エピソード098 私、雑草対策を行います
フォー・リーフと幼馴染組総勢7名での緊急作戦会議が始まった。
「なんか昔に戻ったみたいでちょっとワクワクするニャ」
こんな状況なのにミケは少し楽しそうだ。どうやら昔を思い出したらしい。そういえば、小さい頃は冒険者ごっこと称して子供ながら作戦を考えたりしてたっけ。
尤も、今回は難易度が文字通り桁違いだけど。
「サクッと片付けたいなぁ。できれば他の作物に影響が出なければ最良なんだけど……」
とは言え相手は魔物の上にミケ達もいる。畑のために手加減して返り討ち、なんてことになったら目も当てられない。今年は収穫は諦めた方がいいだろう。
「収穫は手早く、が基本よね!」
私の呟きに同意するアーシア。やはりその理由はどこかズレているけど。
「ノンビリしてて村の人以外に見つかったらもれなく犯罪者の仲間入り。S級冒険者が知らないうちに犯罪者に転落なんて流石の私でも笑えない……ブフッ」
ローラさんや、そういう事言う時は最後まで吹き出すのはやめようね。そして、見つかったら連帯責任だからそのつもりでね。本気で対応しようね。
「デーモン・イーターって弱点はないの? 見た目から考えると火に弱そうだけど」
そう言って私はデーモン・イーターを改めて見やる。植物系の魔物ならばやはり火だろうか。
ふと思う。……異世界転生で植物系モンスター、女の子とくればお約束があったね。……っと危ない危ない。こういうのは考えると現実になる。余計なことは考えないようにしよう。なにせ私も女なんだ。そんな辱め、絶対に受けたくない。
「そうね……。アタシの知る限りでは集団で囲み火で炙り倒すってのが正攻法らしいわよ」
「集団で……。そういえば、ギルドでのランク指定はB+相当だっけ? そんなに強いの?」
今までクエストを思い出し、狂化された黒オーガくらいかな、と見繕う。つまりA級の、その中でも経験豊富な冒険者が苦戦するほどの相手ということだ。
とはいえ見た目が禍々しいけど所詮植物ベースの魔物。しかも群生していないなら近寄らず対処すれば結構簡単そうな気がする。
「国内では出現しない魔物だから記述が少なかったのよね。えーっとたしか……『木属性魔法を無詠唱でぶっ放す』、あと『実が完熟してる場合は注意しろ』ってのは書いてあったわ」
なるほど、木属性魔法か……。あまり身近に使い手がいないから知らないんだよね。ソフィアの授業で覚えた内容だとゴーレム生成が特徴だったか。『実に気をつけろ』ってのはそれらを媒体にしてゴーレムを生成する、って感じなのかな?
今日もシャロペディアには頭が上がらない。さらにこの場にはボルカ村の知恵袋ことミケペディアさんもいるのだ。
「『実』に関する情報はニャいけど耐性と攻撃なら……。デーモン・イーターは魔法に対する耐性と再生力が高いらしいニャ。弱点以外はほとんど効果がないと思ったほうが良いニャ。
攻撃は、根っこの串刺し攻撃【ルート・スパイク】、蔓を鞭のようにしならせる【ヴァイン・ウィップ】、硬化させた葉っぱを飛ばして切断する【レイザー・リーフ】が主らしいニャ」
……ミケの情報量が半端ない。どうやら他国の行商人から仕入れた書籍に書かれていたらしい。流石のミケペディア。ほら、シャロがパーティに欲しそうな目をしている。
「とにかく火が効くなら楽勝じゃない! シャロちゃんの炎でバーン!、っとぉ! ぶっ飛ばせばいいんだよ!! ついでにローラちゃんが火の矢を降らせば完璧ねっ! 勝ったわ!!」
「私の畑が黒焦げに……。まぁ、ほっとくわけにもいかないから仕方ない、か……はぁ」
最悪まっ黒焦げになってもアーシアになんとかしてもらおう。アーシアが言い出したんだからね仕方ないね。
その後話し合い、以下の役割に落ち着いた。
前衛:シャロ
→メイン火力。火属性攻撃で一気に決着をつける
中衛:私・タマ・ベル
→厄介な根っこと葉っぱの囮役(主に私)&前・後衛のフォロー
後衛:ローラ・ポチ
→初撃で出来る限り『実』を潰す。その後は遠距離攻撃でサポートに徹する
予備戦力:ミケ(・アーシア)
→全体の戦況把握&撤退判断
→アーシアは最終防衛線(母とルインを護るという意味で、超重要)
「うぅー……ベルはまたあまりやくにたてそうにないの」
「そんな事ないわよ。ベルが頑張ってくれないとアタシが攻撃できないのよ」
「ま、護りも重要な役目だよ?」
渋っているベルを励ますシャロとタマ。その理由が『ルシアのかぞくの前でかっこつけられない』なのが己に正直過ぎて苦笑いするしかない。
「よろしく」
「……あぁ」
一方ローラとポチも急造のタッグということでコミュニケーションをとっている。……って言っていいんだよね?
ローラはチラリとポチを見るとすぐに装備の手入れに移ってしまった。ポチは……何故かタマを見て舌打ちしている。危ないポジションにつきやがって、と心配してるんだろうか。そんな雰囲気じゃない気もする。悪影響がなければいいけど。
「アーシアちゃん、よろしく頼むわねー」
「あーぃあ、あんばれ!」
「え、ええ! この私に任せておけばあんな雑草ワンパンよ、ワンパン!」
母とルインにおだてられ、アーシアがどこぞの魔王のようなことを言っている。ワンパンならシャロと共に前線に出てもらってもいいんだけどね。……そんなこと言ったら涙目になりそうだから言わないけど。
「お母さんは危ないから家に戻ってたほうがいいんじゃないの? 攻撃が飛んでくるかも」
「動かないなら離れていれば大丈夫よ。ミケちゃんもアーシアちゃんもいるわ。それに娘がちゃんと冒険者として成長した姿を見たいし。ねぇルイン?」
「あぅだ!」
母の言葉に同意を示すルイン。どうやら帰るつもりはないようだ。
私はため息をつき、充分に距離をとらせ、さらに念を入れて母とルインに防御魔法を付与した。流石にこれだけやれば安全……だよね?
「準備はいいわね?」
シャロの言葉に、無言で弓を構えるポチ。気負いなく手をプラプラとさせて合図を返すローラ。
「任せるニャ」
「ぼ、僕もです」
普段の司令塔の立場ではなく、手に火炎瓶を持ったミケと短槍に火炎瓶をくくりつけたタマは、少し緊張をにじませた声で返す。
「せいいっぱいがんばるの!」
ベルはいつも以上に気合が入っている。空回りしなければいいけれど。
さて──
「いつもどおり、やるよ」
幼馴染と冒険者の急造パーティ、雑草刈りのスタートだ。
寒くなったり暖かくなったり忙しい天気ですね。お仕事の方も随分変則的になって対応にアップアップです苦笑
お疲れさまでした。
楽しんでもらえたならば幸いです。




