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エピソード022 私、王様に謁見します

やっと王様との謁見の話です。案の定、あの人が絡んできます。


私とソフィアは王都パンドラの城の前に来ていた。

実に王都に滞在して4日後のこと。


私は正直憂鬱だ。

昨日、パンドラム王国に所属している勇者らしき人物とトラブルがあったばかりだ。

その翌日に王様との謁見の予定が立つなんて、絶対面倒臭いことになるとしか思えない。


しかし、来ないという選択肢はなかった。

今日この日が王都に滞在していた理由だから。


「ルシア。わしがサポートするから聞かれたことのみ答えればよいのじゃ」

「はい」


城門の所に到着すると、守衛に私達の名前と用件を説明した。

話は通っていたようで、すぐに案内役の騎士が迎えに来た。


「やぁ。久しぶりだね」


アッシュは笑顔で私達に近づき挨拶すると、そのまま手早く控室に案内した。

控室の扉を閉めると、アッシュは笑顔を消し頭を抱えた。


「ルシア、ちょっと面倒なことが起こってる」

「もしかして、昨日の勇者の件?」


アッシュは項垂れながら頷いた。

やっぱりあの人勇者だったか。


「昨日、下町から火の勇者様が怒り心頭の状態で帰ってきたらしくてね。なんでもルシアという少女と空色の髪の女性、生意気な幼女に侮辱されたってさ」

「「……」」


私だけ名指しじゃないか。アーシアのバカ。

私達は事実を客観的に伝えただけで、別に侮辱なんてしないけど。

その前に、問題起こしていたのは件の勇者なんだし。

とりあえず生意気な幼女アーシアは絶対姿を見せさせないようにしないと。


「それで王に謁見の要望を出していたのが、君達だろ? 名前や容姿が瓜二つでさ。それに気づいた勇者様が今日の謁見に同席するって」

「「最悪だ(なのじゃ)」」

「君達、本当に勇者様を侮辱したのか?」


私はアッシュに昨日の顛末を伝えた。

話を聞いていたアッシュは頭を抱えていたが、私達の正当性は理解してくれたようだ。


「昨日勇者様がおっしゃっていた様子とは少し違うな。そして、この件に関しての正当性は君達にあると俺も思う。思うが……」


正しい=正義、とは限らないんだよね。


勇者の噂を聞いた限りだと、この国に多大な恩恵を与えているようだし、もし勇者が間違っていたとしても、話が拗れて私達が悪者にされるかもしれない。

この国の王が理性的な人であってほしいことを祈るだけだ。


「あと1時間ほどもすれば謁見の時間だ。隊長は玉座の間で待機している。俺はそこまで案内はするが中には入れない。隊長は弁護してくれると思うけど……」

「わかってる。ありがとアッシュ。私はいざとなれば師匠もいるし大丈夫だよ」


私はアッシュに笑いかけると、アッシュは俯いてしまった。

よく見ると耳が赤くなっている。風邪でも引いてるのかな。

騎士ともなると病欠はできないのか、大変な仕事だ。


とりあえず、王様にこれ以上悪印象を与えるのは不味い。

本来、ボルカ村の魔物襲撃の件についての報告のためにきたんだ。

聞かれたことに対して淡々と答えれば何も起こらずに晴れて村に帰れる……はず。

別に悪いことはしていないのだ。堂々としていよう。

むしろこういう時は変に挙動不審になったら余計な疑惑を生んでしまうものだ。


「師匠、なにか私が変なことを言ったらフォローお願いします」

「変なことを言わないように心掛けてほしいのじゃが……。まぁ、基本的にはケーニッヒと私が話すつもりじゃから、王が直接お主に聞いた時だけ答えればよいのじゃ」

「はい」


そして待つこと約40分。

控室では特にやることもないのでぼーっと家族のことや畑のことを思い出したり、石を磨いたり、ソフィアと開発予定の携帯通信魔道具のことや新魔法についての考え事をしていた。


