第93話 栄養ドリンクと命がけの甘味!?
あ、阿部さん!?(笑)
「お待たせしました!」
僕は冒険者ギルドに戻ってきた。後ろにはガントンさんにハカセさん、ベヤン君もいる。
僕が買物に出てから一時間ほどが経っていた。ナジナさんやウォズマさん、マオンさんにはギルド内で待っていてもらった。ナジナさんたちだけではない、初依頼という事もあってかシルフィさんたちも僕を待っていてくれた。
用意した物を出発前に試食をしてもらう。僕の用意した物が冒険者の皆さんに受け入れられるか、これが一番の心配だった。
「こ、これは…、何だ?パンとは違うみてえだが…」
「色がそれぞれ違いますぅ」
見た目の第一印象を口にするナジナさんとフェミさん。僕は炎精霊のホムラと水精霊のセラに力を借りお湯を作ってもらう。それをやかんに入れ緑茶のティーバッグを入れお茶を淹れた。
結論から言うと皆さん『美味しい』という感想になった。特にシルフィさんは緑色の物を絶賛し、『これはエルフの民にとって新たな喜びの発見です』とまで言ってくれた。
一方でナジナさんは『し、死ぬかと思ったぜ。凄え美味いが同時に命を賭ける事になるとは思わなかったぜ…』なんて言っている。いや、そんな河豚を食べるみたいな危険な物では本来無いんだけどね…。
「それにしても…」
ガントンさんが声をかけてくる。
「ワシは甘いものは専門外だが…、コイツは緑茶とよく合うのぅ。濃く渋く淹れたもなによく合いそうじゃ」
「それは俺も思ったぜ!あんパンとは違った感触、そして苦めの緑茶にこれほど合うモンは無えぜ!」
どうやら冒険者の皆さんにこのまま出しても大丈夫そうだ。とりあえず一安心だ。よし、買った物が無駄にならなくて良かった。
僕はガントンさんにリヤカー状の台車を借り、万一の自動販売機の故障などのトラブル対応に外で待機しているゴントンさんたち三人のドワーフが戻って来た。こちらにもお茶の用意をする。
「気をつけて行ってくるだぞ!」
ゴントンさんの言葉に『はい、行ってきます』と返答し、僕たちは町の外へ。目指すは塩の街道、その作業現場だ。
□
町から出て街道を十五分くらい進んだ所…、、ああ…、ここか。僕も初めてミーンの町に来た時に通ったっけ…。まだそんなに長い日にちが過ぎた訳ではないけれど、なんだかすでに懐かしい。
それだけ毎日出会う人や物事が目新しかったり衝撃的だったんだろうなあ。そんな事を思いながらナジナさん、ウォズマさんと現場に向かう。
「サクヤ、ホムラ、面白いからって大福をあんまり突っついちゃダメだよ。これから皆さんに食べてもらうんだからね」
台車に積んだ食べ物を突っついていたりする光精霊サクヤと火精霊ホムラに声をかけた。闇精霊カグヤと水精霊セラは珍しそうに触ったりするくらいはするが、突っつくような事は無かった。
こうして見てみると、精霊は精霊で人と同じように色々と性格が違ったりするんだなと再認識する。
「よし、兄ちゃん着いたぜ」
そう言ってナジナさんが交代しながら引いて来た台車を停めた。
そこには朝、冒険者ギルドから出発していった冒険者の皆さんがいた。『おおっ、坊やだ!』『来たか、坊や!』口々に僕たちを待っていたという声を上げている。
「皆さん、待ってて下さいね。今、お湯を沸かすんで」
そう言ってそこら辺に転がっていた大きめの石を組み竃のようにする。そして水精霊のセラに声をかける。
「セラ、この中に水を入れてくれる?」
石を組んだ簡単な竈に特大のやかんを置いた。10リットル入る大きな物だ。それを二つ持ってきた。セラに水を入れてもらった後にホムラに焚き火の要領で竃に火を燃やし続けてもらう。しばらくすればお湯も沸くだろう。
辺りを見回すともう少し向こうの同じように窪んだ所にも作業現場があった。どうやらあちらは商業ギルドが手配した人夫たちが担当する場所らしい。そして見回していると体調が悪くなったのか二人ほどへたり込む様子が見えた。あ、あれは…!
