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エピソード021 私、王都で面倒事に巻き込まれました

(多分)勇者との遭遇です。めんどくさいことが起こりそうです。


王都での生活は3日目に突入した。

まだ城からの連絡はなく、今日も私はソフィアとアーシアと一緒に街をブラついていた。


「なかなか呼ばれないですね」

「王というのは平時でも忙しいものじゃからな。予定が詰まっていたのじゃろ。流石にそろそろ予定が組まれても良いはずなのじゃ」

「無視して帰っちゃえば?」


アーシア、流石にそれは論外だと私でもわかる。

でも、そう思う気持ちもわからなくもない。

長くなるとみんな心配するだろうし、私も自分の畑のことが心配になってきた。


そんなことを考えながら大通りを歩いていると、何やら一角が騒がしい。

面倒事かと私は避けようとしたが、アーシアが興味を持って駆けていってしまったので仕方なく私達も野次馬に混ざって様子を観察することにした。


「私共は何も契約などしておりません!」

「とは言え、こうして証拠があるわけだしな」


商人と黒髪の男性が言い合いをしており、それを衛兵が仲裁する、といった状況だ。

話を聞いた感じ、商人が男性と何らかの商売の契約をして、それを勝手に破棄したから賠償金を支払えと言っているようだ。

曰く、商人は何も契約をしていない。

曰く、男性は証拠があるがいいのか。

話は平行線で進まなくなっているようだ。


男が早くその証拠とやらを出せばそれで解決じゃないか、と私はうんざりした。

こんなくだらない言い合いを聞くのに時間を取られたくない。

私は、ソフィアとアーシアに離れようと提案しようとしたが……。


「異議あり!」


嫌なことに、よく聞いたことのある声がどこぞの弁護士のようなことを言っていた。

そっと視線をそちらに移すと、案の定、アーシアが話に割って入ってしまったようだ。

見なきゃよかった。


「あなたが早くその証拠とやらを見せればそれで解決じゃない! さっさと証拠を見せなさいよ!」


いや、私もそう思ったけど、それは当人たちが解決する問題であって、なんでアーシアが関わってるの!


「正論ではあるがの……」

「ええ……。アーシアが関わることじゃないです」


一刻も早く『聖環』の中に押し込みたいが、流石にこんなところでするわけにはいかない。


「なんだお前? 関係無いだろ」

「無いわ! でもルシアちゃん達との楽しい時間を邪魔されたの! 到底許されないわ」


ちょ! お願いだから私の名前出さないで!

ほら、みんなルシアって誰だ? って顔してるじゃん!


「ルシアちゃん! こっちこっち」


アーシアが私の姿を見つけて手招きしてきた。

これでは出ていかなくちゃいけない雰囲気になってしまった。

私全く関係ないのに。

仕方ないので、アーシアを一刻も早く回収するために、嫌々騒動の中に入っていった。

手にはソフィアを逃さないようにガッチリ捕まえて。


「ちょちょ! わし何も関係ないのじゃ!」

「あー、えっと。うちの子がお邪魔してしまってすみません。すぐに下がらせますので」

「……へぇ。まだ幼いが可愛い子じゃん。そっちのお姉さんも美人だな。丁度いい。今から証拠出してサクッと終わらせるから、後でお茶しようぜ」


うへぇ。こいつナンパ野郎かよ。

久々に私の前世の記憶が激しい拒絶反応を示した。


「これが証拠だ!」


その男が取り出したのは、長方形型の光る板。

というか、どう見てもスマートフォン。

慌てて男を観察すると、黒髪に日本人というこの国では珍しい異国情緒の顔立ち。

イケメンかどうかは好みが分かれると思うが、私はタイプじゃない。

というか、別に男性自体がタイプじゃない……と思う。わからないけど。


こいつ、多分勇者召喚された男だ。


男はスマホを弄り、おそらくアプリを起動させ、そこに記録してあったのだろう音声ファイルを再生した。


『この土地を売って欲しい。いくらになる?』

『1000金貨といったところですね』

『高いな』

『建物の解体費用も含まれていますので』

『なら解体は俺がやる。半分の500でどうだ?』

『それでは……』


「これは会話を記録することの出来るアーティファクトなんだ。先程聞いたとおり、俺は建物の解体まで済ませたんだ。だから金貨500で売らないといけないよな?」

「これは誰の声ですか! 私は金貨500枚で売るなんて一言も言ってません!それに承知したこともありません!」


正直微妙なところだ。

確かに聞きようによっては商人が許可したようにも思えるが、一言も売るとは明言していない。

それに、会話の途切れ方に違和感を感じる。


「そんなの偽造よ! うちのルシアちゃんがまるっと解決してくれるわ!!」


ちょちょちょ。アーシアさん?

