表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/144

エピソード間話 ポチの狩猟生活とエルフの子

ルシア達について行かなかったポチサイドのお話です。実はこっそり新キャラが登場します。

サイドストーリーなのに本作中最も長い話とか、私ポチ好きすぎか!

ごめんね? 頑張って分量減らしたんだけど。

※ しまった書くの忘れてた! このお話は狩猟における残酷なシーンが少量含まれています。

 

 ――これはルシアが護衛クエストでボルカ村に立ち寄る前日のお話。


 俺はポチ。ボルカ村に住む12歳だ。

 普段は皆のために、近所の山に潜ってイノシシや鹿なんかを仕留めてる。いわゆる猟師ってやつだな。厳密には成人してないから猟師の卵らしいけど。だが、大人と同じように働けてるなら俺ももう大人ってことだよな。子供扱いすんのは止めてほしいぜ。


 俺は猟師のまとめ役であるブルの親っさんに気に入られているらしく、良く狩りに連れて行かれる。別に狩りは好きだから良いんだけどさ、親っさんはちょっと人使いが荒いんだよな。

 今も親っさんの命令で逃した鹿を追ってる最中だ。たしかに俺は猟師の中では足は速いほうだけど、鹿を追うのはかなり大変なんだぜ?


 俺はいったん立ち止まり、荒れた地面から鹿の逃げた痕跡を探す。落ち葉にまぎれて分かりにくいが蹄の痕がくっきり残っている。足跡の深さが均一でさらに歩幅から考えると、俺から逃げ切れたと思って走るのを止めてるな。


「気を抜きやがったな」


 俺はニヤリと笑って背中から狩猟用の短弓を外して手にする。ここからは俺かヤツ、どちらが先に見つけるかの勝負だ。


 足跡の向かう方向を確認し、物音がしないように静かに素早く移動する。自然の中で音を立てない、という行為はかなり難しい。

 初めて山に入った頃は、足音や葉擦れの音を隠せず親っさんに怒られたっけ。



 ――見つけた。



 そんなことを考えていると、一頭のメス鹿がのんきに草を喰んでいるのを見つけた。間違いない。俺が追っていた獲物だ。


 俺は逸る気持ちを押さえて弓に矢をつがえ、確実に仕留めることの出来る射程まで移動する。野生動物は気配に敏感だ。逸って殺気を出すと、それを察知されて逃げられる。

 それに、流石にこれ以上追いかけるのは魔物の生息地に近づいてしまうから勘弁して欲しい。


 ゆっくり弦を引き、弓を張り詰める。気づかれるギリギリの間合い。数年の経験で見えてきたその感覚で見極めて俺は矢を発射した。



 ――ドスッ



「きゅぃぃいいいい!?」


 矢が左後ろ脚に突き刺さり、その痛みで鹿が雄叫びをあげる。俺は命中したことに喜ぶことなく、次の矢を準備しながら走って鹿に近づく。やじりに麻痺薬を仕込んではいるが、一撃だけならすぐに逃げられてしまうからだ。


「シィッ!」


 鹿が逃げようと動き出す前に、2射目が鹿の首元近くに突き刺さった。

 そこまで確認すると俺は手に持っていた短弓を地面に放り、腰元から片手棍棒を引き出して暴れる鹿の頚椎を狙って振り下ろした。


 コキュッと頚椎を損傷させた感触を手で感じた。その途端、先程まで暴れていた鹿がみるみる力尽きて地面に伏せていく。

 俺は即座に鹿を仰向けにさせ、棍棒から止め刺し用の短剣に交換して鹿の心臓部に刃を勢いよく差し込んだ。感触を確認してそのままグルリと刃を捻る。


 ビクリッ!と一瞬身体を硬直させた鹿は、鳴き声を上げることもない。ここで魔物だったならば魔石に変じるだけだが、獣は違う。ゆっくりと鹿の胸部から温かな血が流れ出し、それに比例するように身体からゆっくりと体温が抜け、目から輝きが失われてゆく。


 間近で看取る俺にはそれがよく分かる。俺達が生きるためとは言え、最初に獲物を仕留めた時は俺は泣いたっけ。

 猟師の皆は似たような経験があるのか、誰も俺のことを笑わなかったな。


 俺は獲物に対して両手の掌を合わせ、そっと目をつぶって心のなかで感謝を告げた。

 昔、ルシアという幼馴染に教えてもらった獲物の供養の方法だ。



『私達は動物の命を奪って生かせてもらってるんだよ。自分勝手でごめんなさい、命をありがとう、大切に頂きます、って気持ちをこれで伝えてるんだよ』



 その行為自体を初めて聞いたときには意味がわからなかったが、俺が獲物を仕留めた時、手を合わせてみると、自然とルシアの言ったことが理解できた。

 以降、俺がこの行為を欠かすことは無くなった。


「……さて。とりあえず血抜きはするが、どうやって持って帰っかな」


 供養を終えた俺は、鹿の頸動脈を短剣で斬って血抜きを開始しながら独りごちる。数刻もすると死後硬直が始まって運ぶのが困難になる。

 せめて内蔵を抜いておきたい。鹿は草を食う生き物だから臓器がデカく、抜くとかなり軽くなって運びやすくなる。内臓は腐るのが早いしな。


「問題は……匂いに寄って来そうなんだよなぁ」


 俺は周囲を観察する。大分魔物の生息地に近づいてしまったが、今の所魔物の気配はない。だが、油断は禁物だ。今でさえ血抜きをして血の臭いを周囲に充満させてしまっているんだから。


