エピソード071 私達、作戦会議です
長いですが、次話の戦闘用のメモが半分くらい占めてるので、実際にはそんなに長くなかったりします。
王都に突如出没した竜種の成体。
その正体は、ベルの母親ことヒューベルデであった。彼女は一言『我が娘、ベルザードを連れてこい』と告げると、そのまま王都の一角に居座ってしまう。
強大な力を持つ竜種と戦うのは並大抵な困難ではなく、さらに王都で魔物の人権を主張する謎の集団『魔物保護の会』の介入などもあり、ヒューベルデを追い払うことが困難となった王都の騎士団。
王都の流通が途絶え、市民の不安が高まる中、王都から出向命令を受けた私達『フォー・リーフ』は何も知らずに王都に赴き、竜種を何とかして欲しい、と王様や騎士団のケーニッヒから懇願された。
いざベルとヒューベルデを対面させると、ベルが挙動不審な行動をしてしまう。
それは、長い間許可なく家へ帰らなかった事への引け目。そして、不可抗力とは言え、自分が暴走したせいで竜種の誇りである角を折られる。そんな醜態を母親に知られるという情けなさ。
まだ竜種としては幼生、つまり子供であるベルは、ヒューベルデに角が無い理由を問われた際、精神的な甘えから咄嗟に私に縋るような視線を向けてしまう。
しかしてそんなベルの心境など知る由もないヒューベルデが、ベルの今の状況がすべて私達……というか私に帰結すると知ると激怒し、私とシャロ、ローラを拉致して竜種の住処に連れ帰ってしまった。
竜種の住処で多くの竜種に囲まれながら裁判を受けることになった私達3人は、覚悟を決めたベルの必死の説得や事情説明により、なんとかヒューベルデの誤解が解かれたために事なきを得た。
しかし、結局ベルの角を折ったことの責任は取らされる羽目になり、ヒューベルデに提示されたのが『ベルと私が番となり、子を成せ』という、無茶ぶりの要求。
満更でもなさそうなベルや周囲の竜種の反応により、事が収束するかと思いきや――
『――ベルザードを賭けた決闘を申し込む!』
突如そう言って割り込んできた、ベルに好意を持っていた里に住む1人の竜種の男性。名を『デンなんとかさん』。名前が長くて覚えられないその人だった。
真っ白になりかけた私の頭は事態に付いていくことが出来ず、あれよあれよといううちに竜種との決闘に挑む事になったのだった。
-----◆-----◇-----◆-----
『仕方あるまい。デンデロフェル……とルシアの決闘を認める』
ヒューベルデがやれやれと言った様子で決闘を許可し、幾つかの決め事を話し始めた。
竜種は戦闘民族であり、それと同時に誇り高い民族である。竜種が同族以外と正式な決闘をする場合、不公平が出ないように竜種側に幾つかの制限が掛けられるようだ。
……どうでも良いですけど、ヒューベルデもデンなんとかさんの名前、覚えてないんですね。
という私の心情はさておき、ヒューベルデが語ったデンなんとかさんに掛けられる能力制限は大きく2つ。『対戦相手が飛行能力を持っていない場合、翼での飛行を禁止する』、『体格を合わせるため、人型を保つ』だった。
確かに、裁判中は彼は竜種の姿をしていたのに、今は人型形態をとっている。彼はその決め事をちゃんと知っていて従うつもりなのだろう。
飛行禁止と体格がある程度互角になったのはとてもありがたい。
しかし、あくまで気休めに過ぎない。なんせ相手は生物最強とまで噂される竜種だ。竜種形態での圧倒的な質量攻撃、というのはなくなったが、残念ながら、普段のベルを見ていて人型形態である事がハンデとなるか、と言われれば首を傾げざるを得ない。
さらにベルとの大きな違いは、角の有無である。ベルが人型でいるのは、自身の魔力の制御を行う角ががなくて弱体化したことによる強制的なもの。それでも、ステータス的で見るとベルはほとんどの項目で私より高い。
一方で、今から戦うデンなんとかさんには角がある。つまり、竜種としての能力を十全に奮える状態であり、単純にステータスで考えると私が勝てる余地はないかもしれない。
いきあたりばったりで戦闘に入ったらほぼ確実に負ける。となると少しばかり情報収集と作戦を立てる時間が必要になる。
「あのぅ、ベルのお母様……。少しの間、作戦を考える時間とか貰えたりしますか?」
『作戦……とな?』
私の提案に、ヒューベルデが首を傾げた。
「はい。何故こんな事になってしまったのか、未だに頭の整理が追いついてませんが……。こうなった以上、今私に出来てるすべての方法を以てデンなんとかさんに勝つつもりでやるので!」
「デンデロフェルペナルデン、だっ! しかし、ニンゲンが竜である俺に『本気で勝つ』とは面白い! いいぞ、多少の時間は許してやる。存分に相談するなり小細工を弄せよ」
デン……――もう覚えられる気がしない――なんとかさんに許可を得たので、私はベル・シャロ・ローラを連れて、竜種達に聞かれない隅で作戦会議を始めた。
「――ということで、私が勝てる方法を考えたいんだけど」
「「無理でしょ」」
「ひどっ!?」
私の問いかけに、シャロとローラが即座に声を合わせて否定する。彼女達の反応に、早くも挫けそうな心を奮い立たせるため、祈るような気持ちでベルを見た。
……ベルの目が泳いでいる。あちゃぁ、こいつはヤベえです。……あの変な名前の人って、もしかして竜種の中でも強い方だったりするの?
