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エピソード029 私、出稼ぎに行く事になりました

第二章も一話明けて、早速の新展開です。


「皆、集まったな」


ある日、ボルカ村の村長グランパは緊急で村の住民達を集め、その全員の前で話し出した。

その中には当然私も混ざっている。


「何だよ村長。俺達まだ仕事が残ってんだけど」


ポチは少し苛立ったように村長の話を促す。

ポチは成長期真っ盛りのようで、顔から幼さが薄れ、すでに私の頭一つ分は大きい。

声変わりも始まったようで、すっかり少年から青年へと成長しようとしていた。


「ポチ、静かにするニャ。話が聞こえないニャ」


ミケは私よりも女性らしく成長していた。

具体的にどこが女性らしいって、私に言わせないで欲しい。


でもウブなのは相変わらずだ。

以前、一緒に沐浴をした時に揉んでも良いかと聞いたら顔をガリッとされた。痛かった。


あの時は何処をとは言ってなかったのに。視線は一箇所に注がれていたけど。

目は口ほどに物を言う、というやつだろうか。

ちょっと露骨すぎたよね、反省してる。


「……はぁ」


ため息を付いたのはタマだ。

タマは驚くほどの美男子に成長した。


性格に合わずワイルドで鼻筋の通った顔。

体型も俗に言う細マッチョというやつで、何処ぞの芸能事務所に所属していると言われても違和感はない。この世界に芸能人いないけど。

前世の私も羨むイケメンっぷりだ。


しかしながら、相変わらず苦労性なのは健在らしい。

今も、ミケに突っかかって口論になりかけているポチとミケを落ち着かせようと間に割って入ったところだ。


折角の美男子なのに若いうちから苦労するとハゲるよ? あれは俗説とか聞いたけど。


「……もういいかね?」


村長が話すタイミングを逃してしまいソワソワしていたので、私は身振りで先を促した。

早く話とやらを聞かせて欲しい。


「では……。ボルカ村にとって重要な話だ。我々の村には……金がない」


うん。知ってる。

貧乏である、というのも正しいが、厳密に言うと自給自足に近い状態で生活しているのでお金のやり取りが殆どない。

強いて言えば、たまに立ち寄る商隊や薬師、王都での作物の売買くらいしかお金を使用する機会はない。


正直、私も異世界に来てほとんどお金使わないのでイマイチ硬貨の種類が分からない。

銅貨とか小銀貨くらいならギリギリかな。


皆は同様に頷くと、村長の次の言葉を待つ。


「先日、王都より各村へ通達が来た。今年から国に収める税金を、金銭を用いて徴収するとのことだ」


ざわ……ざわ……と、周囲がざわめき立つ。


今までも国への税金は存在した。

しかし、パンドラム王国に存在する村々の殆どが、私の村のようにお金が流通していない。

なので、税金の額に釣り合う物を献上することで良しとしていた。


それなのに、急に国は今年から金銭での税金支払いを要求してきた。

無論、私達にはお金がないのでその要求を受けることが出来ない。


「もし、支払えなかったら?」

「村は廃村。ボルカ村は国内の地図から消え失せることになる」


横暴だ!

そんな声が各所から上がる中、私は此度の通達の意味を熟考していた。


なぜ急に金銭での税金支払いを求めたの?

物で支払っていた村々が急にはいそうですか、と早急に対応できるわけがない。

むしろ、そんなお金があるなら、今までもお金で税金を支払っていたはずだ。

国の上層部はそんなことも理解できないのか。


私は2年前に出会ったパンドラム国王のことを思い出す。

その1年後に去り際の手紙に書いたように、自家製の野菜を持っていったら美味しいといって食べてくれた。

私にはあの人がそんな愚王であるとは感じなかった。


まぁ、自分の作った野菜を美味しいと評価してくれた、というバイアスは多少かかっているかもしれないが。


ならば何か、理由があるのか。

国が急にお金を必要とする、その理由はなんだ?


借金? 国家事業?

いや、パンドラム王国は大陸内でも有数の農業大国だ。

物さえあれば、それを輸出することでお金に変える事ができるはず。


それに、年に一度は必ず王都に行く父に毎回話をねだって聞いているが、王都は昔と変わらず、むしろより盛況であると聞いている。

こんな反発必至の政策を打ち出すメリットが少なすぎる。


他に国が莫大なお金を必要とする事態。

私の前世の記憶を総動員して導き出して得た推測は……。


「戦争……、あるいはその支度?」

「ルシアちゃん、声には出さないほうが良いニャ」


見ると、ミケが私と同じ結論に辿り着いたようで、真剣な顔で私を諌めてきた。

私は慌てて自分の口を両手で塞ぐ。


しかし、思考は悪い方向にばかり高速回転しだす。

もし近々戦争が起こる可能性があるならば、相手は? 規模は? いつ? ……一体どちらから?