その男がいけ好かないのはわかるけど、困ったら私にふるの辞めてくれません?

でも……。


「あの、師匠ちょっと……」

「なんじゃ?……ふむ、ふむ……そうじゃな。この国では……」


なるほど。

ならばどうせ乗りかかった船だ。

少し指摘してさっさとおさらばしよう。


「お兄さん。そのアーティファクト、音声を記録出来るなんてすごいですね」

「だろ? 俺しか持ってない一品ものだぜ?」


一般的なものではない、ってのはアピールできたかな。


「そのアーティファクトって音声を録音するだけのものなんですか?」

「そんなことないぜ? いろんな機能があって写真……風景を切り取って保存したり、音楽を聞いたり、編集する機能なんかも」

「編集機能があるんですね。ではさきほど聞いた音声が編集されたものではないとどうやって証明されますか?」

「あぁ?……そんなことしてねぇよ」


そう。説明出来ないよね。

私は怪しいと思ってるけど、仮にさっきの音声ファイルが無編集のものだったとしても。

どんなにすごい機能がある道具でも、それが一般的なものでないならば、不正したんじゃないかという問題に対して否定するための証明を出すことは難しい。

ましてやここは異世界だ。

スマホを説明しても誰もわからないし、音声解析ソフトなんて存在しないもんね。


「衛兵さん。このお兄さんのアーティファクトの音声は証拠になり得ますか?」

「え……それは……」

「なりませんよね」

「何でだよ? こんなにハッキリ音声が残ってるんだ。揺るぎない証拠ってやつじゃねぇか」


さて、畳み掛けますか。

こういうのは勢いが大事だ。


「商人さんは先程聞いた音声の声の主を知っていますか?」

「知らない!その男の声はわかったがもうひとりの声は何者ですか!」

「なに?」

「仮に先程の音声が商人さんとお兄さんの会話だったとして、その音声が録音されることを了承されましたか?その証は残ってますか?」

「私はこんなもの知りませんし、証文なんて作ってません!」


残念ながら、日本でも隠し録りした音声の証明力が高くないことは往々にして在るんだよ?

せめてちゃんと同意を取らなきゃ。

あと、自分の声って意外とわからないんだよね。

私も前世で自分の歌声を録音したことがあるけど、誰お前ってなったし。


「黒髪の青年よ。商人の言ってることが正しければその道具に証拠能力はないのじゃ」

「だから何でだよ!! 確かに証文なんて作ってないがこれだけハッキリ音声があるんだって!! 言っとくが断じて俺は編集なんてしてないぜ?」


そういう問題じゃないんだよね。

多分勇者の人。この国のことをちゃんと勉強しておかないとね。


「『パンドラム王国では契約を交わす時、必ず事前に同意を取り、それを契約魔法を付与した証文に残さなければならない』。これは国の法にも同等の言葉が記載されているのじゃ」

「つまり、同意も証文もなく、さらに当人である商人自身が誰の声かもわかっていない。その音声には何の証拠能力もない、ってことになるんです」

「そういうことよ!」


アーシア、最後だけ参加するなんてズルいよ。


「だ、だが……」

「衛兵さん、そういうことです。何か問題ありましたでしょうか」

「……いや。あなた達の言ってることが正しい。グレン殿、今回は分が悪いです。出直してください」

「チッ!」


多分勇者の人は舌打ちをすると、こちらを一睨みして去っていった。

私は、とりあえずホッと胸をなでおろした。


「ありがとうございます! 助かりました! なにかお礼を……」

「いえ。私も早くこの子を回収するために言っただけですから。急ぐので今日は失礼します」


私はアーシアを指差して、頭を下げ、そそくさとその場から立ち去った。

人混みから離れたところでアーシアにチョップした後『聖環』の中に押し込み、ソフィアのことを見やった。

さて……、色々言いたいことを言ってしまったけど。


「さて、面倒なことになったのじゃ」

「ですね。正直あそこまで言い負かしたのは失敗だったかもしれません」


あれは恨まれたと思う。

しかも国に所属する勇者にだ。

これから王様と話をしないといけないのに、前途多難すぎる。


「はぁ……」


その晩、宿に連絡があり、明日の正午に私はパンドラム王国の国王に謁見することが決まったと伝えられた。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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