その姿に見覚えがあった僕は急いでそこに駆け付ける。
「大丈夫!?」
「おお、坊や!今日は少し暑いからな、参っちまったらしい」
日頃は武器を持つその手に今日は穴掘り道具を持つ冒険者のオジサンが僕に声をかけてきた。体調が悪くなった二人の世話を焼いてくれたらしい。その体調が悪く二人と言うのが、
「ダン君、ギュリちゃん!」
早朝に冒険者の人向けに塩の販売をする際に売り子をしてくれる二人だった。その二人はまだ成人(十五歳)にもなっていない、そんな子たちが大人に混じって働いているのだ。
狩猟などと比べれば危険は少ないが、この仕事は重労働だ。まだまだ小さな体で無理をしていたのだろう。春らしくない暑さに体が参ってしまったのだろう。そんな二人は反応も薄く、すっかり元気がない。
熱中症か…、あるいは疲労か、その両方か?そうだ!僕は背負っていたリュックをガサゴソと探る。すると先程はまで荷台で遊んでいたサクヤたちがいつの間にかリュックの中にいて遊んでいた。お目当ての物をコロコロ、運動会で言う所の大玉転がしのようにしている。
「あっ!またそうやって遊んでぇ。でも、まあこれなら良いか。みんな、これ使うからね」
そう言って僕はリュックから栄養ドリンクを取り出した。『オロビタンG』、テレビCMなどでよく目にするビン入りの栄養ドリンクだ。スーパーで試供品を無料配布していたのを先日二本ほど頂いたものだ。ありがたく使わせてもらおう。
「さあ、これを飲んで、少し休んで」
フタを開け、二人にそれぞれ飲ませる。コク…、コク…。ゆっくりと飲みこんでいく。そんなに量もないからすぐに飲み干した。
「もうすぐお湯も沸くから、お茶を飲んでみんなで休憩にしよう」
「うん…。あ、あれっ…?」
そう返事をしたダン君だったが、ゆっくりとだが立ち上がった。見ればギュリちゃんも同じように立ち上がっている。
「こ、これは…。二人が元気に!」
「ま、まさか、ゲンタ君が飲ませたのは水薬…。い、いやこれは回復剤か…」
一緒に二人を介抱していたナジナさんとウォズマさんが驚いている。いや、正直言って僕も驚いている。栄養ドリンクってこんなに明らかに元気になったりしないよね?スーパーとかドラッグストアで売ってるアレって気休めとは言わないけど、飲んでおけば何もしないより良いってくらいで…。
どうしてこうなった?むしろ僕が教えて欲しい。そんな時、カグヤが僕の頬をツンツンして、お湯を沸かしている方を指差した。
「あっ、お湯が沸きそうだね。カグヤ知らせてくれてありがとうね、準備しないとね」
僕たちは荷車の方に向かった。
□
僕が用意したもの、それは…。
「よーし、みんな手はしっかり洗ったな!じゃあこれから兄ちゃんが用意した『だいふく』を配る!コイツは美味え!しかし、コイツを食うにはコツと言うか、覚悟がいる!そう、覚悟だ!下手を打つと最悪の場合にゃあ死に至る!」
ナジナさんが声を張り上げる。『えっ、死ぬの?』冒険者の皆さんがザワザワしだした。そこにウォズマさんが続いて話しだす。
「だが、安心して欲しい。オレも相棒も実際に食べてみたがこうして生きている。別に毒が入っている訳ではない、それをこれから説明していくよ」
「まあ、それでも実際俺は死にかけたがな!」
わははははっ!冒険者たちから笑いが漏れる。
「じゃあ、説明に入るぞ!これが『だいふく』だ!兄ちゃん曰く、パンとは違う物で『あんパン』の中に入っている『あん』を包んでいる!」
「この周りを包んでいる生地が『もち』というらしいんだが、これにはパンとは違う大きな特徴があるんだ」
そしてナジナさんは大福を両手で掴み、ゆっくりと引っ張っていく。当然ながら伸びていく。
「まずはこの『もち』の伸びを見てくれ!コイツをどう思う?」
「(伸びが)凄く…、大きいです…」
元気になったダン君が思わずといった感じで呟いた。
「デカいのは良いからさ…、このままじゃ…」
「そう、この柔らかさと伸びが不思議な感触を伴い美味さを引き立てる」
「お、おい、ウォズマ…」
「すまんな、相棒。話が脱線しそうだったからな」
セリフを取られたナジナさんが慌て抗議の声を上げた。
「この柔らかく伸びのある『もち』、その美味さに思わず飲み込みたくなるかも知れないがソコをグッと我慢してくれ。細かくなるまでよく噛んで…、それから飲みこんで欲しい。そうすれば喉に『もち』を詰まらせて死に至ると言う事はない」
「だ、そうだ。ちなみに思わず飲み込んで死にかけたのが俺だ。みんな、注意してくれ!」
分かったー!冒険者の皆さんが声を上げた。
「じゃあ、これから大福を配ります。白いのと緑のと一個ずつ、包み紙に入っていますから取って行ってください。緑茶もあります、大福によく合いますよ」
そう言って僕は大福を配り始める。今回の大福はスーパーの特売商品、『特大サイズ5個入り、198円』だ。白い普通のと、草餅的な緑色の二種類だ。それに濃い目の緑茶を紙コップに淹れて渡す。
「ふひゃー、甘くて美味えなあ!」
「こんな短時間で五十人からの分を用意するなんてなあ!」
「この濃くて渋〜い緑茶に合うな」
「この『もち』っていう生地も変わってて面白いな」
反応はここでも上々だ。小さく千切っ大福をサクヤたちにもあげてみたら彼女たちも喜んで食べている。なんとなくだがカグヤが一番喜んでいるようにも見える。僕が見ている事に気付いたのか、カグヤと視線が重なると彼女は静かな『にこり』とした表情で応じた。
「見ろよ、あっちの連中。あんなスープだが水だが分かんねえ物に白銅貨八枚出すなんて勿体ないことしてるよなあ」
「そもそもブド・ライアーんトコのスープだって言うからな、大方塩じゃなくて砂入れてんじゃねえのか?」
「わっはっは、違いねえや!」
冒険者たちがどっと笑う。
ブド・ライアーか…、塩商人って言うけれどあまり良い噂を聞かないな…。そもそも商業ギルドに良いイメージ無いけど…。
でも僕は冒険者ギルドに登録している一人だ。別に掛け持ちを禁じられている訳ではないが、これからも商業ギルドと絡むつもりは無い。
暖かいふわりとした風、それが僕たちを優しく撫でていった。
次回予告
気付いた事があったゲンタは町に戻りガントンたちドワーフの一行にある頼み事をする。しかし、その様子を見てマオンは心配そうな表情を見せる。
次回『鍛治師の誇り(プライド)』、お楽しみに。
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