表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劣等種の建国録〜銃剣と歯車は、剣と魔法を打倒し得るか?〜  作者: 日本怪文書開発機構


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/123

プロローグ

――古来、戦場には浪漫があった。


マルヒト(15榴)射撃命令。目標、敵先遣部隊。座標、7877―3667。方位角6126、射角387。装薬黄5、榴弾瞬発3発」


――1対1で、或いは多数対多数で、何れもそれぞれの交戦勢力が誇りを持ち、戦い、傷つき、そして浪漫の下死んでいった。


 FDC(火力調整所)の中、砲兵将校が砲班に命令を下す。

 彼のサスペンダー(吊りバンド)は折りたたみ椅子の背もたれと、汗塗れの迷彩戦闘服に包まれた体躯との間でひしゃげている。


「5、4、3、2、1、弾着、今!」

「効果あり!」

「諸元そのまま、瞬発10発、小隊効力射始め!」


――戦場の浪漫は魔法の登場により、更なる栄華を極めた。

――魔法は、翼竜(ワイバーン)の使役を可能にしたのだ。

――そして神は、エルフにしか魔法を使わせなかった。


「目標、完全に沈黙」

「新たな目標、一コCo(中隊)規模の軽騎人兵」


――エルフによる精霊魔法と翼竜(ワイバーン)、ケンタウロスによる機動戦は、それ以外の種族を戦場から駆逐し、そして彼らを頂点とした社会を築いた。



KZ(キルゾーン)5に侵入」

「計画射撃発動、5号」


――勿論、翼竜(ワイバーン)の活用による高速大容量の通信が、この世界の基盤を形作ったのは言うまでもない。魔法そのものは万能では無いが、応用によって、その威力は増大したのだ。

――戦場の立体化。

――圧倒的機動力の優勢は、他の種族の上に立ち続けるのに十分な力を彼らに提供し、ある程度の安定性を以て存続していた。


「用意、撃てぃ!」


 そんな機動力(・・・)が鉄条網に引っかかり、一直線に並んで機関銃の的になる。

 今か今かと、銃側に張り付いて双眼鏡を覗いていた歩兵将校が、野戦電話機に叫ぶ。すると、幾何学的に最良を追求された位置に配された水冷重機関銃が射撃を始める。


 細い針金とそれに付いた針。まさかその程度で自慢の機動力を奪われるとは思わなかったケンタウロス(騎人)。体を刺すソレから何とか逃れんとジタバタと暴れる彼らとその間を、銃弾と砲弾片が音速の三倍以上の速さで吹き荒ぶのだ。

 緻密に計画されたそれらが威力を発揮する度に、悲鳴、血飛沫、肉、骨、代々継がれてきた武具、そして誇りが完全かつ的確に破壊されて宙を舞い、土と混ざった。


「目標群後退――敗走した」


 硝煙、砲声を基調とする地獄の中に、歓声が混じった。


「……敵航空騎兵1、方位040!」


 前進観測班(FO)からの緊迫した声は、指揮命令系統を伝って『空襲警報』を伝達し、歓声が止む。


――航空騎兵に乗れる種族は、唯一。

――この世界の支配者、エルフである。


――彼らは精霊魔法とドラゴン、そして長寿から来る知恵を活かし、この世界の頂点に長年君臨し、その他の種族を劣等種と呼び忌み嫌う一方で、搾取を続けてきた。

――その圧倒的実績と、空を飛んでいるという優越感。安定的な封建制度は、それを育むのに十分だった。

――それらに由来するであろう自信によって、彼の顔は完全に得意になっており、敗走する味方騎人兵に侮蔑の視線さえ送っていた。


「聞け! 劣等種共!」


 精霊魔法によって増幅されたその声は、戦場の隅々に――最寄りの村にまで届いた。


「貴様ら叛徒は、今日!この時を以て灰燼と帰す!」


 自信に満ち溢れたその声を聞き、髭と脂肪と面の皮をよく蓄えた砲兵が笑った。


「へっ、オタクの騎人兵はココの肥料になったが?」


 美しい得意顔が歪み、少し紅潮する。


「それはコイツらが無能だからだ。まさかお前ら、私を倒せるとでも思っとるのか!? ワイバーンも無しに! ハハ! めでたい!」


 そのエルフは、精霊魔法を使って砲兵の野次を聞いていた。

 しかし砲兵の野次は彼が、期待していた命乞いとかとは、相当異なっていたようだ。


 前線での茶番はさておき。

 航空兵力の来襲という事態に直面した野戦軍という生き物は、その脳みそ(司令部)をフル回転させて、どうにか一つの命令をひねり出していた。


「空中目標射撃、方位角0374、射角433、榴弾時限青4、装薬黄10、各個に撃て!」


 両用砲の迅速射撃と、その結果(曳火)が呈示される。爆轟と、空気を割いて猛進する破片に脅されて、彼のズボンは変色した。


「ウわぁ!?」


 炸薬(無煙火薬)の威力に脅された情けない声。それを戦場の隅々まで響かせ、ドッと笑いが起こる。

 それと同時に『劣等種』から沸き起こった数々の野次と侮辱は、エルフが長年培ってきた自尊心を刺激するのに十分であった。


「貴゛様゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


 彼に後光が差し、ワイバーンが急降下する。

 長年虐げられてきた人々は、そのあまりに神秘的な光景に笑いを止め、圧倒された若い兵士の「ヒュ」という肺から空気が絞り出される音が静かに鳴った。


 得意になったエルフは、『劣等種』を一掃しようと魔法の発動を試みた。いつもの通りに。

 キュウ、という音がして、地面が凍てつく。ここが吹き飛ばされるんだ。将兵は訓練を受けていたから、詳細な原理はさておき、自らが生命の危機に直面していることを理解した。


