第747話 精霊破りの矢!!(ゲンタ視点)
『アンタ、狙われてるわね』
ふわふわと宙に浮く風精霊のキリがそう言った。キリの言った言葉に衝撃を受け僕は思わず問い直した。
「ね、狙われている?」
『そう』
焦る僕にキリは淡々と応じた。
『感謝しなさいよね。アタシは風精霊、光精霊ほど速くはないけどそれなりに速く動けるわ。それともうひとつ、アタシは音や声を離れた所に届ける事ができるの。そして反対に…』
再びキリが僕たちの周囲に渦のような風を巻き起こした。
ザクッ!!
またもうひとつ離れた地面に矢が突き刺さった。
『離れた所で起きた音もアタシの所に集めて察知できる…。どんな小さな音でも…、そしてそれに隠して放たれる音にも…ねっ!!!』
ゴオオッ!!
再び風が巻き起こる、そしてザクザクと周囲の地面には何本もの矢が突き刺さった。
『ふふんっ♪無駄よ無駄、いくら矢を放ったって。アタシたち風精霊の巻き起こす風はいかなる矢も命中させる事はないのよ』
「キ、キリ…。大丈夫…なの?」
『ふっふーんっ!!こんなの平気よ、平気!どこの誰だか知らないけどね、こぉーんなヘナチョコ矢なんて何本撃ってもアンタに命中なんてさせないんだから!!ほらほら、それより感謝しなさいよね、アンタの事はアタシが必ず守る!!』
文字通り矢面に立つような位置取りでキリは自信満々キッパリと言った。
「た、頼りにしてるよ。だ、だけどなんで僕が狙われてるんだろう?ねえキリ、相手はどんな奴か分かる?」
『うーん、分からないわね。向こうは矢を放つと同時にコソコソ移動しているみたい。だけど間違いない、相手は一人よ』
「一人…。それはなんか怖いね、何人も来るって言うんならそれだけ確実に殺そうって事なんだろうけどさ…。一人って…、なんか凄腕の奴が出てきた感じがする…」
一人だけで僕を狙ってくる相手か…。どんな奴なんだろう…?僕の頭には日本の人気漫画に出てくるような消して笑わず正確に狙撃してくる凄腕のスナイパーが浮かんでくる。なんとかサーティーンみたいな…。
『へえ…、向こうはまだやる気みたいね。また矢を弓につがえている音がするわ』
「ま、また来るの?」
『ふーん、今度はやけに念入りね。やけに力一杯引き絞っているわね…。でも安心すると良いわ、絶対に当たらないから…。いくら撃ってきても無駄なのに向こうも諦めが悪いわね。ふんっ、まあ良いわ。防ぐ必要なんてないから今度は相手の正確な位置を掴む事に専念してやるわ。グラ、クリスタ、相手の位置を掴んだら教えるから奴を追って!』
キリがそう言うと心得たとばかりに土精霊のグラと氷精霊クリスタが左右に展開する。そして次の瞬間キリが声を上げる。
『撃ってきたっ!場所は…えっ?や、矢が止まらないッ!な、なんで!?なんで矢の軌道がそれないのっ!?』
明らかにキリが戸惑い焦り出す、そして苦し紛れのような声を上げた。
『くっ!!エア・ブレイドッ!!』
鈍い金属音がして何かが地面に転がった。見ればふたつに切り裂かれた鈍い光を放つ矢が落ちていた。それを見て気弱なグラは泣きそうな顔をして怯えていた。
「な、何…これ…?」
僕が問いかけるとキリは取り乱した様子で応じた。
『こ、これ…、私たちが苦手な鉄…。さらに鉛が塗られてる!』
「そ、そういえば…」
シルフィさんに聞いた事がある、精霊は鉄とか鋼を嫌うと…。日本に来たカグヤと駅に向かって線路沿いの道を歩いていた時、通り過ぎていく電車に彼女はひどく怯えていた。
「で、でも、鉄はともかく鉛が塗られてるのをなんでそんなに気にしているの?」
『な、鉛にはアタシたち精霊の力が及びにくいのよ。風向きくらいじゃ飛んでくる矢をそらすのは難しいわ!』
ま、まずいじゃないか。今まで弓矢に対する絶対防御だと思っていたのに…。
「そ、そんな!それじゃこの周りに吹かせている風じゃ身を守るのは困難って事?」
『だ、大丈夫よ!見たでしょ、アンタ。風の力を一点に集めて切り裂く刃にすればあの矢だって切り落とす事が出来るわ!』
「そ、そうか。なら、なんとかなるのかな」
僕がホッとしていると目の前の急にキリが慌て出した。
「ど、どうしたの?」
『よ、よく分からないけど…、摩擦するような音がいくつか…。ま、間違いないっ!みっつ…、いえ…よっつ…、敵が弓に一度に四本の矢をつがえている…!!』
「え、えええっ!!?」
『〜〜ッ!?』
キリの話を聞いて僕は驚き慌てる、グラは今にも泣き出しそうな顔。ただひとり、クリスタは表情を変える事なく冷静に前方を見据えている…。
『ふ、ふんっ!こうなったらアタシの全力、見せてやるんだから!エア・ブレイドでなんとか切り落として…、来るわっ!え、ええっ!?斜め上に…、つ…次もすぐ…また四本まっすぐに来るッ!!』
どうやら敵は最初に斜め上に四本、次に水平に四本撃ったらしい。文字通り四方八方から迫るように…、対してキリは…。
『ダ、ダメ…。ふたつまでなら間違いなく切り落とせそうだけどみっつ、よっつとなると…。は、八本なんて…。せ、せめて…、アンタだけでも…』
そう言うとキリは体をグッと前に傾けると頭から飛来する矢に突っ込んでいこうとした。途端に僕には嫌な予感が走った。あの時の…、ホムラとセラが…そしてサクヤとカグヤが自爆をした時のような…。もうあんな事は嫌だ、誰にもあんな事はさせたくない!
「キ、キリッ!!」
『きゃっ!?は、離しなさいよっ!アンタ、死んじゃうわよっ!?』
僕は目の前に浮かぶキリを両手で包み込むようにして胸に抱えた。そして身を屈めてしゃがみ込む。そして次の瞬間、ガツガツと何かが打ちつけるような音がした。同時に僕の体にはなんの異変もない、何かが刺さったり怪我なんかもしていないようだ。
「えっ…?」
おそるおそる顔を上げると前方に向かって右手をかざしていた。そしてその数メートル先には二階建ての住宅のようにそびえ立つ白い壁のようなものがあった。ところどころで陽光を反射するそれはテレビで見た事がある南極の氷壁のようだった。
「こ、これ…、氷…?」
僕がそう言うとクリスタはコクンと頷いた。その横では目に涙を浮かべてグラが僕とキリを見つめていた。
「あ、ありがとう。助かったよ」
ホッとして僕がクリスタにお礼を言うと胸に抱えるキリが叫んだ。
『ま、まだっ!!まだ敵は諦めてないっ、また矢を弓につがえて…う、撃った!う、上に向けていくつも!!あ、雨みたいに降らせてくるつもりよっ!!』
「え、ええっ!?」
『ッ!!!?』
て、敵はきっとクリスタが氷で壁を作ったからその上を越えるようにして来たんだ!




