エピソード039 私達、緊急クエストで氷竜退治です3
緊急クエストも最終段階です。ソフィア師匠、強すぎませんかね? ま、師匠だから良いよね!
大変な事になった。
シャロとタマが氷竜の尻尾に叩きつけられ、2人共吹っ飛ばされた。
私は思わず魔法の詠唱を止めて助けに行こうとしたが、寸前で思いとどまる。
今の私の役割は一刻も早く拘束魔法を完成させ、氷竜の動きを封じること。
結局の所、それが出来ない事には事態はまったく好転することはないんだ。
距離が離れているので詳しいことはわからないが、ローラが救助に行ってくれたから無事であることを祈ろう。
傍ではソフィアが私の護衛を務めてくれている。
先程までよりもソフィアが近くにいるので分かったことがある。ソフィアから尋常な魔力のうねりを感じることを。
まさか、先程まで行使していた魔法とは別に同時並行で魔法を詠唱していたというのだろうか。
『多重詠唱』
それはソフィアの講義で聞いた技術だ。
魔法を同時並行的に練り上げることで、魔法による連続攻撃や複合魔法を即座に発動することを可能とする。しかしその難易度は規格外で、高位の魔道士でも同系統魔法を2つ程度、というのが精々だという。
しかしながら、ソフィアから感じるソレはその程度には収まらない何かを感じる。
おそらく、氷竜の角を折るための魔法を戦闘が開始した頃からずっと練っているんだろう。
私は改めて自分の師匠が類稀なる魔法使いであることを再認識した。
「内円の魔法陣、完了しました! 残り1工程です!」
私も負けていられない。自分の仕事はきっちりこなす。
「!! 見るのじゃルシア! シャロとタマチが氷竜に向かったのじゃ!」
ソフィアの言う通り、先程吹き飛ばされた2人が既に戦闘に復帰していた。
しかも、その動きは先程までのそれとは桁が違う。
タマの短槍は折れたはずなのに、今は見たこともない美しい輝きを見せる短槍を光の軌跡を描きながら振るっている。
攻撃をいなし、突く。薙ぎ払う勢いで身体を一回転させ、近づいた所で鱗の薄い部分を強烈な一閃。
先程までと違い、光に貫通効果があるのか、一突き毎に衝撃が走る。
一部の淀みもなく繋がっていく光の帯はタマの卓越した槍捌きを物語っており、戦闘をしているはずなのに遠目から見るとまるで神聖な舞を踊っているようにも見えた。
シャロに至っては速度とパワーが異常だ。
氷竜がシャロの動きに全く追いついていない。一体どれだけバフを盛ったんだろう。
苛立った氷竜が氷塊のブレスをシャロに吐き出すが、それすらも全て見切って紙一重で躱し、強烈な連撃を氷竜に刻み続けている。
氷竜の身体には今や隠すことの出来ないほどのダメージが蓄積されている。
「ルッシー! まだ魔法は完成しない? 2人が懸命に戦ってるけど全快してないし、常に全力状態だから長くは続かないよ!」
戻ってきたローラはすぐに矢筒から矢を取り出し、前衛の2人のフォローに集中する。
ソフィアも火属性魔法を放ち、援護を始めた。
矢筒を確認するとローラの矢も残り少ない。
「あともう少し……」
リミットが近い。
ここで頑張らないでいつ頑張るっていうの?
冷静に――堅実に――皆を支え導く一撃を!
「できた!」
氷竜の足元には魔法の完成を示す刻印が鮮やかに刻まれていた。
「2人共、下がるのじゃッ!!!」
「「!!」」
ソフィアの大声に刻が来たことを理解したシャロとタマは急いで氷竜から――厳密にはその足元に描かれている魔法陣から逃げ出した。
「好き勝手してくれたお礼だよッ! 重力の檻よ、我が敵の動きを母なる大地に縛り付け、拘束せよ!【ジオ・グラビティ・バインド】」
ちょっと興奮しすぎて無意識に恥ずかしい台詞を言ったような気がする。
しかし、魔法の効果は上々。
開放された重力拘束魔法は対象である氷竜を逃さずきっちりと捕縛し、地面に縫い付けた。
氷竜が暴れて逃れようとするが、この魔法は一度完成してしまったら簡単には抜け出す事はおろか動くことすら難しい。
伊達に地属性最上位魔法と呼ばれているわけじゃないよ!