 ある兵は呆然とした。

 ある将校は青ざめた。


 だが、先任は叫んだ。


「馬鹿野郎テメェら戦え! 対空迅速射、急ぎ撃ち方ぁ!」


 対空砲、機関銃、小銃が、彼を指向して一斉に火炎を吹き、暫くしてドサリという音と共に土地を肥やした。



――……


 今日、戦場から浪漫が消えた。

 遅かれ早かれあったのかもしれないし、悪いとは言わない。

 しかし、今日確実に、戦場から浪漫が消えたのだ。

 代わりに産声を上げたのは効率。

 金属塊に注入された化学エネルギー(CE)を以て、人馬を殺し、精霊をねじ伏せ、計算と統計、研究により無制限に改善可能な科学が、戦場から浪漫を奪い去り、勝敗の決するところを効率(地獄)に置き換えた。


 何故そんなことをしたのか?

 簡単にまとめれば、『神にも精霊にも愛されなかった者達は、普遍の原則たる科学に縋るしか無かったのだ』となるが、以下の物語を読めば理解できよう。


 これは、戦場から浪漫を駆逐し、支配者を蜂の巣にし、巨人の肩にタダ乗り(フリーライド)し、科学と人権を普及させ、三重結合を切断して人口を爆発させ、種族間格差の根本的解決を図り、諸民族が共生する超大国を築いた、ある者。


 人権、科学、金融、通信……


 現代の父。国父。後の世からそう呼ばれる男。


 或いは、魔王。


 そう呼ばれる男の、功罪の物語であり、即ち、建国録である。



****



「リアム、おい、リアム!」


 まだ日も出ていない時間なのに、呼ぶ声があった。父親だ。


 僕の名前はリアム・ド・アシャル。アシャル家の三男だ。

 兄は二人居るが、片方のクレイグ兄さんは風邪をこじらせて死んだ。

 母は、前回の飢饉の時に死んだ。


 だから、食卓は広く使える。

 フラフラと歩き、座る。


「お兄おはよう」

「おはようサシャ」


 そしてこのちっちゃい金髪が我が妹サシャ。歳は12、特技は口笛。


「おはようお兄さん」

「おはようリアム」


 そしてロックリン兄さん。ハンサムな長身で、盗賊から村を守る守備役もやっている。


 僕はと言うと、幼い頃にあった飢饉の影響で十分に背が伸びず、兄のように長身では無かったし、顔中にニキビがある。

 父はそのニキビは体が大人になっていく証拠だと言っていたが、本当だろうか。


 朝食は質素なモノで、黒パンと牛乳に、納税に使えない屑野菜だ。

 味は殆ど無いが、それらを無理矢理牛乳で流し込む。


 朝食が終われば仕事だ。今日は秋にライ麦を撒く為の土地をプラウで耕さなければならない。

 我が家のプラウは車輪が無いので、畑をズルズルと引きずって移動しなければならない。面倒だが、この偉大なる(・・・・)発明によって、人では無く牛に畑を耕してもらう事が出来るのだ。感謝しなければならないし、年ごとに畑で作る作物を変え、休耕地に牛を放つ事で土地が回復するというのもエルフの発想らしい。


 僕たち人間――劣等種は、そうしたエルフの知恵と、精霊魔法によって生かされている。

 エルフはドラゴンを乗りこなし、精霊魔法を使える。

 その力は、ケンタウロス(武士)さえも凌駕する。


 たまに、悠々と空を飛ぶ翼竜を仰ぎ見ることがある。

 どんな気分なんだろう。どんな景色なんだろう。


 自分がもしエルフに生まれていたら、今頃何をしているだろうか等と思いつつも、牛を導いてプラウを牽かせ、畑を耕――





 ――突如、爆音が響いて世界が真っ白になった。

 どれぐらい倒れていたのだろうか、全身の痛みに堪えつつ、土から起き上がる。


 周囲に父と兄の姿は無い。村を見ると、煙が上がっている。

 何とか歩き出し、気付けば走っていた。


 胸騒ぎがする。

 村に近付くと、鼻を突く様な煙の匂いと、悲鳴が渦巻いていた。

 蹄が地を駆ける音と、何かが燃えるパチパチという音、そして人が殺される時に発する鈍い音と金切声とが混合して耳に入ったが、それより、胸から飛び出さんばかりの鼓動が、頭蓋の内側で響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
素晴らしい導入ですね なんともワクワクしました しっかりとした筆力も感じつつ、固く成りすぎないように読み易く仕上がっていて続きが楽しみです
[良い点] 戦闘シーンの描写がたまりません。 家庭、食事、農業の様子から主人公の環境が目に浮かんできます。最高の導入です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