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エピソード070 私、ベルと夫婦になるの!?



『我が娘を傷物とした責任として、ルシアよ……我が娘をつがいとし、子を成せ』



 ちょ、ちょっとベルの母親ことヒューベルデにプレッシャーを掛けられたせいで、とんでもない幻聴が聞こえた気がする。


 責任をとって番……という事は結婚? ベルと?


 いやいや、まさか。


 も、もう一度確認してみよう。きっと私の聞き違いだよ、うん絶対そうだよ、私の耳がおかしかったということで済ませて下さいお願いします!



「す、すみません。ちょっと聞きとれ――」

『責任を取って、我が娘を、番とし、子を成せ!』



 かぶせ気味にしっかりと発音してきたぁ!? これやっぱり聞き間違いじゃないよねっ!?

 えっ……いや、どういう事だってばよ?


「ちょ、ちょっと何言ってるか分からないんですけど……。私、あの、人族で、一応女で……」



『構わん』



「いや潔すぎませんかっ?! ちょっとは構って下さいっ!!」


 ヒューベルデの頓珍漢な責任取らせ方に、流石に周囲もざわめき立つ。

 そうそう、そうだよね。もう少し他に責任の取り方というものが――


『なに? ベルザードがニンゲンのモノになるのか? ……まぁ親であるヒューベルデがそういうのならば、相手がニンゲンとはいえ祝福すべきか』

『ふざけんなズルいぞニンゲンのチキショーめ! 俺がベルザードと番になるはずだったのにぃィイイ!!』

『ベルちゃんだけズルいですわ! お外に出て遊んだりお嫁さんを連れてきたり……不公平ですの!』

『それも面白かろうっ!』

『『『『グルゥ!!』』』』


 オイこら、竜種達!

 なんでそうアッサリと私とベルが結婚する事認めてるのよっ! さっきまでの『このニンゲンが!』的な事言ってた時の怖い雰囲気をもっと維持して反対してよ!


 というか、もっと根本的な問題に気づいて?


「えっと、ですね? 流石に私とベルは、こう……種族的な違いというか性別的な壁というか……色んな意味で結婚するのは非生産的と言いますかぁ……」



『全く問題ない。――それと、ルシアよ。我の事は『お義母さん』と呼ぶが良い』



 問題ない訳あるかぁあああああ!!

 ベルママはなんですか? トチ狂ってんですか!?

 色んな意味で問題しか無いでしょうがァァアア!!


「おぉ……ブフッ……失礼。ルッシーとベルたん、親公認の仲だね」

「なんというか……末永くお幸せに?」


 ローラが笑いを堪えるように頬を小さくヒクつかせながら、シャロが諦め気味にそんな言葉を掛けてきた。


「ローラァ! シャロォ! お願いだから諦めないでぇ!? ――――ハッ!? 私、重要な事思い出したよ! 別にベルの角を折った実行犯は私じゃない。つまり私達『フォー・リーフ』の連帯責任! という事は――」


「「大丈夫。ベルと釣り合いが取れるのはルシア(ルッシー)だけだから」」


 2人とも、何でこんな時だけ息ピッタリなんですかねぇ!?


『さっきから聞いておると、随分と言い訳がましいことを言っておるが……まさか我が娘が気に入らんとでも言うまいな?』


 うぉっ!? ヒューベルデの雰囲気が一気に険悪に! というか、周囲の竜種達の視線まで冷ややかになった気がする。


「そ、そうではなくてですね、ベルのお母様? この際、種族の違いは脇に置いたとしても、ベルは確かに可愛くて魅力的ではありますが、性別が如何ともし難く……。残念ながら私とベルの間では子供が出来ないのでこのお話は無効ということに――」



『何度も言っておるだろう――問題ないと。竜にとって種族や性別など障壁にならぬ』



 え、そうなの!? つまり竜種は雌雄同体、って事?

 そう言えば、ベルは『ママ』と呼んでいるけど、ヒューベルデの口調などを聞いてると雄って感じが――……、ってそれよりも私とベルが結婚したら、ベルが夫に……?


 ――いや待て、その想像は色々とマズい。深く考えるのは止めておこう。


 こうなったら、ちょっと恥ずかしいけど、わ、私に想い人が居るってことで――


『ふんっ。表情でバレバレだ。ちなみに、我ら竜は()()()()であるため、決まった相手がいる、などは関係ないぞ』


 被せるどころか、表情を読まれて先手を打たれた、だと……?


