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エピソード097 私、こんな立派な食虫(?)植物は知りません!


「ホ、豊作ダナー」


 私は今年の畑の成果に血の気が引き、頬が引きつる。パッと見た限りでも根菜類を中心に大豊作の様相を呈している。今年は土の改良を徹底的にやったからなぁ。是非自分でどのような作物をどのような手順で育てたのか、ちゃんと把握しておきたかったなぁ。


 ……うん。見てない。頑張って視線を逸らしても目の端に映るウネウネとした物体はきっと幻覚だ。そうだと言って欲しい。


「ゲ、元気イッパイダネー。私モ嬉シイヨー」


 驚きすぎてアーシアも勝手に顕現してしまっている。視線は私と同じく普通の作物だけにフォーカスされている。決して、元気過ぎてビタンッビタンッとのたうっている何かには触れようとしない。


「ルシアちゃん、現実を見るのニャ」

「ルッシー、アーシア。作物は我が子のようなもの。例えヤンチャな子でも愛を持って接してあげよう」

「そんなご無体な……」


 普段ならローラの言葉にもワンチャン納得しようと頑張るけど、今年はほぼノータッチ。いきなり現れて『この子があなたの子よ』と言われて戸惑わない人はいないと思う……私は何を言っているんだろう。


「な、何植えたらアレが育つの……? 私のいない間に村の人はどんな苗植えちゃったの? 責任者に説明を求めたい!」

「そうよ! あんなの収穫できないじゃない!」


 違う。アーシアそこが問題じゃないよ。

 っていうか、アレって仮に収穫したとして食べることなんてできるのだろうか。一応遠目で見た限りでは実はなっている……禍々しい牙があってニチャアと涎のように果汁が垂れてるけど。

 

 そりゃ皆が私に説明するのをためらったり、同情の視線を向けるわけだ。兎にも角にも、私は縋るようにミケに説明を求めた。


「え、えっと……。文献で読んだだけニャンだけど、あれは多分『悪魔喰植物デーモン・イーター』だと思うのニャ。植物系の魔物として認定されていて、枯れた土地に自生し、不足する養分を口から摂取して──」


 この事態を予見していたのだろう、ミケはあの植物……というか、魔植物についての知識をつらつらと語りだした。まとめると、『食虫植物を魔改造したもの』、ということだ。

 ちなみに王国では目撃例がほとんどないらしい。この国は肥沃な土地が多いからなぁ……じゃなくて。私が知りたいのはアレの生態ではなく、なんで王国では滅多に見られないレアキャラが、なんで私の畑に我が物顔でのさばっているのか、ってことだ。


 私の目つきがだんだんと胡乱になっていくのを見たのか、ミケは最後に情報を付け足した。


「──ちなみに、食用には向かないらしい……ニャ」

「違うよミーちゃんっ! そこじゃないよ! っていうかそれは見れば何となく分かるよ!!」


 名前からして、食用どころかこっちが食べられちゃいそうだし。チラリとデーモン・イーターを見ると、ちょうど傍を通り過ぎようとしていた鳥を蔓で叩き落としたところだった。怖い。


 肝心の誰が植えたのかはなんにも情報が得られず、途方にくれそうになったその時、フリーズから解除されたシャロがツカツカと私に歩み寄り、肩を掴んでグワングワンと振り回した。


「ルシアっ! アンタなんてもん育ててんのよっ!!」

「わ、わた、私じゃな……」

「デーモン・イーターはうちの国では輸出入禁止なのよっ! ギルド基準ではB+ランク相当! 見つけた時点で問答無用で討伐対象!! っていうか所持してる時点で犯罪よ犯罪ぃいいい!!!」


