表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/144

エピソード107 私、村の皆の訓練に付き合います


「じゃあ次は組手でもする?」


 久しぶりに魔法を全力で行使したから全身に疲労感がある。とはいえその感覚は不快なものではなくむしろ心地良く、もう少し身体を動かしたい欲求が沸き上がる。

 

「あー、今から自警団の午後練に参加するからアタシはパス」

「ベルもママさんと夕食のしこみをしないといけないの」

「私はシアシアを家まで護衛する」


 全員この後の用事があるようで断られた。

 つれない反応でちょっと残念。

 

「なら自警団の午後練に参加したらどうなのじゃ? たしかあちらにはルシアは参加しておらんかったろう?」


 流石は師匠というべきか。不満そうな私の態度に気づいたのかそんな提案をするソフィアに、シャロは思案顔を浮かべた。


「別にアタシはかまわないですけど、一般人の訓練に規格外入れちゃうと訓練自体が成立しなくなっちゃうのよね」


 それは私が規格外って言ってますかね。言ってるよね確実に。自分達の事を棚に上げて私だけを珍獣扱いするのはどうかと思うの。

 私空気読める子だから、参加するなら邪魔にならないようにちゃんと手加減というか制限はかけるよ!


「なら弟子をサンドバック代わりにすれば良いのじゃ。自警団は実践的な訓練を受けられる。ルシアは有り余るやる気を発散させつつ防御の訓練が出来る。ウィンウィンってやつじゃな」

「あ、それはいいですね! よし、喜びなさいルシア。訓練に参加してもらうわ」


 ちょっと待て。その会話のどこに私が喜ぶ要素があるんですかね。

 つまるところ、さっき私と相対していたロック・ゴーレムの代わりを私がしろってことでしょ? やる気を発散させるどころか逆にフラストレーションがたまる気しかしない。


 ソフィアもしれっと弟子をサンドバック扱いしないで欲しい。いつからこんなにぞんざいな扱いをされるようになってしまったのか。気の置けない関係性が築けたと喜ぶべきか、心配しても無駄だと諦められているのか。……微妙なところだね。


「サンドバックはともかく防御を中心に行うってのは引き受けたよ。でも、流石に皆によってたかられて攻撃されたらキズモノにされちゃうかもなー(チラチラ)」

「さっきの見て、素人に毛が生えた程度の奴らがアンタにどうやって傷つけるのよ?」


 あからさまに『アンタ何馬鹿ぁ?』って表情に私はうなだれた。仮にも女である私にひどい言いぐさだけど、間違ってはいないんだよなぁ。


 とりあえず私の成果報告会はここまでとなり各々解散した。


 フォーレンシアにはわざわざ手伝って貰ったお礼にお土産をたくさん持たせておいた。

 ゴーレムを通さないとほとんど喋ってくれないので真意は分からないけど、なんだかんだ楽しそうにしてくれていた──思い返すと私は涙目にしかしてない気がするけど──と思う。


 フォーレンシアは今後もちょくちょく村に招こうかな。

 ……彼にも会いたいだろうし。ムフフ。


 解散後、私はソフィアとケータイの話をしながらシャロについていく。

 ケータイはその後増産され、私の知り合いに配った。やっぱりケータイは便利だよね。本来の物よりも制限はあるものの、離れていても連絡が取れるそのありがたみはこの世界に転生してから大いに実感した。


 あ、そうそう。国王陛下も欲しがったので渡しておいた。稀に愚痴を聞かされたり、前触れなく『早く野菜を届けにこい』とそれをだしにして私を王都に呼び出そうとする催促の連絡がかかってくるようになってしまったので、ケータイに出る際にちょっと気構えをする必要が出てしまったのが頭痛の種だ。


 通信設備の魔力の目減りを確認するに、王都の方で独自にケータイを解析し、複製してるっぽい。それを指摘すると思った以上に焦った声で言い訳していたのが面白かった。


 王都で腕利きの彫金師を集めて機構を組んでもらっているらしい。その中には心当たりのある人物も含まれていたけど、そのことが彼女に伝わると今度会ったときにもの凄く睨まれそうなので黙っておいた。


 まぁ、ケータイの複製に関しては、王都には日本からこの世界に転移してきたド腐れ勇者もいるので、渡したらいつかは真似されることは予想していたので別に気にしてはいない。

 共同開発者のソフィアも元々国には供与する予定だったらしいし。


 ただこれ以上増えると現状の通信設備の魔素不足がネックになりそうだし、技術や情報が他国へ流出する問題が起こるかもしれない。


 著作権とかって概念は皆無だからなぁこの世界。何らかの対策は検討すべきだよね、って事で最近は頻繁にケータイ設備改造計画を秘密裏に進めている。


 -----◇-----◆-----◇-----


 議論に熱中しているといつの間にか目的地に到着していた。

 向かった先は村はずれ、というか完全に村の外の野原。


 村の中で訓練すると危ないから整備したらしい。魔物除けの札がないので魔物が寄ってくる可能性がある。とはいえ、出てもここらでは所詮C級程度の魔物。A級冒険者のシャロでは片手間で済んでしまうので、実質安全なのだろう。シャロが所用で外してるときは開催しないらしいしね。

 

 その場所には、村に駐留している騎士達と村の青年達の姿があった。騎士団が自警団の訓練に参加していていいのだろうか。肩慣らしの感覚なのかなと思い直し、顔ぶれを確認してみた。


 騎士団の人達はほとんど名前も知らない人ばかりだ。文官のような戦闘に向いてなさそうな人やなんと何人か女の子も参加している。騎士団って男性しか見たことなかったけど、女性も所属してるんだ。


