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特別編 人を狂わす恋の味


 2月13日。

 

 とうとう明日はバレンタインデー。

 

 私、ルシアは今、猛烈に悩んでいます。


「なんであんな事言っちゃったかなぁ……」


 この世界には『バレンタインデー』なんてありませんでした。しかし、私とアーシアがちょっと口を滑らしてしまったせいで──


『はるか遠い国で、バレンタインとかいう凶悪な魔物を討伐するために命をかけて戦地へ赴く男性のために女性が心のこもったチヨルの実で作ったお菓子を渡した。それが2月14日にチヨルのお菓子を気になる男性に渡す風習として残っている』


 とかいうメチャクチャな作り話をする羽目になり、それを面白がっていつの間にかボルカ村には『バレンタインデー』というイベントが定着してしまったのです。


 ある意味言い出しっぺの私は、今までは散々材料を買うお金がないだの、相手がいないだのと言い訳して、のらりくらりと躱していました。


 しかし、冒険者をしてしまったせいで資金は潤沢、というかこの話を住民から聞いて面白がったローラが大量にチヨルの実を購入し、村にいる女性全員に材料を配布してしまいやがりました。


 そして、最近ずっとベルから期待のこもった視線を感じます。これで渡さないのは流石に良心の呵責に苛まれます。


 というわけで、仕方なくお菓子を作ったのですが……。


「うーむ、ちょっと作り過ぎてしまった……」


 私の目の前には、一人分には過剰な量のチヨル菓子が並んでいました。

 おそらくローラから渡された材料は、お菓子作りを失敗した際の予備分も考慮されていたのでしょう。普段はあまり料理をする機会がないので加減を間違ってしまったようです。


「とりあえず一口……うん、美味しい」


 チヨル菓子を口に含めるとトロリと溶け出し、口いっぱいが幸せで満たされます。ただ甘いだけでなくほんのりと苦みがあり、それがアクセントとなって甘みを際立たせるのです。


 味は私の知るチョコレートに似ていますが、チヨルの実は『チョコレートの味に近い果実』なので、甘みは砂糖よりも果物っぽい感じです。意外といけます。


「ベルに渡すのは確実として、後はどうしよっか」


 ベルの分にわざわざ用意した上等な包みを取り出し綺麗にラッピングして脇に避け、残りのチヨル菓子の使い道に悩みます。村の『バレンタインデー』は『女性が男性に渡す』という事にしてしまったので、友チョコという概念はありません。


 まぁ、それを言い出すと私がベルに渡すのはなんだかおかしい気もしますが……。竜種はある意味両性みたいなものらしいので、ノーカンなのでしょう。そういう事にしておきます。


「アーシア、チョコ要る?」


 私はこの村に『バレンタインデー』をもたらしてしまった共犯者の名を呼びます。すると、何もない空間から唐突に小さな女の子が現れました。


「要る! 流石わかってるわねルシアちゃん! 甘味は神の貴重な栄養分だよ!」


 アーシアは要るかどうかを聞いただけなのに既に一定量を確保してパクパク食べ始めました。まぁ、美味しそうに食べてくれてますし、あげるつもりで呼んだので些細な事です。

 今度からご機嫌とり用の神への供物としてラインナップに加えておきましょう。


 ともかく。これであと一人分くらいに減りました。

 残りは私が食べても良いのですが、せっかく誰かの為に作ったのだからプレゼントとして使いたいものです。


 お父さんは……流石にこの歳で『お父さんが気になります!』はちょっと恥ずかしいですし、なしですね。あれ、どこかですすり泣く声が聞こえたような気が……。


 なら他には……彼しかいないですね。


 うん、仕方ない。これは仕方ないのです。なんていったって余ってしまったのですから。食べ物を粗末に扱うのは罰が当たるというものなのです。


「ちょうど一人分余るように私に残りのチョコを渡したくせに、言い訳がましいわね」

「うるさいよ!」


 意地汚くチヨル菓子で頬をパンパンに膨らませたアーシアに一喝し、私は彼へのプレゼント用に残りを包みました。


 準備完了です。

 明日が楽しみですね。



 ……喜んでくれると、嬉しいな。



 -----◇-----◆-----◇-----


「ルシア! とってもおいしいの! 愛をかんじるの。……ふぅ。よし、今から交尾をするの」

「ちょちょちょ待ちなさい! なんでそうなるのよっ!? ベル、目つきがおかしいわよ。ルシア、アンタお菓子に変なもの混ぜたんじゃないわよね?」

「媚薬入りとか、ルッシーもやるね」

「そんなわけないでしょ! あ、ちょ、ベルまっ!? あーーーーー!!!」


 -----◇-----◆-----◇-----


「おいタマ。それチヨル菓子だろ? そんな上等な包みに入れてプレゼントとか……やるな。アイツからか?」

「そ、想像に任せるよ。……ってポチだってそれ」

「あーーー、聞こえない聞こえないなー。……んぐ、甘めぇな」

「そうだね。……少し苦くて、でも狂おしいほどに愛しい甘さ。これは恋の味そのものだよ」

「……テンション上がってんのか?」

「ちょっとね。……よーし、僕はやるぞー!! フォオオおおおお―――!!」

「タマが壊れたぁあああああ!?!?」


特別編という事で、サックリ書いてみました。時間かけてないので時系列とか諸々ツッコミどころあるかもしれませんがご愛敬、という事で!

それでは皆様、ハッピーバレンタイン! フォオオおおおおーーーー!!!

※ いかがわしいものは含まれていませんのであしからず。


お疲れ様でした。

楽しんでいただけたならば幸いです。

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