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エピソード062 私達、戦力強化の方法を模索します1


「いい機会だしね、あたし達も戦力の強化を考える必要があると思うのよ!」


 ギルドマスターのロンドから『フォー・リーフ』の王都への出向命令を聞かされてから数日後。

 いまだ王都までの道中にいる私達は、シャロの唐突な提案に首を傾げた。


「急にどうしたの?」


「いや、あたし達上級パーティって認められたじゃない? それにあたし自身もAランクに昇格したわ。でも、まだあたし自身はその肩書の実力が伴ってないと思うのよね」

「それは私も思ってた。最近はルッシーやベルたん頼りになってたのは事実」


 シャロの言葉にローラが同意とばかりに頷いた。それに対して首を傾げる私とベル。


 うーん? そうかなぁ。適材適所って気しかしないけど……。

 グラネロ村の時は、ただ私の武具の特性と魔法が上手く嵌っただけだし、なによりソフィアが居てくれたから撤退戦はなんとかなっただけで。

 氷竜戦の時も含めて普段のクエストで最も活躍してるのはシャロだし、ローラの後方支援があるから安心して前だけに集中出来てるんだけど。


 などと反論したい気持ちはあったが、私はとりあえず話を進めるために、特に口を挟まずシャロの次の言葉を促した。


「でね? あたしは新しく攻撃魔法を覚えたいなって思ってるの。いつまでも初級の【ファイアー・ボール】だけだと火力が上がらないのよ」


 魔法を覚えるのは大変なんだけど、シャロには何か策があるようだ。一見前衛職が魔法? と思うかもしれないが、シャロはエンチャント・ソードを使って魔法を自身の剣技にも応用できるため、戦力強化に直結しやすい。


「そういうことなら私も負けないように何か考えてみる」


 シャロに触発されたのか、ローラまでが新技の開発に乗り気になった。でも、ローラは属性魔法は扱えないらしいから、どうやって新技の開発なんてするんだろう。


「ふっふっふ。ルッシーは顔に出て分かりやすい。大丈夫。私も実は戦術に幅を持たせたくて色々と考えてたことがある」


 そう言ってローラが懐から取り出したのは、以前氷竜の暴走騒ぎの際に使用していた、魔法効果を再現出来るという刻印札だ。


「それすごく高いんじゃなかったっけ? 新技の開発の前にお財布が空になっちゃうんじゃ……」


「問題ない。札の作り方はソフィアさんに教えてもらった。後は誰かに種となる魔法を付与してもらうだけだから、前よりかなり安上がり」


 そう言ってローラがさらに札の束を取り出した。ざっと見て50枚以上はある。


「弓使いには、弓使いの戦い方がある。ルッシーは妙に物知りだから色々聞くかも」

「物知りかはわからないけど、師匠やミーちゃんから色々叩き込まれたからね。任せといて!」


 後は前世の記憶を使った応用とかね。細かい原理は分からなくても、この世界では知識として覚えている現象を魔法で再現出来たりするから、アイデアとしては重宝したりするんだよね。


「シャロもローラもズルい! ベル、アーシアからきいたことあるよ。それって『しゅぎょう』ってやつでしょ? ベルもしゅぎょうしてつよくなりたい!」


 ベルは2人に張り合うように修行がしたいと騒ぎ出した。


「ベルは今のままで充分強いと思うよ」

「でもルシアはベルより強いの! ベルもルシアみたいにもっともっと強くなりたいの!」


 そう言ってバッサバッサと力強く翼をはためかすベル。いやホントにそのままでも十分強いんだけどね。

 ベルは弱体化しているとは言え、元々が氷竜という竜種なのだから、基礎スペックが人族のそれとは大きく異なるし。


 ベルを含めて皆が私のことを褒めてくれているが、私だって、ステータスで考えると防御力以外はほぼ全てベルに負けてる。

 シャロのようにピンチをチャンスに変えるような一点突破の火力と速度は持っていないし、ローラのような広い視野と針の穴に糸を通すような正確無比な攻撃はできない。


「――なんか皆の話を聞いてたら私も気になってきちゃった。いい機会だし、私も色々と戦い方を考えてみようかなぁ」


 とう言うわけで、私達は王都へ向かう速度を落として、パーティの戦力強化のため、各々の新技について考えることにしてみた。――皆で。


「はい、じゃあ言い出しっぺのシャロから」


「なんで皆で考えましょう、ってなったのかわからないけど……まぁいいわ。【ヒート・ブレイズ】っていう中級魔法を覚えられないかな、って思ってるの」


 その魔法は聞き覚えがあるなぁ。たしか……ゲス勇者が使ってた火属性の広範囲魔法だ。


「ん? でも、あれって範囲攻撃の魔法だから剣に付与するには向いてないんじゃないの?」

「あら。ルシアは魔法の効果知ってるのね。見たことあるの?」

「ゲス勇……火の勇者と戦った時にくらったよ」


 あの魔法、私が複合魔法に成功してなかったら絶対丸焦げになってたよね。ホントあの勇者ゲスだよ。そういえば、王都に向かったら出会う可能性があるのか……憂鬱だよ。

 私は、当時の事を思い出してはぁとため息を付いた。


「まぁ、ルシアの言う通り、【ヒート・ブレイズ】は広範囲魔法に分類されるわ。本来、エンチャントする魔法は単体攻撃の方が向いている。これも一般的に知られている事ね」


 エンチャント・ソードは、私がよく使う武具の特殊スキルを用いた複合魔法とは異なり、魔法の属性と威力のみを付与することが可能だ、と以前シャロから聞いた事があった。


 つまり、広範囲魔法をエンチャントしたとしても、剣の攻撃が広範囲攻撃になるわけではない。そのため、同じ威力の魔法ならばMP消費が激しい広範囲魔法よりも単体魔法の方がコストパフォーマンスが高いというわけだ。


