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エピソード049 私達、ギルドマスターから呼び出しです

さて、登場が遅いですね、ギルマス。

 

 ある日、よくある採取クエストを終えて帰ってきた私達は、受付の女性から「他の方には内密でお願いしたいんですけど……」と前置きをされた上で話を切り出された。



「えっ、ギルドマスターが私達に呼び出し要請、ですって!?」



「しぃーっ! しぃーっ!」


 受付の女性はシャロの発した声に、慌ててキョロキョロと辺りを見回し、他の人に聞かれていないかを確認すると、小声で話を続けた。


「そ、そうなんですよ。私は皆さんがギルドに来たら声をかけるように、と言われただけなので詳細は分かりかねますが……」

「それは一大事だわ」


「「「ふーん」」」


「あんた達、もうちょっとやる気出しなさいよ!」


 シャロは私達の無反応ぶりにぷりぷりと怒ってるけど、そもそもギルドマスターになんか会ったこと無いし、呼び出しなんて言われたら私は怒られるのかなぁ、くらいしか思いつかない。

 氷竜討伐のクエスト以降、私達は地道にクエストをこなしてるだけだから、怒られるようなことにも覚えがない。


「「だって面倒くさそうだし」」

「そんなことよりベルはおなかへったの!」


 他の面々も私と似たような感想のようで、ベルに至ってはもうこの後の食事のことしか頭にない。


「あのねぇ……。ギルドマスターの呼び出しって事は直々にクエストを発注されるかもしれないってことなのよ? 凄く名誉なことなの」


「シャロットさんの言う通りですよ。一部の認められたパーティにしか直接依頼なんてしませんから。

では、他の冒険者の方々に騒がれる前に早くギルドマスターの所に向かって下さい。執務室は2階にありますからそちらの階段を使って下さいね」


 文句を垂れるベルをなだめて、仕方なく私達はシャロの後ろに付き従い、階段を登った。


 -----◆-----◇-----◆-----


 シャロが目的の扉の前でノックをすると、「入れ」と中から男性の声が聞こえた。


 室内に入るとまず最初に、書類や木札が山程積まれた執務用デスクに目がいった。

 カリカリと音が聞こえるので誰かが作業をしているらしいけど、書類が邪魔で視認することが出来ない。


「……ああ、来たか。『フォー・リーフ』」


 どのように把握したのかわからないけど、執務室に入ってきたのが私達だと分かると、作業をしていた人物が手を止めて立ち上がった。


 なるほど、この人がギルドマスターか。その姿を見た瞬間、私は即座にそう理解した。


 50代くらいの初老の男性で、白髪交じりの灰色の髪を刈り上げている。今でもしっかり鍛えているのか、余計な脂肪など一切ない筋肉質な肉体と数々の傷跡が、元冒険者であることを裏付けている。


