エピソード059 私達、スタージュの街へと帰還します
「ルッシー、村の方はどうだと思う?」
グラネロ村に引き返す道すがら、ローラは村の様子を私に尋ねてきた。
「アーシアのおかげで畑の方はなんとかなったけど、村に到着した時に見た限りでは……」
「全滅してる可能性が高い、わね」
私が言葉を濁した部分を、シャロが言いにくそうに口にした。
たしかに村の全貌は把握出来ていないが、私達は村に到着してすぐに魔物の大群に囲まれたのだ。つまり、魔物達は私達が到着するよりも前に村に居た事になるわけで……。
皆が生きている、というのはかなり分の悪い賭けになる。
「村の人、みんな、しんじゃったの……?」
ベルが私の手を握って上目遣いに悲しげな目で見つめてきた。間違った未来なら、自分が暴れてレーベン村を同じようにしたかも……。そんな気持ちが溢れたのかもしれない。
私はベルの手を優しく握り、頭を撫でた。
「ごめんね。本当は『大丈夫だよ』って言ってあげたいけど、軽々しくそんな事言えないの。それはベルも分かってるよね?」
「うん……」
「だから、どんな結末でも、ベルが一人で責任を感じなくてもいいんだよ。私が……私達が一緒に背負うから。それが仲間ってものだよ」
「うん……ありがとルシア。でも、ベル泣かないよ。だってベルもルシアをおんぶしたもん」
「そうだったね。ベルは強いもんね。私もベルのこと、信頼してるから」
私はもう一度ベルの頭を優しく撫でると、アーシアにベルの事を頼んだ。
ベルはとても強いけど、心はまだまだ子供なんだ。実年齢はともかく、精神年齢だけで言えば一番大人な私が頑張らなくちゃ。
「ルシア、あんたこそ背負いすぎないでよ? あたしが背負う分が無くなっちゃうでしょ」
「だね。ルッシーはいつもどおりフニャフニャしてれば良いよ」
「未熟な弟子のくせして何一人前気取っとるのじゃ。そんな顔をするのは10年早いのじゃ」
ねぇ皆さん? それ、慰めの言葉と見せかけたただの煽りじゃないですかね?
特にローラ! いつ私がフニャフニャしてるって言うのさ!
「まぁ、考えても仕方ない事をグチグチと考えんなってことだ。まだ結果も分かってないのにそんな険しい顔すんな。少なくとも俺達は最善を選択している。それはギルド最強の俺が保証してやる」
アレックスは私達に視線を向けず、だけど明らかに私達を気遣う言葉を掛けてきた。
「……はいはい。皆ありがとう。じゃ、さっさとシュルツやクロム達と合流しよう」
私は少しだけ軽くなった足取りで村へと向かうのだった。
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「――結論から言う。村の住人の半数以上が無事だった」
「えっ?」
グラネロ村に戻った私達は、入り口に立っていたクロムから開口一番そのような言葉を投げかけられた。
「――同じ事は2度は言わない主義だ」
「で、でも、あんなに魔物が溢れてたし、それに建物だって……」
私は改めて村を見渡した。魔物に建物は荒らされ、ほとんど原型を留めていないものばかりだ。これを見て村人が無事というのがちょっと想像つかない。
「――たしかに住居は荒らされ、逃げ遅れた村人は魔物に殺されている」
「じゃあ」
「――この村は随分と強固な防壁付きの穀物貯蔵庫を持っていたようだな。そこを避難場所としていたようだ。おかげで魔物が攻めきれなかったようだな」
そう言えばここは国内最大の穀倉地帯で、いわば食料ラインの要だ。国としても盗賊や魔物に穀物を奪われることが無いよう、頑丈な倉庫を建設していたのか。
そう考えると、たしかに籠城施設としては最適かもしれない。
物量で攻められれば最終的には破られたかもしれないけど、タイミング良く私達が到着し、魔物を殲滅出来たということか。
「「「「「良かった……」」」」」
アーシアを含めた私達5人は、ホッと胸をなでおろした。
「ケーニッヒ殿の方はどうだったのじゃ?」
ソフィアがそばに佇んでいたケーニッヒに尋ねた。彼は騎士団分隊の駐留地となっていた場所を確認しに行ったはずだ。
「……残念ながら、騎士団の方はアッシュの申した通り、全滅でしたな。……彼らの遺品も回収してきました。
村の住民達からは、最後まで団員らが果敢に魔物と戦ったと聞き及んだ。彼らは、騎士としての職務を全うしたのです。いつまでも悲しんでなどいられますまい」
ケーニッヒやアッシュの内心を知る術もないが、少なくとも表面上は切り替えたようだ。こういう精神のタフさは、個としてではなく軍として行動する騎士団の強みだと思う。
