、って事みたい。
なんだかシャロってベルのママみたいだなぁってときどき思っちゃうの。
「まぁまぁシャロ。そんなに怒らなくて良いじゃん。ほら、2人とも、早く装備外したら? この部屋はお風呂付いてるから、汚れを落とせば好きなだけベッドで寝転がれるよ」
シャロの説教を止めてくれたのはルシアだ。ルシアは既にラフな服装に着替えていた。そしてその手にはフワフワで柔そうな布と、着心地の良さそうな部屋着を抱えている。まさしく準備完了なの。
ケーニッヒのおじさんが準備してくれた宿は本当に高級宿だった。なんでも、ルシアが2年前に王都に来た際にも宿泊したんだって。
受付の女性もルシアの事を覚えていたみたいで、とても優しく対応してくれた。
もちろん部屋の扱いも心得ているらしく、ルシアは受付で話していた『お風呂』というのに早速行くみたい。
「アンタはアンタで準備早いわね!? そんなにお風呂に浸かりたかったの?」
シャロが呆れた顔をしてるけど、ルシアは当然だ、とばかりの様子。
「だってお風呂だよ? お湯だよ? 肩までとっぷり浸かれるんだよ? 私は王都で一番これを楽しみにしてたといっても過言じゃないよ!」
ルシアは興奮した様子で『お風呂』の良さを力説し始めた。
普段は行水か、せいぜい布で身体を拭くくらいしかしないので、ベルにはなぜルシアがあんなに興奮してるのかがイマイチ理解できないの。
「へぇ。そんなに気持ち良いんだ、お風呂って。そういえば、シャロは入った事あるの?」
ローラが胸当てを外しながらシャロに尋ねたの。
たしかに、シャロはお風呂の知識がありながら、ルシアより落ち着いてる様に見える。まるで、入り慣れているように。
「ま、まぁ。あるわね」
「「へぇ~」」
「な、何よその顔は!」
シャロの答えに、ルシアとローラがジト目で見やる。
ベルも皆の反応見てたら『お風呂』に興味が出てきたので、いそいそと服を脱ぐ。すぐに裸になってルシアに習い、準備されていた布と服を小脇に抱えてみた。
「ルシア~、ベルもいっしょに入るの!」
「えっ!? ベルも入るの?」
「……? ベルは入っちゃダメなの?」
ルシアが焦ったような顔するので、ベルはムスッと膨れ面をしてみる。皆が入れるのにベルだけ入れないなんてズルいの!
「……あー、なるほどね。ベル、アンタお湯に浸かるのって大丈夫なの?」
「おゆー? んんー……タブンだいじょうぶなの!」
シャロの問いかけにルシアが聞き返した理由に納得がいった。なるほど、ベルは氷竜だもんね。お湯に弱いんじゃないか、って心配してくれたんだ。ルシアはやさしいの!
「だからルシア、いっしょに入るの! 『おふろ』の入り方をおしえてほしいの!」
「う、うーん……なら仕方ないね。一緒に入ろっか」
「わーい! シャロもローラもはやくぬぐのー! 『おふろ』なのー!」
「はいはい。っていうか、ここで脱がなくても脱衣所くらいあるでしょ?」
「うん。準備完了」
「……え? みんなで入るのっ!?」
ルシアは何故か1人で慌てていた。
「ここのお風呂広いんでしょ? 別に皆で入ればいいじゃない、知らない仲でもないんだし」
「……もしかしてルッシー照れてる? ぷぷぷっ」
「ぐぬぬ……」
図星だったのか、ほんのり耳が赤くなってるルシア、可愛いの~。ベルは恥ずかしがってるルシアの手を引っ張ってお風呂への入り口をあけた。
シャロの言ったとおり、そこには服を脱ぐ用のスペースがあった。
「みんな~、はやくぬぐのー!」
「なんでベルはもう裸になってるのよ。子供とはいえ、もう少し乙女としての自覚を持って──」
「シャロもお小言は良いから早く脱いで。その慎ましい胸を早く見せて」
「「誰の胸が慎ましいよ!!」」
ローラはシャロに言ったはずなのに、その言葉に何故かルシアも反応したの。
