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第96話 作業現場はお祭り騒ぎと、ウォズマの推察。ゲンタとは何者か?

 翌朝…。

 今日はマオンさんだけでなく、ガントンさんたちドワーフのみなさんも一緒だ。


「お前ら、今日は肉が入った献立(メニュー)が出るぞ!」


 パン販売を終え、ひと段落した所でナジナさんが作業現場に向かう五十人に向かって言う。おおおおっ、冒険者たちの声が上がる。


「期待して良いよ。凄い味わいだ」


 ウォズマさんが続く。


「んで、値段だが…、兄ちゃん。ホントに白銅貨十枚(シロジュウ)で良いのか?」


 白銅貨十枚…、昨日と比べ倍の金額になった事に若干の戸惑いの声が上がった。


「お前ら、ハッキリ言って…昨日ちょっと食ってみたが美味(ウメ)ーぞ。なんたって香辛料を効かせた絶品料理だ」


「ああ、間違い無く美味いよ。銀貨(日本円で一枚一万円に相当)にしてニ枚か三枚は取れるかも知れない」


 こ、香辛料…。ザワザワと冒険者たちが(ざわ)めきだす。しかし、香辛料に対する好奇心が勝ったのか、あるいはナジナさんたちの信用か、全員が食べるという結果になった。


「まあ、早く作業を終わらせちまえば丸儲けだからな。今日のメシ代くらい軽く浮いちまうぜ!」


 そんな声が上がる。


 さらに今日は秘密兵器がある。シャベルだ。


「皆さん、今日はこの土掘り道具を使ってみて下さい」


 そう言ってシャベルを見せた。


「おおっ、なんだこりゃ?」

「木の板と棒をくっ付けただけの(モン)とは全然違うな!」


 そんな声が口々に上がる。

 そう、この異世界での土掘り道具は完全木製。棒と板を組み合わせただけの物で、掘り皿は平面的。これでは素手で掘るよりはマシといった程度の物だ。ガントンさんに聞いた所、土掘り道具は大体これが一般的で、掘り皿の先を鉄で補強してある物はかなり上等な物と言っていた。

 僕が日本で買って来たほり皿が完全に金属製の物など聞いた事が無いという。勿体ないくらいに贅沢な作りだと言う。


 そのガントンさんは冒険者たちと共にシャベルの使い方を簡単に説明する為にギルドの外に出て行った。出発前にギルドの前の道で軽く土を掘り返してシャベルの使い方を手解(てほど)きして来ると言う。


「さて、(わし)らも準備を始めようかね」


 マオンさんと共にパンの販売を終え今度は昼の準備をする事にした。



「ぼ、坊やだッ!坊やが来たぞ!」

「クゥーッ!待ってたぜ!今日は肉を使った(モン)らしいじゃねえかっ!」

「も、もう少しだっ!もう少しで香辛料入りのメシが食えるんだなッ!」


 わああああッ!うおおおおおっ!

 冒険者の皆さんの熱く野太い声が響く。まるで苦戦する陣中に到着した待望の援軍のように僕たちは迎えられた。


「じゃあみなさん、今から作り始めるんでもう少し待ってて下さいね!」


「おうっ!二つ名持ちが絶賛する料理がどんな物か楽しみだぜ!」


 そして僕はカレー作りの準備を始めた。…と、言ってもやる事は少ない。(かまど)代わりの石組みは昨日のままだし、野菜や肉などの材料は出発前に切ってある。暑い季節なら問題だが、今はまだ暑い季節ではないし町からここまでそんなに時間もかからない。肉に軽くナツメグと胡椒(こしょう)を振り台車で引く。


 そして今日は新兵器の登場だ。大鍋…、五十人分の煮炊きが出来るような鍋、それをどうしようか考えていた時にスマホで検索してみたら中古の厨房器具などを扱う店がある事が分かった。飲食店を営むようなプロを相手にするような感じなのだろうが、個人相手でも販売してくれるという。

 僕が購入したのは、よくニュースで地方などのイベントを取り上げる際によく登場する芋煮などを振る舞う際に使用されるような大鍋。もしかすると、相撲部屋でちゃんこ鍋などを作る際にも使われるかも知れないような鍋だった。自宅から原付で走る事、小一時間。初めて行く場所だが案外すんなりと到着出来た。スマホの地図アプリは便利だね。


 それを原付の後ろの荷箱に…と思ったが入るサイズではなかったので、箱に上手く引っかかるように横倒し状態で入れ結び紐をかなり厳重にかけてなんとか安定させた。そして自宅に帰り着き今に至る。

 何かを準備するというのは中々に大変だ。それが初めてであればなおさら。まあ、こんな事はそうそう無いだろうけど…。

 …と思っていたけど、案外『そんな機会』がすぐにやって来たりする。…が、それはまた別のお話で…。


 調理器具は大鍋だけ、しかも五十人分ともなれば炒めたりとか細々とした工夫はできない。いや、出来るには出来るだろうが手間がかかり過ぎる。なので単純に煮る、加熱調理だけにした。

 大鍋に入れた湯が煮立った。肉を、野菜を入れていく。普通、ここまで大鍋なら温まるまで時間もかかりそうなものだがかなり早い。精霊の力だろうかとても早かった。

 具材に火を通している間にパンとカレーを注ぐ器を用意する。冒険者ギルドで借りてきた器、木製のスープ皿である。大量の食器はさすがに用意出来なかったのでギルドを頼った。


 火も通ったのでカレールーを入れていく。焦げ付かないようにゆっくりとかき回しながら適切な濃さになるようにしていく。屋外で作るカレーか…、キャンプなどで多人数向けによく作るイメージだ。


