エピソード093 王都で自由行動です──シャロ編Ending
「さて。色々予定外の事が起こったけど、これで一件落着だよね!」
汗を拭く真似をし、爽やかに笑う私。
まぁ、最後はシャロ1人でやっちゃったから、私は何にもしてないけどね! あっはっは!
「どこが一件落着なのよ……ほらこれ」
シャロが拾い上げたのは1つの魔石だった。
「魔石……? 一体何処に魔物が……ってもしかして!?」
「ええ。あの『偽物』からドロップしたんでしょうね」
「えぇっ?! で、でも、人族から魔石がドロップするなんて話、聞いたこと無いよ?」
魔石は魔素を溜め込む為に魔物に存在する特殊な器官であり、それ故に魔物からしかドロップしない。
これはこの世界での常識中の常識だ。
にもかかわらず、普通に会話出来ていた『表』ペトゥラから魔石がドロップした。
これが意味するところは……
「偽物のペトゥラさんは人間ではなかった……?」
「『魂喰の鎖』の特効が発動していたから、スピリチュアルモンスターだった、ってことね。あたしがアレを悪霊呼ばわりしたのはあながち間違ってなかったってわけよ」
「言葉を話し、魔法の詠唱まで出来る魔物なんて聞いた事無いけど……」
「何事にも例外はあるってやつじゃない?」
例外……たしか、『表』ペトゥラは自分のことを『擬似精霊体』、と言っていた。
言葉通りのままなら、人工的に作り出された精霊って意味だけど、書物によると精霊は長い時間をかけて自然界から生み出される存在だったはず。
人工的に作り出すなんて……それも何故、ただの一貴族の令嬢でしかないペトゥラに取り憑いていたのか……。
今回の件は謎が謎を呼ぶばかりで、頭が痛くなるなぁ。
「あ、あノ……」
私とシャロが『表』ペトゥラと魔石について考えを巡らせていると、おずおずと『裏』ペトゥラ──いや、もう『偽物』が消え去ったんだからただのペトゥラか──が声を掛けてきた。
「……あぁ。頭の処理が追いつかなくて忘れてたわ」
「同じく」
「酷イ!!」
ペトゥラはやっと魔力切れの症状が緩和してきたのか、今はジュラフに支えられて立っていた。
彼女は少し思案するように視線を彷徨わせた後、覚悟を決めたようにシャロに頭を下げた。
「ゴめんナさい。私は──」
「謝罪なんか要らないわ」
ペトゥラに最後まで言わせず、シャロは言葉を突きつけた。その様子にペトゥラは更に肩を落とす。
一見すると冷たい対応だけど、私は普段の……冒険者としてのシャロを知っている。
シャロが普段どおりならば、どうせ──
「『アルス聖皇国に居た頃から、いつの間にかアイツに取り憑かれていた』、『思考を誘導されていた』、『訳も分からずシャッテの母親を殺していた』、『恐らくアイツの目的はブローニア家の宝を奪うこと』、ってところでしょ? あたし達を襲ったのは家宝と、そのほとんどを封じた鍵を持っていたから、ってことよね」
「エっ? あっ、ゥ、ウん……」
「ならあなたも被害者ね。お母様を殺した事は許さないし、正直もやもやするけど……もう3年も前の事を責め立てる程、あたしは子供じゃないわ」
──ほらこれだ。思考が読んでいるかのように、次々と言い当てている。
突き放しているのではなく、相手の思考を先読みしてやり取りをすっ飛ばしちゃうから、周囲から『冷たい』とか『キツい』とか言われるんだよね……。
今日はまだ説明してるだけ優しい、かな?
「で、デも、さっき私の事ヲ……」
「ああ、『お母様の仇』って言ったこと? あれは……アイツにちょっとだけ思考誘導食らってたから、ついポロッと言っただけよ」
それが本当かどうかは分からないけど、今のシャロに仇討ちをしたいという気配は伺えない。
「でも、あの偽物も回りくどい事させたよね。魔法でちゃちゃーっと鍵とか剣とか譲るように思考を誘導したら良かったのに」
「闇属性魔法の成功率はMNDに依存するし、バレたらせっかくのカモフラージュが無意味になるからじゃない?……そもそもジュラフが居たからそんな事出来なかっただろうし」
「……? ジュラフさんが?」
そう言えば、ジュラフは(一応)一般人で魔法耐性も低いはずなのに、『裏』ペトゥラの思考誘導を受けていなかった。……私は受けてたのに。ぐすん。
「ジュラフは珍しいスキルを持っているらしくてね」
「【魔法無効化】のスキルでございます」
……。
で、でたぁー!
異世界チート系のお話ではよく見る最強クラスのスキルだ!
こんなオジサマが持ってて良いスキルじゃないでしょ!? ずるい!