 未だシャロの思惑を察することの出来ない私は首をかしげた。


「そこまで分かってるなら、【ヒート・ブレイズ】よりも同じ中級魔法の【ボルケーノ・カノン】とかの方が良いんじゃないの?」


「将来的にはそっちも覚えたいわ。でも……うーん。これはエンチャント武器の特性を知らないと理解出来ないかもしれないわね」


 そう言ってシャロは、エンチャント武器使いだけが知る、ちょっとした裏技を教えてくれた。

 エンチャントの効果時間は付与する魔法の持続時間に比例するらしい。そして、火属性の魔法の多くは、単体攻撃よりも範囲攻撃の方が持続時間が長い。


 つまり、単体攻撃魔法だと持続時間が短いので頻繁に魔法を付与し直さないといけないが、効果時間が長い魔法ならば、その分長くエンチャントし続ける事が可能だという。


「へぇー! 私、複合魔法の効果時間なんて考えた事なかったよ」


「複合魔法はエンチャントとは別物だからあたしの言ったことが当てはまるとは限らないわ。一度確認しておいたほうが良いわよ?

いざという時に効果切れでピンチに陥るってこともあるんだから」


 なるほど。シャロがわざわざ【ヒート・ブレイズ】をエンチャントしたがってるのか理解した。長時間エンチャントした状態で戦い続けられるようにするためか。

 瞬間火力を取るか、持続時間を取るか、悩ましい選択だなぁ。


「そこまでいくとほとんどゲス……火の勇者が使う武具と似た感じになるね」


 私はゲス勇者の持っていた、メラメラと燃えている剣を思い出した。


「あんた、いくら勇者様に良い印象がないとは言え、本人の前で『ゲス』とか言わないでよね……ええと、たしか英雄具【フランベルジュ】だった?」


「うん。とは言っても、私は危ないから早々に消火しちゃったけど。金属もやすやすと溶かし斬ってたから、実現したら凄い剣になるよ」


 私はシャロに燃える剣の凄さを力説したが、それを聞いたシャロは悩ましげだ。


「そこなのよね……。確かにこのエンチャント・ソードはかなりの業物なんだけど、流石にアーティファクトではないから、そこまで長時間負荷を与え続けると壊れちゃう可能性があるのよ」


 そう言って、愛おしそうに剣を撫でるシャロ。そう言えば、前から聞きたくて仕方なかった事を折角だから少し聞いてみようか。


「ねぇ。前から気になってたんだけど、シャロってなんでそんな業物の武器を持ってるの? エンチャント出来るような武器なんて、とても高くて普通なら手が出せないと思うんだけど」


 シャロはしまった!という表情をして、私の質問に慌てて言い訳を考えるように頭を抱えた。


「え、えーとね。それはその…………。そうよ! あたしがとっても高尚な鍛冶職人とたまたま知り合いでね、それでその人に作ってもらったというか……」


「……へぇ。シャロが鍛冶職人と知り合い、ねぇ。てっきり私は、シャロが実は高貴なお家柄で、その剣は家宝だったり、とか考えてたんだけど違ったんだね」



「あ、あ、あたりまえよっ! あ、あたしが貴族の令嬢だったなんて、そんな事実は一切無いわ!」



 ……取り乱してるし、私、そこまで言ってないし、怪しいなぁ。


 でも、仮に貴族のご令嬢だとしたら冒険者なんて両親は絶対認めてくれないと思う。

 シャロが逃げ出して身分を隠して……とかだとしても、別に貴族が多く住むという王都に向かうのに抵抗はなさそうだったしなぁ。


「まぁ、個人の過去を詮索するのは冒険者のマナー違反だっていうのは私も分かってるから、余り触れないでおくね。せっかくだからと聞いてみただけだから」


「ええ。……ごめんなさい」


 どこか陰のあるシャロの顔を見て、私も悪いことを聞いたと今更ながら反省し、シャロに謝罪とフォローをしておくことにした。


「シャロ、謝らないで? 誰にでも話したくないことくらいあるから。私こそ勝手に踏み込もうとしてごめんね。でも、もし話したくなった時には言って? いくらでも話を聞くし、その上で絶対シャロの力になるから、ね?」


「うん……ありがとう、ルシア」


 私は暗い顔をさせてしまったシャロを元気づけようと抱き寄せ、髪を優しく撫でた。

 普段は強気で皆を引っ張ってくれるリーダー気質のシャロが、年相応の女の子に見えて少しドキドキした。


 よぉし、じゃあ頑張るシャロに、私が知る魔法の練習の極意を伝授しちゃおう!


「魔法は毎日の鍛錬が重要だよ! 私も毎日毎日投げ込みをして、このMPと魔法のコントロールを手にしたんだから!」

「……普通は魔法を使うのに『投げ込み』、なんて言葉は使わないはずなんだけどね」


 そう言って苦笑するシャロはいつものシャロで、やっぱりシャロには元気で居て欲しい。そう思う私なのだった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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[一言] ベルが実は貴族だったり
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