「デンデンはベルのことをつけ回るうっとーしいヤツなの。なのだけど……竜はつよいのが『せいぎ』で、ばんぜんのベルでもまけることがあって……人型でもまちがいなくつよいの」
ベルの言葉にゲンナリする私。私達、暴走状態だったとはいえ、氷竜形態のベルを5人がかりでなんとか倒したんですけど……。それよりポテンシャルの高い人と一騎打ちで戦わないといけないなんて普通に考えたら絶望的だ。
「――とはいえ、私がデンなんとかさんに負けたら、ベルがあの人と結婚しなくちゃいけなくなるわけだけど、ベルはそれでも良い?」
「ヤダッ!!」
私の質問にノータイムで拒絶の言葉を発するベル。デンなんとかさん、えらくベルに嫌われてますけど一体何したんですかね……。
まぁ私も、ベルが嫌がるような相手と強制的に結婚しなくてはいけない状況なんて起きてほしくない。なら、無理をしてでも頑張るしかないじゃないか。
「嫌かぁ……。じゃあ何とかしてでも勝たないと、だね」
「ルシアッ……!」
途端にパァッと明るくなるベルに私は苦笑し、自分のほっぺをペシペシと叩いて気合を入れた。さて、弱気になる前にやれることはすべてやっておかないと。
私はベルからデンなんとかさんの情報を収集し始めると、「べ、別に、あたしだってルシアに負けて欲しいとか思ってないし、ベルが嫌な事になって欲しくないわよ……」と一言小さく呟いた後、シャロが積極的に作戦会議に口を出し始めた。
そんな様子を見て、私とベルは顔を見合わせてフフッと笑う。シャロは素直じゃないけど、仲間思いな頼りになる私達のリーダーなんだよね。
私とシャロがベルから聞き出した情報をまとめていると、私の背後でストッと誰かの足音が聞こえた。私は振り返らず、その人物に声を掛けた。
「――おかえり、ローラ。情報収集お疲れ様。何か良さそうな情報はあった?」
「バッチリ」
一言呟くと、懐から小さく切ったメモ用の紙を取り出して私達の前に並べ始める。
そう。ローラは私達が話し合いを始めたらすぐに相手の情報収集を行っていたのだ。ベルの記憶だけでは分からない、生の情報を探りに。
軽口は叩くけど、本気で負けるつもりなど毛頭ない。
私の――私達の気持ちは、今この状況に置いてドンドンと研ぎ澄まされてゆく。
たとえ、相手が格上でも。
たとえ、戦う者が1人だけでも。
仲間を支え、己の役割を全うし、勝つことだけを考える。
『幸運』が宿る、その時まで。
それが私達、『フォー・リーフ』の姿なのだ。
-----◆-----◇-----◆-----
「よし……。出来たわ」
「勝率は五分五分まで引き上げた」
「ルシアならぜったいかてるの!」
私は、装備をしっかりと整え、戦略を書いたメモ紙を最後にもう一度しっかりと目を通した後、ふと湧いた悪戯心に従ってパクリと口の中へ放り込み、そのまま呑み込んだ。
「「ええっ!?」」
「ルシア、おなかへってたの?」
私の奇行に驚くシャロとローラに、コテリと首を傾げるベル。私は、そんな彼女達の様子が可笑しくて、でもよく考えてみれば私のほうが可怪しいか、と思い直しクツクツと笑った。
「これはね、遠い遠い土地に伝わるおまじないなんだ。戦ってる最中でも皆と練り上げたこの作戦を忘れないように、ってね」
呆れたような表情の3人に私はニヤリと笑いかけ、それと同時に腰元の装備の確認し終えた。
よし、これで私が出来うる準備はすべて行った。
あとは全力でぶつかるだけだ。
「ベル、シャロ、ローラ――――行ってくる」
「「「いってらっしゃい!」」」
私は皆に向けて小さく手を振った後、一直線に決闘の場に向かった。
『もう良いのか?』
私は立会人であるヒューベルデの問いに、無言で一度だけ首を縦に振った。
私の目の前には、見た目は20代後半くらいの骨ばった翼と立派な尻尾を生やした青年、デンなんとかさん――雰囲気が出ないからベルに習ってデンデンと心の中では呼ぶことにしようか――が立っている。
「――へぇ。ニンゲンのくせにいい顔つきをするじゃないか。ベルザードの番に認められたのはハッタリではないってことか。――だが……」
デンデンは言葉を切って、私を睨みつける。それと同時に途轍もない圧力が私に押し寄せる。
「──ベルザードの番は俺だ。悪いが勝たせてもらう」
ビリビリと空気が震える。
決闘の合図をヒューベルデが尻尾を高く、高く、持ち上げて――
「勝つのは────」
――振り下ろす。
静寂した空間を切り裂き、轟音がドラム山脈に響き渡った。
「────私だッッ!!」
先手必勝。
私は合図とともに、打倒竜種の作戦、最初の一手を繰り出した。
-----◆-----◇-----◆-----
※以下はルシア達が書き残した資料より抜粋したものです。具体的な作戦メモはすでにルシアのお腹の中ですが……。
[持ち物]
========================================
・石(特別な効果がないもの)
・鉄鉱石(【ストーン・バレット改】で杭状に変化する)x2、銅鉱石(【ストーン・バレット改】で円盤状に変化する)x3
・隕石x1
・小魔石(魔力を少し貯める事の出来る石。【ストーン・バレット改】で変化あり)x5
・中魔石(魔力を多く貯める事のできる石。【ストーン・バレット改】で変化あり)x1
・黒石の欠片(魔物を暴走させる効果をもつ、魔石をベースとした石。【ストーン・バレット改】で変化するか不明)x1
・氷竜の竜角片(魔法を増幅する効果あり)x2
・特製『劇薬目覚まし玉』(クサイ‼)x1
・その他自作のお薬
========================================
[デンデン(デンデロフェルペナルデン)の情報]
========================================
・角が折れてない状態のベルよりも少し強い
・ベルの事が好き(ややストーカー気質?)
