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エピソード118 ドラム山脈への道中


 刻は少し遡り、ドラム山脈へ向かう道中。

 私達はベルの背中で各々が戦闘準備を整えながら、ソフィアから忠告を受けた。


「今から行くのは遊びや訓練の場では無く国と国との戦争の場なのじゃ。敵の駆逐は王国の兵士に任せるのじゃ。わしらは戦闘は出来る限り避け、ベルの同郷達を救出する事に注力するのじゃ」


 ソフィアは真剣な顔で私達、特に私を見て念を押した。


「それは……わかってますけど、帝国の兵士が攻撃してきたら戦うしかないんじゃないですか?」


 私はソフィアの視線の意味は理解できてしまう故、ムスッとしながらも反論する。この中で一番暴走しそうではあるもんね、私。

 ただ、ソフィアの視線は正しいと思うけど、その判断は甘いのではないかと思ってしまう。


 戦争は兵士の役目。それは私も正論だと思う。


 私だって好き好んで戦う……いや、ここで言葉を濁しても仕方がないか。帝国兵を殺す事に積極的ではないけれど、わざわざ戦場の真っただ中に飛び込んでいく以上、そんな甘い考えで生き残れないのは冒険者生活で嫌というほど味わった。冒険者の戦闘対象は何も魔物だけではなかったのだから。


「そうじゃな。戦場に絶対はない。じゃから戦闘を避ける事が出来ない場合は容赦なく殺すのじゃ」


 ソフィアは私の反論に頷き、その上で諭すように説明した。


「しかしの。国王陛下は民の戦争への介入は認めておらん。ここでもし肩書は冒険者とは言え、積極的にお主らが──竜種を守る、という大義名分なしでじゃぞ──戦争に関与することがあれば、陛下はともかく、貴族共は積極的に冒険者や戦える民間人を戦力として期待するじゃろう」


 そしてソフィアは、強い視線で私を見据えた。



「──その責任を、お主はとれるのかの?」



 その言葉に、私は反論できなかった。


 私は王国で、1年という短い期間ではあるが冒険者として活動をした。その際に、この国で活動する冒険者達の中には非常に高い戦闘能力を有している者も数多くいることを知った。

 しかし、彼らはあくまで冒険者。国に仕える者ではなく、各々が掲げる理想の為に自由に活動する『強い』一般人でしかない。


 軍備に力を入れていないと揶揄されがちである王国においても、騎士団という職業軍人は存在する。彼らを先置いて過剰戦闘を行った場合、各方面から非難を受ける可能性は否定できない。


 勿論、戦場において、帝国兵が戦争倫理に則り一般市民に攻撃を加えない、などという保障はどこにもない。

 ましては帝国は軍事国家であり、数多の小国を武力で無理矢理制圧してきたのだという。そんな国に『敵国の民間人に危害を加えない』や『捕虜にする』という選択肢がそもそもあるのかも怪しい所だ。

 しかし、私達が戦闘に関与した結果、罪のない一般市民が帝国によって殺戮される場面を想像し、肝が冷えた。


「それに、お主らは冒険者として幾ばくかの対人戦闘の経験もあるのじゃろう。命のやり取りを含めた、の。しかし、そこにおるタマチ君は果たして同じかの?」


 ソフィアの言葉にビクリと肩を震わせるタマ。

 そうだった。タマは私達と同じくらい強いから忘れてたけど、その強さはあくまで長年の鍛錬の成果であり、対人戦闘は皆無であるはず。


 私が咄嗟に頼ってしまったけど、タマは村に残しておいた方が良かったかもしれない。


「タマ、私……」

「僕は大丈夫だから。ルシアの力になりたいし、ルシアがもう僕の知らないところで死にそうになるなんて、僕は耐えられない」


 タマの真摯な訴えに頬を赤らめそうになる私だったが、そんな雰囲気をソフィアは即座にぶった切った。


「そもそもじゃ、ルシアよ。お主らが経験したという冒険者時代での命の取り合いの相手も悪人じゃろ? 今度の敵はただ他国の正義で動く兵士。同じように考えていたら動けなくなるかもしれんのじゃ」


 続けられる厳しいソフィアの言葉に、一同暗い顔をする。


「それを踏まえて、行動するのじゃ。いいの?」


 私達は、頷くことしかできなかった。


お疲れ様でした。

楽しんでいただけたならば幸いです。

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