 いや、でもよく考えたら皆ベルの気持ちを考えていないのでは?

 こんな『責任をとる』、なんて強引な方法で結婚相手を決められるなんてベルが納得しないよ絶対。


 私は祈るような気持ちで、当事者の1人であるベルに視線をやった。すると、先程まで事態についていけず呆然としていたベルが、私と視線が合った途端、ポッと顔を赤らめた。


 え、何その反応。今までそんな素振り微塵もなかったよね?

 私、何かフラグとか立ててました?


「ベルは、その、好きな人……竜とかいるんじゃないの?」


 これが……私に出来る、最後の抵抗だ。


「えっと、ね。竜にとって、おやから番をみとめてもらうのはスゴイことなの。フツウはなかなかゆるしてもらえないの。ベルは……ベルはね。ルシアのこと、すきだよ。交尾してもいいくらい」


 ベルは赤面しながら私の腕にしがみつき、上目遣いでそう宣った。どうしよう――……可愛い。ベル、可愛すぎる。

 可愛すぎる、が……やはり違和感が拭えない。こんな可愛いお嫁さん……旦那さん?なら、前世の私なら絶対泣いて喜んだはずなのに。


『ハーハッハ! では決まりだな! 今日より我が娘ベルザードと人族の娘ルシアを番とし、此度の裁きを終えると――――』

 


『その宣言、ちょっと待てぇぇえい!!』



 ヒューベルデが閉廷を言い終わる直前、突如男が大声で言葉を遮って乱入してきた。その者は、わざわざ竜種の人型の状態となり、私の前にやってきてビシリッと指を突きつけた。


『貴様……我の言葉を遮ることなどしてただでは済まさん――』

「スマネェお義母様『誰がお義母様だっ!?』……俺は納得がいかねぇ! お前みたいなポッと出の、しかもニンゲンに……ベルザードが掻っ攫われるなど俺は認めねぇ!!」


 ヒューベルデの絶対零度の視線を受けていてもお構い無し。

 男の目は私への対抗心でギラギラと燃え盛っており、力んで漏れた鼻息からは火の粉混じりの噴煙が立ち上る。……この竜種は火竜なんだろうか。


「うげっ、デンデン!? なんでおまえが出てくるの……」

「ベル、知り合い?」

「いちおう……。いつもあつくるしくベルにせまってきてたの。ベルのことを『俺の嫁』とれんこするウルサイやつなの。『もーそう』ヤローなの」


 デンデンはベルにご執心のようだが、ベルには随分嫌われてるみたい。


「えー……デンデンさん?」

「俺の名前はデンデロフェルペナルデンだ! 『デンデン』はベルザードのみに許した呼び名だ、ニンゲンが気安く呼ぶな」


 デン……なんだって?

 聞き慣れない名前ですごく覚えにくい。ベルが『デンデン』と略した気持ちがよく分かる。


「す、すみません。それで、デンなんとかさんは私を許せないならどうしたいんですか?」


「デンデロフェルペナルデン、だ!! ……なめやがってぇ。おいニンゲン。俺はお前に、ベルザードを賭けた決闘を申し込む! 拒否権は認めないからなっ!!」


 えぇ……何だこの人。

 いきなり出てきて何が『ベルを賭けた決闘』だ。人を景品のように扱うような輩は大抵碌なやつじゃないよ。そもそも拒否権が無いってどういうこと?


 ベルに聞いてみると、どうやら竜種には強い者が正義の風潮が根強いらしく、強さを決める決闘は原則拒否することが出来ないらしい。


 しかも私は人族である上に、さらに勘違いではあったが『竜種を傷つけた者』という第一印象がある。 

 これで私が拒否でもすれば、私だけでなく、ベルや私を結婚相手と認めたヒューベルデの誇りを傷つけることになるらしい。――竜種の生き方って大変だなぁ。私、巻き込まれただけなんだけど。


 私が何を言うまでもなく、あれよあれよという間に周囲の竜種達が盛り上がって決闘の話が勝手に進んだ。

 そして気づけば、ワクワクした様子の竜種達と、何故かやや憮然とした様子のヒューベルデ、心配そうなベル、シャロ、ローラから見守られる中、私はデンなんとかと決闘することになっていたのだった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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