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第765話 カプエストツ山岳院の男


 やられた仲間たちを見捨ててひとりで逃げようとした男をなんらかの…おそらくはキリと同じような力で打ち倒した謎の男性、その格好はなんとも独特だ。貴族が着るような物ではないし、商人が着るようなものではない。かと言って冒険者や町で働く人のそれとも違う。しいて言えば何回か見た事がある聖職者の人のものだろうか、それでもやはりどこか違うような気がする。そんな風に僕が頭の中であの人は誰なんだろうと考えているとすぐそばにいたウォズマさんが呟いた。


「あれは…、おそらくカプエストツ山岳院の装束しょうぞくか…」


「カプエストツ山岳院…?」


 それって何…と聞きたくなるのを我慢して僕はウォズマさんが口にした単語を反芻した。少し日に焼けた肌、服に隠れているがなんとなくその体は大変鍛えられていそうだ。意志の強そうな太い眉や黒い短髪からは強い意志の持ち主といった印象を受ける。


「オレも北にあるという事ぐらいしか知らないけどね、たいへん厳しい自然環境にある寺院らしい。その厳しい環境の中で己の心身を鍛えているという…」


「へえ…」


「風が吹くのも水が流れるのも全て精霊たちの恩恵だ。彼らはその鍛え上げた身に精霊たちが起こす風や水の力を宿して戦う事もあるという、おそらくそこのならず者を倒したのもその力なんじゃないかな」

 

 なるほど…、だからキリと似たような事が出来たんだ。そんな風に思っていると白い装束を着た男性がこちらにやってくる、よくよく見ればその服装は中国拳法で有名なお寺の僧衣に似ている気がする。


「おれの名はハン・ドゥーケン」


 僕がやってくる男性の行動を見守っているとなかなかに低い声で名乗りを上げた。


「え?ハン・ドゥーケン?」


「知っているんですか、ウォズマさん?」


 名乗られた名に反応したウォズマさんに尋ねる。


「あ、ああ。聞いた事があるだけだがね、ドゥーケン家は男爵位の家柄だ。代々、優れた武人を輩出すると…」


「ドゥーケンの家を知ってるのか?まあ、もっともおれはその家を出てしまったんだが…」


 と、いう事はこの人は貴族の生まれなんだ…。そう思っているとハン・ドゥーケンさんがチラリと僕の方を見た。


「実は頼みがある、そちらの君にだ」


「え?僕にですか」


 僕に頼み?なんだろう?初対面だからハン・ドゥーケンさんは僕が商人であるというのも知らないはずだ。


「ああ、君にだ。君にしか頼めない事だ」


「な、なんでしょう?と、とりあえずお聞きしますよ」


 するとハン・ドゥーケンさんは強い眼差しでこちらをみながらこう言った。


「そうか、では言うよ。頼む、おれの相手をしてくれ」


「アーッ!!」


 なぜだか僕はそう叫んでいた。



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