 パニクるシャロを見て私は落ち着きを取り戻した。なんか自分よりパニクってる人がいたら一気に冷めるよね、なんでだろうね。

 でも、冷静になったらとある素晴らしい案が思いついた。こちらには植物に関してのプロフェッショナルがいるじゃないか。


「落ち着いてシャロ。アーシアがなんとかしてくれるよ」

「……ッ!! そ、そうね!」


「ふっ」


 そう私が言うとニヒルに笑うアーシア。期待の目で見る一同。そして──



「……いや、どうしようもないよ。神だからって出来る事と出来ない事はあるんだよ?」



 まるで子供に言い聞かせるように否定の言葉を吐くアーシアに私はプチっとなった。


「出来る事が少なすぎるよ! 今回は農耕に関することなんだからなんとかしてよ。このへっぽこ女神!」

「あぁー! 言った! ついに言っちゃったねルシアちゃん! アレは農耕関係ないよ魔物だよ! 私は管轄外なのっ!!」

「こんな所でお役所体質発揮しないでよ! バーカ!」

「バカって言ったほうがバカなんだよっ! 神に向かって罰当たりよ!!」


 私とアーシアはギャアギャアと皆の前で幼稚な口喧嘩を始める。母はその様子に「こんな調子でちゃんと冒険者やってるのかしら……」と一人困り顔だったが、他の皆はその姿をみて冷静になり、勝手に情報の擦り合せ始めた。これぞ、『自分以上にパニクった人がいれば逆に冷静になる現象』。


 私とアーシアの喧嘩を止めたのはこの中で最も幼い人物──



「ねえねっ! けんかはメッ!」



 母に抱かれたまま、小さい身体でルインは大きくバツ印を描く。その目は幼いながらも有無を言わせぬ迫力で。私とアーシアはしょぼんと正座して本日2度目のルインの舌っ足らずな説教を聞く羽目になったのだった。



-----◇-----◆-----◇-----



 ルインに叱られて少しするとベルが畑に合流した。それを機にどさくさに紛れて私とアーシアは仲直りの握手をしてルインの説教からの逃亡に成功した。


「さすがはルシアなの! あんなおっきい草はやせるなんてすごいのっ!」

「あ、あはは……(私じゃないんだって)」


 合流して早々話し合いに参加することになったベルはいまいち現状を理解できていないみたい。さすルシ(さすがルシア)モードに入っているベルから曖昧に視線を逸らし、アーシアに念再度確認する。


「ちなみに、ホントに何とか出来ない? 前に土地を再生させたんだから、逆の枯らす事とか出来たりは……」

「私の能力は基本的に地面を媒介したパワーアップの効果しかないの! 仮に力使ってあの化け物植物を強化しちゃったらどうするの?」


 アーシアなら……ありえる。ぐぬぬ、私にはデバフしかくれないくせにぃ。

 残念ながら、今回もアーシアの神パワーには頼ることが出来ないみたいだ。


「そもそもデーモン・イーターがルッシーの畑に生えてるのが問題だよ」

「そうよ! 偶然で片付けるのは無理があるわ! なんか魔法で変な土とか種とか作ったんじゃないわよね?」

「そんな事言われても……」


 ローラとシャロの追求に、私とアーシアは困り顔を突き合わせた。確かに土壌改良はしたけど、あくまで常識範囲でのことしかしてない。もちろんアーシアの神パワーなんて使ってない。


 そうなると、預けていた間に国内では禁止されているデーモン・イーターの苗を誰かが植えた、くらいしか考えられないけどそれはタマに否定された。なんでも種まきの時はタマも手伝っていたらしく、特殊な苗など見た記憶がないらしい。