「仕方ねぇ。かなり重いが、ある程度血抜きが終わったら担いで皆と合流すっか」


 この鹿は俺の体重の倍以上はある。普段の狩猟でSTRは鍛えてるが、それでも山道を歩くとなるとかなり厳しい。

 俺はこの後の苦労を想像してはぁ、とため息をつき、血抜きが終わるのを待った。


 -----◆------◇-----◆------


「ぐぅッ、さ、流石にキチィ」


 俺は血抜きの終わった鹿を首に掛けるように担いだ。血抜き中に鹿の毛皮部分に付いているノミは出来る限り除去しておいた。

 俺の毛に移られたら堪らねぇからな。


 俺は鹿の重さにフラつきつつも、元来た道へと戻るために歩き出した。


「死後硬直前に内蔵抜かないと食える部分が少なくなるんだよなぁ。なんとか早く合流できると良いんだけ、ど!?」


 辛さを紛らわすために独り言を呟いていると、突然前方の茂みがガサガサと動き始めた。俺は一旦鹿を地面に置き、短剣を引き抜いて戦闘態勢に入る。


 茂みから現れたのは3体のウォーウルフだった。既に相手も戦闘態勢に入っており、隊形を組んでいる。


「チッ!最悪だぜ。よりにもよってウォーウルフかよ。しかも3体。俺1人じゃ勝てねぇ」


 数年前に村で戦ったウォーウルフの事が嫌でも思い出される。あの時はミケとルシアが的確に後衛を果たしてくれたから何とかなったが、その2人はここにはいない。

 こうなると集団戦の得意なウォーウルフの方が圧倒的に強者だ。


「鹿をくれてやれば何とか見逃して……くれるわけねぇよな」


 ウォーウルフの視線は今は俺に注がれている。仮にここで鹿を置いて逃げたとしても捕捉されるのが目に見えるようだ。


「くそッ……来るなら来いってんだ、狼野郎!」

「グルルルッガウ!」


 俺の声が掛け声になったのか、2体のウォーウルフが俺に襲いかかってきた。山の斜面という足場の悪い中、必死に挟撃されない立ち位置を探して応戦するが、多勢に無勢。直ぐに避け損ねた爪や牙の攻撃によって俺は傷だらけになっていく。


「アゥオオオン!」


 明らかに後衛のリーダーらしきヤツが何らかの指示をしている。賢い奴らだ。

 俺は気づくと後退しており、崖まで追い詰められていた。


 それを見た2匹のウォーウルフは一斉に俺に向かって涎を垂らしながら駆け寄ってくる。避けることは出来ない。



「クッソ……俺、ここまでなのかよ」



 父ちゃん、母ちゃん。すまねえ。



 ルシア……タマ…ミケ…俺は……




『何? 諦ラメルノ? マダ死ンデ無イノニ?』

「ッ!?」




 眼前に迫ったウォーウルフの牙を受け止めたのは、鈍色のボディをした自動人形ゴーレムだった。ゴーレムはその硬度で牙を受け止め、無理やりウォーウルフを横殴りにして攻撃している。


 ウォーウルフ達は突然現れたゴーレムに驚いた様子だったが、直ぐに後衛のヤツも参戦し、3体で連携攻撃を仕掛けてきた。


『アー、モウ! 鬱陶シイワネ! 折角カッコツケテ助ケニ入ッタンダカラ、サッサト倒レナサイヨ!』


 ゴーレムは無茶苦茶に腕を振り回しているがその動きの遅さ故に全く攻撃が当たらないようだ。

 俺は状況が上手く飲み込めてなかったが、とりあえずゴーレムを助けるために武器を短弓に切り替え、ウォーウルフ達が連携できないように動きを封じるよう立ち回った。


 ルシアがこの場にいたら、『そんな動きが出来るなら普段から愚直特攻するの止めなさいよ!!』とか言われそうだな。俺はアイツらを信用してたから特攻してたんだが。


 何はともあれ、俺の参戦によってウォーウルフの連携が崩れ、ゴーレムの攻撃が当たるようになってきた。ウォーウルフ達は蓄積されるダメージに危機感を察したのか、リーダーの個体が一鳴きすると俺の元を去っていった。