 彼は私達をわざわざ応接用の長椅子とテーブルに招待すると、腰掛けるように促した。私達が座るのを確認すると、彼は私達を呼び出した理由を話し始めた。


「先に自己紹介をしておこう。俺が冒険者ギルド本部のギルドマスター、ロンドだ。『フォー・リーフ』の最近の噂は聞いている。なかなか目覚ましい活躍をしているようだな」


「いえ、そんなことは」

「謙遜するな。クエストを着実にこなす点は勿論のこと、氷竜の暴走を食い止めて村を守り、厄介な廃屋敷の異変を解決、と大活躍ではないか。

これで褒めないならばギルドマスターとしての立場がない」


 シャロとローラは冒険者ギルドのトップであるロンドからの称賛に照れており、ベルは黙々とテーブルの上に用意されていた焼き菓子を両手でカリカリと食べている。


 私はと言うと、この時既に悪い予感がしていた。

 この予感はこの世界で生まれてから12年、特にアーシアと出会ってからの7年間で随分と鍛えられたと自負している。


 私はロンドの目だけを見据え、次にどんな無茶振りを要求されるのかと身構えた。



「そこでだ。俺から君達に直接、クエストを頼みたいと思うのだがどうだろう?」



「ギルドマスターから直々、でしょうか。しかし、内容がわからないままではお引き受けする訳には……」

「勿論クエストについての詳細は説明するさ。ちょうどこの件に関係する者達にも来てもらっているしな。おい、連れてきてくれ」


 ロンドがいつの間にか部屋に待機していたスタッフに指示を出すと、数分後、見覚えのある2人を伴って戻ってきた。



「あれ? アッシュ、ケーニッヒさん」



「よっ! 久し振りだな。ルシア」

「約1年ぶりですかな、ルシア嬢。王があなたの作った野菜がまた食べたいと愚痴って大変ですぞ」

「へへっ、ありがとうございます! また沢山収穫して持って行きますね」


 部屋に入ってきたのは、2年前の村のウォーウルフ襲撃事件の際に知り合った王国騎士団分隊長のケーニッヒとその部下アッシュだった。

 ちなみに彼らとは1年前、王様に野菜を届けに行った際にも軽く世間話をしてたりする。


「ルシア、知り合いなの?」

「二人とも王国軍の騎士だよ。ほら、王都で私が勇者と模擬戦した時の話したでしょ? あの時に知り合ったんだ」



「あぁー、ルッシーの隕石ブッパ事件のやつか」



「……ルシア嬢? 彼女の言った話は初耳ですが、まさか2年前に起きた王都付近の土地を変形させた犯人とはあなたでは……」


「あー!あー! そ、そんなことより、クエスト! クエストですよ! いやぁ、どんなクエストなのかなぁ、私は一刻も早く聞きたいなぁっ!!」


 私は強引に話を逸らした。1年前に会った際に、あれのせいで王都が大混乱になったって聞いたから言い出せなかったの忘れてたよ。



「騎士団と言うことは……まさか今回のクエストって国からの要請ってことなの?!」



 シャロは今回のクエストに国が関与する可能性にひどく驚いたようだ。そんなに驚くようなことなのかな?


「ルッシーはタマチーがいながら騎士くんにも手を出してるの? タラシなの?」

「なっ!? そんな事無いよ! そ、それに私は別にタマとはまだ何もごにょごにょ……」


「むぐむぐ! もーぐぐもっ?」

「って、こら! ベル行儀悪いよ。食べながら話そうとしないの。ちゃんと食べ終わってからにしなさい」

「もぐっ!」


「あんた達、ちゃんと人の話聞きなさい!! そしてルシア! あんた最近アーシアの影響受けてるわよ?」

「えぇー! そんなぁ」

『なんでそんなにショック受けるのよっ!?』


 シャロ以外の者達に任せてると話が進まないと判断したのか、ケーニッヒがシャロだけに視線を合わせて話し始めた。


「ごほん。えー、その通り。今回は騎士団の人員を多く割くことが出来ず、腕の立つ人材を欲していてな。異例ではあるが冒険者ギルドにも依頼を出す運びとなった」

「とは言え騎士団が出す人員も数人という訳ではないですよね? このクエストはそれだけ危険というわけですか?」


 シャロが真面目な顔をしてケーニッヒに問いただす。パーティのリーダーとしてメンバーの命を預かっている彼女のことだ。その点は非常に重要だろう。

 ……ちゃんと私も聞いてるからね?


