エピソード047 私達、お祭りに参加します
本編では久々の幼馴染達の登場です。
そして、少しずつ動き出します。
ボルカニア祭。
この世界の創造に携わったとされる7大精霊の内の一柱、火の大精霊ボルカニアを称えるボルカ村の伝統的な祭り。
今宵、村の人々は日々の疲れや鬱憤を晴らすため、大いに騒ぎ、喰らい、呑み明かす。
その日、数々な物語が紡がれる事になるが、彼らの多くはそれを知る由もない。
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1年の内、今日この日だけは、ボルカ村は王都にも負けないほど綺羅びやかに彩られる。火の大精霊にちなんで、村中が灯籠や篝火で飾り付けられ、至る所で屋台が立つ。
村で作った農作物を使った料理は勿論のこと、普段はほとんど食べることの出来ないお肉や果物、各所から取り寄せた珍しい食べ物までが豪勢に振る舞われる。
行き交う人々のほとんどが浴衣風の薄い着物を羽織り、まるで異国のような趣を醸し出す。
村の人だけでなく近隣の者達も参加しているので、村の中には人が一杯で、本格的な祭りの装いだ。
私達はお祭りの最も賑やかな村の中心地に立っていた。
もちろんしっかりと浴衣を着ている。予定通りに祭りの前日の夜に村に到着し、私の家で母に着付けをしてもらったのだ。
「すごいの! 人がいっぱいなの! そしてイイにおいもいっぱいなの!」
ベルが服屋で購入していたのは、白を基調に紫色の撫子の花の文様が所々に描かれた意外に大人びた浴衣だった。でも、屋台を見てはしゃいでいる姿を見ると年相応(?)で可愛らしい。
「へぇ、たしかにこれはすごいわね。辺境の村とは思えない規模のお祭りだわ」
シャロは私が去年着ていた薄桃色の浴衣を着ていた。特に文様はないが、むしろシンプルで飾らない浴衣が、整った容姿のシャロの魅力を存分に引き出していた。
トレードマークのツインテールと赤銅色の髪色がゆさゆさと揺れて可愛い。
「美味しそうな食べ物がいっぱい、じゅるり」
ローラは何処がとは言わないがやっぱり私のお古ではきつかったので、母が昔使っていた薄い藍色の浴衣を着ている。
菖蒲の文様が描かれたそれは、淑やかさを醸し出しながらローラのミステリアスで大人な魅力を引き立たてていた。なんというか、色んな意味で大人のお姉さんです。悔しい。
「ルシアちゃんルシアちゃん! 私、ミニ提灯が欲しいわ!」
アーシアが早くも勝手に屋台へと走り出そうとしていたので、私は慌てて彼女の右手をガシッと掴んだ。アーシアの着る紅葉柄の浴衣の袖が私の静止で翻り、ちょんまげみたいに結わえている髪がゆさゆさと揺れる。
例年アーシアがはしゃぎだすと何らかのトラブルを巻き起こすんだから、今年こそはしっかりと手綱を握っておかなくちゃ。
「皆と一緒に行動すること、だよ。ちゃんと後で貰いに行くから……ベルの分もね」
「「はーい!」」
アーシアと、同じく欲しそうにウズウズしていたベルが元気よく返事した。いつも返事だけは良いんだよね。
私はため息をつくと自分の着ている浴衣が乱れていないかチェックした。
紺色の生地にアサガオ柄――ちなみにアサガオは村には自生してなかったので自分で頑張ってデザインした――の文様が散りばめられたこの浴衣は私のお気に入りだ。銀色の髪の色と紺色の生地とのコントラストが個人的には好みなのだ。
髪はハーフアップにして、もはや馴染みの金隼の髪飾りを今日も差している。右腕には以前タマから貰った腕輪をしてみた。紺色に銀はやっぱりワンポイントで映えるよね。
私、結構オシャレも出来るようになってきたんじゃない? と心の中でムフフと満足気に微笑んだ。
そうして皆で屋台を覗いて周り、ナイフで遊ぶダーツもどきで対決をしたり、屋台の料理――主に串焼きとか香草焼きとか骨付き肉(!?)とか――を食べ漁っていた時、後ろから肩を叩かれた。
「あ、ミーちゃん! タマ! 久し振り―」
振り返ってみると、そこにいたのは私の幼馴染のミケとタマだった。
「ルシアちゃん久し振りニャ! 中々帰ってきてくれないから寂しかったニャ~」
「ミーちゃんの方から来てくれても良かったのに」
「そのつもりだったけど、そんな暇なかったニャ!」
ミケが私に抱きつき、尻尾を振りつつ、ゴロゴロと甘えるように喉を鳴らした。
なにこれ、ミケのデレ期かな?!
普段村にいた頃はどんなに私がひっつこうとしても人前では絶対許してくれなかったのに。私は気が済むまでミケを撫で回していると、タマが控えめに話しかけてきた。
「タマも久し振り、ってほどでも無いかな?」
「そ、そんなことないよ。充分久し振りだよ……。あ、腕輪付けてくれてるんだね。ゆ、浴衣姿も、き、きれ……似合ってるよ」
「へっ……?」
私はタマに褒められて、以前にも感じた胸がキュッとするような不思議な感覚を覚えた。
胸を抑えて首を傾げながらその理由を考えようとして、タマとミケが一緒に居る事に意識が移り、すぐに考えるのを止めてしまった。
「あぁ、なるほど……。ふふ、ありがとね。タマもカッコいいよ! でも幼馴染とはいえ、こーんなに可愛いミーちゃんの前で他の女の子を褒めるのは感心しないなぁ。ほら、ちゃんと褒めてあげないと!」
私はニヤニヤと笑いながら、タマがミケに向ける気持ちを知っている私は、ぼかしながらもタマの不手際を指摘した。
すべてまるっとお見通しよ! 『ルシアは可愛いね、でもミケの方がもーっと可愛いよ!』でしょ?