「良いなぁ……羨ましいなぁ……」
思わず本音が漏れた。
「ハハハ。たしかに優秀なスキルですが、不便な事も多いのですよ」
「不便?」
聞くと【魔法無効化】は所謂パッシブスキルらしく、攻撃系の魔法だけでなく全ての魔法を無効化してしまうのだそうだ。
自分も魔法を使えないので、属性魔法はもちろん生活魔法も扱うことが出来ない。
この世界は科学の発展が遅れてる代わりに、魔法──特に【聖環】を持つものならば誰でも使える生活魔法がライフラインを支えているので、それはたしかに大変そう。
「だから私の【アクア・マインド】が無効化されちゃったんだ。あ、でもそれなら私の代わりに狂じ……ペトゥラさんの風属性魔法を無効化してくれれば良かったのに」
「非戦闘員を盾にしていいの?」
「……仰るとおりです」
話がドンドンずれていくので、ペトゥラが気まずそうにしている。
とりあえず話を戻そう。そして私の失言をなかった事にしよう。
「つまり! ペトゥラさんはシャロに対して償いをしたいって事なんだよ!」
「話を強引に戻したわね……。なら、1つお願いしたい事があるわ」
「な、ナンでもするワ!」
ん? 今、何でもするって言った?
……いえ、冗談ですなんでもないです。
「なら……今まで通りこの屋敷の主として貴族達の相手をしてなさい」
「……エッ?」
ペトゥラが目を瞬かせている。それも当然。その要求は今までと何も変わらないのだから。
「どうせジュラフの事だから、この騒ぎが収まったらあたしを屋敷に戻らせて……とか企んでたんでしょ?」
「……いやはや。恐縮です」
「読まれていましたか……」とジュラフは小声で呟きながら頭を掻いた。
「あたしは冒険者よ。日々自由な暮らしになんだかんだ満足してるの。今日は3年前の忘れ物を取りに来ただけ。今更貴族に戻って窮屈な暮らしをするなんて真っ平御免よ。それに──」
シャロは私や、ここにいない誰かを見やり、言葉を続けた。
「────あたしを待ってくれている、仲間が……親友がいるもの」
「シャロ……!」
本当は心の奥底で心配していた。
シャロは皆に、私に、後でパーティに戻るから、とずっと言っていたけど。
過去に終止符が打たれたら。
冒険者である理由が薄まるんじゃないか……私達から離れて貴族に戻るんじゃないか。
もう、一緒に冒険してくれないんじゃないか……って。
『フォー・リーフ』も、解散しちゃうんじゃないかって。
ああ……そっか。
私、たった半年で、こんなに『フォー・リーフ』の事が、ベルが、ローラが、そして、シャロの事がこんなに大切になってたんだ。
そんな思いが胸に溢れ──……私は思わずシャロに抱きついていた。
「えっ、ちょっ!? 今は真面目な話してるんだから離れなさいよ!」
「グスッ……ヤダもーん」
私は抱きついたままイヤイヤと駄々をこねた。
「子供かっ! 今、あたしのカッコいい場面なのよ!?」
「知らないもーん。それに私、まだ12歳だから充分子供だもーん」
「ぐっ……! そうだったわ。普段は変に大人びてるから忘れてた」
私は愚図りながらもしっかりと抱きつき、シャロはギャァギャァ喚きながらもそれを本気で振りほどこうとはしない。
女2人でも姦しい、いつもの私達の様子を、ジュラフとペトゥラは苦笑いしながらも、ずっと、ずっと眺めていた。
「あたしの見せ場、返せぇーーー!!!」
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シャロット [一流冒険者]
lv: 29
HP: 550/550 MP: 200/200 AP: 0/0
STR: 065(+10) DEF: 045(+ 0)
MAT: 060(+20) MND: 055(+ 0)
SPD: 080(+ 0) LUK: 023(+ 0)
[装備]
・アイアン・ショートソード(STR+10)
・エンチャント・ソード(STR+10, MAT+20)
・ドレス
・【聖環・無火】
・封狼の首飾り(『魂喰の鎖』・『紅の封玉』・『封じられし神狼』のセット)NEW!!
[スキル]
・窮鼠lv.4
・剣技lv.8
[魔法]
・【ファイアー・ボール】lv.8
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[装備]
封狼の首飾り NEW!!
・シャロットの家系、ソーンダイス家の者のみが扱えるアーティファクト級魔道具
・『魂喰の鎖』
・鎖に触れた一定量の魔法を吸収し、己の魔力に変換する
・非実体の対象に対して威力絶大
・『紅の封玉』
・装備中、中級と一部の最上位火属性魔法が使用可能になる
・習得していない魔法は消費MPが増加する
・『封じられし神狼』
・封玉に封じられし名を奪われた狼
・狼に認められし主に限り、使役する事が可能
・発動条件あり