すると控室の扉がノックされ、メイド姿の女性が入ってきてアッシュに合図をしていた。

どうやら時間らしい。


私とソフィアはアッシュに連れられて、大きな扉の前に到着した。

どうやらこの向こうが玉座の間らしい。

扉の前で武器や荷物を預かると言われたので、私は腰に巻き付けていたベルトを外し、付いている小袋ごとアッシュに預けた。

ソフィアは今日は特に何も持っていないのでそのままだ。

どうでもいいけど、武具はどこでも取り出せるのに良いのだろうか、と思ったが、その考えを目ざとく察知したソフィアに、玉座の間では許可なく武具を取り出せないようになっていることを教えてもらった。


扉前で数分ほど待っていると、中から声が聞こえた。


「ボルカ村のルシア、およびソフィア=キャンベルの入場!」


扉が開き、私達は部屋の中央まで歩みを進めた。

事前にある程度謁見のマナーを教えてもらっていた私は下を向いたままだ。

そして、そのまま傅いた。隣でもソフィアが同じようにしている気配を感じた。


「よくぞ来た。余はパンドラム王国第11代国王、ヨハン=ヴォン=パンドラムだ」

「お初にお目にかかりますパンドラム国王陛下。私はボルカ村のゴードンとクレアの娘、ルシアと申します」

「お久しゅうございます、パンドラム国王陛下。わしはソフィア=キャンベル、現在はルシアの師をしております」


最初はカーテシーとかしないといけないのかと思っていたけど、どうやら平民がそれをすると侮辱と捉えられるらしい。

私の曖昧な前世の知識でここに来なくてよかった!

それと、どうでもいいけど王様の前ではソフィアは普通にしゃべるんだね。


「うむ。面をあげよ」


ここで顔を上げちゃダメなのも教わった。

聞いてなかったら顔を上げてた自信がある。


「では、まず約2週間前にボルカ村で起こった魔物の襲撃事件についての報告を行います」


その場にいたのだろうケーニッヒが村に来た時に聴取した内容を王様の前で話し始めた。

内容はほぼ正確だった。

私の部分の報告だけちょっと過剰だけどね!


「ふむ。ボルカ村の状態については理解した。いくつか質問をするが嘘偽りなく答えよ」

「王よ。口を挟むことをお許しください。ルシアはまだ幼く正確にお答えすることが出来ないかもしれません。わしが出来る限り王の質問にお答えしとう存じます」

「ふむ……あいわかった。ルシアに関する事以外はソフィアから聞くこととしよう」


それから王様はソフィアに魔物の襲撃に関する原因やその対処についての質問をした。

師匠、ナイスです。


「では、ルシアよ。お主の事について聞く。多少言葉が崩れても咎めぬ。嘘偽りなく答えよ」

「仰せのままに致します」


師匠とは事前に、基本的には嘘偽りなく答えるべきとの相談をしていた。

とぼけても調べられたらすぐにバレるからだ。


アーシアのことに関してのみ扱いが厄介だが、おそらく教会からアーシアの情報については報告されている可能性が高いので、気をつけながら聞かれたら話す方針になっていた。


「まず、お主が『聖環』のオリジナルを所有していると報告を受けている。事実か?」

「事実です。私は地属性のオリジナル、【聖環・地】の所有者として認められています」


私は自分の『聖環』を見せた。

ちなみに回答時は玉座の少し下の方を見て話したらいい感じらしい。

直接目を見て話したほうが伝わると思うんだけど、ままならないものだね。


この後、私は自分の所有している武具やそのランク、魔法のことなど結構詳細に尋ねられた。

特に魔法のことについては、オーク討伐の際に使用した魔法について詳しく尋ねられた。

あの時には別に自分に魔法は使っていなかったけど、ステータスについては聞かれなかったので防御魔法の【アース・プロテクト】のことについて少し大げさめに話しておいた。

それに何度も言うけど、オークを倒したのはバックスであって私ではないからね。


ちなみにアーシアのことは話に出なかった。

説明が面倒だから正直助かった。


「なるほど、理解した。中々優秀で農民にしておくのはちと勿体ないな」

「お褒めに与り光栄でございます」


「ルシアよ。余の騎士団に入らぬか。お主なら女性というハンデなど関係なく騎士団の幹部に成ることも夢ではあるまい」


来た。この可能性は想定していた。

師匠、お願いします!