「えぇ……? あ、ああ、ええと。ミケもよく似合ってるよ。可愛いね」
「さっきまで一緒に居て今更じゃないかニャ? それよりもルシアちゃんのお友達を紹介してほしいニャ」
あちゃー、タイミングが遅かったかぁ。
私は顔に手を当ててため息をついた。見るとローラも私と似たような仕草をしていた。ローラもそう思うよね? まったく、タマは女の子の扱いが分かってないんだから。
でも、ローラはなんで私を見ているのかな?……あぁ、早く紹介しろっってことね。
ローラに促されて私はお互いに自己紹介を済ませ、一緒にお祭りを回ることにした。
ミケはシャロやローラの冒険者としての知識に興味があるらしく、しきりに冒険話をねだっていた。
2人共満更でないらしく、少し自慢げに私と出会う前の話も織り交ぜながら様々出来事を語って聞かせていた。
ベルとアーシアはもっぱら興奮して揺れるタマの尻尾の方に興味があるらしく、なんとかして触れられないかと視線を右左と揺らして狙いを定めている。なんか猫じゃらしに戯れる猫みたいだなぁ。
私は興味なさそうにしながらも、私と出会う直前に別れたという元『フォー・リーフ』のメンバーの話が出ないかと聞き耳を立てていた。彼女達は普段頑なにその話をしようとしないのだ。
しかし、口を滑らしそうにない2人に諦めた私は、今度はタマに、ポチと一緒に居なかった理由を尋ねてみた。
ポチは空気読めないから、2人きりになりたいと思ってるだろうタマに、無理矢理でもついて来てると思ったのに。……まさか、ポチのくせに成長しているというのか。
「あ、ああ。それは違うよ。ポチは『用事がある』って言って、昼前に一人山に駆けて行ったんだよ。今日は狩りもないはずなのにね」
「ポチのことだから『あー! 弓を忘れてきちまったぜ!』とかじゃないの? 昔っからおっちょこちょいだからね」
「おっちょこちょいで悪かったな、馬鹿ルシア」
「わひゃっ?!」
ちょうど噂をしていた本人の声が急に後ろから聞こえたので、ビックリして変な声を上げてしまった。
急いで振り返ると、そこには久々に見るポチの姿があった。……またちょっと背が伸びた?
気を取り直して話しかけようとすると、ポチの後ろに若草色のローブを羽織ったおそらく女の子が佇んでいるのを見つけた。間違いなく村に住んでいる子ではない。
私が不思議そうに視線をポチからその女の子に移すと、それを敏感に感じとったのか、女の子はヒョイとポチの後ろに隠れてしまった。
「はっ!? ポチ、まさか用事って……誘拐とか……」
「ちげぇよ?! シアは山に一人で住んでて、せっかくの祭りを見せてやろうと思って連れてきたんだ!」
「(コクコク!)」
シアと呼ばれた女の子もポチの言い分に必死に頷いていた。
「へぇー、山に一人で住んでるなんて私の師匠みたいだね。シアちゃんって言うのかぁ。私はルシア、よろしくね」
「(コクコク)」
「大変じゃない?」
「(フルフル)」
『大変ジャ無イワヨ? 私ニハ頼リニナル子達ガ沢山居ルカラネ!』
先程から首を振るだけで答えていた彼女から急にカタコトの声が聞こえてきた。見るとローブの陰から1等身のまん丸なゴーレムらしきものが覗いていた。
なにこの某大食いの星の戦士みたいな子は?
「ああ、シアは木属性魔法の使い手なんだと。それはゴーレムで錬成で作ったらしいぜ」
「へぇ! それは凄いね! 私、木属性魔法を使える人と初めて会ったよ。ゴーレムさんもよろしくね」
私はニコリと人差し指を差し出し、それを器用に掴むゴーレムと握手をする。
すると下からシアの手が伸びてきて、同じように私の人差し指をちょこっと掴んで握手をした。
なにこの可愛い生物! ……私って幼女が集まるパワーでもあるのかな?
シアのあまりにも可愛い仕草に相貌を崩す私を見て、シアも緊張がほぐれたように笑ってくれた。
「よし、じゃあ今から皆でお祭りを楽しも……」
「ル、ルシア。ちょっといいかな?」
テンションの上がってきた私は今すぐにでも皆と遊ぼうと駆け出そうとしていたが、それを遮るようにタマが私を呼び止めた。
「ん? どうしたの?」
「う、うん。その前に……ポチ、シアちゃんと皆を連れて先に会場を案内してくれないか?」
「……ちぇ、わかった。でも、今日だけだぞ」
「ありがとう」
「えっ? えっ?」
ポチはシアを皆と合流させて、そのまま皆を別の屋台へと連れて行った。
ミケやシャロがこちらを見ていたが、私が困惑気味に視線を合わせると、どちらも寂しそうにニコリと笑い、その後二人は顔を見合わせて肩をすくめると歩いていってしまった。
その場に取り残されたのは私とタマの2人のみだ。私は普段と少し様子の違うタマに言いようのない感覚を感じつつ、理由を尋ねた。
「……ルシア。5年前のあの日、相談したあの事について話したいことがあるんだ。この後、秘密基地まで来てくれないか?」
それだけ言うと、タマは踵を返して走っていった。
秘密基地のある方向へ。
私は突然の事についていけない頭を必死に働かしながら、とりあえず思った事を呟いた。
「……え、一緒に行かないの?」
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




