エピソード006 私、聖環の儀式を受けます2
切り時がわからんとです。一応4000字以内で収めるようにしてるんですが…
列から離れて司祭のところへ向かうと、祭壇の様子があらわになる。そこには液体が満たされた盃と木の板っぽいなにか、水晶玉が並べられていた。
「ルシア。こちらへ」
「はい」
私は一刻も早く儀式を終わらせるために祭壇に向かおうと足を速めた。
すると……
「カタ、カタカタカタッ!」
「ひぃっ?!」
祭壇に飾られた盃が急に小刻みに震えだした。
ポ、ポルターガイスト!
私、お化け屋敷とか霊的な番組とか前世の頃から苦手なんですぅ!
「ほお!触れてもいないのに『神水の盃』に反応が!」
「お化けですか?!お化けなんですね?」
「違います!さあ、早くこちらに来るのだ!」
司祭は盃と私を交互に見やって、すごい勢いで手招きしている。子供たちは何事かと見やり、ザワザワしている。
そして、私は足がすくんで動けない。
怖いし、すごく注目されています!
「え、嫌です!無理です!なんかガタガタ動いてます!私お化け的な何かはちょっとご遠慮いたしますわ!」
思わずお嬢様っぽい口調になってしまった。
「いいから早く来るんだ!」
「絶対嫌です!」
そんな怖い所断じていくものか!
「わ、わかった。コレが怖いんだな?ほら、こうして祭壇の後ろに隠すから、な?」
司祭は小刻みに震えて中身の液体が零れ落ちそうになっている盃を祭壇の後ろに隠した。
た、たしかにそれならばなんとか……。
ルシアは更なる異変が起こらないよう祈りつつ、恐る恐る近づいた。盃は見えないが私との距離が縮むにつれて大きく震えているのが音でわかる。
なんかガンガン鳴ってる!
そしてその合間合間にパシャパシャ聞こえるのは中身溢れてますよねぇ!
「し、司祭様!絶対、絶対それを離さないでくださいね!」
もう完全に腰が引けて涙目になっているルシアは端から見るとあまりにもあんまりな姿だったが、ジリジリと何とか祭壇に近づいた。
この距離まで来ると祭壇の上にあった木の板の正体がなんとなくわかった。
見た目がもう完全にコックリさんとかヴィジャ盤的な何かである。嫌な予感しかない。
板の上にはアルファベットが書きならべてあり、その上をゆっくりと指し示すように針が動き出す。
『R. U. S. I. A. 』
「アブブブブブ……」
「お、おい!ルシアくん!しっかりしなさ……」
文字が完成した瞬間、泡を吹いて私の目の前は真っ暗になった。完全に気を失う直前に、慌てふためく小さな子が見えた気がするが、一体誰だったんだろう……。
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「んん……ここは?」
私が目を覚ますとベッドの上で、そこは知らない天井でした。はっ!と顔を青ざめ、急いで掛け布を跳ね上げる。自分の着衣に乱れがないことを確認し、私はホッと人心地ついた。
「ここは教会だぞ。お前が心配するような不埒な真似を誰が許すか」
「カーカッカ。随分とおませな子供じゃのぅ」
複数の声に気づき視線をやると、気絶する直前までいた司祭と知らない女の人が私のいたベッドの傍に座っていた。
「し、司祭様。ごめんなさい。あの私は……?」
「お前の儀式の途中どころか始める前に気を失って、仕方ないから部屋を移したのだ」
「わしが運んでやったのだぞ。感謝するがいいわ」
肩まで流した空色の髪は手入れもせずにボサボサで着ている服もヨレヨレだ。如何にもズボラですと言わんばかり。
偉そうに反らした胸はポヨンと弾んでいる。……この人ブラ付けてないな。型崩れするらしいからちゃんとした方が良いんじゃないかなぁ。いや、前世の知識の聞きかじりだけどね。
随分と怪しい人だったが、介抱してもらったのは事実らしいので感謝しておく。
「ありがとうございました。えっと、あなたはどちら様で……?」
「わしの名はソフィア。ソフィア=キャンベルじゃ。職業はしがない魔法使いってところかの」
魔法使い!本物の?!
ちょっと色々話を聞いてみたいが流石に今は自重しよう。
「それでは改めまして。ありがとうございました、キャンベル様。私の名前はルシアと言います」
「知っておる。わしを呼ぶときはソフィアで良いぞ」
「ではソフィア様と」
「様もいらんが……まあよい。そんなことよりも司祭よ。早くルシアの聖環の儀式を済ませてしまわんと遅くなってしまうぞ。ルシアのご両親も心配されるだろうよ」
思い出した。そう言えば、儀式の途中で気を失ってしまったから、私まだ指輪貰ってない!
「他のみんなはどうなったのですか?」
「お前の順番を飛ばして儀式を終わらせた。彼らは先に家に帰したよ。お前がいつ目を覚ますかわからなかったからな」
「あの、司祭様。またあそこで儀式をしなければならないのでしょうか」
同じようにポルターガイストが起こったらまたぶっ倒れる自信がある。
「いや。本来ならば『神水の盃』や『属性視の水晶』、『お告げの木版』でお前の適性を調べねばならんのだが……また倒れられてはかなわん。少なくとも盃と木版には反応があったのは確認したので、略式で『聖環』のみ渡そう」
「それがいいじゃろう。なんだったら魔法適性は後日わしが見てやろう。どうせこちらには用事があって立ち寄ったのじゃからな。それくらいの回り道は許容範囲じゃ」
司祭は化粧箱の中から指輪を一つ取り出し、私に渡した。その指輪は、アームはステンレスのような光沢をしており、石座には透明な石が取り付けられていた。
「それが『聖環』だ。アーティファクトとも呼ばれている」
「アーティファクト?」
「アーティファクトとは神が創造なされたともいわれる、現在の魔法技術では再現が難しい魔道具の総称だ」
え、そんなに貴重なものなのコレ!!