私の覚えている魔法の中では、肥やしになってることの方が多いけど。
「ルシアよ、良くやったのじゃ。後は任せておれ」
そう言ってソフィアは、自身の持つ七星の杖を高らかに掲げ宣誓する。
「祖は土の大精霊ジオニカ、剣を成し、我の敵を切り裂く矛とせよ」
「祖は風の大精霊エアロニカ、剣に纏いて刃と成し、我の敵を切断せよ」
「祖は火の大精霊ボルカニカ、刃に纏いて豪炎と成し、我の敵を滅却せよ」
「祖は水の大精霊ヴォダフニカ、剣を振るう腕を成し、我の敵を薙ぎ払え」
「多重詠唱、複合オリジナル魔法【エレメンタル・スラッシュ】!」
ソフィアから解き放たれた魔法によって構成された業火を纏う剣が、同じく氷を突き破り湖から巻き上げられた水で構成された巨大な腕によって一閃され、氷竜の2本の角は呆気なく根本から切断、宙を舞った。
氷竜は角が切断された途端、ビクリと動きを止め、弱々しく氷の上に倒れ伏した。
す、凄すぎる。
魔法の凄さはもとより、氷竜の竜角のみを断ち切るその正確さ。
これが皆の言う『4色の魔法使い』、ソフィアの真骨頂なんだ。
2つの多重詠唱なんて比べ物にならない。これは4属性を一つに束ねた多重詠唱複合魔法だ。
一瞬、その魔法で氷竜ごと真っ二つにした方が良かったんじゃないだろうか、とか思ったがそんなことを考える余裕はなくなってしまった。
魔法を発動し終えた瞬間、ソフィアがバタリと前のめりで倒れてしまったからだ。
流石に消耗が激しすぎたのかもしれない。
私はソフィアの看病をローラと、こちらに駆け寄ってきたシャロ、タマに任せた。
本当は強敵との勝利を皆と喜びたい所だけど、まだ終わってない。
私は拘束魔法を解除した後、皆と離れて氷竜が倒れ伏した場所に向かった。
あの竜を狂わせた元凶を取り除かないと、この緊急クエストは完了しないんだ。
氷竜がいたはずの場所に辿り着くと、私ははてと首をかしげる。
あれ、氷竜は何処?
あれだけの巨体が倒れたのに、氷の上にはその姿が見当たらない。
いや、正しくは大質量の物体が倒れたような形跡はあるけど、その姿が見当たらない。
まさか逃げた? でも何処に?
「んー?」
私はその形跡の中央に何か――いや、誰かが蹲っているのを見つけた。
もしかして私達の他に人がいて巻き込まれたんだろうか。
私は慌てて近寄ってみると、先程の私の考えは間違っていたことに気づいた。
その人物は、見た目私より少し歳下くらいの女の子だった。
雪のように白い肌に透き通るような青緑色の髪と瞳。
身体には非常に布切れを申し訳程度に纏っているだけで、色んな所が丸見えで何とも目に毒だ。
しかし、そんな事は些細なことだった。
トカゲのような尻尾が生えた彼女は、まるで先程まで戦闘をしていたかのように体中が傷だらけで、頭部には切断された2つの角の残骸らしき痕が見えた。
まさか――。
「あなた、まさかさっきの氷竜なの……?」
「ヂ、近寄ルナッ! ニンゲンメ!……グッ、ウウウウ?!」
彼女は精一杯威嚇しながら、何とか後ずさろうとする。
しかし、少し動いた所で胸を押さえてうめき出した。見ると、胸の中心に何やら黒い魔石のようなものが埋め込まれている。
明らかに怪しいね。
この禍々しい黒曜石のようなものが、ソフィアの言っていたこの子を暴走させた正体か。
「ねえ、指輪さん。この子の胸についた石って取り除く事できないかな?」
『……久々に呼ばれたと思いましたら、なかなか難しい質問をしますね、マスタールシア』
「……別に忘れてたわけじゃないよ? いざという時の頼りになるお助けキャラって感じだよ!」
【聖環・地】からなんとなくため息のようなものが聞こえた気がした。
流石にヨイショしてるのがバレたか。
『おそらくその石は氷竜の身体と同化しています。マスタールシアの持つ【農耕祭具殿・円匙】ならば、身体には傷つけず分離することは可能かもしれません』
「なるほど!」
私はアドバイスの通り、左手に【農耕祭具殿・円匙】を呼び出して構えた。
「グッ! ニンゲン! マダ我ヲイヂメルノカ!!」
「ちょっと動かないで。危ないから」
私は円匙の特殊スキル【掘削】を発動させた。
このスキルは、私が指定した範囲を正確に掘り返して抽出する事が可能な便利スキルなんだけど、如何せん鉄以上の硬度がある場所では使用不可なんだよね。
だから、仮に竜モードの時にこの石が見えてたとしても、龍鱗に守られた状態ではこの方法は使えなかった。
問題は、この人肌にしか見えない状態でも、私みたいにDEFの恩恵でカッチカチ状態なら結局使えないかもだけど……ターゲットとして指定できている以上、大丈夫かな。
一瞬、お肉ごと抉っちゃうスプラッタな絵が頭をよぎったが、私の相棒はしっかりと意を汲んでくれ、石だけを取り出してくれた。
石が身体から離れた途端、彼女が纏っていた嫌な感じが消え、気を失って倒れた。
「あー……。これ、連れて行かないとダメ、だよね?」
さっきまで戦った相手とは言え、人型の、しかも女の子になられてしまうとなんとなく罪悪感が生まれてくる。
自分でも甘いとは思う。こういう所はまだ前世の記憶を引き摺ってるのかなぁ。
とりあえず、こんな所に置いていくわけにはいかない、かな。
私は元氷竜の女の子を背負い、皆のもとに戻ることにした。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。
※気づけば総合PV15,000, 総合ユニーク2,000, ブクマ50オーバーしてました! いつも読んで頂きありがとうございます!密かに小躍りしています笑
※いやぁ、誤字報告めっちゃ感謝です。投稿前には見直してるつもりでも駄目ですね(目逸らし




