エピソード026 私、最後の最後でやらかす
元々のプロットでは、この魔法をグレンにぶちかます事になってました。ヤバいですね☆
「本当に良かったのかのう」
「ちゃんと義務は果たしたんだし、大丈夫ですよ! 置き手紙もしてきましたし」
あまり長居をするとまた厄介事に巻き込まれかねない。
それでなくても闘技場での試合は多くの人に見られたのだ。
何かを画策して近付いてくる輩がセオリー上必ず居ると思う。
そう思った私は、暗くなる前にソフィアの箒に乗って城から抜け出していた。
「途中で人気のない広い場所を見つけたら例のアレの試し打ちしましょうね!」
「王都の近くで試さん方が……」
「暗くなっちゃうと観察できないじゃないですか! それに村の近くでやる方が危ないですって」
私は、メテオライトと私の魔法を複合させてとある魔法を考えていた。
私の予想が正しければ、かなり強力な魔法になると踏んでいる。
今日の模擬試合は私にひとつの危惧を抱かせた。
自分が防御型の素質だったから今まで気づかなかったが、『聖環』のオリジナルや、そうでなくても強力な武具や魔法を扱える者と対峙した場合、今の私では太刀打ち出来ない場合が多すぎる。
【ストーン・バレット改】は強力だと私は思っているけど、あくまで単体への攻撃魔法にしか過ぎないし、弾が石である以上、強固な防具を付けられると砕けてしまい、ダメージが通らない可能性が高い。
なので、私は万が一の時の為の必殺技を持っておきたかったのだ。
決して、元男の子として必殺技の1つくらい持っておきたいよね、とかそんな邪な事は全然考えていない。
少し飛んでいると、ちょうどいい感じに開けた場所を見つけた。
上空から周囲を確認してみるが、人が住んでいる気配も無い。
何よりもう少しすると日が暮れて暗くなってしまいそうだ。
私はソフィアにお願いして下ろしてもらい、新魔法の為の下準備を始めた。
と言っても1つの魔法を発動するだけだ。
念の為、発動する場所は私達から数百メートル程離した場所に設定した。
どの程度の規模になるのかが分からない為、近くで発動すると巻き込まれる可能性があるからだ。
私は魔法の起動を念じると、地面に魔法陣が描かれ始める。
まず外縁。重力の檻の範囲を設定する為のパラメータが古代魔導文字で描かれる。
次に内縁。重力の規模と暴走を阻止する為のパラメータが同じく古代魔法文字で描かれる。
更にその中央には地の大精霊、ジオニカを示す刻印と言い伝えられている梵字の様なものが刻まれる。
起動式完了。
ここまで準備して初めてこの魔法は発動する。
強力だが、やはり発動に時間がかかり、派手にその起動シーケンスがバレてしまうのは、大きな欠点だ。
「【ジオ・グラビティ・バインド】」
対象を指定した空間ごと強力な重力の檻で閉じ込め、動きを封じてしまう、地属性最上位拘束魔法が完成した。
ちなみに今は拘束する事が目的では無いので、単純に指定の場所で魔法を発動させただけだ。
そのままの状態で私は腰の小袋から黒い石を取りだした。
隕石だ。
この石は重力によってその重量や硬度を変えるという面白い特性を持っている。
この星で普通に使う限りは一定だが、重力魔法と組み合わせた場合、魔法の規模によってその威力に大きな変化が現れるはず。
「師匠。いきますね」
「うむ。ちゃんと真ん中に落とすように気をつけるのじゃ」
私達は充分に離れている事を再確認したあと、もう1つ魔法を加える事によって、2つの魔法とメテオライトとの複合オリジナル魔法を完成させる。
そう、打ち出すのは、私の十八番の魔法。
「いけ!【ストーン・バレット改】。そしてコレが私の考えた新しい魔法、複合オリジナル魔法、【メテオ・ストライク】だ!!」
私は魔法を発動させた状態でメテオライトを放物線を描くように上向きに放り投げた。アシストを受けたメテオライトはちょうど魔法陣の上に到達し、重力魔法の影響下に入る。
すると一瞬メテオライトが圧縮されたかのように体積をギュッと縮めると、次の瞬間にはブレて見えなくなった。
失敗したかな?
そう思った時には魔法陣が描かれていた地面が大きく陥没し、遅れて鼓膜を破りかねない爆音と衝撃が私たちを襲った。
「「ほぎゃぁあああー!」」
私達はされるがままに地を転がった。
やおら起き上がり、結果を確認しようとするが土煙で着弾地点が何も見えない。
ソフィアに風魔法で土煙を吹き飛ばしてもらうと、そこには直径1キロ程の巨大なクレーターがひとつ完成していた。
その範囲には草木一つとして無事なものはない。
正直、ギリギリの距離だった。
「実験成功、ですかね?」
「いくらなんでも強力すぎるのじゃ……。闘技場でお主が使ってみようと言うのを止めたわし、ようやった……」
たしかに。もしこの魔法をグレンに撃っていれば、ミンチどころの話では無い。
下手すれば闘技場丸々消し飛ばしていた。
「お蔵入り、ですかね……」
「当たり前なのじゃ。戦争で使われる規模の儀式魔法でもここまででは無いわ!」
ですよね。分かってた。
しかも、やろうと思えばこれ以上の威力は出せそうなんだよね。重力魔法の規模も出せる最大ではなかったし。
私がその日生み出した新魔法は、私達の他に誰にも見られる事のないまま、お蔵入りとなった。
その後、地面にめり込んだメテオライトを回収する為に必死に地面を掘り返したことをここに記しておく。
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同時刻、王都では黄昏の空に轟音が鳴り響き、王都全体が厳重警戒態勢に入った。
特にその日はそれ以降何も起こらなかったが、後日王都の周囲を捜索していた騎士団から土地の一部が大きく抉れた場所を発見した。
誰かが竜種の仕業ではないかと言い出し、王都に住む者達は皆、暫く戦々恐々とした日々を送ったという。
お疲れ様でした。
いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても感謝です。
楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。




