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エピソード94 私達、王都を後にします


 波乱万丈のシャロの実家帰りに付き合ってから2週間後、フォーリーフの皆と、ついでにタイミングが合ったアレックスは馬車に乗って王都を後にした。

 ゆっくりと離れ小さくなっていく王都を見やり、私はその間の出来事を思い返す。



 あの後も実に様々な事があった。



 心なしかムスッとした様子のローラに、シャロが必死に平謝りするという珍しい光景が見られたり。


 「ルッシーさぁ、ちゃんと私を誘ってくれないと、ね?」と凄まれ、何故か私もシャロと一緒に正座させられたのには納得がいかなかったけど。


 ……じゃあ正座しなかったのかって?

 もちろん!……したよ、ローラ怖かったもん。

 


 1日早く用事が終わったから、とベルに買い物を強請ねだられたのでお供したり。


 せっかくだからと彫金師のマーヤも無理矢理拉致……ごほん、誘ってみた。

 マーヤは自分の亜人としての身体的特徴にコンプレックスがあるらしく、重度の引きこもり体質であった。「心の準備がっ、出来てませんっ!」と言って部屋から連れ出すのには苦労した。


 珍しい彫金の依頼が来て忙しいとかなんとか言い訳していたけど、最終的には待ちきれなくなったベルが扉をぶっ壊して連れ出した。マーヤの姿も特に気にする事もなく、「はやく、いくの」とニッコリ笑う姿はなかなかの迫力だった。


 マーヤはアワアワと涙目になっていたが、私もマーヤのお兄さんである鉱石加工店の店主さんに睨まれ、泣く泣く扉の弁償したんだ、おあいこだろう……いや違うかな?


 出会いはひどいものだったけど、ベルに着飾ってもらっていたマーヤの表情は満更でもない様子だった。また王都に来る際にはベルと一緒に立ち寄ることにしよう。今度は穏便に連れ出したいものだ。



 ローラの新装備の調達に付き合ったりもした。

 今もローラの背中に吊るされた妙にゴツい弓──『電磁砲レールガン』をベースに異世界風にアレンジした武器。あの私の適当に考えたネタ武器を、異世界の技術で無理矢理作成してしまった。


 ちなみにこの武器の作成ににマーヤも関わっていたのは驚いた。どうやら、部屋から連れ出す時に言っていた珍しい仕事とはローラの武器の事だったらしい。世の中狭いものだ。


「……フフっ」

 

 今もローラは自分の弓を見ながら口の端がニヤけている。


 彼女が持つ弓の柄には4本の爪型の奇妙なアタッチメントが取り付けられている。ローラの長ったらしいマニアックな説明を要約すると、魔石に特殊な技術で直接刻印を刻み、魔素を爆発させて強力な反力を生み出す装置、らしい。


 つまり、本来のレールガンの肝であるローレンツ力を丸々魔素で代用した異世界仕様の代物だ。電磁力なんてなかった。どちらかというと普通の火器に原理は近いんじゃ……と思ったけどそこは口を噤んでおいた。


 触らぬローラに祟りなし、だ。ちなみに名前を決めてほしいと強請られたので、当初考えていた『電磁弓レールボウ』ではなく『魔導破城弓マギカ・バリスタ』と命名した。


 本来の破城弓ほどゴツい代物ではないけど、魔物の討伐クエストを受けた際に試射した時のインパクトが強すぎた。轟音を伴って放たれた矢が魔物を文字通り木っ端微塵に吹き飛ばす姿は、魔物に同情の念を抱いたほどだった。


 その様子に、シャロはポカンと口を広げ、私は顔から血の気が引いた。


 ローラには弓の使用に関して滾々と説き伏せたが、恍惚とした表情の彼女はちゃんと私の言葉を聞いていただろうか。

 私はこの異世界に危険な代物をもたらしてしまったかもしれない。

 