「此度の依頼は王国の西、穀倉地帯であるグラネロという村で発生した魔物の大群、および暴走種の討伐だ」


「暴走種……ですか?」

「うむ。騎士団内で仮称したものでな。具体的には君達が対峙した氷竜の暴走状態と同じものだ」


 私達は未だにお菓子をモシャモシャと食べているベルを見やった。皆の注目を集めたベルは、さらにお菓子に手を伸ばそうとするのをやめ、こてりと首を傾げた。


「(もぐもぐ…ごくん)ベルがどうかしたの?」

「……そうか。君が例の氷竜なのか。王が君達を王都に呼ぶべきか頭を抱えていたぞ。ルシア嬢、毎年王都に呼ばれるような事を仕出かさないように、な」

「別に私が悪いわけじゃないですよ!?」


 私が心外だと憤ると、アッシュがまぁまぁと私をなだめた。よく分からずベルも翼をパタパタさせながらアッシュの真似をしている。

 ケーニッヒは気を取り直して、先行する騎士団が伝えた村の現状を語りだした。


 パンドラム王国に流通する多種類の穀物を大規模栽培するグラネロ村は、ある日突然魔物の大群に襲われて村はほぼ半壊、村人は頑丈な建物に立て籠もっているらしい。


 魔物はウォーウルフなどの獣系の魔物を筆頭に、トードなどの生態域外の魔物まで多種が確認されている。

 さらに、オーガやオークなどの一部の個体には、胸に黒曜石のような黒い石が埋め込まれており、派遣された騎士団の分隊では歯が立たず、手をこまねいているらしい。

 

「それって……」

「おそらくお前達が報告した石と同じものだろう。だから俺は今回お前達を推薦しようと考えたんだ。

実力も付けているようだし、何よりも似た状態の魔物との戦闘をこなしたという経験は大きい。その上メンバーの一人が騎士団の知り合いとは。世の中狭いものだな」


 シャロの疑問に答えるようにロンドは言葉を発した。


 なるほど、納得した。実力だけで考えれば、私達よりもランクの高い冒険者は沢山居るのに不思議だったんだよね。

 ……まぁ、つまり特殊な事例で大変そう、ってのには変わらないんだけど。


「お前達の他にも今回上位のパーティを3組推薦している。実力は織り込み済みだ。まぁこれも勉強のうちだと思って、出来ればギルドとしては引き受けて欲しいが」



「まだ報酬の話を聞いてない」



 ぼーっと話を聞いていたローラが冒険者にとっては重要な事をボソリと呟いた。それを受けて私達はロンドの顔を一斉に見やった。


「別に隠していた訳じゃない。クエストの報酬は……一人あたり金貨1枚だ」



「少なすぎるわっ!!」



 シャロが先程のまでの優等生ぶりをかなぐり捨て、憤慨しながらロンドに詰め寄った。


「群れの規模も暴走種の強さも未知数なら、準備が相当必要なのはギルドマスターも理解できるはずよ!

それに、どれだけ周到に準備しても、魔物に数で押されたら死ぬことだって充分有り得るわ!

それでその額はどう考えても割に合わない。あたしは仲間をそんな危険に晒す訳にはいかないの!」


 シャロが丁寧な口調も忘れてロンドに畳み掛けると、ロンドはほら見ろとばかりにケーニッヒの方を睨んだ。

 ケーニッヒが申し訳なさそうに項垂れた。


「君の言う通りだ……。実は他に推薦して貰ったパーティにも同じような事を言われたとロンド殿から報告を受けた。

しかし、現在止む得ぬ事情であまり報酬を出せなくてな。事が収まれば私の首をかけてでも何とか追加報酬を出すことを約束する」


「落ち着けシャロット。ギルドから足りない分を一時的に補填する。報告によっては更に報酬を上乗せもする。

今回は情報量の不足ゆえ既に大きな被害が出ている。出来ればお前達には受けて欲しい」


 そう言われてシャロは口をつぐみ、考え出した。その姿を見て、私はシャロの肩を叩いてそっと頷いた。


「……分かりました。お引き受けします」

「助かる。出発は2日後の予定だ。明日同行する予定の者共を集めるので顔合わせや戦術のすり合わせをしてくれ」



「あの。そのことなんですが、絶対頼りになる人がいるんですけど一人増えても大丈夫ですか? ……連絡がつけば、の話になるんですけど」



 私はとある提案をし、無事ロンド達に了承された。さて、ここからは根比べだ。

 私はシャロ達に必要になりそうな荷物や装備の準備をいったん任せ、人気のない高い場所へと向かった。


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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