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エピソード017 私、騎士団と相対します

僻地に派遣されてくる騎士って、なんで鬱陶しい人がいるんでしょうね。舐められないため?


魔物の襲撃があった日から1週間後、村に王都から派遣された騎士団がやってきた。


「我々は王国騎士団第4分隊である。先日この村で起こった魔物の襲撃の件について聴取を行う。速やかに村の代表および魔物の討伐に関与した者達を召集せよ。これは王命である!」


私を含めた魔物討伐関係者は、騎士団の元に集められた。


「召集に応じ、参上しました。ワシがボルカ村の村長のを務めるグランパと申します」

「ボルカ村のトムと申します。先日の魔物討伐では戦闘指揮をとっておりました」

「うむ。俺は王国騎士団第4分隊隊長を務めるケーニッヒ=ロビンソンだ。早速だが、先日の発生した魔物の襲撃について詳細を説明せよ」


グランパとトムは当時の様子を振り返りながら、出来事の仔細を説明した。


日が沈み、夜の間に魔物が集団で村を襲ったこと。

村の魔物除けの結界を破られたこと。

その魔物がウォーウルフで20匹いたこと。

村の東門で食い止めようとしたが2匹が村の中に侵入され、避難者を襲おうとしたこと。

10歳の子供3名のみでウォーウルフ2体を討伐したこと。

西門からオークの成熟体が現れ、実質子供1人でそれを討伐したこと。


……待って待って。私は1人で倒してないよ?

私はオークのヘイトを集めてただけで、攻撃は他の人に任せたよ!

虚偽申告だよぉ!!


「待て。戦闘訓練も受けていない平民が、ウォーウルフ20匹を討伐しただと?」

「はい。証拠は此方に」


トムは此度の襲撃で倒したウォーウルフ20匹分の魔石をケーニッヒに見せた。


「うむ……事実だな。いや、それだけでも平民にしては大したものだ。しかしだ、騎士団ですら討伐に4名以上の分隊規模が必要なオークが、子供1人に討伐されただと?流石に盛りすぎてはないか?」


そうだそうだ! 盛りすぎだ!

騎士様もっと言ってやれ!


「発言良いでしょうか? ロビンソン様」

「無礼だぞ! 隊長のお言葉を平民如きが遮るなど!」


ケーニッヒの後ろで控えていた騎士の1人が怒鳴り散らした。


「良い。貴様は?」

「オーク討伐の際に近くにおりましたバックルと言います」


見るとオークの項を切り落とした青年が発言の許可を求めていた。


おお! バックルさん!

そうだよ、実質的オークを倒したのはあなたです。

言ってやって下さい!


「なるほど。貴様もオーク討伐に関与したと言う事だな。良いだろう、発言を許可しよう」

「はい。この度のオーク討伐、その最大功労者はルシア少女で間違いありません」


なんてこと言ってくれるんですか!

騎士団が面倒臭いから私に面倒事押し付ける気ですか?!

こうなったら私が責任を持って虚偽を訂正しなくては。


「なんで……むぐむぐぅ!」


私が口を開こうとすると、途端に左右からミケとポチが私を羽交い締めにし、喋れないように口を覆われた。


「最大功労者とな?」

「はい。実際のオーク討伐の現場には、ルシアと俺の他にミケ少女がいました。そこのザッコスと言う男もいましたが、最初の一撃で伸されていたので除外します」

「ひでぇッス!」


ザッコス五月蝿い。ちょっと黙っとけ。

そんな目でバックルがザッコスを睨みつけた。


「俺はミケの指示のもと、オークの急所である腱および項を斬ってオークを魔石に変えました」

「ふむ、その方法は理にかなっているな。ミケと言う子供も凄いが、それでは討伐の最大功労者は貴様ではないか?」

「違います。ルシアは俺がオークに攻撃をしている間ずっとオークの注意を集め、攻撃を1人で受けきったのです。恐れながら、ロビンソン様の隊でその様な事ができる者がいますか?」

