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第十五話 歓喜の蓮梨、赤面の歌多

お待たせしました。

お買い物二回目。

向かうはあのお肉屋さんです。

ほんとそれだけで一話になってしまいました。


時間はあまり進みませんでしたが、話としては進んでいますので、どうぞお楽しみください。

「これ、どうですか?」

「いいんじゃないかな」

『うん! 夏にぴったりー!」


 料理本から長根ながねさんが選んだのは、豚肉のもやし炒めと、豚肉の冷しゃぶサラダだった。

 もやしに対する並々ならぬ信頼感は見て取れるが、そこを指摘する必要はない。


「じゃあ買い物に行こうか」

「はい。あのお肉屋さんに行きたいです」

「そうだな」

『今度は三人で行こうね』

「はい!」


 ローストビーフ用の立派な赤身肉を五百円で売ってくれた店主。

 あの肉は本当に美味しかった。

 ちゃんとお礼を言わないとな。


「そのままでいいか?」

「はい、大丈夫です」

『じゃあレッツゴー!』


 私達は再び夏の日差しの下へと踏み出した。




「こんにちは」

「お! 昨日のお嬢ちゃん! どうだったローストビーフは!」

「はい! とても喜んでいただけました!」

「そいつは良かった! で、その人が?」

「はい! 私を助けてくださった、羽枝田はねえだ陽善はるよしさんです」

「こんにちは。昨日は素晴らしいお肉をありがとうございます」


 私が頭を下げると、店主は満面の笑みを浮かべた。


「そうかい! 財布を丸ごと預けるような太っ腹だから、金持ちの爺さんかと思ってたが、こんな若い兄ちゃんだったとはな! いやー、良かった!」

「ははは……」


 何がいいんだかわからず、曖昧に笑っておく。


「兄ちゃん、独身だろ?」

「え? あ、まぁ、四年前に妻に先立たれまして、それ以来は一人です」

「あ! 済まないねぇ! 悪い事聞いちゃって……」

「いえ、お気になさらずに」


 何なら今横にいるし。


「まぁでもいつまでも独り身って訳にもいかないだろうし、お似合いだよ、お二人さん!」

『うんうん!』

「……そう、ですね」


 独身男が年頃の女性を助けたとなれば、そこから恋愛に、という考えにもなるか。

 視界の端で何度も頷く蓮梨はすなは、見なかった事にしよう。

 可愛いけど。


「亡くなった奥さんへの義理立てかい? 奥さんもきっと兄ちゃんの幸せを願ってるって!」

『そうだそうだー!』

「……ありがとうございます」


 えぇ、今まさにそのために帰省してきてます。

 何なら今両手振り回して大喜びしてます。

 自然と頬が緩んでしまう。

 いかんいかん。


「で、今日は何を買うんだい?」

「あの、豚肉ともやしの炒め物と、冷しゃぶサラダを作りたいので、豚肉の薄切りをお願いします」

「あいよ! 二人分ならこんなもんかな?」

「はい、お願いします」


 そうだ、何なら夕食の材料も一緒に買ってしまおう。

 蓮梨の作戦とはいえ、長根さんをこの暑さの中何度も外に出すのは、悪い気がする。


「それと夕食にハンバーグを作ろうと思うので、合い挽き肉を」

「え、陽善さん……?」

「私の得意料理も歌多さんに味わってもらいたいんだ」

「……はい!」


 これなら長根さんが遠慮しても、一緒に作ろうと誘えばいいだろう。


「よし! おまけしとこう! まとめて五百円だ!」

「え、それは……」

「いいって事よ! 未来のご夫婦割だ!」

『いいぞおっちゃん! 格好いいー!』


 ……長根さんが自立したら、この店には来れないな……。


「毎度! また来てな!」

「ありがとうございます!」

「また寄らせてもらいます」

『毎日通いたーい!』


 肉屋を出て八百屋へと向かう道。

 おや、心なしか長根さんの顔が赤い気がする。


「歌多さん、大丈夫?」

「ふぇ!?」

「いや、顔が赤いから、もし熱中症なら一旦家に帰ろう」

「そ、そんなのじゃないです! 大丈夫です!」

「ならいいけど……」


 足元がふらついている様子もないから、大丈夫は大丈夫なのか?


『んふふー。歌多さんはねー、陽善さんとお似合いとか未来の夫婦とか言われて照れてるんだよー』

「何を馬鹿な……」

「〜〜〜っ!」


 あれ? さらに顔が赤くなった。

 図星、なのか?


「お、お野菜! お野菜買いましょう! ハンバーグには何がいりますか!?」

「あ、うん、玉ねぎと、付け合わせはほうれん草のソテーにしようかな」

「わかりました! 行きましょう!」


 早歩きで進む長根さん。

 嬉しさや気恥ずかしさよりも、困った事になったという感覚が込み上げ、溜息を一つついて長根さんを追いかけた。

読了ありがとうございます。


タイトルは『前門の虎、後門の狼』的なノリでつけました。

「蓮梨は先妻として仲を取り持つ」

「歌多は同居人として想いを寄せる」

つまりハサミ討ちの形になるな……。


あと四日、耐えられるのか陽善!

耐えなくてもいいんだけど!


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハサミ討ちの形? まて! 待つんじゃ! これはマズイ! コーラを飲んだらゲップが出るくらい当たり前田のクラッカーじゃ!! 意味不明な合の手、ジョセフ爺さんは何を言うのか? ノリと…
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