エピソード037 私達、緊急クエストで氷竜退治です1
目的地であるレーベン村の近くで氷竜出現。
暴走状態で非常に危険。
ソフィアからもたらされた情報を基に、出来る限りの準備を整えた私達は、夜明けを待って一路村へと急いだ。
竜種。
私の前世では架空の生物だが、ファンタジー作品では最早定番中の定番とも言える存在。
その姿形や種類は多岐に及ぶ。
しかし、強い。
これだけは共通しており、それはこの世界でも同じ事だ。
体表を覆う竜鱗は生半可な魔法や攻撃を通さない。
強靭な肉体とその質量から繰り出される爪や尾、顎門の攻撃は、普通の人間など軽々引き裂き、吹き飛ばす。
竜の多くが飛行能力を持ち、何処へ行こうと逃れる事はできない。
そして、ブレス攻撃。
竜種が持つユニークスキルと言われており、凶悪の代名詞として名高い攻撃。
体内の魔力を体内の特殊な器官で圧縮して放出する、物理と魔法の両性質を備える凶悪な技だ。
道中、シャロに竜種全般の事を教えて貰っていた私は、ブレス攻撃の事を聞いた途端、顔を苦々しく歪ませた。
「私、魔法攻撃はちょっと不味いかな……」
物理的な攻撃に関してはスキルや加護による補正値によって今や怖い物なしのレベルに至りつつあった。
しかし、依然として魔法攻撃に対する対策が少ないのが壁役としての大きなウィークポイントである事は変わらなかった。
以前グレンと戦った際は、相手が火属性であったため何とか対策を練ることができた。
しかし、今度の相手は氷竜。
属性としては水である。
水の質量攻撃は物理で何とかなるかもしれないが冷気で凍らせる、などの効果が有れば、その時点で防ぐ手段がお得意の【聖環結界】しかなくなってしまう。
「とっておきを使えば何とかなるかも知れないけど……」
『攻撃が最大の防御』理論なら、と私は考える。
私のとっておきの複合オリジナル魔法、【メテオ・ストライク】。
地形をも変形させる威力故に、出来上がった途端御蔵入りになってしまって使う機会がついぞ訪れない、私の切り札。
媒体となる隕石は持っているので使う事は出来るが、今ではMPに余裕は出てきたとはいえ消費MPがバカ高い【ジオ・グラビティ・バインド】を使用する上に、石は1つしか持ってないので一度しか発動できない。
もし外したりしたらその惨状は目も当てられない事になるだろう。
使う場面は慎重に考える必要があると思う。
ソフィアとちゃんと相談しないと。
「あたしも氷竜と戦った事なんて無いから分からないけど、ギルドに保管されてる書物ではたしか、氷塊を発射するブレスで物理に寄ってるらしいわよ?」
勿論、書物の情報が正確かどうか分からないけど、とシャロは付け加えた。
もしそれが正しければ、私にとっては随分助かる。
少しは光明が見えたかな。
そうこうしていると目的の村が見えてきた。
本来の護衛クエストならここで喜ぶ場面なのだろうけど、生憎私達は更に難関なクエストが控えている。
村の入り口には、1人の女性の姿があった。
「師匠!来てくれたんですね」
私はその姿を認めると走り出してソフィアに抱きついた。
「これこれ、皆の前であまりはしゃぐでないのじゃ」
そう口では言っているが、ソフィアの口元は少し緩み、抱きついた私の頭を優しげに撫でてくれた。
「ルシア、そのお方って……」
「私の魔法のお師匠様だよ。ソフィアって言うの」
シャロはソフィアの姿を認めると、ワナワナと震え出した。
「もしかして、ソフィア=キャンベル様?!『聖環』を普及させ、複数の属性魔法を自在に操る『4色の魔法使い』の?!」
「まぁ、そうじゃの。お主も魔法使い、いや、魔法剣士ってところかの?――ルシア、いい加減離れて皆を紹介して欲しいのじゃ」
私はソフィアの温かさを名残惜しみながら離れた。
その後、全員がソフィアと簡単に挨拶を交えたところで対氷竜の対策会議が始まった。
メンバーは実際に戦闘に参加する予定の私、シャロ、ローラ、タマ、ソフィアだ。
アーシアは戦闘では全く役に立たないので『聖環』の中に返しておいたし、ニンショウ達は危険なので村に残ってもらうつもりだ。
「まず、件の氷竜の様子をわしが見てきたので報告するのじゃ。結論から言うと、あの氷竜はおそらく何者かに操られておる」
「え? 竜種って魔物では最強クラスなんですよね? 操られることなんてあるんですか?」
「卓越した闇属性魔法の使い手がいればの。あと今回に関してはあの氷竜に因るもの、とも言えるのじゃ」
話を聞いてみると、闇属性魔法には『相手の精神に侵食して狂わす』魔法や、『相手の理性を忘却させる』魔法など精神干渉系の魔法が多いらしく、卓越した術者が強力な魔法媒体を併用すればたとえ魔法に強い竜種であろうと制御下に置ける可能性もあるとのこと。