「良いニオイがしてきたぜぇ…」

 作業をしていた冒険者のオジサンが声を漏らした。


 最近はキャンプを題材にした漫画や動画などもあるから、様々な色々なキャンプ飯などが紹介されている。ソロでのキャンプ動画とかだとオシャレな料理とかもあるし食べてみたくなる。でも、やはりカレーは何か特別な気がする、帰宅し家の中に入った瞬間、カレーの匂いがしたらなんか嬉しいし。


「うん、こんな(モン)かな」


 無事に出来上がり準備は出来た。さあ、みなさんを呼ぶか。


「用意が出来ました、みなさん手を洗ってこちらへ」


 うおおおっ、雄叫びのような声を上げ冒険者たちが殺到する。手を洗い、中には顔や頭まで水洗いしてる人もいる。そんな時にそよそよと吹く春の暖かく柔らかい風が心地良い。手を洗って準備が整った人から順にカレーをスープ皿…、ファミレスなどでサラダが盛られて出てきそうな小さいボールのような器に次々に盛っていく。


「パンは二枚ずつ取って下さいね。そのまま食べても良いし、焚き火で炙って食べるのも良いですよ」


 山と積まれた六枚切りの食パンを示し声をかける。それを聞いた冒険者たちが僕があらかじめ火を着けていた道端に落ちていた枯れ枝や枯れ木を利用した即席のコンロに何人かの冒険者がやってみようかとパンを(あぶ)りに行く。この異世界では保存料などは無い為、保存の意味も兼ねて水分を極力飛ばしたパンを食べる。ゆえに(かた)いパン、時に石とか岩に例えられる固いパンがほとんどの為、僕の持ってきたパンが柔らかい物だとしてもさらに固くしてしまうような火で(あぶ)るような行為はあまり馴染めないそうだ。


「なんだこりゃ!凄え美味えッ!」

「おほっ!こりゃ美味(うめ)え!香りも立ってよう」

「炙ったパン、噛んだ時にサクッて音と感触がたまらねえ!」

「信じらんねえッ!確かにこりゃ炙って食うのも納得だな!」


 パンを火で炙る事に挑戦(チャレンジ)した冒険者たちが喜びの声を上げた。それを聞いた他の冒険者も真似をしだした。すぐに人で溢れパンを炙るにも列が出来る。しかしそこは冒険者、手馴れた様子でそこら辺の枯れ木や枯れ枝を集め火を付けた。野営する事もある冒険者、火を起こす事もお手のものである。土木作業で疲れていただろうに今はすっかり元気になり、祝い酒でも飲んで盛り上がっているかのような活況だ。


「なるほど!こりゃ良いな!凄えぜ、坊や!」

「この『かれー』だったか?パンと言い最高だぜ!」

「こ、これが香辛料!凄えな、こりゃ金がかかる訳だぜ。こんなに美味えなんてよ!」

「お、俺なんか炙ったパンを『かれー』に(ひた)しながら食べちゃうもんね!」

「お!そりゃ良いな!俺もやってみるか!」


 手近な場所に腰を下ろして食べている冒険者たちが口々に感想を述べ盛り上がっている。良かった、大成功と言えそうだ。



「凄えモンだな!昨日食った時も思ったが、こりゃご馳走だな」

「ああ。だが、相棒よ。気付いているかい?ゲンタ君の事だ」

「ん、どういう事だ?」


 少し離れた所でカレーとパンを食べているナジナとウォズマの二人。


「彼は普段、『商人として身を立てる為に学院に通っている』と言っていたな」

「ああ、マオンの婆さんはそう言っていたな」

「だが、オレが知る限りこの国には商人になる為の学問をする学院というのは無い。遠くの国の事は知らないが、少なくともこの国や周辺の国ではな…」


 ウォズマの言う事はもっともである。商人、これは物を売る者ならば誰でも商人と呼ばれる。例えば町角でパンを売っていた辻売(つじうり)(行商人)のマオンも商人である。


「ん?どういう事だ?」

「普通、商人を志すならば商家の下働きに入るなり、親の行商を手伝うなりして覚えていくものだ。勘定(かんじょう)を覚え、字を学び、商売(あきない)のコツを覚えるんだ。だが、ゲンタ君は自分の事を『駆け出しの商人』と自称()っているが扱っている品物(もの)を見て相棒はどう思う?」


 ウォズマの言葉を受けてナジナは少し考え口を開いた。


「凄腕の商人…、いや!そんなモンじゃねえな。この町…、いや王都でも指折りの商人じゃねえか?少なくとも駆け出しって(ワク)におさまらねえ」

「おそらくだが…」


 ウォズマを言葉を選んでいるのだろうか、ゆっくりと言葉を続ける。


「彼はこの町でパンを売り始めようとしたが、商業ギルドに叩き出された。そして途方に暮れていた所をミアリス嬢に助けられた…、つまり商売(あきない)伝手(つて)なり方法なりを知らなかった訳だ。実際に商売(あきない)の下働きなりをしていれば何らかのやり方はあった筈だ」

「ふーむ、なるほどな…。だが、それなら仕入れとかだって伝手(つて)はいるだろ?ましてや、あんなに凄えパンを作るには材料もいるし、あんな真っ白な塩や香辛料を手に入れたり…。凄え酒や料理まで…。すでに凄腕過ぎるのに商人として身を立てる為に学生って…、確かに疑問は残るわな…」


 事の大きさに気づいたのか、ナジナの声が真面目なものになる。


「だろう?だからオレなりに考えてみたんだよ」

「なら相棒は…、兄ちゃんを何者と推察()る?」


 覗きこむナジナを真っ直ぐに(とら)え、ウォズマは静かに口を開いた。


「彼は…、錬金術士(アルケミスト)なのかも知れない」




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