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第77話 第三の香辛料とウィスキーをロックで。

 シルフィさんから時々、チラチラと見られ気恥ずかしいやら嬉しいやら…。あんな美人に意識されているというのは嬉しいものだ。

 しかし、喜んでばかりもいられない。現在、僕の膝のあたりではアリスちゃんが絶賛不機嫌中だ。どうやら、シルフィさんにフェミさん、マニィさんと親しげにしていたのが良くなかったらしい。まだまだ小さいと思っていたが、やはりそこは女の子。

 男子と比べてやはり複雑。いくら幼いとは言え、そこはやはり『女』の子。慎重かつ丁重に、そして周りとのバランスも考えて接しないとダメらしい。


 とりあえず、ぶどうゼリーがまだあったので一緒に食べようと誘うと一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、『他の女の人と親しげにしていた事をごまかされないんだからね』とまた()ねてしまったが、一口食べたらその『こうかはばつぐんだ』状態。今やアリスちゃんは僕の隣に座って笑顔でゼリーを食べている。ありがとう、ぶどうゼリー先生。ひとまずの窮地は脱せた模様です。



「坊や!女子(おなご)()えが、ワシらとも飲むぞ!」


 ガントンさんからお呼びがかかる。


「あ、はーい」


 返事をして向かう事にすると、アリスちゃんもついてきた。


「ゲンタと一緒がいい」


 そんな訳で男性陣の元に。ガントンさんの近くに座った。


「おうおう、こりゃあ可愛い(ヨメ)っコだべ」


 一緒についてきたアリスちゃんを見て、ガントンさんと並んでいたゴントンさんが(はや)すように言う。アリスちゃんは『えへへ』と、はにかみながら僕のズボンを握っていた。


「いや、まだ早い、早いよ…」


「しょうがねえ、子供ってのはいつか巣立っていくもんだ。それにあまり干渉すると、パパ嫌いとか言われちまうぞ」


 ウォズマさんとナジナさんがそんな事を話している。いつもは実力もあり、冷静(クール)美男(イケメン)のウォズマさんだがアリスちゃんの事になるとどうにもそうではいられないらしい。


「それにしても坊や、この塩と胡椒(こしょう)も揉みダレも凄いものだ。こんなに美味い肉料理はそう口に出来る物ではない。胡椒は同量の琥珀金(エレクトラム)と取引される程の高価な物だ。それをこんなに惜しげもなく…、恐ろしい男よ」


「気にしないで下さい、僕の出来る事をしたまでで…それより僕の方こそこんなに美味しいお肉をいただいています」


「それにしても坊や、やっぱりこの揉みダレは美味(うめ)えモンだなや!(オデ)、何度食っても惚れ惚れサする味だべ!」


「確かにの。ワシは塩胡椒の味に感服しておる。揉みダレも美味いが、ワシには少し甘いかの…」


「オイラはどっちも大好きでやんすー!」


 ドワーフたちが口々に感想を言っている。まとめると美味しいと言う事だったが…。ちなみにナジナさんは揉みダレ派、ウォズマさんは塩胡椒派だった。


「そうだ…、もし甘すぎるようなら…」


 僕はそう言って、一味唐辛子が入ったビンを取り出した。胡椒の他にも使えそうな香辛料をいくつか買っておいたのだった。

 いつだったか、タレの焼き鳥に一味唐辛子をかけて食べているおじさんを見たことがあった。タレの焼き鳥は美味しいけど、酒を好む人にはやや甘く思えるのかも知れない。それを思い出した。


「なんじゃい、それは?」


一味唐辛子(いちみとうがらし)といって、これも香辛料の一種です。ピリッと辛いのが特徴です」


「ほっ、ほほう…。それは…初めて耳にする香辛料の名じゃ…」


 使い方を説明し、ガントンさんは揉みダレで焼いた猪肉に振りかけた。


「赤い香辛料だべな!」


 初めて見る唐辛子にゴントンさんが感想を漏らした。そして、唐辛子をかけた揉みダレの焼肉をガントンさんが一口食べると、『カッ!』と効果音が出るように目を見開き次の瞬間には『むおっ、むおっ』と声を上げガツガツと次々に肉を食べていった。