「助かった……のか?」

『チョット! 私ガ助ケタノヨ。マズハ私ニ感謝シナサイ!』


 こちらを向いて踏ん反り返るようなジェスチャーをするゴーレム。

 正直、さっきから状況は全くわかっていない。


「あー……、助けてくれて礼を言うぜ。その、ゴーレム、さん?」

『待チナサイ! コノ子ハ私ノ創造物ヨ。本人ニ感謝シテ!」

「本人何処にいるんだよ?」

『コッチヨ!』


 ゴーレムはそう言うとズンズンと歩いて行く。時折チラチラと俺がついてくるのか見てくる。随分芸の細かいゴーレムだな。

 ってか、ゴーレムって古い遺跡で見つかることがあるって昔ミケが言ってたような気がするけど、使役とか出来るのか? さっきは『創造物』だとか言ってたが。


 考えても埒が明かないので、俺は放り出していた鹿を抱えてひとまずゴーレムの後をついていくことにした。


 少し歩くと斜面に洞窟が掘られており、ゴーレムがその前で停止した。


「ここが俺を助けた本人のいる場所ってか?」


「――は、はぃ……そうでひゅ」


 蚊の鳴くような小さい声でそう答えたのは、洞窟から少しだけ顔を出してこちらを見ていた気の弱そうな耳の長い少女だった。


「お前がこのゴーレムの主か?」

「(コクコク)」

「……エルフ、か?」

「(コクコク)」

「お前は男か?」

「(フルフル)」


 喋れよっ!!

 ゴーレムで散々喋ってたじゃねぇか!


「とりあえず、ありがとな。さっきは助けてくれて。俺はポチ。お前の名前は?」

「……です」

「すまん。聞こえなかったからもう一回教えてくれ」

「……アです」


 さっぱり聞こえねぇ!!


 俺が困った顔をしているのを察したのか、少女はワタワタと若草色のローブから結晶を取り出して両手で握り込んだ。


『私ノ名前ハ、フォーレンシア=エル=アルドラド。70歳ノ大人ナノ。特別ニ『シア』ッテ呼ンデモ良イワヨ!』


 突然ゴーレムがカタコトの言葉で話しだした。もしかしてあの結晶で操ってるのか。なんかキャラ違くね? つうか70歳って!? ……ってそうか。エルフはたしか長命なんだっけか。


「あー……、じゃあシア。ヨロシクな!」


 俺はシアに身の上話……というかシアが操作しているゴーレムから聞いた。


以前は両親と一緒に住んでいたが、数年前に出かけたきり帰ってくる事がないこと。両親が帰ってくる可能性があるのでずっと1人で住んでいること。木属性魔法が使えるので生活に不便はないこと。


「なるほどなぁ……。俺を助けてくれたのはゴーレムに生活に必要な物を取りに行かせてたってとこか?」

「(コクコク)」


 どうやら俺はかなり運が良かったみたいだ。もしシアがゴーレムで出かけてなければあのまま死んでたってことか。そう思うと背筋がゾッとなった。


 日が沈んできたのか、洞窟の中に暗い影が落ち始める。俺はハッと今の時間を思いだした。そろそろ帰らないと日が完全に沈みそうだ。


「俺、そろそろ帰らなきゃ。皆が心配してるかもしれねぇ」

「(フルフル)」


 シアは俺の服を恐る恐る、けれどもしっかりと掴んで首を振って否定した。


『スグニ魔物ノ動キガ活発ニナルワ。今出テ行クノハ自殺行為ヨ?』

「ぐっ、だけど俺は帰らねぇと泊まる所もねぇから……」



『アナタノ目ハ節穴? 泊マル所ナラ此処ニ在ルジャナイ!』



 明朗快活な台詞とは裏腹に顔を赤らめて伏し目がちなシア。本当に話してる奴同じなのか疑わしく思っちまうよな。


「良いのか?」

「(コクコク)」


 女子とひとつ屋根の下(洞窟だけど)という状況が何とも複雑だが、俺が意識しなけりゃ良いんだ。俺はシアの好意に甘えて、一晩泊めてもらうことにした。

 俺の返事を聞くと、ぱぁっ!と顔を輝かせて頭を縦に振る姿が何とも微笑ましい。1人で生活してて寂しかったんだろうな。


 それから何事もなく夜が更け、俺達は今日狩った獲物を解体して作った料理で満腹の中、眠りについた。


 ……言っとくがやましい事は何も起こってないからな。


 -----◆-----◇-----◆-----


 翌朝、チュチュンの鳴き声で目覚めると、俺の胸元には丸まったシアの身体が密着して眠っていた。

 ギョッとして咄嗟に離れようとしたが、俺の上着をしっかり掴んで眠っているので引き剥がすことが出来ない。


 まいったなぁ。


 結局、陽が完全に登るまで俺は洞窟から離れることが出来なかった。


 俺が洞窟を出ていく時、シアは少し寂しそうにしていた。

 ついてくるか、と聞いてみたがシアはフルフルと首を横に振る。両親を待つ、という決意は強いようだ。


 ……仕方ねぇな。また顔を出してやるか。俺は、肩をすくめながらそう考えたのだった。


お疲れさまでした。

楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