大きいやら小さいやら柔らかいやら、ベルにはよく分からなかったけど何やらひと悶着あった後、やっと服を脱ぎ終わった皆は、浴室へ繋がる扉を開けた。
温かい湯気がモワッと溢れ、その先に見えたのは……
「みんな遅かったわね♪」
1人先にお風呂を楽しんでいたアーシアだった。
「ああー!? アーシア! ベルよりさきに入るなんてズルいの!」
「いつの間に指輪から抜け出したのよ。神出鬼没も大概に──」
「神様だけにねっ!!」
「……ちょっと食い気味だし、別に上手くないから」
アーシアは湯気の立ち上る水たまりのような所に入って気持ちよさそうにふぅ、と吐息を付いている。その様子がとても気持ちよさそうで、私は真っ先にそこに飛び込もうと走り出した。
「ベル! 先に身体を洗わないとダメだよ?」
「むぅ!」
でも数歩も行かないうちに、ルシアに両肩を掴まれて引き寄せられてしまった。お風呂に浸かる前には身体を洗うのがルールらしい。
早くベルも入ってみたかったけど、ルールは守らないといけないもの、って知ってるから、渋々ルシアに連れられて洗い場に向かった。
「このジェルがボディソープ……えー、身体を洗うための液体状の石鹸で、こっちがシャンプー……じゃなくて頭を洗う用の石鹸だよ。その後にコンディショナー……説明が面倒くさいなぁ……髪の毛をサラサラにする石鹸ね」
ルシアに渡された石鹸は、石鹸なのに水みたい。それもトロトロしてていい匂いがする。
美味しいのかなと思って舐めてみようとしたらルシアに止められた。とっても苦いから止めておいたほうがいいって。
ベルは苦いの嫌いだから舐めるのは止めて、ルシアのやり方を見様見真似してみた。
「うーん……ルシアぁ。うまくあらえないの。ルシアがあらって?」
「へっ!?」
ルシアは目をまん丸にしてたけど、ベルはルシアの前で腕を大の字に広げて待った。「なんでこんな事に……」と小さい呟きが聞こえたけど、ルシアは身体を洗うのを手伝ってくれた。
ルシアの石鹸でヌルヌルになった手のひらで肌を擦られるとくすぐった気持ちいい。時折、こそばい所を撫でられると「んっ!」と声が出てしまう。
綺麗に全身を洗えたら、次は髪を洗う。せっかくだからと髪もルシアが洗ってくれた。シャカシャカとルシアの細い指がベルの髪を掻くのが気持ちいい。
たまにルシアが「お客さん、痒い所はないですか?」って聞いてくるのが不思議だったの。
最後に髪の毛がサラサラになる石鹸を使ったら、本当に髪がサラサラでいい匂いがする。自分の髪じゃないみたい。
ルシアを見ると、銀髪がいつも以上にサラサラで、まるで銀の川のようだった。
「はい。綺麗になりました」
「なった!」
「ベル―、ルシアー。先に入ってるわよー」
「あっ……ふぅ。すごい。これは楽チン」
「うっわ、浮いてるわ。これはソフィア様といい勝負ね……」
なにやら湯船の方が騒がしいけど、ルシアが「慌てて走ったら滑って転ぶかもしれないよ」と忠告するので、ウズウズしながらルシアと一緒に手をつないで湯船まで赴き、そっと足からお湯に浸かってみた。
その瞬間、痺れるような心地良さが全身に伝わり、今まで味わった事のない幸福感で満たされる気がした。
「あぁ……これはきもちいいの……」
肩までお湯に浸かると、まるで疲れがお湯に溶けてゆくような心地良さ。隣を見ると、ルシアもとても気持ちよさそうにお湯に浸かっている。
これは素晴らしいの。ルシアがお風呂を楽しみにしてたのが凄く理解できたの。
それからベルは皆とお喋りをしながら、幸せな時間を過ごしたの。
お風呂はとっても気持ち良くて、とっても楽しい所って、ベル覚えたの!
ちなみに、アーシアは長い間お風呂に浸かっていたせいで『のぼせていた』のも付け加えておくの。