私はこの国が戦争をふっかける、という選択肢はまずないと思っている。

国王のことはある程度信頼している、というのもその判断材料の1つだが、それ以前に、私の国は戦争に向く人材をあまり有していないのではないか、そう思っている。

少なくとも王国軍に関しては。


2年前、国でその強さに一目置かれている火の勇者を模擬試合で相性が良かったとは言え、私が倒してしまったのだ。


騎士団もあの時見て感じた限りでは、突出した強さの人はいなかったように思う。

勿論、あそこの場にいた者が王国軍としての全てでは無いと思うが、少なくとも武力で他国を蹂躙する覇道を征く資格はなさそうに思った。


では、他国に侵略される場合を考える。

王国が接している国は、アルス聖皇国とピュアクローナ連合国、ドラム山脈を挟んでオルゴルシア帝国の3つだ。


アルス聖皇国は王国の西側に位置する国で、聖女を拝する宗教国家と聞いたことがある。

噂に聞く聖女は相当な人格者らしく、悪い話を聞いたことがない。

そんな国が急に戦争を仕掛けるとはちょっと考えにくい。


ピュアクローナ連合国は王国の北側に位置する小さな国々が合併して出来た国だと聞いたことがある。

私はあまり情報を持っていないが、たしか一つの国になっても内戦が大なり小なり頻繁に起こっていたはず。

国外に敵を作って国民の意識を統一する、という可能性は無いわけでも無いが、その余力はあるのだろうか。


最も『戦争』という言葉がピッタリ来るのはオルゴルシア帝国だ。

王国の南側に位置する国で、侵略により国を拡大している、まさに覇道を征く国として有名だ。


しかし、帝国と王国との間はドラム山脈で隔てられている。

山脈に住んでいるソフィアが言うには、物理的に高く立ちはだかる山脈の時点で心が折られるが、山脈は竜種ドラゴンが縄張りとしているらしい。

魔物に分類されている生物としては最強とも名高い竜種を相手にした上で王国に攻め入る余裕はあるのだろうか。


考えれば考えるほど深みに嵌りそうになる。

そのせいで私は村長の言葉を、私にはとても重要な決断になるはずだった言葉をスルーしてしまった。


「…………、それで良いか? ルシア」

「え? はい」


咄嗟に答えたが、一体何が良かったのだろうか。

ふと周囲を見ると、ミケとポチが残念な子を見るような顔でこちらを見ており、タマは心配そうだ。


ポチのくせになまいき……って、待って。その顔には見覚えがある。

私がアーシアにする時の顔とそっくりだ。

頭の中で「何でよっ!?」という抗議の声が聞こえたが、聞かなかったことにする。


「では、ルシアよ。これから1年の間、村から出稼ぎとして冒険者ギルドで冒険者として働くことを命じる。

今年度分は難しいかもしれないが、来年度同じ目に合わないようにちゃんと作物を換金して金銭は準備しておくからの。無論、その間のお主の村での役割は村の者達全員で補い、家族の生活の保証もしよう。頑張って稼いでくるのだぞ、ルシア!」

「頑張れルシアちゃん! 君なら出来るッス!」

「なんなら稼ぎまくって富豪になってやれ」


何やらテンションが高くなっている村の皆さん。

私、そんな話聞いてませんが?

ねぇ、みんな。私聞いてないんだけど。


ねぇ、みんなってばぁっ! 私の話をきいてよぉ!!


その後、あの手この手で言い訳した私だったが、時既に遅し。

両親とルインも、「お姉ちゃんが村のために頑張るんだって。ルインも応援してあげてね」「だぁう!」、と妙に乗り気だった。


ミケやポチ、タマに、せめて一緒についてきてくれないかと縋り付いて懇願したが、今の時期はちょうど村の仕事が忙しくなるときで抜ける事はできない、と彼らの親にやんわり断られた。


ミケはこっそりと「一段落したら手伝いに行くニャ」と言ってくれた。

ホントにお願いだよ?


帰ってくるまでに私が大切に育て上げた畑がダメにされたら堪ったものじゃないので、担当してくれる人達に注意事項を詰め込めるだけ詰め込んだ。

その作業は日が沈むまで延々と続き、彼らは随分くたびれていた。だらしない。


時折クエストだ、って村に帰ってきて畑の面倒見ようかな。

私は先の見えない生活から目を逸してそう心の中で誓ったのだった。


翌日の朝。

ソフィアには携帯型通信魔道具(通称『ケータイ』)で、しばらく村を留守にすることを伝えた。


こちらも少ししたら様子を見に来てくれるらしい。

私は、冒険者ギルトの本部で登録を済ませるために、スタージュという街へ向けて出発した。


ということで第二章、ルシアの冒険者編がスタートします。のんびり畑仕事に勤しむルシアを描きたい気持ちが実は多少あるんですが、少しは冒険譚らしくなってきましたかね?


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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