 ならばアッシュもいるのかと探したが見当たらない。……って、よく考えれば今日はミケとデートなんだった。むしろここにいたら蹴ってでもミケのところに向かわせるところだよ。


 一方、村人の方はバックルやザッコス、ポチの狩猟仲間など、比較的付き合いのある顔ぶれが多い。

 

 そしてより顔見知り……というか幼馴染の2人も姿もあった。


「タマ、ポチ! 二人も参加してるんだ」

「や、やぁ」

「おう」


 タマはいつも通り少し緊張した表情で、ポチもぶっきらぼうな挨拶を返した。うんうん。いつも通りだね。

 2人が参加してるってことはミケも……っておい!さっきやったじゃん。


 私が心の中で1人ツッコミに勤しんでいる間にも、シャロは手慣れた様子で皆を集め、今日の訓練内容を伝え始めた。


「遅くなって悪かったわね。今から『ボルカ村自警団』と騎士団の合同訓練を始めるわ。今日はルシアも参加するから。……紹介は要らないわよね?」


 シャロの言葉にそこにいる皆が一斉に頷く。

 まぁなんだかんだ村の皆は顔見知りだから知ってて当然だけど、騎士団の人達にも知られてるとは。私ほとんど知らなくてごめんね。


 「ゴードンとこの娘だよな」「あの畑狂いの」「冒険者じゃなかったか?」「ありゃ俺達が押し付けたようなもんだろ」と村人達は少しざわつく。畑狂いとは失敬な。


 それに紛れて「急所キラー怖いッス」とか言ってるザッコス君はあとで覚えとけ。

 というかその汚名、村にまで届いてたんだ。それは私が認めてないから非公式。私の冒険者としての二つ名は『農耕具使い』なのでそっちをガンガン広めて欲しい。


 S級冒険者が農耕具使って無双するってちょっとカッコいい……かは分からないけど親しみがあるよね。男の『急所』ばかり狙ってるとか言われるよりか、さぁ!


 一方、騎士団の人達からも「あれがS級冒険者の……」だの「ドラゴンキラーの……」とかもう少し具体的なひそひそ声が聞こえてくる。私はボコボコにしただけであって、竜種は殺してないんだけどね。噂って怖いね。


 妙な視線も感じる。見ると、勝気そうな同い歳くらいの騎士団の女の子がプイッと視線を逸らした所だった。もしや、あれがミケが言ってたタマに言い寄っているという……ムムム。


「はいはい、ザワザワしないの。別にルシアがアンタ達を相手に本気戦闘するなんて言ってないわ。そんなことしたら死人が出るかもだし」


 訓練で村の仲間を殺す馬鹿いるわけないでしょ!

 シャロは私をバーサーカーとでも勘違いしてるんだろうか。敵には容赦しないけど、そのくらいの分別はちゃんとついてますよーだ!

 

「せっかくサンドバッ……ゲフン、オリハルコン級硬度の絶壁が相手してくれるんだから、今日は予定を変更して実戦形式の訓練をするわ。ルシアと対戦して自分の今の力量を試してみなさい」


 ……あの、シャロさんや。言い直してもらってあれなんだけど、何にも改善されてないからね。

 ていうか、絶壁ってあれですよね。私の防御力が高いって解釈で良いですよね?

 

 まさかとは思うけど身体的特徴の一部を指してませんよね? もう14にもなったのに微塵も成長せず跳んでも揺れないあの部分のことを言ってませんよねちくしょう!


「チームを組んでもよし。単騎で挑みたいならそれもよし。好きにしなさい。勝利条件は相手がリタイアするか、場外に出たらってことにするわ」


 気分は魔王だ。

 かかってこい、勇者ども! ってな具合にね。でも私は本物の──この世界に魔王がいるかは知らないけど──魔王ではないので、自身に魔法や武具を用いた攻撃を禁じた。危ないのも多いからね。


 でも流石に攻撃方法が皆無だとホントにただのサンドバックになるしかないので、盾を使った押し出し攻撃だけは許可してもらった。シールドバッシュってやつだね。アメコミヒーローみたいに盾を投げることはしないけど。


 隙があったらどんどん押し出しちゃうよ、へっへっへ。

 ……やっぱりちょっと悪役っぽいよねぇ。


 伝え終えるとシャロは私達から離れて日当たりの良い場所に腰を下ろした。その隣にはソフィアもいて解説役もどきのようなことをしている。


 離れていて聞き取りずらいが「楽しみですね」「最近弟子が調子にのっとるからの。けちょんけちょんにするような猛者を期待するのじゃ」とか言ってると思う。


 ……いやぁ、楽しそうだなぁ。

 あなたの不肖の弟子が、手を滑らせてシールドブーメランしても知らないからね。


ルシアは冒険者活動を休止した頃から自主トレしかしてないので、自警団には参加していませんでした。というか、シャロが頑なに参加させてくれませんでした。

まぁ、心折れる人もいるでしょうしね。一般人の中にさも私も同じですよ感を出した超人がいれば。賢明な判断だと思います。


お疲れ様でした。

楽しんで頂けたならば幸いです。


最近ちょっとずつストックも溜まってきているので、もう少ししたら投稿ペースを週3くらいには戻せるかも? 期待しないでお待ちください。……尤も、来週から数週間は仕事が地獄のスケジュールなのがなぁ……。はぁ。

一話あたり2000字くらいに抑えて投稿すればラクショーなんでしょうけど、下手なので一話を短くまとめきれないんですよね(汗)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