「き、貴様ぁ!王国の剣である我ら騎士団を侮辱するなど、その命無いものと思え!」


さきほど怒鳴り散らしていた騎士は、バックルの言で激昂し、今にも剣を抜こうとしている。


「抑えろ、アッシュ。私が話しているのだ」

「で、ですが!」

「クドいぞ。俺に恥をかかせる気か?」


アッシュと呼ばれた気の短い騎士はケーニッヒに諭されて不満そうにしつつも、半分抜きかけた剣を鞘にしまった。

ケーニッヒはバックルの言に熟考した後呟いた。


「たしかに……。仮にそれが本当だとしたらルシアという者がオーク討伐の最大功労者というのは理解出来る」


オークはオーガほどでは無いが巨躯から繰り出される攻撃は強力で、1人でその全ての攻撃を受け止めるなど防御が専門の重騎士ですら難しい。


「ルシアはどいつだ?」

「あそこです。ミケ、ポチも。もう離してやれ」


バックルはミケとポチに羽交い締めにされていた私を指さした。

ケーニッヒは私の側まで来てじっと品定めをするように眺めてきた。


「貴様がルシアか。バックルの言ったことは事実か?」

「……オークの攻撃を受け止めた、という部分は本当です。でも、倒してくれたのは他の皆です。私はむしろそれを凄いと思っています」

「どうやって受け止めきったのだ? 特殊な技術でも使ったのか?」

「そ、それは……私は地属性の防御魔法が使えるので、それで頑張りました」


ルシアは、王都の騎士団に私の『聖環』や魔法の話、それにステータスのことを話して大丈夫なのか、と悩んだ。

もし本当のことを言ったら面倒事になるのは確定的に明らかだ。

私のDEF、この世界の基準で見るとかなり高いらしいし……大体加護のおかげだけど。


私がソフィア師匠に魔法を習っていることは村の人に聞かれたらすぐにバレるので、防御魔法で固めました、ということにしておいた。

実際にはあの時自分への防御魔法はかけていなかったけど。


「平民の貴様が魔法を……?」


ケーニッヒは訝しそうに私を見た。

厳密に言うと私の嵌めている『聖環』を。

魔法使いは何らかの魔法属性に偏っているのが普通なので、『聖環』に嵌めてある石が属性色に染まっている。

私は『聖環』を掲げて、石が黄褐色になっているのを見せた。


「なっ!?貴様、それはまさかオリジナルか!?」

「うぇ?!」


何故バレたんだろう……ってそうか。確かソフィアは見る人が見ればすぐわかると言っていた。

ケーニッヒは騎士団の人間なので『聖環』を確認する機会が多かったのかもしれない。


「あー、いやー、そのー」


これ正直に言ってしまって良いのだろうか。

実はハッタリをかましてて、私がボロを出すのを待っているのでは?


「そうじゃよ。ルシアは『聖環』のオリジナル、【聖環・地】の所有者なのじゃ。じゃが、そう珍しいことでもないのじゃ。他のオリジナルも所有者が現れたと聞いておるしの」

「し、師匠?」


どう返答すべきか困っていた私の代わりに答えたのは、いつの間にか傍にいたソフィアだった。

空を飛ぶための箒をまだ持っている所から見ると、先程村に到着したらしい。


「あ、貴方様はまさか……」

「わしはソフィア=キャンベル、しがない魔法使いじゃ。この子はわしの弟子でな、あまり虐めてやらんでくれよ?」

「も、もちろんでございます」


ケーニッヒはソフィアの名とその後の発言を聞いた途端、今までの横柄な態度を改め、私にも敬意を払うように接してきた。

ソフィアが美人だから緊張しているのだろうか?……冗談だけど。

大方ソフィアが王都の偉い人達にも顔が利くのだろう。

私への態度まで軟化したということは、ソフィアが私のことを弟子だと告げたからだろうか。


「ルシアはまだ子供なのでな。答えるのも難しいこともあろう。わしがルシアの代わりに答えてやるのじゃ。ほれ、なにか聞くことがあったのではないか?」

「い、いえ。キャンベル様の直弟子なら卓越した魔法が扱えるのは自明の理。これ以上は時間の無駄でしょう。ただ、此度のボルカ村への襲撃の全容を王に報告する必要があります。話を聞いた限り、何分前例が少ないことでして、できればルシア嬢には一度王に面会していただきたく」