「王よ、失礼ながら戯れが過ぎますな。ルシアはまだ未成年でございます。それにルシアはわしの弟子です。()()()()を存じ上げない王ではあるますまい」

「うむ。将来的な可能性の話である。わしもお主から本気で引き抜こうとは考えておらぬよ」

「それならば結構でございます」


よし。話している意味はよくわからなかったけど、何とか騎士団に召し上げられるルートは回避した。

それされちゃうと村に帰れなくなる可能性が大だからね。


「ならばそいつの沙汰はこの俺、火の勇者グレンがつけさせてもらおう」


そろそろ話も終わりかな、と思っていた矢先、忘れていたかっためんどくさい人が急に絡んできた。

静かに端っこの方で待機しとけよ、このナンパ勇者め。

ていうか、私は別にこの場に沙汰を付けられに来てるんじゃないんだよ!

話聞いてたのか!


「グレン殿。その件はそなたも納得したと」

「いいや、してないね。この俺を侮辱した罪、万死に値する」


え、なにこれ。

王様とは結構穏やかに話が進んでいたと思ったら、急に勇者から殺すぞ宣言されたんだけど。


「とは言え、まだ長い人生が残っているやつを殺してしまうのは俺も忍びない。そこでだルシア、情けをかけてやる。俺と模擬試合をしろ。そして、お前が負けたら俺の嫁になれ」

「え、嫌ですけど」


しまった、ウザすぎて素で答えてしまった。

空気がカチンと凍った音が聞こえたような気がした。


「き、貴様! 仮にも地のオリジナルに選ばれた勇者だろう! ここは応じる場面だろうが!」

「私、勇者じゃありませんし。ただの農民ですし」


ダメだ。自分の言動をコントロール出来ない。

傍でソフィアが珍しくオロオロしている。


「『聖環』にお前は勇者だ!って言われただろう!」

「別にそんなこと言われてませんし。何なら今聞きましょうか?指輪さん、私って勇者なんですか?」


「『フッ。勇者は命じられて成るものではない、と回答します』、ですって」


『聖環』が今鼻で笑ったような気がするけど、アレの事バカにしてますかね。

というか、たしか地と火の大精霊は仲良かったって聞いたことあるんだけど、『聖環』同士は違うんですかね?


「王よ! あの生意気な娘をしつける必要があると思うのだが! それにどちらにせよ、地のオリジナルの所有者の戦闘力は測っておく必要があるだろう?!」


「で、あるかのう……。ルシアや、申し訳ないが勇者グレンと模擬試合をしてくれんか」

「試合をするのは100歩譲って承知するとしても、負けたらあの人の嫁になるのは却下します」


そんな権利、勇者にあるはず無いでしょ何考えてんの。

勇者に嫁になれって言われてときめくのはね、頭お花畑の人か、勇者の人格が優れている場合に限るのよ!

というか、私のステータス防御特化よ? 勝てるわけないじゃない。


「なに!? 勇者に向かって条件を出すなど」

「あいわかった。では、今から火の勇者グレンとルシアとの模擬試合を行うこととする。勝敗による条件は特になし。良いな?」


「承知しました」

「チッ! わかりましたよ。嫁にするのは別の機会にするとするか」


その機会は永遠に来ることはないだろうけどね!!


お疲れ様でした。

いつも貴重なお時間を頂いて読んでもらい、とても嬉しいです。

楽しんでもらえるよう、そして何より、私自身が楽しんで書いていきますね。

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