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劣等種の建国録〜銃剣と歯車は、剣と魔法を打倒し得るか?〜  作者: 日本怪文書開発機構


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対機甲

 その場の『最高位だった者(旅団長)』が、まるで新兵のように気を付け(不動の姿勢)をして正対する。リアムは副旅団長を送るついでに、旅団本部の抜き打ち視察に来ようとしたところだった。


「旅団長」

「はいっ!」

「12連隊は固有のガス・焼夷武器を保有していないな?」

「はい!」

「了解! ならここの砲兵だけでやろう。FDCは? ここだな? よっしゃ」


 只今よりリアム・ド・アシャルが旅団の指揮を取る。落ち着け、大したことじゃないから。そんなことを部下の肩を叩きつつ言いながら、ズンズンとFDCへと歩む。


「対機甲戦闘――砲兵はそのまま撃ち続けろ、大丈夫、効いてる(足止めにはなってる)ぞ。砲兵大隊、1中隊はガス弾、2中隊は発煙弾、3中隊は発光焼夷弾を準備しろ。発煙弾は即応可能だよな? ガス弾と焼夷弾が準備できたら報告。目標そのまま。FDC、各砲弾の諸元変化に注意」


 CSガスを充填した155ミリ砲弾という非人道的(化学兵器禁止条約違反)な代物を、リアムはシルビアに指示して準備させていた。

 それは敵の本部とか、集結した敵とかにブチ込んで『生け捕り』するために準備されたものであったが、別にその用途に縛られる必要は無い。

 対機甲戦闘。とだけ言えば通じた前世を懐かしく思いつつ、12連隊のうち敵『機甲』部隊に肉薄され、恐らくは魔法による攻撃を受けている3中隊に林内退避を命じる。 


 敵は、おそらく小銃弾を防護する能力を有する機動甲冑とでも呼ぶべきものを投入したのだ。さっきチラっと見たが、前世世界での覚えがある雰囲気を発していた。

 こうきたか、なるほど。

 じっくりとした考察は後に回すとして、一筋縄ではいかんよな、とリアム(六角)は納得しつつ、弾薬庫から所要弾薬が払い出されるのを待った。

 3中隊陣地は、巨人から発せられた光条によって土煙に包まれていたが、命令を下して暫くして、2中隊から放たれた発煙弾に加え、発煙手榴弾により煙幕を展開して後退を始めた。組織的戦闘能力は十分残っている。素晴らしい練度だ。


 巨人は、目ざとく3中隊を見つけてそれを追いかけようとしたが、陣地前面に設けられた対騎人兵壕――騎人を以てしても飛び越えられず、そして這い上がれない、大量の死体を受け入れる深さの落とし穴(・・・・)――に、煙幕のせいもあって躓いたようであった。


「準備よし」

「よし、ガス弾から撃つぞ、3中隊撃ち方はじめ。おい、この双眼鏡、使ってないなら貸してくれ」


 リアムは、FDCに向け命令を発しつつ、旅団幕僚用に配備されつつも活用されていなかった双眼鏡を目にあてがう。

 なるほど、直結操作型(脳直結操作)か。で、対NBC能力は無いと。

 晴れつつある煙幕の中でおそらくは反射的にのたうち回る12体の『巨人』を見ながら、次いで発光(テルミット)焼夷弾の使用を命じる。

 巨人は、更に激しくのたうち回った後、急にゆっくりと直立し、俯いて沈黙した。


「よし、大隊最大装薬。目標、12連隊陣地右翼障害上に擱座した敵、指命」

「準備よし!」

「撃て」


 リアムの命令に従い、155ミリりゅう弾が一斉に『巨人』へと吸い込まれる。

 スパン、そう形容すべき勢いで、『巨人』の四肢が飛び、明らかに機能を喪ったのを見て、ようやく歓声が挙がった。


「よっしゃ、次行くぞ――


 このようにして全部の『巨人』がバラバラに解体されたのを見、リアムはふう、と息を吐いてから、撃ち方やめ。と命じた。流石に焦った。まさかあんなバケモノ(ビックリドッキリメカ)が居るとは。歩兵部隊に固有の対硬目標撃破装備が要る。そんなことを考えながら、双眼鏡を元の位置に戻す。

 その頃ようやく、旅団本部は落ち着きを取り戻し、「敵歩兵横隊及び騎人兵」の南下をFOから受領していた。そして、自分たちをパニックに追い込んだ『巨人』は、よく見れば大きな機械(魔法)仕掛けの鎧であって、『中身』がガスを吸い、苦悶した後に焼夷弾で蒸し焼きにされ、テルミットの熱で脆くなった装甲板を着発射撃で破壊(ダメ押し)されたことを理解した。

 リアムの脳裏には、幾らまだ未熟とはいえ155mmりゅう弾の直撃に耐えた『巨人』が、何故衝撃波には耐えたのにガスは有効だったのかとか、そういう疑問が一瞬去来したが、それよりも目前に積み上がった無数の仕事を始末しなければならない。