・火竜
・ブレスが2種類(人型形態でも撃てるらしい)
・拡散火炎放射(火属性魔法)
・熱線(火/光属性魔法+貫通効果)
・STRが強い半面、DEFは低め。MNDは非常に高い
・武器を使った戦闘経験が無い
・人型の戦闘には慣れていない
・過去の戦闘の後遺症で、尻尾を上手く扱えない
・ねっとりした性格のくせに熱血
========================================
[ステータス]
========================================
ルシア [唯一無二の戦闘農民]
lv: 26
HP: 310/310 MP: 550/550 AP: 3/3
STR: 160(-90) DEF: 040(+413)
MAT: 036(-35) MND: 066(-65)
SPD: 040(-39) LUK: 015(-14)
※STR:筋力、DEF:防御力、MAT:魔法攻撃力、MND:魔法防御力、SPD:速度、LUK:運(クリティカル率含む)
[装備]
・鉄の円盾(DEF+10)
・【聖環・地】
[スキル]
・土いじりlv.6
-地属性効果の補正
・投擲lv.9
-投擲時の命中補正
・急所lv.5
-稀に与えるダメージが1.5倍
-稀に受けるダメージが1.2倍
・加護 (聖環・地)lv.7
-地属性効果。装備中DEF+100
-鑑定(自然)
-聖環結界:物理・魔法の一定量防御
・加護 (下位農耕神アーシア[弱体])lv.1 RENEW!!
-DEF以外のステータスに最大90のマイナス補正。補正分をDEFにプラス
-任意に1つのステータスのマイナス補正を一時的に解除可能。その分のDEFへのプラス補正も解除
[魔法]
・【ストーン・バレット改】lv.7
-石を大きく加速させる。鉱石の種類によって追加効果
・【ジオ・プロテクト】lv.3
-物理防御大アップ
-設置物・装備品にも効果あり
-地面と接しない場合効果が1/4減
・【ジオ・グラビティ・バインド】lv.2
-強力な重力場の檻を対象の空間に発生させ、動きを拘束する
・【ヴォダ・バレット】lv.5
-掌で掬えるくらいの液体に作用し、打ち出す速度を大きく加速させる
・【アクア・マインド】lv.2
-対象の魔法耐性をわずかに引き上げる
-火属性魔法に対して効果量増加
・複合魔法【消火服】
-短時間、火属性魔法を無効化
・複合魔法【メテオ・ストライク】
-隕石による絶大な威力の広範囲攻撃。発動には隕石が必要
・俺流農耕具殺法【ホーリー・ヴォダ・デスサイス】
-魔物に対する広範囲攻撃
-アンデット系特攻。発動には聖水が必要
・複合魔法【ウォダ・デスサイス】
-魔物に対する広範囲攻撃
========================================
[武具:農耕祭具殿]
========================================
・鍬:特殊スキル【開墾】
-指定範囲を一気に耕す
・鎌 / 大鎌:特殊スキル【刈取】
-指定範囲を一気に刈り取る。対人不可
・馬穴:特殊スキル【鎮火】
-一定期間指定対象が燃えないようにする
・円匙:特殊スキル【掘削】
-指定範囲を一気に掘り返す。鉄以上の硬度の場所では使用不可
・軍手:特殊スキル【???】
-使用経験なし
・鋤:特殊スキル【地均】
-指定範囲を一気に均す
========================================
お疲れ様でした。
最近投稿が不安定でごめんなさい。
もう暫くお仕事が忙しいので、落ち着いたらまた毎日投稿出来るようにがんばりますね!