「ああ、心配するな。『聖環』はアーティファクトの中でも解析が最も進められているもので、聖環の儀式の際に子供達に配るために複製が可能になっている。残念ながらオリジナルに比べて性能はかなり落ちるがな。それも複製品だ」
「なるほど」
「『聖環』は子供たちが自身の力を把握することを補助し、潜在能力を引き出し、資格ある者にはふさわしい武具を授ける。さあ、『聖環』をお前の指に嵌めなさい。大きさは『聖環』が自動で調節してくれる」
私はマジマジと指輪を見つめ、それを自分の左薬指に……
「……ルシアや、その指は将来大切な伴侶を見つけた時に空けておくことを奨めるのじゃ。『聖環』を嵌める指は特に決まりはないはずじゃが、多くのものは利き腕の中指につけることが多いのじゃ」
そう言ってソフィアは自分の右手を見せると、確かに中指に『聖環』が嵌っている。
「あ、あわわわ、わかりました!ご忠告感謝しますです!」
危ない危ない。無意識に『聖環』をマリッジリングにしてしまうところだった。
ソフィアのアドバイス通り、利き腕である左手の中指にそっと指輪を差し込んだ。すると、あたかもそれが自然であるかのようにスルリとアームのサイズが調整された。
私は自分の指に装着された指輪を物珍しそうに見ていると、急に頭の中で不明瞭だったものがカタチとなり、声が降り注いだ。
『装着者のマスター登録を実行……承認しました。以降、装着者ルシアをマスターと認めます』
『マスタールシアの【聖環・無】を【聖環・地】にコンバート……成功しました』
え? え? え? なになに、急になんなのっ?!
私の嵌めていた指輪が急に粉々に砕け、新たに同じような指輪が現れた。
アームはステンレスのような素材からプラチナのような力強く清廉な輝きに変わり、石座の石が透明から地属性を示す黄褐色に変化した。
あまりの急展開についていけてない私は、なされるがままに流されていく。
『【聖環・地】がマスタールシアの武具【農耕祭具殿】の所有権を申請……受理されました。【聖環・地】と武具【農耕祭具殿】が統合されました』
指輪が強く光ると、アームの部分に今までなかった蔦が絡み合うような複雑な模様が一瞬のうちに彫り込まれた。
武具! ミケが言ってたやつだ! ……でも、農耕具ってつまり農具だよね。武器じゃないよね?
『【聖環・地】がマスタールシアの魔法適性を検証……【地】・【水】・【風】に適性あり。続いて魔法を取得します……失敗……失敗……失敗しました。検証結果から【地】の魔法を部分習得しました』
おお! 魔法! やったよ私、魔法適性あるってさ!
……でも魔法習得に失敗したらしい。よく分からないけど、地属性の魔法は一部は使えるっぽい。後で試してみよう。
『【聖環・地】へ『下位農耕神アーシア』が干渉……排除し……排除し……排……はぁ、承認しました。『下位農耕神アーシア』がマスタールシアの【守護神】に就任しました』
えぇ……、何か干渉してきたよ。
神様って言ってたけど。勝手に守護神とかになってますけど、その神様。指輪さんは最後諦めてため息ついてたけどホント大丈夫なんだよね? ちょっと怖くなってきたんだけど!!
『【聖環・地】の初期設定を完了しました。マスタールシア、今後も貴女をサポートしますので宜しくお願い致します』
「んぇ?は、はい!私こそ、不束者ではありますがよろしくお願いします!」
私は自分の指輪にペコペコと頭を下げた。
その横では、驚愕に染まった司祭と驚きつつも興味深そうにじっと私を品定めするように見るソフィア。
三者三様のカオスな空間にさらに混乱を生み出す者が1人。
「ルシアちゃーん、会いたかったよー!」
【聖環・地】の宝石が輝きを強めるとアーシアが空中から姿を現し、そのまま私に抱き着いた。
「え?え?誰?……なんか懐かしい感覚。これって、あの時の面接室のお姉さん?」
「そうだよー!5年ぶりー」
「でも、その、姿というか雰囲気が……それよりもなぜここにお姉さんが?」
「私のことはアーシアって呼んでほしいな!それに詳しい話はあとあと!早くクレアさんとゴードンさんのところに帰ろうー!」
「なんでアーシアがママとパパのこと知ってるの?」
私の記憶の中のお姉さんことアーシアよりも二回りは小さいアーシアが、私にじゃれついて早く帰ろうと催促する。
「まさかとは思っとったが、あの神託の示す子はルシアじゃったか」
「か、神が降臨なされた……」
ソフィアは得心がいったかのように頷き、司祭は突然の神登場に気絶してしまった。
いつになったら私は自分の家に帰ることが出来るのか、それは神のみぞ知る。
お疲れ様でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。