「お前ら慌てすぎだ。隷下部隊がビックリするだろうが」


 現時刻を以て旅団の指揮を解く。

 そう宣言して、彼はズンズンと出口に向かう。


「じゃあ、また来るから、しっかりやれよ!」


 最後そんなことを言って、リアムは公用車に乗って旅団本部を去ってしまった。

 将校らは、暫し呆然とした後、南下する敵を押し留めなければならないと気付いて、12連隊の再配備と火力計画の実行を命じるため再起動(・・・)した。



****



「撃て撃て撃て! 近付けさせるな!」

「駄目です! 効いてません!」


 第十一輸送任務部隊(11T-TF)にも、『ソレ』は近づいていた。

 実態としては、爵領庁が唯一持っていた『甲冑』を護衛(1コ小隊)を添えて自走させていた――それが爵領庁が今回動かした最後の地上兵力であった――というものなのだが、騎人兵以外を敵として想定していなかった第十一輸送任務部隊(11T-TF)もとい第十一歩兵連隊を面食らわせるには十二分であった。


 持って帰るのも癪だから、そんな感じで迫・機関銃の全力射撃が行われたが、当然有効打とはならない。そもそも迫撃砲弾を移動目標に命中させるのは至難の業だ。1コ騎人兵小隊は当然挽き肉と化したが、『巨人』は白リン発煙弾(WP)を投射し始めてようやく足止めになるような有り様であった。


 兵士らは兎も角、難民らが恐慌に慄いたことによって連隊本部は地獄のような混乱の中にあった。幸いにして、警察大隊(DPDBn)が難民の混乱を収拾させて戦闘地域からの離脱を図りつつあったが、それでも三中隊陣地の直近にまで『巨人』は来ていた。

 そもそも反斜面を活用して、それを不意急襲的に射撃するような企図で設けられた陣地であったから、三中隊が射撃を開始した時点で『もうすぐそこ』だったのだ。


「連隊長! 三中隊が指示を求めています!」

「三中隊は現陣地を放棄! 撤退しろ!」

「しかし、重迫陣地までもう……」

「どうせ効いて無いじゃ無いか! 工兵小隊前へ! 道路爆破薬準備!」

「……了解!」


 「難民の車両搭乗・移送準備完了」という報告をしようと、例の警察官が指揮所にやってきたが、誰も相手にしなかったし、警察官も流石に状況を察してその辺に居る筈の伝令兵を探した。

 そのとき、3中隊が撤退のために展開した煙幕のせいで『巨人』がすっ転び、地雷が発動して轟音が周辺を満たす。それを連隊長は見逃さなかった。発煙手榴弾の援護下、道路爆破薬を抱えた工兵が駆け寄り、立ち上がらんと藻掻く『巨人』に向けソレを投げつける。

 道路爆破薬は、その名の通り道路を爆破するための工兵資材である。普通の爆薬と違うのは、その威力に指向性がある点である。道路を爆破するのだから、ある一方向にエネルギーが集中されると便利なのだ。


「衝撃に備え!」


 工兵が手近な壕に飛び込んで頭を抱えたのと同時に、道路爆破薬が起爆。巨人の腰を圧し折った。


 特攻と形容すべきその活躍によって、巨人は沈黙した。

 直後、大体1コ小隊ぐらいの人員が巨人へと駆け寄ったのを認め、3中長のダンカンは慌てて射撃を止めさせる。


「撃ち方やめ! 撃ち方やめ! お巡りさんに当たっちまう!」

「あいつら何やってんだ!?」


 警察官は、倒れた巨人に駆け寄って、次いで器用にその上に登り、そして――



「開けろ! コラ! ドーベック市警だ!」


 ワラワラと警察官が巨人、否、巨大な甲冑によじ登り、そして、よく見れば確かに搭乗ハッチだという納得がある構造物に向かって罵声を浴びせ、合計して1秒間に4回ぐらいの速度で拳か銃床を叩きつけ、或いは取っ手を持ってガチャガチャとやった。


 別に逮捕してやろうという訳では無く、引きずり出してぶっ殺しやろうという気概に満ちた警察官1コ小隊が、巨人のありとあらゆる機能をつぶさに観察した上で破壊し、ついには扉を解いて中身(・・)を引き摺り出した。

 幾ら魔法による防護があるとはいえ、弱点部を一方的に至近射撃されては構造が破綻してしまうというのを、このとき国家市民軍は始めて認知することになる。


 明らかに、『搭乗者』は恐怖に慄いていたが、その暇無く鼻面を銃床で殴られ、『巨人』と同じように沈黙し、直後手錠が後ろ手に掛けられて猿轡まで口にねじ込まれた。

 警察官らは、敵と格闘すること、敵に近接することに全く抵抗が無かったのだ。逆に火器使用にはまだ躊躇があった。


「捕虜だぞ! 捕虜! 憲兵さん(抑留資格認定官)どこだ!?」


 それでいて、一人当たりの職務量が大変に多いドーベック市の警察官らは、大変に優秀だった。誰かがやるべきことを発見したとき、相互が自律的に判断しワラワラとそれを援護するような格好で戦闘を遂行していたのだ。

 勿論、彼ら(警察官)だって指揮官の号令に従って戦闘(集団警備)をすることは出来る。しかし、自らの任務を瞬間的に自覚し、自ら判断して行動するというのは、号令の下戦うよりも高い練度が必要である。それを幕僚らは理解していたから、連隊の将校らの中に感心と、これだったら難民の移送も何とかなるだろうという安心感が去来した


 尤も、軍と警察との間にある緊張関係をベースとしつつ、ではあるが。

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