「これで王国からのクエストは完了だ。私は一度王都に帰り、王に事の次第を説明せねばなりません。此度の黒幕と思われる、義手の女闇魔法使いとやらについても早急に報告せねば。おそらく他国の手の者ですからな」
ケーニッヒは王国式の敬礼をし、馬に乗って一足早く王都へと駆けて行った。何故か同じ騎士団員であるアッシュはこの場に残っている。一緒に行かなくて大丈夫なんだろうか。
「俺は念の為、この村の護衛としてしばらく駐留することになったんだ。とは言っても下っ端の俺一人じゃ、やれることなんて限られてるがな」
アッシュは私の視線に気づいて、肩をすくめながら自分がケーニッヒに追従しない理由を説明した。
「――ならば俺達『竜種滅殺』が暫くの間、この村の護衛を手伝ってやる」
驚いたことに、アッシュの話を聞いたクロムが自ら護衛として村に残ると言いだした。
正直、彼は『俺より強い奴に会いに行く!』とか言いそうなストイックなタイプだと思っていたので、こういうクエストでも無い話に関わろうとするとは思わなかった。ちょっと誤解してたのかも。
「良いのか? ギルドからの報酬は出ないと思うが」
「――問題ない。ちょうど俺達も休暇を取るつもりだった。全員が村に残れるとは限らないだろうが……近いうちに王都からも騎士の増員が来るだろう。それまでの暇つぶしだ」
平坦な物言いだが、クロムにとっては報酬も出ない、言わばボランティアだ。にもかかわらず村の護衛を引き受けてくれるその姿に、私は上位パーティのリーダーとしての姿を見た気がした。
私達は彼らに村の事を任せ、ギルドマスターにクエスト完了の報告をするためにスタージュの街へと戻ることにした。
私達が出発する刻限前、おそらく生存していた村の住人全員が見送りに来てくれた。
「この度は我々の村を助けてくださり、さらに畑までも快復して頂いたと聞き、居ても立ってもおられず……。大したもてなしも出来ず、せめて村の皆で感謝の気持ちだけでもお伝えさせて頂きたく参りました。本当に、本当にありがとうございます」
この村の村長らしき老人がそう言って跪き、最大限の感謝の意を示した。それに続くように他の人達も跪き始め、その光景は王様に謁見した時と被った。
「そ、そこまでしなくても! 頭を上げて下さい。私も今は冒険者をしているとは言え、農民の端くれです。人や畑がどれほど重要か身に沁みているので何とか力になれないかと思っただけで……」
偉い人達ならいざしらず、私のような凡庸な人間は、人に遜られると何故かむず痒く感じてしまう。私は慌てて頭を上げるようにお願いしたが、村の住人の誰もが私の言葉に反してその姿勢を崩さなかった。
「お嬢さん。それなら尚更今の我々の気持ちを理解して下さると思っています。我々の、いや先達から続く宝を護ってくれたあなた達に、我々は国王陛下に捧げるのと同等の念をあなた達に捧げます」
そう言われると、私はぐうの音も出なくなった。なので、少し気恥ずかしかったが、彼らの気持ちを充分にいただくことにした。
私は最後に村に残るアッシュと対面し、しばしの別れの挨拶をした。
「ルシア。短い間だったが世話になった。この村の事は俺に任せとけ」
「魔物に襲われて呆気なく死なないでよね?」
「ハッ! 一応俺だって騎士なんだぜ? 簡単にやられたりするもんか。それにクロム殿という頼りになる方も残られるしな」
「それって結局人任せなんじゃ?」
「うるさい! ……それよりもルシアも無事に街まで帰るんだぞ? お前達は義手の女の企みを邪魔したんだからな。復讐として襲われる事も念頭に入れておけよ」
アッシュが心配そうに私を見やった。それを言えば、この村は義手の女の目的だったのだから、また襲ってくるかもしれないのに。
「はいはい。……じゃあまたね」
「……ああ、今度は王都ででも会おうぜ。美味い料理を出す店が出来たんだよ。奢るぜ」
私とアッシュは握手をかわし、その足で私達はスタージュの街への帰路についた。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。
※久し振りにアクセス等確認したら、ブックマーク100件超えてました!(今更かも)
総合評価も400台に乗ってましたし、総合UUが5000人突破してました!いやぁ、確認してなさすぎです私。皆様に感謝を伝えるのが遅くなっちゃった。
普段はあまり気にしてませんがやっぱり増えてるととても嬉しいです!皆様、いつも読んで頂き本当にありがとうございます!
最近暑い日が続いてますが、体調を崩されないよう、気をつけて下さいね。