また、件の氷竜はまだ幼体らしく、成熟体程のMNDを有していないため、比較的難易度は低くなるそうだ。
「本来ここらで竜種が生息しておるのはドラム山脈じゃ。そこから幼体が離れておるという事はハグレ種か、あるいは好奇心で里を出てそのまま利用された、といったところじゃろうの」
「幼体という事はそこまで強くなかったり?」
ローラが楽観的な意見を出してみた。
最も、ローラ自身がそんな事欠片も考えていないようだったけど。
「とんでもないのじゃ。むしろ力が暴走しておるのでそこらの成熟体の竜種よりも質が悪いのじゃ」
そりゃ、とんでもない力を持つ竜種でも、理性があれば住処や自然を破壊しないために多少は力を抜くはずだけど、理性が溶けている個体じゃ全力で攻撃してくるからなぁ。
「時間が経てば魔法の効果が切れて正常に戻る可能性はないですか?」
今度はシャロが消極的な対策を提示してみた。
確かに、魔法の効果も永続ではないから、使われているだろう媒体が効果を喪うと正常に戻ってもいい気がする。
でも……。
「確かにの。しかし、既に氷竜は湖の周囲を半壊させておる。少しでもこちらに移動してきた時点でこの村どころか周囲に甚大な被害が出るのじゃ。魔法の効果がいつ切れるか分からんので待つ、というのは得策ではないのじゃ」
しばらくすれば、この惨状が王都に届いて討伐隊が編成されるかもしれないけど、それまでにこの村が存続している可能性は限りなく低い。
存続している可能性は限りなく低い。
結局、この村を守るためには氷竜を倒すか、或いは精神干渉魔法を解いて正気を取り戻すしか道はない。
「師匠!ここは一つ【メテオ・ストライク】でドカンと……」
「アレはお蔵入りと言ったじゃろうが! 村周辺の生態系を回復不能にするつもりかの!?」
「はぁい……」
わかってはいたけど、微かな可能性を捨てきれなかった。
そろそろ切り札というか死蔵魔法になりそうなので、一発ぶちかましてみたかった。
皆がちょっと引いてるのが悲しい。
「そ、それでは、氷竜と戦うための作戦は何かあるのでしょうか……?」
タマが手を上げて遠慮がちに質問した。
うーん、とは言っても今回私もこれと言った作戦が思いつかない――
「あるのじゃ」
「「「「え、あるの?」」」」
「単純な作戦なのじゃ。ルシアが拘束魔法を放つ、そして押さえつけた氷竜の角を折るのじゃ」
「角、ですか?」
私は首を傾げた。
何で角? そこが操られている原因部位なのだろうか。
「竜種は膨大な魔力の制御を角を媒体にして行っておるのじゃ。なので角を一本でも折ればかなり弱体化し、しばらく動けなくなるのじゃ。その間に問題となる精神干渉魔法の媒体を破壊すれば良いのじゃ」
なるほど。確かに言葉にすればとても簡単な方法だ。
「あ、あの。仮にルシアが氷竜を拘束できたとして、その、角をどうやって折るんですか……?」
「それはわしに任せるのじゃ。そのための特別な装備もちゃんと整えてきておる」
ソフィアは普段持ってる杖とは違い、特別製らしき杖を掲げた。
大樹の木の枝をそのまま杖にしたような趣で、枝の先には7色の宝石が実っている。
よく分からないけど、たぶん強い武器だ、見た目からして。
「ではあたし達は何をすれば良いですか?」
「シャロットとタマチは前衛で、ローレライと私は後衛で攻撃し、氷竜の注意をルシアから逸してほしいのじゃ。今回、ルシアには時間のかかる拘束魔法を使わせるので前衛にさせるのは無理なのじゃ」
「げっ!? ルッシーなしでの戦闘かぁ。これは厳しそう」
「何とかするしかないでしょ! でもルシア、防御魔法はお願いね」
「合点だ!」
全員分の【ジオ・プロテクト】を使ってもMPにはまだ一応余裕がある。
今回は後衛で魔法詠唱に全力を傾ける感じだね。
何なら私が拘束魔法を戦闘で使うのって初めてじゃないだろうか。ちょっと緊張してきた。
「ルシア、ぼ、僕が護るから。安心して」
「うん。私の代わりに皆を護ってね、タマ。任せたよ!」
私の返答にタマはちょっとシュンとしていた。あ、あれ?私、なにか返事を間違ったかな?
その様子をシャロがジッと見てきて、ローラがタマの肩をポンポンと慰めるように叩いた。
「とりあえず、湖に移動後、氷竜と戦闘よ! 皆、気を引き締めていきましょ!」
「「「「おー(なのじゃ)!」」」」
気合の入ったところで、私達は件の氷竜がいる湖に急ぎ向かったのだった。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