「じゃあホントに自然発生したっていうの? 枯れた土地でもないのに? 信じらんないわ……」

「なんで村の人は大きくなる前に刈り取らなかったの?」


 確かに。話を聞く限りは暴れだしたのは最近らしいし、見慣れないものが育ってたら怪しんで刈り取るくらいしてもよさそうなもの。しかし、ミケ曰く……


「最初は大きな植物が生えてるな、くらいだったのニャ。で、もしかしたら事前にルシアちゃん達がなにか変な実験してたんじゃないかって話になって……」


 ということで、周囲の迷惑にもならないので放置していたらしい。

 それはそれでどうかと思うし、村の住民からは私は影でアーシアとセットで変な事してる認定を食らっていた事に密かにショックを受けたけど……。


 とにかく、動き出したその植物が魔物だとわかったミケは急いで私の父に頼んで、フォー・リーフを派遣してもらうように要請したとのことだ。


「大変だったのニャ。事実を隠しながら他の冒険者ではなくルシアちゃん達に来てもらうのは……」


 クエスト依頼書には『収穫の手伝い』としか書かれていなかった。もし依頼に『魔物の討伐』なんて書いていればギルドの方で詳しい内容を聴取されるだろうし、そこであのデーモン・イーターの事を話されると、知らぬ間に私が犯罪者になっていたかもしれなかった。まさにミケ、GJ。


 私はこのクエストを持ってきた時のギルマスのロイドの表情を思い出す。

 ……私がクエストを受けた時のあの生温かい視線。あれは絶対勘違いしてるね。

 せいぜいが私の里帰りを助けてやろう、くらいにしか考えていなかっただろう。実はこんな切羽詰まった事態となっていたとは。


「とりあえず、討伐しないといけないよね……」

「そうだね。そのまま放置してたら絶対他の冒険者に話が伝わるよ。そしたらルッシーはもれなく犯罪者だね」

「ルシアだけなら尻尾切りしてたけど……」


 フォー・リーフのメンバー全員が巻き込まれる、と。それにしてもシャロ、冗談とはわかっていても尻尾切りは酷いよ。


「まぁまぁ。私達も微力ながら手伝うニャ。そのためにここにいるのニャ」


 よく見るとミケの腰には火炎瓶らしきものがたくさん吊り下げられていた。タマも背中に短槍を吊っているし、ポチもぶつくさ言いながらも弓の調子を確かめている。


「ありがとう……ミーちゃん、タマ、ポチ」

「別に……暇だったから冷やかしがてら来ただけだ。あぁ、上級冒険者様が慌てふためく姿も見てみたかっ──」

「ポチは『蓄えの時期なのに仕事を放り出すのか!』って、親方から怒鳴り散らされてたニャ」

「──おいミケ! んなこと言わなくていいんだよ!」


 ギャースカ騒ぐポチにツーンと背を向けるミケ。これも村にいた時によく見た光景だ。


「き、気にしなくていいから。それに、ルシアの畑、取り戻さなくちゃ……だよね?」

「う、うん……。ありがとね、タマ」


 なんとなく今でもタマと話すときは気恥ずかしい。特になんだ、ってことじゃないんだけど、その、色々、ね。


 何かの雰囲気を嗅ぎつけたのか、ベルが私とタマの間にぐいっと割り込み、私に向かって笑い、爆弾発言をした。


「ルシア。ベルにぜんぶまかせるのっ! つがいの巣をまもるのは、ベルのやくめなのっ!!」

「う、うん。ありがとベル。頼りにしてるよ」

「まかせるの! ルシアはあんしんして番であるベルのかつやくを見てるがいいの!」



「……えっ?」



 ベルの言葉に、タマの笑顔がピシリと固まった。 


「……はぁ?」

「ま、まさかルシアちゃん……ベルちゃんとあんニャことやこんニャことを…・・・ニャニャニャ///」


 これはやばい。

 幼馴染組が変な勘違いをしている。


「まぁまぁ。ルシアったらベルちゃんとそんな仲になってたのね。もっと早く言ってくれれば」

「あとでちゃんとごあいさつするつもりだったの」

「あらー、楽しみにしてるわ。ルイン~、おねえちゃんが増えるかもしれないわよ~」

「ねぇね、いっぱい?」

「お母さんはちょっと静かにしててねっ?!」


 話が脱線しそうになったのを感じ、ため息交じりにシャロが引き締めてくれた。


「幸いデーモン・イーターは見た目通り移動はしないみたいだし……とりあえず対策を考えるわよ」


寒さには弱いアマガエルです。ホントに冬眠したくなります。

年末から一気に寒くなりましたね。皆様は風邪を引かないようにお気をつけください。


お疲れさまでした。

楽しんでいただけたならば幸いです。


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