 自分の皿にあった肉を平らげると、ガントンさんは愛用の木製のジョッキに入っていた焼酎をグッ、グッと喉を鳴らして飲む。その豪快な飲みっぷりに他の男性陣…、特に若いツッパリ君たちが歓声を上げて盛り上がりガントンさんが飲み干した時にそれは最高潮に達した。

 ぷはあ〜、と大きな息を吐きガントンさんが満足そうな笑顔を浮かべこちらを向いた。


「こりゃ参った!酒は強くて、肉は至高の味わいよ。おっ…と、もう(カラ)か…」


 空いたジョッキに焼酎を手酌で注ぎながらガントンさんがご機嫌だが、少し寂しそうな声を出す。あっ、それなら…、まだ出してなかったか。シルフィさんたちのいる所に行きウィスキーに合わせる為にバスケットボールくらいの大きさな氷を作ってもらう。


蒸留酒(ウィスキー)でしたら、是非私にも」


 ウィスキーの名を聞いて進んで氷を作ってくれたエルフの男性の一人がこちらにやってきた。彼は果実や甘い物を好むエルフにしては珍しく、強い酒も好きだという。

 納屋から4リットルサイズ、ヨントリーのウィスキーを取り出し男性陣の方へ。氷は僕の話を聞いたハカセさんが昼間使っていた自作のドライバーをアイスピックのようにして砕いていく。それをジョッキやコップに入れウィスキーを注ぐと、ピシピシッと氷がひび割れていく独特の音がする。いわゆるロック、それで()ってもらう。

 口にしたみんなから『おおっ…』と声が漏れる。


「驚いた…、『しょうちゅう』も凄かったが蒸留酒(ウィスキー)を口に出来るとは…。しかも、このような飲み方など…」

「良い酒じゃわい!(ハラ)の中にキューッと染み通っていくのう。まったく底知れぬ坊やよ…。あっさりとワシらの心も胃袋も掴まれたわい」

「なんて澄んだ味であろうか…。使っているのは麦と麦芽のみか…?」


 ウォズマさん、ガントンさん、エルフの男性…キルリさんが絶賛する。誰もが同じ酒を飲み、笑顔になる良い時間だった。



「ゲンタ君、そう言えばこのお肉はどうするんでやんす?」


 あっ、忘れてた。そこには端切れ肉の軽く胡椒をしただけのものがあった。


「ありがとう、ベヤン君。すっかり忘れてたよ」


 ベヤン君、さすがドワーフだな。結構な量を飲んで酔っているとは思うが、普段とほとんど変わってない。ウォズマさんはなんだかサマになる飲み方…、バーでイケメンが飲んでるようなそんな雰囲気だ。

 一方でナジナさんやツッパリ君たちはまさに談笑といった感じで飲んでいて、フェミさんにいたってはマニィさんに寄りかかり気味になっている。そんなマニィさんはといえばよく面倒を見るというか、仲の良い姉妹のようだ。


 猪肉を鉄板で焼き始める。7割くらい火が通った所で、買って来た調味料の塩麹(しおこうじ)をまぶしていく。『持っていくのを手伝うでやんすよ』ベヤン君と手分けして焼いた物を大皿に盛り、それぞれの場所に置いた。

 これも良いな…、ナジナさんが食べながら感想を述べる。『美味(うめ)えよ、旦那!』離れた所から声をかけてきたマニィさん、今はフェミさんの口に肉を運んでやっている。うーむ、なんというか…尊い!


「ゲンタ!」


 僕の膝の方から不機嫌な声がする。見れば不機嫌なアリスちゃん。しまった、今は横にいたんだった!彼女の目の前で僕は他の女の人を目で追っていた訳で…。それで不機嫌になってしまったのだろうな…。もしかすると彼女は意外と嫉妬深いのかも知れない。

 ど、どうしよう?とりあえず僕は持っていた先割れスプーンのお肉を彼女に差し出してみた。ぱくっ!彼女は迷う事なく食いついた。


「えへへへ…」


 アリスちゃんの機嫌は治ったようだ。


「あ、あ、ゲンタ君。そんな親しげに…」


 ウォズマさんが心配そうにしていた。それ以外は穏やかな時間だったのだが…。


 からーん…、からん…。

 いくつかの食器が落ちて鳴った音が響いた。

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