「むすぅー」


 それに比べてベルは不貞腐れていた。

 理由は明快。シャロもローラも戦力を強化したのに、自分は全く変わっていないからだ。


「まったく。ベルはもともと強いんだから何も問題ないって言ってるのに」

「うん。私達がベルたんやルッシーに追いついたというのが適切」

「えぇー。ベルだけなかま外れはズルいの!」


 そう言ってベルは私をジトッと胡乱な目で見てくるので、私はその視線をスッと外す。

 ベルが言っているのは私との共鳴魔法の件だ。


 シャロやローラが戦力強化をした今、焦ったベルが「やくそくなの!」としつこく私の耳元で喚くので仕方なく何度も試してみたが、結局うまくいかなかった。

 そもそも共鳴魔法の発動条件をどうやって満たすのかが分からない。ソフィアと発動したのはたまたまで、同じ状況を試してみても全く発動する気配はなかった。


「ベルとルシアの魔法の相性が悪いんじゃないの?」

「うーん、わかんない……。やってみた感じなんとなくそんな気はしないんだけどね。師匠なら共鳴魔法について研究してるかもしれないから、またスタージュの街に戻ったら相談してみるよ」

「ぜったいかんせいさせたいの! ベルとルシアの愛をみのらせるの」

「はいはい」


「お前、やっぱレズなんじゃ……」

「違うよバカ!」


 私達に同行していたアレックスは、私達の様子を見てため息をついていた。スタージュの冒険者ギルドマスターのロンドに頼まれて王都で色々仕事をしてたらしいけど、数週間ぶりにあった私達、というか私の仲間の戦力増加っぷりにドン引きの様子だった。



 そんな調子で数日掛けてスタージュの街に戻り、冒険者ギルドで報告を済ませていると、奥からのそりと現れたギルドマスターに呼び止められた。


「やっと戻ってきたか。もう戻ってこんのかと思ったぞ」


 ロンドはいかつい顔を歪ませてニヤリと笑う。


「ま、そういう案もありましたけどね」

「報酬は潤沢。ホームも買える」

「かわいいふくもたくさんあったの!」

「あの額は俺もちょっと心が揺れたぜ?」


 私達は顔を見合わせ、クスクスと笑いあった。その選択肢も満更ではなかった。王様からの報酬が想像以上の金額になった。その額、1人あたり()()()100枚。


 本来の報酬の優に1000倍。シャロが言うには王都の貴族街にちょっとした豪邸が建てられる程らしい。平民が一生見る事など有り得ない大金だった。


「その様子だとかなりの大金になったようだな。その件に関しては後でじっくり報告を受けるとして……『フォー・リーフ』に指名のクエスト依頼がきているぞ」


 ロンドは懐から取り出した羊皮紙をシャロに手渡した。ロンドの口の端が緩んでいるのが何やら怪しい。私は横から失敬してその内容を読んだ。



=================================

【最優先パーティ:フォー・リーフ】

依頼内容:農作物収穫の手伝い

……



「農作物の収穫……? あたし達は冒険者であって別に農民ってわけじゃ……「私は農作業が本業の農民なんだけど……」ルシアは黙ってて」


 私は精一杯の抗議を行った!

 しかし抗議は却下された。解せぬ。


 ただ、仕事内容が農作物の収穫って……。

 シャロの言う通りこの依頼が正式に私達に通されたことが、どうにも腑に落ちない。


 確かにこのような依頼が冒険者ギルドに来ることはある。でも、それは冒険者ランクの低い者達へ優先されるはずであり、こういうのもなんだけど、仮にもA級冒険者パーティに認定された私達に釣り合うものではないように思う。


 たとえ指名であっても窓口で却下される可能性すらある。

 一体全体なんでロンドはこの依頼を私達に回すのを許可したんだろう……?


 とはいえ、久々の畑仕事だ。私は若干浮足立っているのも自覚しつつ、依頼主と依頼場所の記載を見て驚きに目を見開いた。


 そこには──



……

依頼場所:ボルカ村

依頼人:ゴードン

=================================



「……受けるだろう?」



 ロンドの言葉に、私は満面の笑みを浮かべて首を縦に振った。


お仕事が忙しすぎて更新が滞っていましたが、再開です。

しばらくお話を書いてなかったのでブランクががが……。のんびりリハビリしていくのでお暇の際にちょろっと確認していただければ幸いです。


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