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エピソード間話 ローラの休日


 カンッカンッカンッ!


 熱した金属を打つ金槌の音が周囲の建物から漏れ響く。

 

 路地には剣や斧など、様々な金属武器や防具が展示された店が立ち並ぶ。


 商品の値段交渉の声が喧々囂々と鳴り響く。


 ここは王都の鍛冶場街。

 私、ローレライことローラはそんな道を歩いている。


「鉄臭いし汗臭い……それに騒がしい」


 私はあまりこういう場所を好まない。

 もちろん、冒険者である私は職業上こういう場所に来ることが多いので、たぶん一般人よりは慣れている……はず。


 それでも、私は【探索者】というスキルのおかげか五感が優れている。


 金属が打ち鳴らされる音は耳を鋭く貫いて頭までズキズキと響くし、鉄と男の汗の臭いは目がチカチカして鼻腔にネットリと絡みつき、しばらく気分の悪さが取れない。


 わざわざ休日に好んで来る場所ではない。

 それでも私は、私の為に、ひいては『フォー・リーフ』の為に此処に訪れる必要があった。



 ──己の戦力強化。

 

 

 弓使いとして、私はそれなりの自負がある。

 有効射程における必中の精度。隠密性。刻印符を用いた属性攻撃など。


 パーティ戦闘の後衛として、そこら辺の冒険者と比べても引けを取らないと思ってる。


 しかし……A級冒険者としては全く足りない。

 

 グラネロ村周辺で遭遇した魔物との戦い。あの戦いで、私はあまり役に立たなかった。

 同じA級冒険者の3名はそれぞれが強力な暴走種の魔物を撃破し、同じパーティメンバーであるルッシーは大戦果を上げたのにも関わらず。


 弓使いはあくまで後衛職。

 前衛のシャロやベルたんとは戦闘の役割が違うけど、流石にダメージが全く期待できないのは彼女たちと肩を並べるには役不足。


 シャロ達はそれを否定すると思うけど、少なくとも私はそう思っている。

 

 だって、シャロは……



「はぁ……」



 思わずため息をこぼした。


 昨日、シャロは自身の戦力強化の為に数日の別行動を宣言した。

 その宣言通り、今日の朝には宿から消えていた──ルッシーと共に。


 目的地は何となく想像がついてる。

 本気で調べれば跡をつける事も可能だと思う。でも私はそれをしなかった。


 だって……シャロがお供に選んだのは、私ではなくルッシーなんだ。


 シャロはシャロなりの思惑があってルッシーを選んだのだと思う。恐らく戦闘の可能性があるんだろう。なんせルッシーは竜種と単独で戦闘出来る程の実力がある、S級冒険者なんだから。


 でも、それでも……私に頼って欲しかった。

 

 誰も悪くない。

 シャロもルッシーも。


 あえて言うなら、悪かったのは……頼ってもらえなかったのは、ルッシーより私が弱かったから。



 ──なら、私が強くなればいい。

 シャロが遠慮なく私に頼れるくらい強く。



 そして思い出した。王都に立ち寄る道中でルッシーと話した内容を。

 


 超電磁加速弓レールボウ

 『電気』とかいう魔法を使った超加速・高威力の弓。

 


 ルッシーが言うには『あくまで理論上の産物』らしいけど、詳細を聞くと似たようなものは作れると私は思った。


 ならば、王都の一流の武器職人に相談するのが手っ取り早い。

 というわけで、わざわざ苦手な場所に赴いたんだけど……。


「うぷっ、既に気分が悪くなってきた。……帰ったらベルたんのぺったんこをペタペタしよっと」


 妄想に逃げながら、私は目的の場所に向かうのだった。


-----◆-----◇-----◆-----


「ほぉ……それはなかなか……」


 私の話を聞いて男は腕を組み考え込む。

 男の名はブルーノ。王都の冒険者ギルドの紹介を受けた、凄腕の鍛冶師らしい。


「どうかな? 全てを作成してくれなくてもいい。心臓部だけ作ってくれれば後は私が組み込む」

「あー……木製の弓だと、新調しないと数発でぶっ壊れるぞ」


 私の弓を見ながら、ブルーノは断言する。


「この弓、風精霊樹の枝で作られてるんだけど、それでも無理?」

「『電気』というのはよく分からんかったが、要するに弦だけでなく魔法を使って加速させるんだろ? 確かに高級品だが剛性が足りん。漏れ出たエネルギーで粉砕するのが目に見えるってもんだ」


 そっか……この弓結構気に入ってたんだけど。


「じゃあどうすればいい?」

「弓を金属製にするんだな。出来れば弦ももっと耐久性の高いものがいい」

「そんな重い弓保持できないし、弦を引けない。何より全部新品にすると今はお金がない」

「じゃあ壊れる前提で作るか。鍛冶師としてはクソ仕事だが、試作品としてなら……。値段はこんなもんでどうだ?」


 提示された金額は金貨5枚。

 一応払えるけど、試作品としては随分とふっかけてる。


「高すぎる。試作品なんだよね?」

「試作品とは言え一点物だぜ? 文句があるなら他のとこ行きな。尤も、他じゃ引き受けてくれねぇだろうがな」

「むむむ……」


 ムスッとした顔をしながらも私は前金を支払った。

 ここでシャロがいたら代わりに値引き交渉をしてくれたかもしれないのに。


「毎度あり。……そう怖い顔すんなって。金を貰った以上、使える物にはしてやっからさ」

「そんなの当たり前。バックレたらここに矢の雨を降らせる」


 脅すように矢筒を揺らすと、ブルーノは顔を引き攣らせた。


「おっと、可愛い顔しておっかねぇ。……さて、弓に直接組み込まないなら取り付け式だな。外枠はこっちで作るとして……魔法刻印はもっと腕の良い職人のが良いな」


 ブルーノが私を放ってブツブツと呟き出した。

 こうなるとこの男はいい仕事をすると聞いている。


「仕上がりはどれくらい?」

「……ん? あ、あぁそうだな……魔法刻印の職人次第だが、だいたい10日くらいか」


 結構時間がかかる。

 出来ればシャロ達が帰ってくる時に見せたいと思ったけど……それは流石に無理か。


「出来る限り早く仕上げてくれると嬉しい」

「刻印さえ終わればそんなに時間はかからんよ。だがあそこの職人は腕がいいんだが割と気ままだからなぁ。仕上がれば人をやるから、居場所を教えてくれ」


 私は宿の場所は教えず、冒険者ギルドを通すように伝えた。

 女ばかりだし、一応注意はしないとね。


 商談を終えた私は、店を出て意気揚々と宿に帰還する。

 新しい装備を期待しながら。

 

 シャロ、帰ってきたら今度は私が絶対護ってあげる。

 だって私がシャロの一番の相棒だから。これだけはルッシーにも譲れないよ。


 数日後、今回の新装備に関するとある問題が起こるのだけど、そんな事今の私には知り様もなかった。



 ……え? そんな事よりベルのぺったんこをペタペタしたかって?

 ムフフ。ご想像にお任せするよ。


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