平民が集団のウォーウルフを死者なく討伐してみせたり、オークをさらに少数で討伐し、10歳の少女がオークの攻撃を無傷ですべて防いでみせた。


たしかに、客観的に聞けば荒唐無稽にも程がある。

どうやら当事者の私は王都に赴き、王に説明したり実演をしないといけないのかもしれない。


……面倒ごとの薫りがする。

そもそも、王様がいるような前で話をするなんて私に出来るかな。

無礼で処刑とかなったらどうしよう。


「待ってください、隊長! 俺は納得できません。なんでこんな小娘がオークの攻撃を防いだと納得できるんですか。平民が属性魔法なんて使えるわけないじゃないですか! すべてそこの得体のしれない魔女の戯言ですよ!」

「ば、バカやろう! お前、自分が何を言ってるのかわかって……」


ケーニッヒは慌ててアッシュを黙らせようとするが、時すでに遅し。


「ケーニッヒ殿。彼に防御体勢を取らせよ。……ルシア、ご所望のようじゃから魔法を使ってやるのじゃ。手加減はするのじゃぞ?」

「合点です!」

「ちょ、ちょっと!」


私とソフィアのやり取りを聞いていたアッシュは、慌てながら騎士団に貸与されている鉄の盾を取り出して防御の姿勢をとった。

正直、さっきから後ろでギャーギャーうるさい騎士さんに私はうんざりしていた。

その上、師匠であるソフィアを得たいのしれない魔女呼ばわり。

自分が魔法が見たいと言ったんだ……少しだけ、痛い目を見てもらおう。


私は朝の特訓で使用していた石の残りを取り出し、前世で最も得意だったスリークォータ気味のサイドスローのモーションに入る。

対人で使用するのは初めてだし、流石に私の出せるマサカリの全力投法でやったら不味いかもしれないので、少しだけ手心を加える。


どうせ、相手の盾は金属でこちらは石だ。砕けて終わるだろう。

でも、嫌がらせはする。


狙うは盾の構造上最も硬く、芯が通るど真ん中、を逸れた左下。


「一球入魂! 【ストーン・バレット】、スクリュー」


振り抜いた左手の中指と薬指でボールを弾きながら手首を外側に捻り、多量の回転を加える。

前世ではついぞ実現出来なかったが、スキルの恩恵か、はたまた毎日積み重ねられた魔法の特訓(という名の投げ込み)の成果か。

利き腕である左方向に上から下へ抉り込むような変則軌道で加速された石は盾に接触するとそのままアッシュの手から捻り落とした。


衝撃により、手首を痛めたのか抑えながらも呆然とするアッシュ。

バカにしていた小娘に一撃で防御を剥ぎ取られた気分はいかがでしょうか?


私は、次弾もあるよ? とアピールするように別の石を指で弾き、回転させながらケーニッヒを見た。

彼は何度も私とアッシュを交互に見やり、ため息をついた。


実力の程度を理解したようだ。

別に私は攻撃できないわけじゃないんです。苦手だし、ちょっと特殊なだけなんです。


「まったく……手加減せよと言ったのじゃが」

「しました」


嘘は言ってない。

実際の破壊力はマサカリ投法の方が断然高いから。


「とりあえず、これで弟子の魔法の実力の程もわかったじゃろう。今後の話をするのじゃ」


話し合いはスムーズに進み、私は帰投する騎士団と一緒に王都に向かうこととなった。

一緒にソフィアもついてきてくれることになった。

とても頼りになります。


「それじゃあ、慌ただしくなったけどいってきます。お母さんにもそう伝えておいて」

「ああ。俺がついていってやれないのは心苦しいが、キャンベル様がいるんだ、きっと大丈夫だろう。無事に帰ってこいよ」


私はその場にいた父に挨拶をし、ソフィアとともに騎士団の馬車に乗り、一路王都へと歩みを進めた。


お疲れ様でした。

楽しんでもらえたらなら幸いです。

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